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~姫様! ファーストキスは守られた~

 筋肉研究会という理解はできるけど出来れば混ざりたくない方々からの勧誘を丁寧にお断りして、私たちは大神ナーの神殿へと到着しました。

 学園都市の郊外に建つ神殿。

 なんでも学園都市はどこの国にも属しておらず、今もどんどん大きくなっているらしいです。郊外に建っているということは、比較的最近に建てられたということが分かります。

 真っ白でまだまだ美しい神殿がそこにはありました。


「大神ナーの神殿に到着しました」

「わーい」


 パルちゃんといっしょにバンザイをして到着を祝います。

 そこには聖印と呼ばれる神さま固有のマークがあるのですが。ナーさまの聖印は他の神殿とは違って丸い円ではありません。三角です。とっても珍しい。


「私、大神と小神とで分けられていることすらも知りませんでした。神学というのでしょうか。それとも神秘学でしょうか。まだまだ知らないことばかりですね」


 三角形の聖印すら見たことがなかったのですから。

 お城の中で本を読んでいるだけでは得られない知識ですね。

 外に出るのは重要なようです。

 これは是非、お父さまに訴えないと。

 箱入り娘ならぬ城入り娘になってしまいますよ!


「お姫様なので当然なんじゃありませんの?」


 ルビーちゃんが正論を言った。

 そうでした。

 お姫様って基本的に箱入り娘ですね。

 むしろ、お姫様という存在から『箱入り娘』という言葉が生まれたのではないでしょうか。

 言語学とか語源を研究している生徒さんに聞いてみたいところです。


「姫様、そろそろ入りましょう。あまり外で固まっていては悪目立ちしてしまいます」

「そうですね。大神ナーにも迷惑がかかってしまうかも」


 神殿の前で騎士が大勢いる、なんて状況。

 普通ではありませんから、なにか事件が起こったのでは……なんて思われてはいけません。

 神さまに迷惑をかけたとあっては、パーロナ国全体が怒られるかもしれません。

 大神ナーさま、どうぞゆるしてください。


「入って入って~。どうぞどうぞ」


 なぜかパルちゃんが神殿の入口である扉を開いて、招き入れてくれる。

 私たちは扉の中へ素早く移動しました。


「やっぱり落ち着く空間ですね」


 さすが神殿です。

 中は綺麗な真っ白な壁。中央にある大神ナーの像が窓からの光に照らされて綺麗でした。

 像の足元には生花でしょうか。

 色とりどりの花がそなえてあります。

 大神ナーの像も細かく綺麗でした。立派な椅子に座っている姿のようですが、椅子は彫像ではなく本物みたいです。普通なら椅子ほど彫像として作られると思いますが、こだわりなんでしょうか。

 それにしても……ナーさまの彫像はまるで本物みたいに精巧に作られていますね。今にも息をしそうなぐらいにリアルでした。質感がものすごくリアルです。

 他の神殿にはあまり足を運んだことはないのですが、神の像はだいたい真っ白なのですが、ナーさまの像は色が付いています。真っ白な肌ですけど、ほんのりと肌の色が見て分かる感じでしょうか。

 真っ黒な長い髪はツインテールに結われていて、ゆったりとした白いワンピースを着ておられて、静かに目を閉じていらっしゃいます。

 凄いのは髪の毛一本一本を感じられるというか、長いまつ毛もここから分かるくらいに精巧にリアルに作られていること。

 指や足の爪先までこだわった彫像などを見たことがありますが、まつ毛にまでこだわった神の像など、類を見ません。

 これが最先端の神殿なのでしょうか。

 それとも、学園都市だからこそ、なのでしょうか。

 神の威光を受けたかのように、ほう、と息が漏れました。

 美しい。

 これが、もしかしたら本物の『芸術』なのかもしれません。


「……ようこそいらっしゃいました」


 そんなナーさまの像の下には神官さま――サチが膝を付いて待機していました。

 白いゆったりとした神官服に黒く真っ直ぐに切りそろえた髪型。肩口までの髪で、清潔感があります。大きな眼鏡をかけていて、少しだけそばかすのある顔。

 まるで毎日会っているような気がしましたが……それは気のせいだと分かっているのに、なかなか否定できない気分。なんだか奇妙な感覚です。

 神官服はどこも似たようなものですし、切りそろえた髪も眼鏡をかけている神官は多いですので、もしかしたら誰かと勘違いしているのかもしれません。

 ですが、ひとつ気になります。


「あの、どうして膝を?」


 私が来ることは一切伝えていないはず。

 それなのに、王族が来ることことを知っているような対応です。

 まるで未来予知していたような感じ。


「……大神ナーより神託がありました」

「お声を賜られたのですか? どんな言葉を?」

「……王族がもうすぐ来るからちゃんとしなさい、と」


 え?


「あはは、サボってたのサチ?」

「……うん。パルは元気だった?」


 挨拶は終わり、という感じで神官さまは立ち上がってパルちゃんに近づきました。


「元気だけど、寒いのきらーい。ねぇ聞いて聞いてサチ~、師匠ったら酷いんだよぉ~」


 聞いてはいましたけど、パルちゃんと仲が本当に良い感じですね。自然と手を繋いでいるといいますか、パルちゃんに触れてると言いますか。サチがパルちゃんのことを信頼している様子が分かります。


「パル、あなたがサチを独占していてはベル姫が挨拶できませんわ」

「あっと、そうだった」

「……友達じゃなくて、正式ってことね」

「うん」


 えへへ~、と笑いながらパルちゃんがサチを紹介してくれる。


「では改めまして。こちら、ナーさまの神官のサチ。で、こっちがお姫様のベルちゃんだよ」

「……適当すぎない?」

「私もそう思います」

「え~!?」


 なんでパルちゃんが驚いていますの?

 いえ、まぁ、お友達だったらこれが普通なのかもしれませんわね。きっと私が王族なのがいけないのだと思います。

 というわけで、私は兜を脱いでマルカに手渡し、正式に挨拶をする。


「改めまして、サチ。私、ヴェルス・パーロナと申します。簡易的な挨拶で申し訳ありませんが、よろしくお願いしますね」

「……はい。大神ナーの神官で、神殿長と神官長を務めています」


 神官がたったひとり、というのは本当のようですね。


「これで私たちも正式にお友達ですね、サチ」

「……はい、ヴェルスさま」

「ご遠慮なさらず、ベルと呼んでくださいな。私もサチちゃんと呼ばさせてください」

「……分かりました。よろしく、ベル」


 遠慮なく王族を呼び捨てにできるなんて。

 さすがは神官さまですね。

 仕えるのは王族ではなく神さま、というのが表れている証拠でしょうか。


「よろしくお願いします、サチちゃん」


 私がそう言うと、サチちゃんは手を差し出してきた。

 握手でしょうか。

 そう思ってサチちゃんの手を握ると、指を絡めてきた。


「お気をつけくださいな、ベル姫。サチは女の子が大好きなんですの。狙っていましてよ」

「ふふ、私もその対象なのですね」


 パルちゃんと距離が近いなぁって思ってたら、そうでしたのね。

 へ~。

 と、思ったらサチちゃんがにぎにぎと私の手を絶妙に握ってくる。

 なんでしょう。

 指を絡めて手を繋いでいるだけなのに……なんかえっち!?


「姫様!?」


 気付けばサチちゃんが目の前にいました。

 顔が近い!?

 キスされちゃう!?


「あわわ」


 私は後ろからマルカに抱え上げられて、後ろに下げられました。

 危ない。

 私の大切なファーストキスがサチちゃんに奪われるところでした。

 危ない!


「……ざんねん」

「ひ、姫様に不貞はやめていただきたい。処刑レベルの蛮行ですよ、神官殿」

「……善処します」


 え~。

 サチちゃん、強い。

 善処なんだ。

 やめないんだ。

 強い。

 というわけでマルカがしっかりと後ろに付いてサチちゃんも含めてお話をしました。

 興味がありましたので、いろいろと質問です。

 ナーさまの事とか気になりましたので色々聞かせてもらいましたが……


「神さまの世界も世知辛いんですのね。ですが、さすが師匠さまです。最近大神になられた、という意味が分かりました」


 お祈りの方法を制定したことによって、信者の数を水増しというか偽装したというか。

 さすが盗賊、という感じの解決方法です。

 無邪気に笑う、なんていうのは子どもなら誰でもやることですしね。私だって無邪気に笑ってしまいますもの。知らないうちに大神ナーへ祈りを捧げていたみたいです。

 無垢と無邪気を司る神。

 子どもを大切にする神さまなんでしょうか。

 私もお世話になっているのかもしれませんねぇ。


「……ベルは無垢じゃなくなってる、だって」

「ひどいサチちゃん。誰がそんなことを言ってるんですの」

「ナーさま」


 思わず椅子に座っておられる彫像を見上げました。

 静かにたたずんでいるナーさまの彫像ですが、いまはどこか得意げと言いますか、すまし顔に見えます。


「ぐぅの音も出ません。ですが、つまり、私はもう立派なレディ、大人ということですね」

「あたしはあたしは?」

「……パルはアホだって」

「ちょっとナーさま!」


 パルちゃんが像に向かって文句を言いました。

 面白かったのでくすくす笑ってしまいましたが……本来、神殿の中で神さまの文句を言うなんて信じられませんわよね。


「また天罰を受けますわよ、パル」

「今のはナーさまが悪い」

「天罰を受けたんですの?」


 そうなんだよ~、聞いて聞いて、とパルちゃんを話を聞いたりしながら、マトリチブス・ホックの準備が整っていくのを待っていました。

 そろそろ師匠さまも合流されるんでしょうか。

 転移の腕輪が再び使えるようになったら、出発ですね。


「ねぇねぇ、サチはヒマ?」

「……最近はやることが無くなってきたからヒマね」


 神官ってヒマなんですね。

 仕事とかないんでしょうか?


「じゃぁじゃぁ、いっしょに行こうよ」

「……どこに行くの?」

「エルフの森。マルカさん、神官が付いて来てたほうがいいよね?」

「失礼ですがサチ。その、どれほどの神官魔法が使えるのでしょうか?」

「……全部」

「は?」

「……全部使えるよ」

「そ、そうなのですか? え、ホントに?」


 マルカがびっくりするのも無理はありません。

 神官魔法とは、神さまに許可を得て使えるようになるものです。私とそう変わらない年齢のサチちゃんが全ての神官魔法を使える許可を神から得ているなんて、そう簡単には思えません。

 ですが……


「神官ひとりだけだから、ナーさまがいいって言ったら全部使えるんですのよ。ズルいですわよね」


 ルビーちゃんが肩をすくめて言った。


「……回復魔法はちゃんと使える」


 サチちゃんが魔力を込めるように手をあげると、床に聖印を記した魔力の流れが見えました。

 神官魔法の表れです。


「……レンジ・レクペラティオ」


 サチちゃんがそう唱えると、ふわん、と光が溢れて魔法が発動しました。

 確か、一定の範囲内の者を全員回復させる魔法……だったでしょうか。

 どこも怪我をしていないので何も効果はありませんでしたが、温かい空気のようなものは感じました。

 しかし、なぜか――


「危なかったぁ……」


 ルビーちゃんが範囲から全力で逃げてました。

 なんで?


「ルビーは悪い子だから、回復魔法で苦しくなっちゃうんだよ」

「誰が悪い子ですか。サチのことですから回復魔法に見せかけた催淫魔法かと思っただけですわ」


 そんな神官魔法ありません。


「姫様ぁ!」

「そんな神官魔法ありませんってば! 大丈夫です、マルカ。大丈夫ですわよね、サチちゃん……サチちゃん? え? ちょ! こっちを見なさいサチ!?」

「姫様ぁ! 御気分は大丈夫ですか!? えっちな気分になっていませんか!?」

「なってます。あぁ、これは大変。師匠さまに何とかしてもらわないと」

「……おもしろい人たちね」

「でしょう。サチなら仲良くなれると思ったの」

「ふふ。ありがと、パル」

「んふふ~。どういたしまして」


 そんな冗談を言い合える仲。

 お友達が増えて嬉しいです。

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