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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~姫様! 筋肉に勧誘されるお姫様~

 師匠さまが学園都市の学園長とお話をしに行ってしまいました。

 私も付いて行きたかったのですが、大人数で押しかけることになってしまうので。それは大変な迷惑になってしまいます。

 王族の身なので、仕方がないですけど、残念に思います。

 ハイ・エルフはとても美しい種族だと聞いております。

 いったいどんな人なんでしょうか。

 少し気になるところ。


「学園長と師匠さまは仲良しなんでしょうか」


 あと、師匠さまとハイ・エルフさまの関係も気になります。


「子ども欲しがってたよ」

「師匠さんの子どもなら欲しいと言っておりましたっけ」

「そんな仲なんですの!?」


 びっくりしてパルちゃんとルビーちゃんに聞きましたが、ふたりは首を横に振りました。


「師匠は嫌だって言ってた」

「年上に手を出す師匠さんって想像できませんわ~」


 あ~、確かに。

 師匠さまって年下好きですものね。

 いわゆるロリコンと呼ばれる異常性癖らしいのですが……私にとっては好都合です。

 うふふ。

 つまりこれは、さっさと師匠さまと結ばれてしまえ、という神の導きであると信じています。

 恋愛を司る神さまでしょうか。

 それとも結婚を司る神さまえでしょうか。

 とにかく、ありがとうございます!

 私、必ず師匠さまと添い遂げますね!

 なんて思ってたら、パルちゃんは半眼でルビーちゃんを見ていました。


「ルビーちゃんが何かしましたの?」

「知ってるベルちゃん? ルビーって年上なんだよ」


 それは、そうだと思いますが。

 見た目的には12歳くらい?

 成人したばかりのように見えますが……

 でも確かにルビーちゃんから、ときどき子どもではないような雰囲気も感じられます。

 大人の余裕とは違うのですが。

 もっとこう、不思議な感じ。

 もしかしたら見た目以上の年齢なのかも?


「ルビーちゃんって、お若く見えますが何歳なんでしょう?」

「ほんの2万12歳ですわ」


 2万歳でしたら12歳って誤差ですわよね。

 あと2万年って数えるの不可能じゃありません?

 お父さまですら、今の自分の年齢が時々分からないって仰るときがあるんですから。


「うふふ。大人の魅力というやつです。師匠さんってあれで子どもっぽいところがあるでしょ? わたしの方が大人なので、いろいろと坊やに教えてあげないといけませんの」

「大変ですわね、ルビーお姉さま」


 冗談でルビーちゃんのことをお姉さまと呼んだのですが……ルビーちゃんめちゃくちゃ嬉しそうです。瞳がキラキラと輝きました。


「ベル姫にも教育してあげましょう。性が付く授業ですわ」

「是非」

「では男女の身体の違いで一番の特徴であるお股――」

「往来の真ん中で始めないでくださいルゥブルム」


 マルカがルビーちゃんの顔をがし~っと掴んだ。頭が空中に固定されたみたいにジタバタするルビーちゃんの手足。

 パルちゃんはゲラゲラと笑っています。それを見て、私もクスクスと笑いました。


「姫様、いつまでもここにいる訳にも行きません。集合場所を目指しましょう」

「そうですね、マルカ。乗り合い馬車があるみたいですが、この人数ではちょっと無理そうですか?」


 大型の乗り合い馬車があれば全員で乗り込めそうですけど、さすがに都合良くそんな物はないみたいです。

 あと砂漠の国の女王陛下からエルフ国に献上する贈り物も預かっています。

 荷車付きで。

 さすがに乗り合い馬車にも乗せられませんわね、これ。

 というわけなので、私たちは歩いて移動することになりました。

 集合場所はナー神殿。

 学園都市の郊外にある新しい神殿だそうです。そこの神官がパルちゃんの友達みたいで、いろいろと協力してくれているみたい。

 大神ナー……ナーという神さまらしいのですが、残念ながらお勉強の中で聞いたことはありませんでした。

 本にも出てこない神さまなのでマイナーな神さまかもしれませんが、大神というくらいなのですから有名だと思うんですけど、なんかチグハグな感じがします。

 あと……なんか会ったことがあるような気がするんですよね。

 神さまなのに。

 う~ん?

 夢でも見たのでしょうか。

 なんて思いつつ学園都市の中を歩いて行きます。大通りにはいろいろなお店があり、そのどれもが見たこともないような変な物があるのが面白いですね。

 それらを見ながら、みんなでおしゃべりをしながら歩いて行く。

 まるでお散歩してるみたい。

 お城でも、パーロナ国王都でもできない、とても貴重な時間に思えました。


「あら。あれはなんでしょう?」

「たぶん背中を掻く道具じゃないかな」

「大きな動物の耳かきじゃありませんの?」

「「なんで耳かき?」」


 ルビーちゃんの発想は変で面白いですね。

 私も見習わねば。


「見習わないでください、姫様」

「自由な発想こそ王族に必要だと思うのですが。凝り固まった常識では、民の有益な陳情を跳ねのけてしまう可能性もありません?」

「確かにそうですが……そういうのは臣下の仕事ではないでしょうか」

「いえいえ、ちょっとくらい顔を出しませんと賄賂の温床になりますよ。緊張感が大事なのです」


 納得できるようなできないような、というマルカの返事に私はクスクスと笑いました。


「むっ!」


 そんな時、先頭がピタリと止まったのか歩みが止まりました。それに反応するように周囲の近衛騎士の皆さんが警戒態勢を取ります。


「おっとっと」

「なんでしょう?」


 パルちゃんとルビーちゃんも足を止める。


「なにがありました?」


 メイドさん達がざわざわする中、私が聞くと――口々に伝言が後ろへと伝わってきます。


「筋肉が来た、そうです」

「はぁ。はい?」


 筋肉が来たとはどういうことでしょうか?

 なんて思っていると先頭がざわざわとしました。

 何か問題でも起こったのでしょうか。


「マルカ、確認を」

「ハッ!」


 マルカに確認をお願いしましたが、それより先にパルちゃんが動いていたみたいです。

 いつの間にか隣から消えていて、先頭の方へ移動したのかしら。


「何か分かりますか、ルビーちゃん」

「学園都市の往来で筋肉と言えば有名な物がありますわ。恐らくソレでしょう」

「はぁ。なんです?」

「危険はありませんので、自分の目で確かめてみてはいかがでしょう」


 ルビーちゃんに背中を押されて私は先頭へと押し出される。慌てて周囲の護衛騎士たちが移動を始めました。

 とりあえず先頭で見えたのは――筋肉でした。

 上半身裸の筋骨隆々の男性たちが、なぜかポージングを決めながら真っ白な歯をキラキラと輝かせています。

 そんな人たちが私たちの行く道をふさいでいました。

 通行の邪魔をした、というよりは、邪魔をされているのでしょうか。

 う~む、しかし……

 なんで真冬だというのに日焼けしてるんですか?

 というか、寒いのになんで上半身裸なんですか?

 笑顔が貼り付いていて怖い!


「あ、姫様」

「ルーラン。何がありましたの?」


 押し戻されるようにルーランが下がってきたので、話を聞いてみる。パルちゃんもそれに付いてきたみたいで、隣に並んでくれました。


「前方よりあの集団が走って来たので警戒しました。そうしたらスカウトされてしまったのです」

「スカウト?」

「君、いい筋肉をしているね。と言われました」

「甲冑の上から?」

「はい。素晴らしい観察眼です」


 いったいどうなっているのでしょうか。

 良く分からないですけど、とりあえずあの筋肉の集団はマトリチブス・ホックを勧誘しているようです。


「筋肉研究会だよ。筋肉を研究してる人たちだから、悪い人たちじゃないよ」

「そういえば前にも見かけましたね。しかし、冬にもいらっしゃるとは思いませんでした。なぜ寒いのに薄着なんでしょう? 分かりません」

「あたしも分かんない」


 あはははは、とノンキに笑うパルちゃん。

 え~、と驚きましたが、もしかするとこれが学園都市の日常なんでしょうか。


「とりあえず、丁寧にお断りしてください。誰でも勧誘するんでしょうか?」

「わたし達は一度も勧誘されていませんわね。筋肉の有無を見分けているのではないでしょうか」

「甲冑の上から?」


 えぇ、とルビーちゃんも当たり前のようにうなづきました。

 なんでしょう。

 この感覚が一般的なのでしょうか。

 というか、ホントに甲冑の上から判断できますの?


「あの、少しよろしいでしょうか」


 筋骨隆々の男性の笑顔が怖かったので、女性に話を聞きました。さすがに上半身は裸ではないですけど、少し厚めのブラのような物が一枚だけで、あとは肌が露出しています。他の男性と同じように日焼けしているんですけど、なんでですか? 冬ですよ?


「あら。あなたはダメね」

「はい?」

「もっと筋肉を付けなければ甲冑に負けてしまうわ。いいえ、甲冑など天然の筋肉に比べれば布も同じ。鍛えましょう。あなたも美しくなれます」


 女性はそう言いながら奇妙なポーズを取りました。

 にっこり笑っていますが、やっぱり歯が異様に白い。

 こわい。


「えっと……本当に甲冑の上から分かるんですね」

「筋肉がささやいているのよ」

「は、はぁ……」


 ますます意味が分からなくて怖いです。

 筋肉ってささやくんですか?


「アルモニカとルクセンピックよ」

「はい?」

「右の胸筋がアルモニカで、左がルクセンピック」


 意味が分かりませんでしたが、私の王族スキル『会話理解』を使って判断したところ筋肉の名前がアルモニカとルクセンピックだということが分かりました。

 嘘です。

 王族スキルなんてありません。

 たぶん、筋肉の名前です。

 アルモニカとルクセンピックがピクンピクンと揺れて私を歓迎しています。女性の胸が揺れているというのに、えっちさが欠片もありません。

 怖い。

 あ、でもひとつ気になることがありますので聞いてみましょう。


「アルモニカとルクセンピックに聞きたいのですけど、よろしいでしょうか」

「はい。筋肉についてなら何でもお答えしましょう」

「お胸はどこまで日焼けしているのですか? 日焼けしているということは、裸ですわよね?」

「いい質問です、筋肉の無いお嬢さん」


 ちょっとくらいありますよぅ。

 寝ころびながら本を読む筋力くらいはあります。

 ときどき本が落ちて、顔に当たってしまうのは秘密ですけど。


「ですが、それは我が筋肉研究会の奥義。おいそれと他人に伝えることは禁止されています。知りたければご入会を」

「永遠の秘密にしておきましょう」

「残念です。お嬢さんなら素晴らしい筋肉に出会たはずなのに」


 いやですよぅ。

 筋骨隆々のお姫様なんて、絵本の中でも見たことがありません。

 王子様を助けに行くお姫様でさえ剣を使っています。

 パワーで解決するお姫様なんて面白いだけじゃないですか。

 あと――


「師匠さまって筋肉はお好きでしょうか?」

「師匠はぷにぷにが好きだよ」

「師匠さんは柔らかいものが好きです。硬い胸がお好きですが……その意味は筋肉とはきっと違いますわ」


 ぺったんこが好きということですね。

 分かります分かります。

 パルちゃんとルビーちゃんと私はうなづきました。

 筋肉研究会。

 ぜったいに入会しません!

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