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~可憐! 油断はしてない~

 パーティのみんな……というより、同じ仕事を請け負う新人たちみんな。って言った方が分かりやすいくらいに、あたし達はそろって街を出た。

 ギルドを出たくらいで太陽が出てきて朝になってた。街を出る頃には、もうすっかり太陽が昇っていて、一日が始まったぞ~って言ってる感じ。


「ふあ~ぁ」


 まだまだ眠い人もいるのか、あくびをしている人もいた。

 街の外だっていうのに、緊張感が無いんだなぁ、なんて思ってしまった。


「……」


 でも、こんなに大勢で移動していると仕方ないかもしれない。

 誰かが見張っててくれるだろう。

 って、思ってしまう。


「どうした、パルヴァス。ビビってんの?」


 キョロキョロと街の外を見てたあたしに、チューズが笑いながら声をかけてきた。

 そんな赤毛の男の子にあたしは素直にうなづく。


「うん。ビビってる」

「え~……しっかりしてくれよ、盗賊だろ?」

「しっかりしてるよ。だからビビッてて、何も問題がないか、変わったことがないか、ちゃんとまわりを見張ってる」


 あたしは素直に言った。

 怖い。

 うん。

 普通に怖いもん。

 だって、師匠もいないし、まわりはみんなルーキーだ。

 対応を間違っちゃうかもしれないし、そもそも強い魔物にはあたし達では勝てない。

 だから、街の外ってだけでやっぱり怖い。

 しっかりと見張らないといけない。

 先に魔物を見つけた方がぜったい有利に決まってるし。逃げるか戦うか、その判断をするのだって早い方がいいに決まってる。


「お、おう。そうだな」

「パルヴァスが正しい。オレたちは一度も魔物と戦ったことがないくせに、これだ。慣れとは怖いものだな」


 イークエスは同意してくれた。

 チューズもバカにしたような表情を消して、ちょっと居心地が悪そうにしてる。


「優秀な盗賊ってことだな。頼むよ、パルヴァス」

「うん」


 ガイスは落ち着いた感じで笑っていた。

 そんなあたし達の会話が聞こえたのか、周囲のパーティ達からもあくびや緩んだ空気が消えた。

 緊張でガチガチになっちゃうのはダメだが、ひとつも緊張しないのは逆にダメだ。

 って、師匠に教えてもらった。

 なにも緊張していない状態とは、油断している状態だ、と。

 ひとつの油断がそのまま失敗につながり、ひとつの失敗が大きな失敗を呼び、そして死につながっている。

 だからこそ適度に緊張を保つこと。

 小さなミスをしない心がけが、まず第一である。

 それが師匠から教えてもらった言葉だ。


「――……」


 で、そんな師匠の気配が近かった。

 なんで!?

 聖骸布でどこにいるのかすぐに分かるのはいいんだけど、師匠がすぐ近くにいるのが分かってしまうのは、なんかちょっと困る。

 チェックされてるみたいで緊張しちゃう!

 具体的には街の方角。

 というか、街を囲んでいる高い壁の上。ちらりと視線だけを向けると、師匠が顔だけ覗かせているのが分かった。

 うん。

 やっぱり師匠だ。間違いなく師匠だ。あんな高いところから平気で顔をのぞかせられるなんて師匠しかいない。


「……どうしたのパルヴァス」

「え!? ん~ん。な、なんでもないよ!」


 サチに言われて、あたしはごまかすように首をブンブンと振った。

 ありがとうございます、師匠!

 おかげで緊張感が保てます!

 でもまだ周囲にバレないように合図とかそういうのを送れる技術がないので無視してるみたいになっちゃってごめんなさい!

 って、思ってたけど師匠はあたしの視線に応えるように軽く手をあげて頭を引っ込めた。

 きっと激励なんだと思う。

 しっかりやれよっていう師匠の応援だ。

 がんばりますよ、師匠!

 と、師匠に気を取られてまったくもって周囲の警戒をしてなかったのを思い出して、あたしは再びまわりを見渡した。

 この道……というか、道になる予定の場所かな。ここは以前に師匠といっしょに歩いたことがある。

 散歩と魔力糸の修行を兼ねた時で、あたしが初めてコボルトを倒した日に歩いた道だ。

 師匠が言うには、人の目が届くところに魔物は発生しない。

 でも、どこからか移動してくることは充分にありえる。

 だからこそ、周囲の警戒は本当に必要なことだ。魔物が出ない保証なんて、どこにも無いし、誰も魔物が来るぞって教えてくれないのだから。

 街を出た東の方向に進んでいく。暴れ川の方向へ進んでいくと、だんだんと水の流れる音が大きくなってきた。

 ようやく橋を架ける場所までたどり着く。

 ドワーフ国から帰ってきた時、この場所は広く切り開かれた場所になっていた。それが今ではいくつかの簡単な家が建っていた。屋台みたいなお店もあるみたいで、朝ごはんを食べてる作業関係の人も見える。

 材料である材木や石なんかが置いてあって、今から新しく橋が造られる光景だった。


「おはよう!」


 と、あたし達の集団に声をかけてくる人がいた。

 腕組みをしたドワーフだ。ドワーフ国からいっしょに転移してきた中にいた人だ。


「今日も問題ないかな、ルーキー諸君」


 すっかりと日が昇っているので、出迎えてくれたドワーフは元気に挨拶した。それに対してあたし達もしっかり挨拶する。

 このドワーフさん達が、一応の依頼主に当たる、らしい。

 本当は領主さまなんだけど、いちいち移動してくるのは時間の無駄なので、代理人ということになっているみたい。


「今日も見張りと巡回、ついでに討伐を頼む。見たところパーティは昨日と同じ……だな。よし、問題ない。組み分けも同じでいいかな? 不満があれば言ってくれ。無ければ昨日と同じく頼んだぞ」


 冒険者から意見は無い。

 よし、と返事をしてドワーフはそれっきり橋の工事に向かっていった。


「組み分けって?」


 あたしは初めてだったので分からない。

 だから、イークエスに聞いてみる。


「巡回する場所や休憩時間が同じでは困るだろ。だから北側と南側に別れるんだ。オレたちは南側のグループになっているから」


 イークエスが短く説明してくれた。

 そこから更に同じ南組のパーティのリーダーとも場所等の確認をして、すぐに巡回の仕事となった。


「ここからパルヴァスの仕事がメインになる。あまり遠くまでいかなくてもいい。適度な距離を保ちながら右へ移動していく感じかな。つまりオレたちは西側から魔物が来ないかどうか、歩きながら見て回る仕事だ」

「分かった」


 あたしはうなづいて、イークエスの隣に立つ。


「頼むぞ、パルヴァス」

「うん!」


 さぁ、はじめてのお仕事だ。

 本当の目的は盗賊ギルドからの依頼だけど、冒険者は冒険者としてちゃんと仕事をしないといけない。

 というより、油断しちゃうと死んじゃう仕事だし。

 あたしはまだ死にたくない。

 なにより、あたしが死んじゃうと師匠の教え方がダメってことになっちゃう。

 そんなことはぜったいに許されない。

 だからこそ――

 だからこそ、がんばろう!

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