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~可憐! 裸の付き合い~

「……食堂でごはんつくるでしょ。その熱を利用してお湯を沸かしてる」


 脱衣所で服を脱いでる時にサチはそう教えてくれた。

 ごはんのついでにお風呂もあるってことは、黄金の鐘亭のお風呂も同じような感じなのかもしれない。

 あっちは個人の部屋についてるので特別な感じが凄いけど。でも、宿にも食堂があるってことは熱があるってことだ。

 だからお湯がいつでもあるんだなぁ、って思う。たぶんだけど。


「あ、意外と狭い」


 浴室は意外と小さかった。

 冒険者たちがみんな利用するんだから、もっと大きいお風呂を想像してたんだけど、五人も入れないくらいの大きさ。

 入っている人は誰もいなくて、あたしとサチの貸し切り状態だった。もちろん、あとから誰か入ってくるかもしれないけど。


「大きいお風呂だと、お湯が冷めるの早いから」

「へ~、そうなんだ」


 お湯がとぽとぽ流れてて湯舟の中に落ちている。湯舟から溢れたお湯は洗い場に流れてて、そこから空いた穴に落ちていく。この先は街の地下につながってて、下水っていうらしい。新人冒険者が良く行く場所、と師匠に教えてもらっている。

 湯舟に流れ込んできているこのお湯は、料理してる食堂から流れてきてるってことなのかな?

 うーん、造りが良く分かんない。


「……パルヴァス」

「ん? なぁにサチさま」

「洗って」


 ん、と彼女は浴室の床に座って、あたしに背中を向けた。


「はーい。その代わり、ちゃんと神官魔法教えて」

「……分かった。あと、サマはもういらない。つけないで」

「サチって呼んでいいの?」


 こくん、と彼女はうなづいた。


「じゃ、サチの背中を洗うね」


 石鹸を泡立ててサチの背中を洗う。布で泡立てていたんだけど、それで洗いはじめるとサチはストップと声をかけた。


「手で洗って。……お清めだから」

「あ、なるほど」


 ちゃんと人間の手で洗うっていうのは重要なのかもしれない。

 丁寧に、あんまり強くならないように注意しながらサチの背中を洗っていく。

 でも、さすが冒険者って感じのする背中だった。宿のリンリーさんは、前もぽよぽよで凄いけど、背中もぷにぷにで柔らかかった。

 それと比べたら、サチの背中はちゃんと引き締まってる感じがあって硬い気がする。もちろん師匠にはぜんぜん敵わないんだけど、それでも普通の神官よりはきっとちゃんと凄いと思う。


「ん……次は足」


 背中から腰、あと肩と腕が洗い終わった。


「はーい」


 くるりと反転したサチの足をつま先から洗っていく。手で足を洗うって、ちょっとくすぐったそう。

 指、指の間、足の裏と洗って、そのままふくらはぎから太ももを洗っていく。


「……ん、くっ」


 サチは声を我慢してるみたいに声を出していた。

 これ、絶対くすぐったいよね。

 でもお清めだから、サラは我慢してる感じ。


「ふぅ……交代して」

「おっぱいはいいの?」

「洗ってくれるの?」

「洗うよ~」

「……遠慮しておくわ」


 え~、と声をあげるあたしの肩をつかんで、座らせられた。


「交代」

「はい」


 サチはあたしの後ろへとまわる。

 表情は見えなくなったけど……なんとなく笑ってるような気がした。


「……神官魔法は、厳密には魔法じゃないの」


 泡を手ですくって、サチはあたしの背中を洗っていく。

 さすが神官。ぜんぜん痛くないし、むしろ優しい感じで気持ちいい。


「魔法……じゃないの?」

「そう。神さまの奇跡を代行してるだけ」

「奇跡?」


 あたしの感覚では、普通の魔法も奇跡みたいに思うんだけど。なにも燃える物がないのに、指先に炎が宿ったり、明かりを灯したり。あたしの魔力糸も何も無いところから糸を出せるし、師匠レベルになるとロープの代わりにもなっていた。

 手品じゃない、本当の魔法。

 もう奇跡みたいなもの、って思ってたけど。でも魔法は魔法ってことかな。

 じゃぁ魔法と奇跡はどう違うのだろう?


「……魔法で怪我は治せない。病気や毒も治療できない。でも、神の奇跡だったら治せる。分かりやすいのは、そこ」

「……そっか」


 魔法で出来ないからこそ、奇跡なんだ。


「でも、神さまも忙しいから。みんなをみんな常に見守っていられない。だから、神官に代わりをしてもらうの。だから、神官魔法は神さまの力を借りてるだけ」


 次は足、と言われてあたしはサチの方を向いた。


「……」


 サチはあたしをジ~っと見てきた。

 眼鏡をはずしてるから、見えにくいのかな。


「どうしたの?」

「……なんでもない。足、あげて」

「うん」


 サチが足を持ってくれて、洗ってくれる。

 けど――


「くふ、ふふ、ひひひ! くすぐったいぃ~!」

「……我慢して」

「ひぃふふふ、はひ、ぃひひひ!」


 むりむりむり。

 はやく足の裏を終わらせて!


「……もう。お清めなのに」

「ご、ごめんなさい、ひひふふふふ」


 暴れそうになるのを我慢するので精一杯。

 ようやく足の裏と指の間が終わって、すねとかふくらはぎになった。


「はぁ……助かった」

「……説明を続けてもいいかしら?」


 うんうん、とあたしはうなづく。


「神さまの力を借りるってことは、自分で覚えようとしてもダメ。……神さまが使ってもいいよ、って許可を出した神官魔法しか使えないの。だから、神殿にお祈りする神官もいる。夢の中に神さまが出てきて、教えてくれたって人もいる」

「そうなんだ」


 サチの手が太ももを触る。さっきまでと違ってゆっくり丁寧になった。あわあわもこもこで、ちょっと楽しいけど、サチが真剣になって洗ってくれる。


「……ここは不浄の場所」

「ふじょう?」

「気にしないで」


 そういって、さっきよりもずっと優しく指で洗ってくれた。

 そのままサチがお腹と胸も洗ってくれる。


「……はい。お清め終わり」

「はーい」


 うん。

 本当にお清めだったみたいで、とってもスッキリした感じがする。

 身体を洗うっていうのは神官にとって大切みたいだ。


「……じゃ、座ったままでいいから目を閉じて。それで神さまに聞いてみるの」

「うん」


 あたしは言われたとおり目を閉じた。

 一応、サチの気配を追っておく。

 なにか不審な点があるかもしれない。この瞬間にも、彼女があたしを誘拐する可能性もあると思う。


「……そのままパルヴァスの信仰する神さまに心の中で聞いてみて。もしもパルヴァスが神官魔法を使えるのならば、神さまが答えてくださるわ」

「え? う、うん」


 さすがに気配を追ってると集中できない。

 サチはあたしの横にいるままなので、大丈夫かな? 話半分で神さまに聞いていいのかどうか分かんないけど、とにかくやってみよう。


「む……」


 あたしは心の中で光の精霊女王ラビアンさまに聞いてみた。

 ラビアンさま、ラビアンさま。

 あたし、神官魔法を使えますか?

 って。


「――うわぁ!?」

「きゃ!?」


 あたしは思わず悲鳴をあげてしまった。

 そんなあたしに驚いて、サチも声をあげる。


「……ど、どうしたの?」

「ら、ラビアンさまが……ダメだって……」

「……え? ちょ、ちょくせつダメって……神さまが?」

「う、うん。声が聞こえた」


 びっくりした。

 というか、なんであたしのこと見てるんですか、ラビアンさま!?

 あたしより師匠を見ててくださいよぉ!


「……声が聞こえるのに神官魔法を使わせてくれないなんて。アレかしら」


 もしかして、あたしに才能が無い?


「光の精霊女王さまってヒマなのかしら……」

「さ、さぁ……?」


 光を担当してる神さまだから、忙しそうな気がするけど。でも、それって逆に夜が忙しいのかな?

 普段は太陽の神さまが仕事してるはずだから、もしかしたらヒマなのかも。


「聞いてみる」


 ラビアンさま、ラビアンさま。

 ヒマなんですか?


「……どう?」

「お返事ないです」

「……そう。残念ね」

「残念。あ~ぁ、あたしも神官魔法使いたかったなぁ~」


 回復魔法が使えたら、ぜったい師匠が喜んでくれるし!

 あと、毒を扱うのなら解毒もセットで覚えないといけないって言われてたので、解毒魔法が使えればもっと便利になると思う。

 でも、使えないのかぁ。

 ホントに残念だ。


「……ほら、パルヴァス。身体を温めないと風邪をひくわ」

「あ、はーい」


 あたしとサチはいっしょに湯舟につかって、いっしょに温まった。

 神官のサチ。

 サチアルドーティス。

 ファミリーネームが無いってことは……あたしと同じ孤児かもしれない。

 わざと名乗ってない可能性としては、実は貴族の娘だとか? ファミリーネームで出身がバレちゃうとか、そういう話なのかもしれない。

 ちょっとあやしい。

 なんか不思議なところがある。

 でも。

 サチは基本的に、普通の冒険者なのかもしれない。

 でも、それを疑っている時点で油断はできないってことだ。しっかりと、油断なく、それでいて違和感のないように。

 しっかりと見極めないと!

 他の冒険者も探ってみないといけないし、大変だなぁ~。

 でも、まだまだ始まったばかりだ。

 頑張ろう!

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