~可憐! パーティ結成~
やりました師匠!
と、あたしはバンザイしそうになった。
でも手を動かして何もしないのは変になるので、話しかけてきた騎士っぽい装備をした男の子の手をもう一度にぎる。
といっても、ガントレットっていうのかな。冷たい鎧の上からなのでどうにも手に触れた感触は少ない。
それに重そうなので大変だなぁ、って思った。
「えへへ。よろしくお願いします」
「お、おお、おう。うん。よ、よろしく」
しまった。
ちょっと怪しい行動になってしまったかもしれない。騎士くんがうろたえている感じ。もしかしたら不審に思われたのかも?
「えっと、な、仲間に紹介するね」
「うん!」
あたしはそこで手を離した。
不審に思われているっていうより緊張してる感じかな。
たぶん大丈夫。それよりも、仲間の人にちゃんと馴染めるようにする方が大事かも。
騎士くんは案内するようにあたしの前に立ったけれど、慌てて振り返った。
「ごめん、オレの名前を言ってなかった」
「あ、ホントだ」
あはは、とあたしは笑う。
彼も恥ずかしそうに笑った。
自己紹介というか、名前を名乗るのは基本中の基本。義の倭の国の商人たちがやっていた『仁義を切る』でも名前は最初に名乗っていた。
だから、あたしだけ一方的に名乗ったのはちょっとした失敗だ。
それは彼の失敗でもあるし、あたしの失敗でもある。
お互いに笑ってしまったのは、そんな変な失敗をふたりでやっちゃったことが、なんだかおもしろかった。
でも、ちょっと打ち解けた気がする。
結果オーライっていうヤツだよね。
「オレはイークエス・ドンローラ。職業は騎士をやっているんだ。えっと、き、キミを――パルヴァスを守りたいと思う。いや――守ってみせる」
「はい、よろしくお願いします」
改めて、あたしは頭を下げた。
イークエスの職業は騎士。
師匠から冒険者における各職業の役割は聞いている。
騎士という職業は、本来はお城で王族を守ったりする仕事だった、みたい。
で、そこから盾と鎧をメインで装備してパーティを守る職業が『騎士』と呼ばれるようになったらしい。
盗賊からすれば、騎士ほど頼りになる存在はない。いざとなったら騎士という存在自体を盾として扱って構わない。
それこそが騎士の役目であるし、それを許容しない騎士は失格である。
って、師匠が言ってた。
「おねがいします。あたしの命はイークエスさんに預けます」
「お、おう。あ、いや、うん。分かった。オレが、必ず守る――」
イークエスさんは、しどろもどろになった。
でも、すぐにキッチリと返事をしてくれるけど……すぐに表情が硬くなった。
「うん。守るよ、パルヴァス。だからオレのことはイークエスと呼んで欲しい」
「分かりました、イークエス」
あたしが名前で呼ぶと、彼は嬉しそうにうなづいた。
「それじゃ、ちゃんと仲間に紹介する」
ガシャリガシャリ、と金属鎧特有の音を鳴らしてイークエスは歩いていく。その後ろをあたしは追いかけて付いていった。
足音、というか動く時にどうしても鎧っていうのは音が出るんだなぁ、って思った。
盗賊が必要な理由がわかる。
それと、盗賊がほとんど防具を装備しない理由も分かった。
冒険者っていうのは、大変だ。
一応、ちゃんと頑張ろうって思う。
師匠にいろいろ教えてもらったり修行した分は、失敗しないように達成していきたい。じゃないと、師匠がショボイみたいな感じになっちゃうから。
師匠は優秀なんだぞ、っていうのを証明するために、あたしは頑張るんだ。
「みんな聞いてくれ。念願の盗賊がオレたちのパーティに仲間入りだ!」
イークエスが呼びかけると、パーティメンバーたちがあたしを見た。ちらほらと冒険者たちがギルドに帰ってきた中で、その人たちがあたしを見る。
すでに奥であたしとイークエスが話しているのを見ていたはずなので、予感はしてたんだと思う。少しだけ緊張するような、それでいて歓迎するような。
そんな表情と、ちょっとにらんでいるような表情もあった。
うぅ。
でも、初対面だから当たり前か。
戦士と魔法使いの男の子と神官の女の子。
騎士のイークエスと合わせると四人パーティだったみたい。
「盗賊のパルヴァスだ。さっき冒険者ギルドに入った新人で、受付に紹介してもらった」
「パルヴァスです。盗賊の修行をしてきて、冒険者になりました。よろしくお願いします」
あたしが頭を下げると、男の子ふたりがパチパチと拍手した。
神官の女の子は眼鏡の奥であたしをにらんでる。ちょっと怖い。
「よろしくな、パルヴァス。オレの名前はガイス・ベーラトゥ。見ての通り人間の戦士だ。いざとなったら抱えて逃げてやるから安心してくれ」
そういって、ガイスは両腕の筋肉を見せてくれる。パーティの中で一番の高身長で、防具は胸当てのみ。露出した肌は日焼けしてて、大きい彼になんとも似合っていた。
彼の傍には大きな斧があったので、きっとそれが彼の武器なんだろう。
シンプルだけど、丈夫で強そうな感じ。
でも、それよりもガイスの筋肉が凄かったので、あたしは思わず彼に近づいてしまう。
「わ、すごい! あの、触ってもいいですか?」
「お、おう。いいぜ」
ガイスの差し出した腕をあたしはペタペタと触る。
「すごい……硬い……太い……おおー」
「す、すまん、汗臭くないか。あ、いや、ちゃんと風呂には入ってるぞ。帰ってきたばっかりで、その……」
「あはは、大丈夫ですよ。汗とか汚くないです。平気ですよー」
だって……ちょっと前まであたしはお風呂どころか身体すら洗えていない生活だったから。髪の毛もギシギシに固まってて、リンリーさんに洗ってもらうのに苦労したんだもん。
汚物の中に顔を突っ込むようなことが無い限り、だいたい平気になった。
生ゴミとか食べて生きてたんだし。
「ガイスばっかりズルいぞ! パルヴァス、僕は魔法使いのチューズ・ベニフェクスだ。人間だよ。気軽にチューズって呼んでね!」
ガイスの筋肉をペタペタと触っていると赤毛の魔法使いの男の子が割り込んできた。外套をマントのように着込んだ彼の手には短い木の杖。スタッフっていうんだっけ。魔法使いが魔法を使う時の触媒、だったかな。
チューズはあたしよりも大きいけど、イークエスより小さい。身体の線も細いから、ルーキーらしいルーキーに見えた。
チューズは、にひひ、とイタズラっ子のような笑顔で握手を求めてくる。
「はい、よろしくおねがいします」
と、あたしが手を握ろうと思ったら、ぽわん、と光があふれる。
熱くないから火じゃない。
これが魔法なんだ!
「おー! すごいね。これ何の魔法?」
「ただの明かり魔法。パルヴァスは魔法は使える?」
「魔力糸なら使えるよ!」
と、あたしは顕現してみせる。師匠みたいな速さでは使えないけど、細さとか長さはかなり上達できてるはず。たぶん。
「へ~、綺麗に使えるじゃん。もしかしたら魔法も使えるかも?」
「ホント?」
「ホントホント! 教えてあげるからいっしょに風呂――」
「そこまでだ、チューズ」
チューズがあたしの手を取ろうとしたところでイークエスが割り込んできた。
「まだサチの自己紹介が終わってない」
おっとそうでした、とチューズはワザとらしく引っ込んだ。
で、次は神官の女の子が自己紹介をしてくれる……と、思ったんだけど。
「……」
「……?」
彼女はあたしを見るだけで、何も言わなかった。
そばかすがあって、眼鏡をかけてた女の子。黒髪は綺麗に前髪が横にパッツンと切られていて、清潔感がすっごくある。
身長はあたしより高いけどチューズより小さい。
神官服を着てるので神官だって分かるけど、このままじゃ名前も分かんない。
しかも、あからさまに視線を外され、そっぽ向かれた。
え~っと……
なぜか知らないけど嫌われた?
「あぁ~、パルヴァス。彼女の名前はサチアルドーティス。みんなはサチと呼んでいる。普段から無口で、ちょっと愛想が悪いが気にしないでくれ」
サチの代わりにイークエスが紹介してくれた。
「よ、よろしくお願いします、サチ」
「……えぇ」
短くそれだけ。
嫌われてはいないんだろうけど、ぜったいに打ち解けてない。
それは分かった。
「えっと、皆さんよろしくお願いします。精一杯がんばります!」
もう一度あたしは頭を下げて、みんなに挨拶をした。パチパチパチと男の子たちは拍手してくれたので、にっこりと笑っておいた。
困ったときは笑っとけ。
おまえは顔がいいから、だいたい許してもらえる。
と、師匠が言ってたので。
「よっし、それじゃぁパルヴァス。魔法教えてやるからいっしょに風呂に入ろうぜ!」
「はーい」
ギョッとするイークエスとガイスが見えた。
何か間違った!? と思った瞬間――
「ぐぇッ」
髪の毛を後ろから掴まれて、顔が天上を向いた。
「いた!? え、なに!? あいた!? え!? え!? な、なに、サチ!? え!?」
「……あなたはこっち」
「あいたたたた! 行きます、行きますから離して、サチ!」
髪の毛を引っ張られたのでサチに付いていくしかなく、あたしは後ろ歩きで二階の宿に連れていかれるのだった。
階段が物凄い怖かったです。
あと、置いて行かれた男の子三人がぽかんと口を開けてあたし達を見てるのが、ちょっとおもしろかった。