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~卑劣! 黄金城地下ダンジョン8階・その1~ 1

 本来ならば、地上から地下5階の街まで移動し。

 地下街でしっかりと休憩を取ったあと。

 そこから更に丁寧に攻略をして、地下8階を目指すのだが……


「無事に転移できたようだな」


 ふぅ、と一息。

 俺が転移してきたのは地下8階層の入口とも言える場所。階段を降りてきたところのフロアだ。

 転移の腕輪がなければ、早々とここまで移動して来られまい。

 なにせ、地下7階の敵ですらかなりのレベルになってきている。地下8階は更にその上をいくので、せいぜい探索できて1フロアになるだろうか。

 場合によっては、永遠に地図を埋められない……なんてことにもなりそうだ。


「便利だな、転移の腕輪。拙者も欲しいところではあるが」

「世界最古にして最期のハイ・エルフを訪ねてくれ」


 学園長に頼めば、普通に作ってくれるかもしれないが。

 それなりに時間が必要な物でもあるし、タイミングによっては材料が足りないかもしれない。


「ダンジョンの宝物庫に宝石くらいはあるでしょう。それを砕いて持って行けば、作ってもらえますわよ、きっと」


 吸血鬼らしい価値観の相違というか、なんというか。


「もったいなくない、それ?」


 パルのツッコミにルビーは肩をすくめながら答える。


「宝石をたくさん持っていても、ダンジョンの地下8階には転移できませんわよ。どっちの価値が高いと思います?」


 それに、とルビーはニヤリと笑いながら付け足した。


「宝物庫に到着すれば、今後いつでも宝物庫に転移できることになります。つまり、金を取り放題ですわ」


 全員で、あー、と言葉を漏らした。


「え、あれ、わたし間違っております?」

「いや、むしろその考えには至らなかった。すごいなルビー。さすがだ」


 言われてみればそうだ。

 転移の腕輪があれば、宝物庫にいつだって転移できる。

 そのまま再転移できるまで待機する必要はあるが、いつでも無限にお金を調達できるようになるわけだ。

 良い発想だ、と俺はルビーの頭を撫でる。


「うへっ。へへへへへへへ」


 普通に褒めたんだけど、なんかニチャァって感じでだらしなく笑う吸血鬼。

 美少女が台無し……になってないところが、美少女の恐ろしいところだろうか。どんな顔をしてても可愛らしいというか、美人というか……

 カワイイの基準から逸脱することがないのが、すごい。


「なるほど。それを考えると宝石を砕いてしまっても、それ以上の価値が生まれるな」


 セツナは、うん、とうなづいた。

 どうやら実行する気でいるらしい。


「おいおい旦那。獲らぬ狸の皮算用だぜ、そりゃ」

「おっと、そうであった。まずは宝物庫に到着しなくては、何の意味もない算段だな」


 気を引き締めるようにパンと頬を叩くセツナ。

 それに習うように、シュユもほっぺたを叩く。


「師匠ししょー」


 そんなふたりを見ていると、こっそりとパルが聞いてきた。


「タヌキって何ですか?」

「義の倭の国にいる動物だ。犬でもなく、猫でもない……あ~、たぬき~って感じのなんかこう丸っぽい動物だ」

「そんなのがいるんですのね」


 ルビーもこっそりと聞いてきた。


「魔王領にもいないのか」

「いないですわね。今度三人で見に行きましょう」


 それもいいかな。

 なんて思うが。

 そんなノンキなことをしてて、勇者に怒られないだろうか。

 とも思ってしまう。

 勇者パーティを追放されているとは言え、一応は目的のために動いている最中ではあるので。

 ダンジョン攻略だって、セツナという超優良な人材を勇者パーティに送り込むのが最終目標ではあるし、パルの戦闘経験を積ませるのも目的だ。

 加えて、良いアイテムが手に入るかと思ったが――


「金貨3000か……」


 ルビーに聞いた鑑定結果とその値段を聞いて、諦める方角へ舵を切った。

 いや、それこそ宝物庫で金を調達すれば可能な値段ではあるのだが、いかんせん、途方もない。

 やはり鑑定料が超高額になってしまうのも黄金城の悪いところでもある。

 知識神のユニーク魔法を覚えている仲間でもいればいいのだが、単純に経験を積みレベルをあげたからといってユニーク魔法を授かるわけでもないので、難しい話だ。

 熱心にお祈りをして信仰に貢献したからこそ授かる魔法であり、神官だからといって無条件で使えるものではない。

 サチにお願いしたら、ナーさま経由でなんとかなったりしないかなぁ。

 なんて思っても。

 神さまを便利に使うとは何事だ、と普通に怒られて、普通に神罰をくらいそうな気がしないでもない。

 ……普通に神罰ってなんだよ。

 普通は神罰を受ける機会も無いっていうのに。


「ネックレスが良い物ならばいいですけど、わたしの作った漆黒の影鎧以下の性能で金貨3000枚は厳しい話ですわ」


 なんて言ってたルビー。

 いやいや。

 そもそもアレって、鎧っていうカテゴリーでいいんですか?

 どっちかっていうと魔物に分類されてしまうような気がしないでもない。イメージ的には、スライムを身に纏うような感じだし。いや、そのスライムがアホみたいに強いからこそ、鎧のイメージが無くなってしまうのだけれど。

 大丈夫かな、お姫様。

 今ごろスライムに襲われてない?

 なんて思いつつ、罠感知と気配察知をして次のフロアの扉を蹴り開けた。


「敵、3」


 俺が突入する前にイヤな報告を聞く。

 場合によっては退却する判断をしないといけない数字だ。

 扉をくぐり、部屋の中へ入ると――前衛の三人がそれぞれを相手するように向かっていた。

 フライトカゲだ。

 うげぇ、という言葉を飲み込み、退却ではなく突撃を選んだセツナの考えを汲み取る。

 先手必勝というよりも、トカゲに火を吐かせないように、という判断だろう。


「ルビー!」

「分かっております!」


 前衛で戦ってもらいながら魔導書を起動しておいてもらう。

 すぐに天井付近に集まってくる水。まるで天井が池の底になったように、どんどんと水が溜まっていった。

 これで、いつでも大丈夫……と、思いたい。


「パル、無茶はするな」

「はいっ!」


 中衛たる俺たちはそれぞれ前衛を援護する。

 俺はルビーを、パルはナユタを、シュユはセツナを援護するように動いた。


「さっさと片付けるぞ」

「了解ですわ」


 アンブレランスの大振りでは火を吐く隙を与えてしまう。というわけで、ルビーは自らの爪で戦っていた。

 どっちかっていうと、そっちがメインであり、アンブレランスは手加減状態とも言える。

 しかし、ルビーの攻撃が一撃で終わってないところを見るに――爪でも思いっきり手加減してるだろ、この吸血鬼。

 まだ遊んでられる余裕があるようで何よりだが。

 そのうち、ルビーをとことん恨むようなことにならないことを祈るばかりだ。

 さて、どの神さまに祈ろうか。

 戦闘を司る神か?

 光の精霊女王ラビアンさまか?

 そんなことを考えている間にも、ルビーが隙を作ってくれた。


「ほらほら、口の中がお留守ですわよ! おーっほっほっほっほ!」


 いや、口の中に指を突っ込んでかじられながらも舌をつねるようにしてダメージを与えられるの、あなただけなんですよ。

 まぁ、フライトカゲが隙だらけになってありがたいけど。


「おりゃあ!」


 その間に俺はトカゲの腹を下から突き上げるようにして七星護剣・火を振り上げた。


「んお!」


 全身が鱗で硬い、と思いきや、腹には刃が通る。

 見た目よりも遥かにやわらかい。


「弱点、腹を狙え!」


 全員に通達して、七星護剣を引き抜くともう一撃、腹へと刺し込み、切り裂くように刃を滑らせた。


「トカゲの開きができますわね」


 もっとも、開きが完成する前に消滅してしまうが。

 一匹、確実に仕留めたのを確認すると、俺はセツナ&シュユ組の援護へ、ルビーはパル&ナユタ組の援護へと走る。


「おおおおお!」


 不意打ち気味に横からフライトカゲを攻撃した。

 突き上げるようにして七星護剣を斜め下から斬り上げる。ざっくりと腹を切り裂く手応えを感じつつも、跳ね上げるようにしてフライトカゲを攻撃した。


「助太刀感謝!」


 セツナが仕込み杖を振り上げた。

 まるで天井に縫い付けるようにして杖の刃を突き上げる。ざっくりとノド元に刺さるようにして天井まで跳ね上げられたフライトカゲは、ばしゃん、と水を跳ねさせた。

 そして、口を開く。

 火を吐くつもりだが――一手、遅い。


「トドメでござる!」


 シュユが七星護剣・木を振り上げ、天井ごと破壊しかねない一撃で振りぬいた。

 哀れ、フライトカゲに首は切断。こうなっては火を吹くこともできないだろう。

 爆発することなく、フライトカゲは絶命した。

 あとは――


「そらよ!」

「チャンスですわ!」

「うりゃぁ!」


 パル&ルビー&ナユタ組だが、どうやらそちらも無事に倒せたようだ。


「ふぅ~」


 と、みんなで息を吐く。

 無事にフライトカゲを倒せた。


「怪我はないか」


 セツナが聞くが、全員問題なし。

 初見ではなく、二度目の相手ならば問題ないか。一応は対処できるみたいだし、弱点も分かった。次からはもっと簡単に倒せるだろう。


「弱点看破助かった。さすが盗賊だな」


 セツナに褒めてもらえた。


「まぁ、偶然だけど」

「なに。運の良さが高いのも盗賊と聞いたことがある」

「そうなんですか?」


 と、パルが聞いてきた。


「罠の解除や宝箱の解除に運の良さは必要だろう?」

「あ、確かに」


 知識と実力はもちろん必要だが。

 それと共に運も必須となってくる。

 逆を考えてみたら良い。

 運が悪い人間に、罠の解除を頼みたいか?

 誰もが首を横に振るだろう。

 その点で言うと、パルは運が良い方だよなぁ、とも思う。

 才能もあるし、瞬間記憶のギフトもあるし、美少女だし。


「……なんかムカついてきたな」

「なんで!?」


 嫉妬という言葉を使ってしまいそうになるので、俺はごかますようにパルを捕まえるとほっぺたをムニムニと引っ張った。


「うひゃーん、ひひょー、はひふふんへふはー!」


 おら!

 俺が努力と根性と運だけで生き残ってきたのに、おまえは俺からデロデロに愛されてぬくぬくと安全に成長しやがって、この野郎!

 好き!


「ブサイクな顔にするんですのね、わたしも手伝いますわ」


 いつの間にか俺たちの間に入ってきたルビーが、パルのほっぺたを両方から押さえた。

 強制的にくちびるが尖ってしまうパル。

 そうなると当然――


「んちゅ」


 ルビーがキスをする。


「うがー! なにするのよー!」


 で、パルがキレる。


「どうだ、シュユ。罠はありそうか?」

「無いでござる。いつでも先へ進めるでござるよ、ご主人さま」

「よし、ナユタ。合図を出すから同時に飛び込むぞ」

「了解さね、旦那」


 そんな俺たちを無視して、倭国組が先へ進もうとしていた。


「あぁ、ごめんなさい!」

「真面目にやりますぅ!」

「見捨てないでくださいまし!」


 俺たち大陸組は、慌てて合流するのでした。

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