~流麗! 不思議なダンジョン攻略開始!~
わたし、パル、シュユの三人で再び不思議のダンジョンに向かいました。
「気をつけろよパル。ルビー、頼んだ」
「はい、師匠!」
「おまかせください。この地を滅ぼしてでもパルとシュユは守りますわ」
うん、と師匠さんはうなづきました。
冗談でしたのに……マジですのね。
仕方がありません。
滅ぼしてでも守るとしましょう!
「須臾、守られるつもりで行動してくれ」
「遠慮なく逃げるんだぞ」
「分かりました」
倭国組は余裕がありますわね。
ナユタんが、ぐじゃぐじゃとニンジャ娘の頭を撫でています。
セツナっちも撫でてさしあげればいいのに。
「あぁ~、そういうことですか」
「どうしたの? なにか分かった?」
「わたし理解しましたわ、パル。あのサムライが撫でたいのは頭ではなく胸ですわね」
「なるほどっ!」
ひどいことを言うなぁ、と師匠さんは苦笑しつつ肩をすくめました。
めちゃくちゃ怖い顔をしてサムライがこちらを睨んでいましたが……図星ということでいいですか? いいですわよね?
人間種っていうのは、どうにも不思議なところがありまして。
本当のことを言うと怒るんですの。
まぁ、それは魔物種にも言えますけど。
もしかしたら魔王さまも怒るんでしょうか?
もっとも。
魔王さまを揶揄する言葉というか、真実というか、そういうのひとつもありませんけど。
やーい、人間種の敵~。
くらいでしょうか?
でも、この程度では怒らないでしょうねぇ。魔王さま、なんだかんだで甘いですので。それこそ、わたしが四天王をしてるのを許してくださってる程度には寛容です。
まぁ、裏切ってるのがバレたら怒られるでしょうけど。
あ、そうですわね。
やーい、裏切られてるのに気付かないでのほほんと魔王やってるヤツ~。
なんて言ったら、怒るかもしれませんわね。
「では行ってまいります」
師匠さん達に見送られて、三人でいつものルートを通りました。
パーティメンバーからの視線や気配察知を完全に断たなければ不思議なダンジョンに入れません。
まったくもって、厄介な入口です。
こんなものを作れる人間種がいたとは思えません。
あのハイエルフすら、知らないし分からないのであれば――恐らく古代遺産関連。
大昔、地上を跋扈していた神の仕業でしょう。
天界でこちらをニヤニヤと見下ろす神が作ったガラクタかオモチャに違いありません。
迷惑なこと、この上ないです。
全員参加。
老若男女、種族も出自も関係なく参加できるイベントこそが華ですわ。
悪いな、これ三人用なんだ。
なんてセリフは魔王さまを遥かに凌ぐ外道です。
みんなで遊ぶのが素晴らしいというのに。
師匠さんも。
みんなで愛していきたいですわよね~。
ヴェルス姫は厳しそうですけど。
いざとなれば、わたしが一晩の愛を応援してあげましょう。
大丈夫。
師匠さんなら一撃です。
王族の子どもがひとりくらい欲しいところですもの。
うんうん。
ま、そんなことを考えていると天罰でも落とされそうですが……そういえば、どうして魔王さまには天罰を落とさないんでしょうか?
そのあたり、少し気になりますわね。
邪神の加護でもあるんでしょうか。
それとも勇者を選定しているのが『神』ではなく『精霊女王』というところに何か理由があるのかも……?
「そろそろでござるな」
おっと。
余計な思考をしている場合ではありませんでした。
シュユの言うとおり、そろそろ大通りにさしかかります。通常であれば、そろそろ人の気配が減っていく頃。徐々に異空間に入り込むようで、相変わらず不気味ですわね。
「あった?」
「――ありましたわね」
パルの言葉を肯定しました。
気付けば、周囲から人の気配が消えている。
大通りにまで出ると、存在しないはずの路がありました。
ここからまっすぐにその路に入れば、不思議なダンジョンです。
「さて。何が起こるか分かりません。エルフと出会わなければ、そのまま黄金城を目指します。よろしくて?」
「おっけー」
「分かったでござる」
恐らく、記憶の改竄は行われない。
エルフのついたハッタリのはず。
それでも、とわたし達は手をつないで不思議のダンジョンに入りました。
まかり間違ってもハグれるわけにはいきませんからね。
入るたびに構造が変わるダンジョンで迷子になるなんて、シャレになりません。
「行きます」
わたし達はゆっくりと確実に、存在しない路に足を踏み入れました。
「同じだ」
前回と同じく入口付近はまっすぐに続く通路になっています。
そこを進みながら、わたしは影を周囲に伸ばしました。
空には太陽があるので影はできています。
わたしの能力である影移動。
それが可能なのであれば、壁などスルーできるのですが――
「どうやら、チートは可能のようですわね」
影の感覚は変わらない。
つまり、影の中に沈んで移動することは可能です。
その結果――どうなるのかは分からないので、いまは実行しませんが。加えて、パルとシュユを置いていくことになるので、師匠さんとの約束を破ることになってしまいます。
それは、まったくもって本意ではありませんので。
不思議なダンジョンにおいても、ルール通りにクリアするしかありませんわね。
「あ、そうだ。ねぇねぇ、ルビー。壁って破壊できる?」
「言ったそばからズルですか」
「ルビーちゃん、何にも言ってないでござるよ」
「そうでした」
「痴呆が始まった?」
「ぶっ殺しますわよ、小娘」
まったく!
自分が守られてるという立場を忘れているようですわね。
いいんですのよ、この空間でボッコボコに犯してさしあげても。二度と師匠さんが愛しいなんて思えないくらいにわたしの魅力でお目目ぐるぐるにしてさしあげてもいいんですからね!
でも、わたしは優しいので。
犯すのは眷属召喚で作り上げた師匠さんにしてさしあげましょう。
不幸と幸福を同時に味わうがいいわ。
と、まぁ。
冗談はさておき。
「とりあえず、破壊できるかやってみますわ」
壁というか建物ですけど。
そういえば並んでいる建物に入口というか扉がありますけど入れるんでしょうか。
「えい」
扉に手をかけて押したり引いたりスライドさせたりしましたけど、開かなかったです。
「ダメでござるな。窓も開かないでござる」
「中は……なんにも気配がないや」
恐らくダミーですわね。
というわけで――
「いきますわよ~。吸血鬼ぱーんち」
それなりの力を込めて扉を殴りつけてみました。
結果――
建物はビクともしませんでしたが、扉は破壊できました。
しかし、想定よりも『重い』手応え。
それもそのはず。
扉を破壊した、というより巨大な岩に扉の絵が貼り付けられていた、ような感じでしょうか。
破壊された扉が足元に散らばりますが、その先には真っ黒な岩なような物があるだけ。
黒曜石のような、巨大な岩が欠けたような状態です。
その割れた扉の先は反対側に突き抜けるわけでも、空洞があるわけでもなかったです。
「これは……無理そうでござるな」
「地下にいるみたい」
「なるほど。パルの言うとおりかもしれませんね」
「どういうこと?」
「もしかしたら、わたし達。逆さになっているのかもしれません」
地面に見えている部分は実は天井だった。
空に見えているものも、太陽も、すべては幻。
わたし達は逆さまで、天井に立っている状態なのかも。
「さすがにそれは荒唐無稽でござる」
「まぁ、それくらいに不思議な空間ということですわ」
壁が破壊できない、となるとズルする方法はやっぱりわたしの影移動だけのようです。
仕方がありませんので、影を空間全体にできるだけ広げておきましょうか。
「おっと」
「どうしたのルビー?」
「『敵』が湧いているようですわ」
影に触れる複数の足。
どうやら、前回襲ってきた人型の敵のようです。
何もないところから突然に出現するらしく、なんとも奇妙な感覚。まるで空から降ってきたようにトンと感触が現れる。
「とりあえず進みましょう。前はわたしにお任せを。後ろへの警戒はおふたりに任せます。真後ろに敵が出現しないとも限りませんので」
分かった、とふたりに返事を聞き、手をつないで進みました。
走る必要はありませんが、だからといってのんびり歩いていたのでは強襲されるかもしれない。少しだけ小走りする、という移動速度で進んで行きました。
「敵だよ、ルビー」
見えておりますわ。
前方に現れた数人の人影。
戦士と騎士のようですが――足元からランスのように影を突出させ、串刺しにしました。
「どんどん進みますわよ」
影を引き延ばし、周囲を探りつつも黄金城を目指す。
そこがゴールかどうか、まだ分かりませんが。
今のところ、エルフ以外に目的があるとすれば黄金城しかありませんしね。
「ルビーちゃん、屋根上に敵でござる」
「ほいほいっと」
弓兵でしょうか。
屋根の上からこちらを狙う人影。それを串刺しにすると、いきなり屋根の上に二階が出現しました。
どうやら敵の人影は判定に入っていないようですが、わたしの影は存在としてカウントされるみたいですわね。
もともとズルをしていますが、更なるズルは許されない様子。
ズルっ子として活躍できなくて残念ですわ。
「見えた、黄金城あっち!」
「了解です!」
右方向に見えた黄金城。
本来、その方向に黄金城は無いはずなのですが。前回はもっと別の方角にあったような気がしないでもないです。
やはり記憶に多少なりとも影響があるのでしょうか。
さすが『不思議なダンジョン』。もう方向がおかしいくらいで驚きはしませんわ。
広範囲に広げていた影を黄金城方面へ引き延ばす。
「迷路になっていますわね。厄介ですわ」
まっすぐに進もうと思っても行き止まりが多発しています。
加えて、敵が新しく出現しているらしく、なにやら影たちが歩く感覚が影から伝わる。
「こっちですわ」
「後ろから追ってくるでござるよ」
「ルビー、上うえ! 屋根の上にいる!」
「ええい忙しい!」
とりあえず、見える範囲の敵の足元から影ランスを顕現。
股間から脳天まで貫いてやりましたわ!
「おぉ~、さすが四天王」
「ふっふっふ、もっと褒めてくださってもいいですのよ」
「強いでござるな、ルビー殿」
「おーっほっほっほっほ! ルビーちゃんと呼んでくださってもいいんですのよ~! むしろルビーちゃんと呼んで」
「あ、はい」
油断するとシュユっちは他人行儀になるんですのよね~。
信用しているのはサムライとハーフドラゴンだけのようです。
もっとも。
吸血鬼をすぐさま信用してるアホのパルが頭をおかしいだけかと思いますけど。
さてさて。
ひとまず静かになったのを良いことに進んで行くと――
「あら」
大通りの真ん中にぽつんとひとり。
エルフが立っていました。
「また来たの? 私のことは助けなくて大丈夫だから、もう来ないで」
わたし達は立ち止まり、一定の距離を取る。
「さぁ、はやく」
エルフがこちらへと手を伸ばすが――
「いいえ、その手には乗りません」
わたしは拒絶しました。
「どうしたの……?」
「親切心や人の心の良さを利用して追い返すのが心が痛みません?」
「何を言っているの……? さぁ、はやく付いてきて。出口まで案内するから」
「構造が変わる迷宮の中で、的確に出口を知っているのはどういうことかしら?」
「……私のことは疑ってもいいわ。でも、あなた達の認識が――」
「そう。じゃぁ、あなたを殺してしまってもいいわよね?」
「……」
「だって、わたし――人間じゃないもの」
影の中にどぷんと沈み……真っ黒なドレスを身に纏ってエルフの後ろから現れてあげました。
「……なっ」
「ほら。あなたが守るべき存在ではありません。魔物です。それも、魔王直属の四天王『知恵のサピエンチェ』ですわ。さぁ、どうします? このまま閉じ込めていたほうが人間種のためになりますわよ? さぁ? さぁさぁ? さぁさぁさぁ? あなたは自分で判断できて?」
さて、どのような反応を見せるのか。
そう思いましたが――
「……ヴぁ」
エルフは奇妙な言葉を発して、霧散しました。
あらら?
「ど、どうなっちゃったの?」
「こわ。ルビーちゃん怖いでござる」
「失礼ですわね、ニンジャ娘。これは営業用ですぅ。領民の人間種の子どもを脅かしてまわるイベントがあるんですの。それ用の演出ですわ」
わたしの領地では大丈夫ですけど、他の領地の魔物は人間種に厳しかったりしますので。
あんまり魔物とか他の四天王とか魔王さまに変な態度を取って殺されないように。
そんな認識を子ども達にしっかりと持ってもらう人間種用のイベントです。
ちっちゃなお子様たちを大泣きさせる楽しいイベントですので、是非ともパルとシュユにも参加して欲しいところ。
そろそろパルってばわたしを舐めすぎてる感じがしますからね。
今度四天王に素で会った時が心配です。
もっとも。
アビィとは仲良くしちゃいそうなので、アレですけど。
「さて、どうしましょう。エルフは退治できましたがこのまま黄金城――」
「ルビー、まだっぽいよ!」
なにがですの、と振り返れば。
そこにエルフがいました。
さっき消滅したかと思いましたが――
「どうやら、そう簡単にボスは倒せないようですわね」
さてさて。
戦闘開始といきましょうか。




