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~卑劣! 黄金城地下ダンジョン2階~ 1

 翌日――


「今日は2階の探索と地図の製作を目的とする。最優先事項は地下への階段を発見すること。次点で地図の完成を目指す。なにか意見は?」


 黄金城の入口でセツナが目的を再確認した。


「はい」

「どうぞ、ルビー殿」

「お金稼ぎもしたいですわ。クリーピングコインほどの儲けがあればいいいのですけど」

「ふむ。赤字での探索というのも厳しいか」


 確かにルビーの言うとおりではある。

 今のところ俺たちの財布に問題はないが、目減りしていく残量を見ながらのダンジョン探索というのは精神的に疲弊が大きい。

 もちろん、地下深くへ進めば進むほど稼げる額は大きくなるので問題はないと思うが……それでも意識しておくほうが良いのは確か。

 攻略をあせってしまう原因にもなるので、その点を意識するのは大事なことかもしれない。


「具体的には賭け事への挑戦を具申いたしますわ」

「愚かにも程がある」


 俺はルビーの頭にチョップを叩き落とした。

 どうせ痛くないだろうし。


「なにをしますの師匠さん。乙女の頭はそうポンポンと叩くものではありません。撫でて触って吸って舐めるものです」

「いや舐めんだろ……」


 吸うのはいいのか、とナユタっちがポロっと言葉を漏らした。

 そうですね……吸うのも、ちょっと……う~ん。


「ルビー殿を止めはしないが。しかし、ここでの賭博はイカサマの温床と聞いているぞ。素人が行ってもカモにされるだけではないか」


 丸裸にされるのがオチだ。

 という言葉を補足しようと思ったが、ぜったいにえっちな方向に修正されてしまうのでやめておいた。


「カモが何かは知りませんが。ちょっと遊ぶ程度なら大丈夫でしょう。最悪、身ぐるみ剥がされて娼館に売られる程度で済みますので」


 どっちにしろえっちな意味になってしまった。


「売られてしまえ」

「あたしもそう思った」

「ルビーちゃんはちょっとおかしいでござる」

「いっそ娼婦になったらどうだ」

「拙者は何も言うことはない」


 怒涛の如くツッコミを入れれて、ルビーはニッコニコだった。

 かまってちゃんだなぁ、ホント。

 アンドロさんの苦労が目に浮かぶというもの。

 むしろガン無視された結果が、魔王領からの脱出だったのかもしれない。


「冗談はさておき、そろそろ参ろうか。装備点検は怠らず、だったな」

「了解」


 俺とセツナは肩をすくめつつ、お互いの装備を点検する。問題ないことを確認して、今度は弟子たちの装備も確認。


「よろしい。では出発」


 隊列をいつも通りに組んで黄金城へと入る。

 たいまつとランタンに火を灯すと、さっそく地下への階段を目指した。問題なく隠し扉を抜けて地下一階へ降りると、パルとシュユが地図に視線を落とす。


「ルート案内頼むぞ」

「はーい」

「了解でござる」


 といっても、地下一階の地図を見る限りルートは単純。ほとんど一本道だ。まだまだ迷宮とは言い切れない規模なので、迷うことなく地下二階へと向かう階段へと辿り着いた。

 ちなみに、ここに来るまでにゴブリン3体とコボルトを4体を倒したが……あまり稼ぎが良いとは言えないな。

 ルビーの言うとおり、少しはお金稼ぎを考えたほうがいいのかもしれない。

 まぁ、それはこの先の地下二階での戦闘の結果次第ではあるが。


「では降りよう」


 前衛の三人を先頭に地下二階への階段を下りていく。

 途中で一度折り返して、地下二階へと到着した。


「ふむ」


 降りた先はフロアになっていて、壁や天井、床の様子は地下一階とそう変わらない。相変わらず真っ暗で閉鎖的ではあるが、空気が淀んでいるような気配はなかった。

 しょっちゅう人が出入りをしているからか、それとも『迷宮』の特殊な力が働いているからか。

 それは分からないが、探索する分には呼吸の心配はいらない。

 もっとも。

 それがどこまで続くのかは誰も知らないのだが。


「地図の準備、できたでござる」

「ちょ、ちょっと待って……はいっ、あたしもできました!」


 まず階段から降りてきたこのフロアを描いて、ふたりの少女が手をあげた。

 よろしい、とうなづいてから奥の扉へと移動する。


「エラント殿」

「おう」


 俺は扉へ近づくと簡易的に罠チェックをして、扉の先に聞き耳を立てる。罠と足音などの気配が無いことを確認すると、うなづき、後ろへと下がった。

 それと入れ替わるようにセツナが扉を開けて中へと入る。ナユタ、ルビーと続き、俺たち中衛も中へと入った。

 扉の先も次もフロアになっており、同じような四角い部屋だ。

 ランタンとたいまつの明かりが部屋を奥まで照らす。

 そこには――


「警戒!」


 セツナの声に俺たちは各々、武器をかまえた。

 見れば、前方になにやら灰色のモヤがうずまいている。まるで煙が集まっているような不定形な空気の動き。

 これは――


「ガスクラウドだ」


 実体があるのか分からない煙のモンスター、ガスクラウド。

 そこまで強いわけではないが、なにせ体は煙なので攻撃をしてもまるで手応えがない。しかし、ダメージは与えられるという奇妙なモンスターだ。

 ゴースト系ではないので、普通の武器でもきっちりダメージが入るのだが、初見では非常にとまどってしまう。

 あと、武器の扱いに慣れてない者は、床や自分の足を傷つけてしまう可能性があるので、そういった習熟度のバロメータにもなる敵だ。


「個体数3!」


 ナユタの言葉通り、部屋の中でうずまくガス状の物体は三体。

 前衛の三人が斬りかかる前に、中衛の俺たちはナイフとクナイを投擲した。

 まるですり抜けるようにナイフが通り抜けてしまう。


「うぇ!?」


 パルが戸惑う声を発するが――


「問題ない。あれで効いてる」

「そうなんですか!?」

「そういう敵なんだ。覚えとけ」

「はいっ!」


 そう言っている間にも前衛が攻撃をしている。


「えーい」


 あんまり気合いの乗っていないようなルビーの攻撃が、今回は一番効いていた。つまり、一番面積の大きい攻撃だ。

 ガスクラウドの弱点というか、空気を散らすような攻撃が有効なため、セツナのカタナでの斬撃やナユタの槍の突きでは、鋭ければ鋭いほどガスクラウドには有効ではない。

 おおざっぱなルビーの攻撃が一番効果あり。

 なんとも皮肉な敵ではある。

 ルビーみたいに、肩の力を抜きまくった攻撃が有効なのだから。


「攻撃、来ますわ!」


 一撃で倒しきれなかったガスクラウドが収縮する様子を見せた。ルビーがわざと前へと出て、アンブレランスを開くが――


「わっきゃぁ!?」


 モンスターの攻撃はもちろんガス。

 しかも毒ガスだったよな。

 それをモロに喰らって、ルビーは悲鳴をあげた。

 ゲホゲホと咳き込んでいる間にセツナとナユタが再び攻撃をする。セツナはカタナの刃ではなく腹で空気を掻くように振るった。


「あたいも!」


 ナユタの攻撃は更に特殊だった。

 持っていた槍を手の中で滑らせるように回転させ、空気をうずまくように突く。更に敵の中心でビタッと止めると薙ぐように振るった。

 追加攻撃でガスクラウドは霧散する。

 その場にポツンと金を落とした。


「ふぅ~」


 全員で安堵の息を吐き、ルビーへと振り返る。


「大丈夫、ルビー?」

「けほっけほっ……んんぅ。問題ありません。ちょっと焚き火の煙が目に染みたような感じです。どこへ逃げてもわたしを追ってくる煙ってありますわよね。げほっ、げほっ……!」

「一応毒消し飲んどくか?」


 俺は毒消しの瓶を差し出すが、ルビーは拒絶した


「いいえ、必要ありません。ですが、ですがもしもわたしが気を失ったら……師匠さんが毒を吸いだしてくださいまし。そう、口から!」

「あ、大丈夫そうです。次に進みましょう」

「分かった」

「へーい」

「地図描くからちょっと待って~」

「シュユも描いてるでござる。もうちょっとで出来るでござるよ」

「皆さまの愛が重くて、わたし幸せですわ」


 今度はガン無視されて喜んでる。

 複雑な乙女心というよりも、吸血鬼心と言ったほうが世の中の乙女に怒られなくてすみそうだ。

 まぁ、ルビーが楽しそうでなによりです。

 はいはい、次に進みますからね~。


「げほ、ごほ、げはっ! あ、あの師匠さん……やっぱり毒消しを……」

「素直に言えよ……」


 吸血鬼だから大丈夫なのか、それとも平気じゃなかったのか。

 分かりにくい!


「一口だけにしておきますわね。あ、残りは皆さまで分け合ってください」

「嫌すぎる……」


 自由過ぎるルビーに肩をすくめつつ。

 俺たちは地下二階の攻略を進めるのだった。

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