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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! 傾国の武器ともなるモノ~

 俺は女王陛下に告げた。


「情報が欲しいです」


 と。

 その答えを聞き――


「ほう」


 女王はとてもつまらなそうな顔をした。

 もちろん、これは想定内だ。

 砂漠国の女王陛下が直々に褒美をやる、という最大限の称賛を送ってこられたにも関わらず、それに対する答えが金銭や物品ではなく、ましてや地位や名誉でもない。

 単なる『情報』を求めるのは、肩透かしも良いところだろう。

 富、名声、金、権力。

 あらゆる『物』を欲しがるもが人間種というもの。その欲望によって、表面をつくろいながらも『卑しさ』を滲ませる者を数多く見てきた女王さまにとって。

 俺の欲しい物はさぞかし、くだらないだろうな。


「なんじゃ、何が知りたい? わらわのプライベートを知りたいとでも言おうものなら、おぬしを旦那に迎え入れてやらんこともないが……エラント。貴様、確か年上は好みではない人間じゃったのぅ」

「残念ながら女王さまと一夜を共に過ごすことはありません」

「断言しよったな、小僧」


 カカカと笑う女王陛下。

 いや、俺みたいなおっさんを小僧呼ばわりは余計に年上感を増長させるので止めたほうがいいですよ、女王さま。

 まぁ、ワザとでしょうけど。


「嫌がる者とシトネを共にするのも良いが、わらわの趣味ではないのでなぁ」


 隣でこっそり、シトネって何? とサティスがプリンチピッサに聞いている。

 それに対してこっそり、ざっくり言って布団のことです、とお姫様が答えていた。


「夜は砂漠国の華。砂を無視すれば、夜の国とも言って良いわらわの国じゃ。それを楽しめねば、女王として失格。しかし、それを拒絶されたとなればわらわは花にはなれぬようじゃ」

「女王陛下は充分に花ですよ。今も極上の蜜をたずさえておいでだ」

「くく。それはわらわの持つ色香か、それとも地位か。おぬしにとって甘い蜜とはどっちでもないようじゃがのぅ」


 俺は女王陛下相手に肩をすくめてみせる。

 本来なら不敬なリアクションでもあるが……戯れてくださっているのであれば、その限りではない。

 臨機応変が難しいところ。

 ちょっとした綱渡り気分だ。


「では、エラントよ。その欲しい情報とやらを言え。物によっては今すぐおまえに与えられるやもしれん。物によっては、わらわの機嫌が回復するやもしれんぞ。どうじゃ、まだそんなつまらぬ物が欲しいか?」

「この国で貴族になるよりは、よっぽど」

「良いポジションが空いておるというのに。すぐにでも安泰の毎日が待っておるぞ。謙遜も行き過ぎれば毒よ」


 はぁ~、とため息を吐いた女王は、寝ころびながらヒラヒラと手を振る。


「ほれ、申せ。今ならあくびの代わりに答えてやらんことはない」


 さっさと言ってさっさと帰れ、ということだ。


「では、今から俺――私の言う言葉は他言無用でお願いします」

「無論じゃ。中にはとんでもない物を要求してきた男もいるが、その内容はわらわの中で留めておる。ここにいる者は置物と心得よ、盗賊」


 ついに名前を呼んでもらえなくなったが。

 俺はハッキリと女王の眠たげな目を見ながら告げた。


「『致死征剛剣』、もしくは『七星護剣』という武器についての情報が欲しいです」


 俺の言葉に少しだけ目を細める女王陛下。


「……知らぬ」


 逡巡するようにしてから、短くそう答えた。


「それはなんじゃ?」

「とある者が探し求めている代物です。全部で7本の剣であり、その者は木属性の剣を持っていました」

「――気に入らんな」


 女王陛下は眠そうな目を、そのまま怒りの視線へと変える。

 よし。

 食いついた。


「貴様、その剣が欲しいと何故言わん? まるでわらわの宝物庫に初めから無いことを知っているかのような言い分じゃ。まさか貴様、宝物庫の目録でも盗み見たか?」

「わざわざ褒美がもらえるのに、そんなリスクは犯しませんよ。もしも見たいのであれば、それこそ褒美として目録を『見せてください』とお願いするほうが安全です。それからゆっくり盗み出せばいい。本末転倒ですがね」

「確かに。では、何故じゃ?」


 興が乗ったのか、それとも怒りが勝ったのか。

 女王陛下は寝ころんでいた体を起こす。

 サティスがびくりと驚いていたが、女王さまはそんなサティスを見て満足したのか、再び笑みを浮かべた。


「簡単ですよ」


 俺はワザとらしく肩をすくめた。


「そんな分かりやすいところにあるのなら、最初に彼らはこの国を目指しています」


 七星護剣を求めるセツナ、ナユタ、シュユの三人。

 彼らがどこへ行ったか知らないけどね。

 とりあえず砂漠に行くなんて一言も言ってなかったし、そもそも情報を集めにオークションを狙ったくらいだ。

 学園都市からの位置関係で言えば、オークションの盛んなニュウ・セントラルが北に位置し、砂漠国は東に位置する。で、距離的には砂漠国のほうが近いわけで。

 移動の手間とかを考えて砂漠国には先に来るはず。

 まぁ、義の倭の国の人間が考えることは、少し大陸の人間と違うところがあるので確実なことは言えないけど。

 しかしセツナたちは、まったくもってゼロに近い状態からのスタートのはず。

 こんな分かりやすいところにあるのなら、一番に向かっているはずなのだ。

 だからこそ砂漠国には『無い』と言えた。

 もちろんその予想が外れて『有る』のであれば、なんの苦労もない。

 くれ、という一言で終わるのだから。


「わらわの持っていない武器か。それは強いのか?」

「……奇妙でした」


 まるで木で作られたようなニセモノの剣。その見た目に反して恐ろしいほどの重量があり、一見して古代遺産・アーティファクトであると見抜けてしまうような『奇妙な剣』だと、俺は女王陛下に伝えた。


「宝物庫にありますか、そんな奇妙な剣が」

「間違っているぞ、エラント。確か木属性の剣と言ったな」


 俺の質問には答えず、女王さまは指摘してくる。


「えぇ」

「では、他の六本は別の属性の可能性が高い。奇妙なのはそこじゃ」


 女王さまが何故か俺を指差す。


「九属性ではないのじゃな?」


 そう。

 七星護剣の属性は七つ。

 対して、この世界における属性は九つ。

 だが、その答えはすでにある。


「義の倭の国では、昔から属性は七つと考えられています。いえ、本来は五つだったのですが、二つ増えて七つが現状での考え方です」


 木火土金水があり、その後に月と陽が足されて七属性。


「なるほど。属性は過去、四属性じゃったと誰かから聞いたことがある。それが今では九属性に増えているのじゃから、七本の剣で七属性であっても不思議ではないか……」


 火、水、土、風の四つだったのだが、研究が進み、今となっては火水木金土日月光闇となっている。

 いつの間にか風が消えているのは不思議なものだ。風を司る神さまは、さぞガッカリしただろう。


「どんな些細な情報でかまわないので、『手に入れて』もらえませんか?」


 最初から知らないだろ、みたいな言い方をして、女王陛下のご機嫌をうかがう。


「またそんな挑発的な言い回しを。おぬしはわらわが嫌いか?」

「はい――あ、いえ、大好きです!」

「見え透いた挑発をしてくれる。これだから盗賊は嫌いじゃ」


 俺も年上の女性は嫌いです。

 せめて千年くらい年上であれば、なんか一周まわって普通に接することができるので、千年後にお会いしましょう。


「はぁ~ぁ~、つまらんつまらん。すっかりと『会話』してしまったわ。まったく、素直に会話すらできん盗賊は嫌いじゃよ。さぞ枕の上でもつまらぬ話をするんじゃろうな」

「残念ながら経験がありません」

「ふん。女の扱いが一流になってから呼ぶべきじゃったの」


 女王陛下は鼻を鳴らす。

 だが、笑ってはいるのでギリギリセーフといったところか。


「分かった。少し待っておれ」


 女王さまは横にいた美青年を呼びつけると、耳元でこそこそと何かを言う。それを聞いた美青年は一礼すると部屋を足早に出ていった。

 残された美少年も呼び付けると、女王陛下は足元に座らせた。

 そのまま猫のように美少年の顎を撫でる女王さま。どうにも彼は愛玩動物的な扱いになっているらしい。かわいそうに。


「いい趣味ですわ」


 プルクラが反応しているが、気にしないことにする。

 犠牲になるのは俺じゃなくてラークスくんな気がしたので、少年の無事を祈っておこう。

 こういう場合は、ナーさまが良い。

 無垢と無邪気を司る神よ。

 どうか、少年が健やかに育ちますように。

 なんか捻じ曲がっちゃったりしませんように。

 真っ直ぐに育ちますように。


「……」


 返事はなかった。

 俺が神官じゃないからか、もしくはすでに手遅れなのか。

 前者であって欲しい。


「エラントよ」

「は、はい。なんでしょう?」

「なんじゃおぬし。途端にボロを出しよる。予定にない行動はてんでダメか」


 くつくつと笑われたので、俺は思わず言い返してしまった。


「いえ、ちょっと祈ってただけです」

「神にか?」

「はい」

「ここに女神がいるというのに、他所へ目を向けるとは。つくづくおぬしは女を見る目を持っていない。たまには年上にも目を向けるべきぞ」

「ハイ・エルフはしょっちゅう見てますが」

「誰が物理の話をした、誰が」


 冗談です、と俺は目を伏せながら謝った。


「ふん。わらわ相手に冗談など旦那さまでも言わぬぞ。そこまでしてわらわを怒らせて、何の得があるんじゃ?」

「いえ、なんにも……」


 ホントは有ります。

 余計な仕事を押し付けられたくないからです!

 適度に印象が悪くなれば、すぐに帰れますので!

 勇者とか、めっちゃ気に入られてたからガンガン仕事を入れられてたし。俺は嫌われる方向でいきますからね。

 そのあたり、理解してください施政者さま!


「まぁ、よい。他に何か欲しいものはあるか? 砂漠国の女王からの褒美が情報だけなどと吹聴されてはかなわぬ。金でも銀でもなんでもいいから持って帰れ。なんなら人でもいいぞ。好きな女をメイドとして連れ帰ってはどうだ?」

「奴隷商売みたいな言い分ですよ、それ」

「大丈夫じゃ。お給金はわらわからちゃんと出す」


 いや、そういう問題じゃないんですけどぉ。


「ほれほれ、なんか無いのか。とびっきり目立つようなお土産になるような物は」

「お土産……あぁ、それなら」

「ほう! なんじゃ、なんでも言ってみよ!」

「ウチの隣に宿があるんですが、そこの看板娘の胸がデカイんですよ」

「わらわよりもか」

「もちろん」

「言い切ったな、盗賊」

「言い切れるほどデカイんです。その子が走るたびにみんなの目が釘付けになってしまうので、なんか良いブラジャーでもあれば、と思いました」

「おまえ、凄いな。一歩間違えれば最低じゃぞ」


 のう、と女王陛下はサティスたちに発言をうながす。


「ギリギリです師匠」

「嫌がらせと思いますわね、師匠さん」

「危うい発言です師匠さま」

「ノーコメント……で、お願いします」


 マルカさん以外からはダメっぽかったです。


「あははははは! いいな、気に入った。砂漠国の女王からの贈り物じゃと宣伝しておけ。とびっきりのブラジャーを用意してやるわ」

「ん? あ、いえ、その娘は目立つのを良しとしないので……」

「もう遅い。そやつをわらわより大きな娘として褒めたたえてやるわ。カカカカカカ!」

「いやいや、待ってください。逆です逆。女王陛下! 陳情を、陳情を聞いてください!」

「都合がいいな、盗賊。ちなみに陳情の使い方を間違えておるぞ。嘆願が正解かのう」

「では、嘆願を!」


 女王は俺があせっているのを見てニヤニヤと笑った。

 座ったまま両足を伸ばし、美少年の首にからみつくようにして見せる。あわわわ、と少年は口を震わせていた。かわいそうに。


「嘆願と言われれば聞かねばならぬのが女王という立場の欠点でもある。非常に面倒じゃ。のぅ、どう思うプルクラよ」

「仕方ありませんわ。それが上に立つ者の責務というものですもの。そうではないと、普段から怠けているのが許してもらえません」


 なんでおまえそっち側なんだよ。

 いや、そっち側だったわ。

 支配者だったわ。

 なんで見抜いてんの女王陛下。

 こわっ!


「そう言われたら仕方がない。わらわも怠惰が大好きなのじゃ。ほれ、言ってみろ盗賊。ただしつまらなかったら罰じゃ。しばらくわらわの元で働け」


 嘘だろ!?

 ええい、と、とにかく全力で今思いついたことを言うまでよ!


「む、胸の大きな女性は困っています」

「ふむ。なぜじゃ? その胸で多くの男どもを虜にできる。聞けば、三代前の女王はその胸で全てを支配したと歴史書に書かれているくらいじゃぞ? 残念ながらわらわのこれは物足りぬ。国を傾けるほどの威力はないのじゃ」


 そう言って、足で引き寄せた少年の顔を胸で挟み込むようにして押し付けた。

 うわあぁ、本格的にかわいそう!

 は、はやく少年を助けてあげないと!


「いえ、そのような女性ばかりではないのです。中には目立つことを恐れる盗賊のような心持ちの人間だっているのです。そういう女性が願うことはなにか?」

「なんじゃ?」

「揺れないこと、小さくなること、です」


 たぶん!

 知らないけど!


「ふむ。それで?」

「そこで、です女王陛下。胸が小さく見えて、なおかつ揺れないブラジャーがあったらどう思いますか?」

「ほう。逆か」


 逆?

 逆ってどういうこと!?


「胸は大きいほうが有利です、師匠さま。女性らしい、魅力的だ、というイメージは胸の大きさと関連します。というわけで、世の中には胸を大きく見せるブラがあります」


 なるほど!

 詳しいんですね、プリンチピッサ!


「そうです、逆をいくんです。何も大きい胸だけが需要があるのではありません。大きな物を小さく見せるのも、必要なのです! こ、これは大きなビジネスチャンスです」


 なんか急に商人になってきたな、俺。


「女王陛下の発案で女性に優しいブラ、というものを開発してはいかがでしょうか?」

「ふ~ん。付け焼き刃としては及第点か。良いぞ盗賊。見苦しく悪あがきをしたな」


 まぁ、そりゃバレてるでしょうけども。


「その案で手を売ってやる。褒美はそうじゃな……そのブラジャーでの売り上げの5パーセントをおぬしの取り分としてやろう」

「5パーセント……」

「なんじゃ不満か?」


 いえいえ、と俺は首を横に振った。

 そんなに売れるとは思わない、というのが本音です。せいぜいひとつの街にひとりくらい……とか? そんなもんなんじゃないの? 規模がぜんぜん分からん。

 とりあえず、なんだ。

 リンリー嬢に迷惑をかけずに済んだので、俺は胸を撫でおろした。

 撫でおろす胸が小さくて助かる。

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