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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! マジでキスする5秒前~

 転移が完了すると、まるで空中に放り投げられた感じとなった。

 考え得る最大の長距離移動のために深淵を感知することなく転移完了したので、俺は空中で素早く足元を確認。

 安全な場所を確保して――着地した。


「よっ……と」


 何も無い場所に問題なく着地。


「ほっ、ととと」


 パルは高く積まれた本の上に両足で着地する。なかなかのバランス力だ。ぐらつく事なく着地を成功させて、えへへ~、とこちらに笑顔を向けた。


「レベルアップしてるな」


 そう言ってパルの頭を撫でてやる。

 ちょっぴり頬が赤く染まっているのがめちゃくちゃ可愛い。

 猫みたいに目を細めて、パルは俺の手を受け入れてくれる。いつまでも撫でていたい気分になってしまうなぁ。ちょっとこれは危険だ。危ない。甘やかし尽くしてしまう。助けて勇者。


「ちょっとちょっと、わたしも褒めてくださいまし師匠さん」


 もっと凄いですわよ、とルビーは片足で、しかもつま先立ちで紙束の上に着地したことをアピールした。


「あっ、ズルっ子だ~!」


 そんなルビーを見てパルは半眼になって指摘する。


「な、なにを根拠に言っていますの? わたしはいつだって公正ですわ。ルゥブルム・イノセンティアとは紅き清廉潔白という意味ですので!」


 ドヤ顔で俺が付けた名前を叫ぶルビーだが……その足先はほんの少し影に埋まっている。つまり、着地したのではなく影から出てきたようなイメージ。

 そりゃ紙束がひとつも揺れないで着地できるよな。

 パルの言うとおりズルっ子だ。

 もっとも。

 ルビーの実力があれば、そんなチートスキルを使わないで初めから普通にできるだろうけど。


「やだやだやだ、わたしも師匠さんになでなでしてもらいたいんです~」

「珍しくワガママを言うんだな、ルビー」

「だってパルが可愛くなったんですもの。このままではわたし、完敗してしまいますので」


 そう言われて、思わずパルを見てしまった。

 目が合った瞬間、ポッと頬を染めて上目遣いに俺を見てくる美少女。


「ぐぅ!」


 威力が跳ね上がっている。

 強い。


「恋する美少女に対抗するには、あざとさが必要だと思いました。ワガママ娘です。需要はあるはずですわ」

「そうなの?」

「あなたがそうでしたわよ、パル」

「え!?」


 なんてやり取りをしている美少女同士を見つつ、俺はトントントンと胸を叩いて気分を落ち着けた。

 ふぅ~。

 なんだこの可愛い生き物。

 俺の弟子なんだぜ、これ?

 信じられる?

 いやぁ。

 人生勝ったも同然だな、アウダ!

 でもやっぱり手を出すのはどうかと思うのでこのままの関係性でいさせてください。


「それにしても、ハイ・エルフはいませんわね。またどこかで本に埋もれて眠っているかと思いましたが、完全にいないようです」


 ルビーはわざとらしく額に手を当てて、太陽光を遮るようなジェスチャーをしながら周囲を見渡した。

 そう。

 転移してきた場所は学園都市の中央樹の根本。

 ハイ・エルフたる学園長の、文字通り『根城』である。

 いつもはここで退屈そうに本を読んでいるか、誰かが来るのを今か今かと待ちわびているのが日常だったというのに。

 今ではすっかりと忙しい人になってしまった。

 どこか別の場所で実験をしているのか、その姿は見当たらない。


「仕方がありませんわね。とりあえずわたしはラークスくんの所へ行ってきますわ」


 なんだかんだ言ってルビーはラークスが気に入っているらしい。

 ロマン満載の武器『アンブレランス』。

 その開発と製作をしているラークスだが、はてさて、吸血鬼に耐えうる武器を作ることができるのだろうか。

 もしもそれが叶った場合、是非とも魔王討伐に際してはルビーの力になってもらいたいものだ。

 まぁ、それを伝えたら彼の場合は萎縮してしまうし、迷走してしまいそうなので言わぬが花なんだろうけど。

 この場合は、言わぬは傘、か。どちらも開くもの。花が開くのが先か、才能が開花するのが先か。咲くのをじっくり待つのもルビーの趣味にあっているのかもしれない。


「……」

「……」


 ご機嫌なスキップをしていく吸血鬼を見送ると、パルとふたりきりになってしまった。

 なってしまう?

 なってしまうだと?

 まるで嫌がってるみたいな表現をするじゃないか、俺!

 むしろウェルカムだろうが!


「……」

「……」


 なにを思っているのか分からないが、パルと見つめ合ってしまう。

 蒼い瞳。

 金色のサラサラな髪。

 ぷにっと柔らかそうなほっぺた。

 線の細い、少し痩せているけど女の子らしい丸みを帯びた身体。手首も足首も細くて、俺が握ると親指と人差し指がくっ付いてしまいそうだ。

 ぱちくり、とまばたきをするパル。

 ちょっぴり頬が赤色に染まっていて、少しだけ瞳が潤んだ。

 そして――


「んっ……」


 なぜかパルは目を閉じて、少しだけ上を向く。


「……」


 俺は自然と彼女の肩に手を置いて、少しだけ膝を曲げるようにする。そのまま彼女の頬に手を当てると、びくりとパルの身体が震えた。

 驚かせてしまったか。

 ごめんね。

 そんな思いを込めて頬を少しだけ撫でる。

 くすぐったそうに少しだけほほ笑むと、むにゅむにゅと口元を動かすパル。

 そのまま、少しだけ顎を突き出すようにした。

 可愛い。

 恐ろしく可愛い。

 そしてなにより、この子が俺に全幅の信頼を寄せているのが分かって、どうにこ心が満たされていく。

 あぁ、やっぱり俺はパルが好きなんだな。

 そう思わせてくれる。

 安堵したかのようなパルの表情に俺も安心しつつ、そっと顔を近づけて……――


「――――ッッ!?」

「ひいいあああああ!?」


 突然!

 光の精霊女王ラビアンさまの声が頭の中に響いて、俺たちは思いっきり驚いて、慌てて顔を離して、その場で正座した。


「な、なな、なっ、あ、あ、はいっ! はい、はい! ありがとうございますラビアンさま!」

「う、嬉しいです! あ、はい! がんばります! ありがとうございます! いえ、そんなことないですぅ!」


 ラビアンさまに、良くやり遂げました、と褒められた……

 でも。

 でも。

 でも。

 タイミング最悪ですよぅ、ラビアンさまぁ……

 え?

 大丈夫?

 見てないですって?


「逆に見てるじゃないですかぁ~」


 俺はなんだか恥ずかしくなったので顔を両手で覆った。そんな俺を見てパルはケラケラと笑っている。

 ま、まぁパルが笑ってくれてるのなら別にいいか。

 そんな俺たちを見て、ラビアンさまはくすくすと笑っている。なんというか、精霊女王もこういうのが好きなんですね……娯楽に飢えているんですか?

 人間で遊ぶのは是非ともやめていただきたい。


「あ、そうだ。ラビアンさま、やはり魔王領には加護が届かないのでしょうか」


 せっかくの機会なので聞いておきたい。

 返って来た答えは、厳しいというニュアンス。

 ラビアンさまなりに頑張っているのだが、やっぱり光の精霊女王という属性も相まって、分厚い雲に覆われている魔王領に完全なる加護を授けるのは難しいらしい。

 せめて雲さえ晴れれば何とかなるのだが、とラビアンさまは答えてくださった。

 雲を晴らす方法か……

 そういえば――


「あ、あの~」


 俺が考えを巡らせていると、おずおずとパルが手をあげた。


「ラビアンさま。今日はどうしてこんなに答えてくれるんですか?」


 いつもは一言か二言くらいで終わるラビアンさまだけど。今日は意外と、というか随分と会話に付き合ってくださるよな。


「――嬉しい?」


 どうやらラビアンさま。

 今回の出来事……つまり、勇者を若返らせたことについてかなりの喜びを感じていらっしゃるようだ。

 つまりテンションが上がっちゃってるので、それを伝えたくてなんでも聞いてください状態になってるとか何とか。

 精霊女王も人間臭いところがあるんだなぁ。

 そう思いました。


「え? はぁ。ナーさまによろしくお伝えをお願いします……」


 俺たちに挨拶が終わったらナーさまにもお礼を言いに行く予定だと。

 どうやら俺たちが魔王領から戻ってくるのを待ってくださっていたらしいので、こんなタイミングになっちゃったようだ。

 まぁ、ルビーがいたら声もかけずらいだろうし、仕方がないといえば仕方がないのかもしれない。

 でも精霊女王にロリコンであるところの俺の行動を見られていたともなると、どうにも申し訳ない気分でいっぱいだ。


「はぁ~……」


 そんな俺のため息は別として、パルはまだ何かラビアンさまと話しているらしい。コソコソと話しているので、ちょっと気になる。


「やりました師匠!」

「なんだ、どうした? 神官魔法でも授かったか? いや、この場合は精霊魔法か」

「いえ、そうじゃなくって」


 えへへ、とパルは嬉しそうに笑う。


「ラビアンさまのオッケーが出ましたよ。愛があれば年の差なんて関係ない、だって!」

「おーい! ラビアンさまぁ!?」


 返事がなかった。

 適当なこと言わないでくださいよぉ、精霊女王ぉ! 光の対は闇か。闇の精霊女王さま!? いらっしゃいますか!? 俺の言葉がもしも届いているのなら、ラビアンさまに言っておいてもらえますぅ!?

 残念ながら闇の精霊女王からも返事はなかった。

 世の中こんなもんだ。

 ちくしょう。


「えへへ~。精霊女王の公認ですよ、公認。師匠、これはもう今夜にでも頑張るしかないですよね!」

「よし分かった」

「え?」

「やるぞ!」

「え?」

「覚悟決めとけよ!」

「え、いや、ちょ、あの、で、でも……」

「嘘だ」

「なっ! し、師匠! うそつきー! ヘタレー! どうてい!」

「はははははは! 残念だったな愛すべき弟子よ。ほーれ、俺を捕まえられたらマジでやってやるよ」

「言いましたね! あ、逃げるなぁ!」

「まだまだ修行不足だな。抱いてやるには十年早い」

「うがー!」


 というわけで。

 俺たちは中央樹の根本で本と紙束を崩さないように逃げる、というそれなりに高度な鬼ごっこをしつつ、これもまた修行なり、とパルの成長を頼もしく感じるのだった。


「じゃぁ代わりにそのへんのおじさんに抱いてもらう!」

「なっ!? それはぜったいにやめろぉ! やめてください!」


 それだけはやめてください。

 マジで!

 俺、今度こそ本気で立ち直れなくなってしまうので!

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