~勇気! 泣いて笑って、手を振ろう~
アンブラ・プレントの肉を店主から頂いたので。
僕たちはサピエンチェ城に戻り、焼いて食べることにした。
もちろん客人たる僕たちが勝手に厨房を借りるわけにもいかないので、お城で働く人たちに食材を渡す。
「き、緊張しますね、これは」
お城で働く者でさえアンブラ・プレントの肉は今まで取り扱ったことがないらしい。
サピエンチェ城ということは、このあたりの支配者であり、一番の裕福さがあると思ったのだが……?
「サピエンチェさま、あまりお城にいらっしゃらないので。あと、それほど食に興味が無いらしく、どちらかというと人間の血を好まれますので……」
そういえばそうか。
と、僕は吸血鬼を見た。
「あら。勇者サマに見つめられてしまうなんて。どうしましょう、師匠さんを裏切ってしまいそう」
「「どうぞどうぞ」」
「パルは分かりますが師匠さんまで薦めるとはどういうことですの!?」
うがー、と両手をあげて怒りを表現するサピエンチェ。
それがまったく怖くない姿だったので、僕は思わず笑ってしまった。
絵本に出てくる可愛らしい吸血鬼がいるとしたら、きっとルビーのような吸血鬼なのだろう。
「まったく。そういう態度を取るから追放されるんですのよ、師匠さん。愛情は素直に受け取るものです。皮肉や厭世観で楽しく生きていけると思ったら大間違いですわ」
「いいことを言うね、ルビー。そうだぞ、エリス」
「ぐぬぬ」
反論できないエリスの姿を見て、僕たちは笑った。
それからお城の中にある広い部屋へと案内される。貴族の食事会をするような大きなテーブルがあるのかと思っていたが……意外と小さなテーブルだった。
僕たちはそれぞれ適当に座る。
エリスの隣にパルヴァスが座り、反対側をルビーが陣取った。
ほんとにモテモテになったんだなぁ、エリス。という視線を送ると、あいつは照れるようにそっぽを向いた。
なにを今さら恥ずかしがっているのやら。
「お飲み物をどうぞ。お酒も用意できますが、どうしましょう?」
サピエンチェ城で働くメイドさんが色々と食事の準備をしてくれる。人間もいれば魔物もいる。あくまでメイドという仕事で種族関係なく対等であり、そこに身分の差や種族差などはひとつも感じられない。
顔の形が違っても。
身体の大きさが違っても。
それは耳の長さが違う程度、なのかもしれない。
まぁ、適材適所ではあるのでアンドロのような下半身がサソリになっているような魔物のメイドさんは見当たらないが。
そんなアンドロのことを考えていると、本人がやってきた。部屋のドアを開けて控えるようにすると、おずおずとウィンレィとシャシールが入ってくる。
ふたりとも想像以上に若返っていて、とても綺麗で可愛くなっていた。もしかしたら、僕たちが出会う前とも思えるくらいに若くなってる気がする。
いや、それは気のせいのはずなんだけど……なんだろう、まるで今この瞬間に生まれたかのように綺麗だ。
ふたりはどうやらルビーに呼ばれてたらしい。
確かに、彼女たちに黙って美味しい物を食べたら後から怒られてしまうものな。
そんなふたりはエリスがいることに気付くと、ギョッとした様子で立ち止まる。
「いっ!?」
エリスもまた小さくそんな声をあげて驚いていた。
まさかこのタイミングで会うとは思わなかったのだろう。
「師匠さん。女性の顔を見てなんて声をあげるんですか。失礼ですわ」
「そうだそうだ。神官さんも賢者さんも可愛いよ」
「む、むぅ……そうだな……分かった」
パルヴァスとルビーに言われてエリスは仕方がないという感じで観念した。
良く見ればふたりに服を掴まれている。
逃げようとしたが、逃げられなかったということらしい。
ルビーはもちろんだが、なかなかやるなパルヴァス。
と、僕は彼女にウィンクを送っておく。
気付いてくれたパルヴァスはにっこりと笑った。
「すっかり仲良しになってるじゃねーか、ふたりとも。女性陣は結束が早いよなぁ」
ヴェラはそう言って水を一気飲みした。
酒じゃないんだから、という僕のツッコミをヴェラはゲラゲラと笑って受け止める。
「仲良くなりました。わたし達は『敵』ではありませんので」
敵、という言葉のニュアンスがどうにも違っているので僕は苦笑した。
この場合の敵は、人類と魔物、という意味ではなく、ましてや勇者と魔王という関係性でもない。
単なる『恋敵』という意味でルビーは使った。
まったくもって、世界の意味を単純にしてしまう吸血鬼だ。
魔王も、こんなに分かりやすい存在だったら――話し合いとか、そういうので決着が付くかもしれないな。
そうしたら一本、『試合』をしてもらおう。
たぶん、僕ひとりでは勝てないだろうし。その強さを味わってみたいものだ。
「ほらほら、お座りになって賢者サマと神官サマ。ここの支配者はわたしですので、わたしの言葉は絶対ですよ」
「……分かったわよ」
「そうですね」
仕方がない、という感じでふたりは席につく。
初めからそれを想定していたような椅子の数だったわけだ。
なるほど。
親睦会を開きたかったのかもしれない。
さすがに、いきなりエリスと向き合う形でウィンやシャシーが座れるわけもなく、少しばかりズレた位置に椅子を直してからふたりは座った。
そうこうしている間にアンブラ・プレントの肉……といって良いのか、それとも茎と正確に表現するべきなのか。それは分からないが、焼かれたアンブラ・プレントがお皿に乗せらせて人数分運ばれてきた。
ソースがかけられた様子も無いが、香ばしく良いにおいがしている。付け合わせに野菜のソテーもあるので、まさにステーキといった感じだ。
本物の肉と比べて、少し白っぽいと思っていたが、焼き色が付くとホンモノの肉とも思える色合いになっている。
ただし、形は円形に近いので肉という感じはしなかったが――
「ドラゴンのしっぽみたい!」
パルヴァスが嬉しそうに目を輝かせて言った。
「なるほど、確かにドラゴンのしっぽに見えなくはない」
先端のほうを輪切りにして焼いたら、もしかしたらこんな感じになるのかもしれない。
「ドラゴン食べたことあるんですか、勇者サマ!」
おっと。
パルヴァスの言葉に反応したいせいか、無用な期待を持たせてしまった。
「残念ながら僕はドラゴンと戦ったことがないよ。でも、一度はしっぽを食べてみたいよね」
「うんうん!」
ふむ。
さてはこの子、食いしん坊だな!
という視線をエリスに送ってみると、あいつはコクンとうなづいた。
あははは、可愛いじゃないか。
いっぱい食べる子は見てて好感が持てる。
「わ、わたくしもドラゴンを食べてみたいわね」
「はい、そ、そうですね」
僕の思考を読んだのか、慌てる感じでシャシーとウィンが同意する。
「パルに競争心を抱かなくても大丈夫ですわよ、お姉さま方」
「誰があなたより年上なのよ!」
ルビーの言葉に思わずツッコミを入れてしまうシャシー。それに気付いたのか、あっ、と口元を抑えて僕を見る。
「あはははは! それでこそ君らしいよ」
僕はそう笑って、ウィンにもにっこりと微笑みかけた。
ふたりは、それこそ絶世の美人とも言えるくらいに綺麗になっている。若返った、というだけでは説明がつかないくらいに、美人になっていた。
美少女、ではなく美女。
シャシーの棘のある感じも、ウィンのどこか冷たい感じも。
全て美人だからこそ、という形で内包できるほどに。
ふたりは、とても美しくなっていた。
せっかく綺麗になったんだ。
無理に笑うことなく、本音で語ってもらいたいところ。
「冷めないうちに食べましょう。せっかく勇者サマと戦士サマ、そしてわたしの愛する師匠さんが取ってきてくださったのですから」
「余計なことを言うな、ルビー」
「これでいいのです。立場を明確にしておいたほうが余計な敵を作らなくて済みますので」
「あたしも! あたしも師匠が好きです!」
「お、おう……ありがとうパル」
「ちょっとちょっと師匠さん! わたしの時と全然態度が違うんですが!? もうちょっと照れてくださいまし!」
だってなぁ~、なんて答えているエリスを見て、僕とヴェラは笑った。
「こうなってくると、オレの立場がねぇなぁ。サピエンチェさんよぉ、オレに惚れたメイドさんとかいない?」
「では、アンドロなどいかがでしょう? 意外と筋肉フェチかもしれませんよ」
「マジか!」
ヴェラは扉の近くで控えていたアンドロに向かって腕をムキっと曲げて、にっかりとほほ笑んでみせる。
「下半身をサソリにしてから出直してください」
「おい、フラれたぞ吸血鬼」
「そんなこともあるでしょう。では、いただきまーす」
ヴェラを無視して、みんなでいただきますと言って、さっそくアンブラ・プレントの肉を食べてみる。
くすくすとウィンが笑っていた。
こういう感じ、彼女も久しぶりに楽しんでいるのだろう。
「うわ、美味しっ!?」
アンブラ・プレントの肉を食べた瞬間、僕たちは驚いた声を次々にあげた。
極上の柔らかい肉、という感じ。噛み応えはあるんだけど、それを邪魔しない絶妙な柔らかさ。食べるごとに肉汁のようにあふれ出る液体。いや、肉汁じゃないのでこれが何か分からないけど。水分? 水分でいいんだろうか。
程よく塩が振られているのか、塩味を感じる。でも、それ以外はホント肉の味と同じで、めちゃくちゃ美味しい。
これが常時食べられるようになったら、それこそ人間の肉なんて必要なくなるはずだ。多少は高級になってしまうだろうが、人間の肉だって高級なんだ。それがもっともっと美味しい物に変わるなら、誰も文句はないはず。
「なんとしてでも普及させないとな」
食べ終わり、空っぽになったお皿を見つめて僕はつぶやく。
すんなりと魔王を倒せるとは思わない。もしかしたら、魔王に到達する前に僕たちは全滅するかもしれない。
それでも。
なにかひとつ、魔王領に変化を起こせたのなら。
次代の勇者への道になるはず。
そんなことを思いつつ、食事会は無事に終わった。
もちろん何も揉め事は起こらず、エリスはシャシーやウィンにケンカを売らなかったし、シャシーとウィンもエリスに対して何も言わなかった。
両者の間にパルヴァスやルビーが入ってくれたおかげかもしれない。
どうにもあの子たち、何かひとなつっこい雰囲気がある。
エリスも、それにほだされたのかもしれないな。
「どうだエリス。このままパルヴァスとルビーといっしょに、僕たちに合流しないか?」
「……それは再加入ではなく、レイドという意味か?」
レイド。
それはパーティ同士が組む場合に使われる言葉だ。
魔物……いや、モンスターの砦などが見つかった場合、パーティ同士が合同で依頼を受ける場合がある。その場合に使われる言葉がレイドだ。
まぁ、滅多に使われる言葉じゃないけど。
そもそもモンスターの砦を二組や三組程度のレイドで攻略するのは難しいので、ほとんどが大規模作戦となる。上級者パーティが二組も同じ依頼を受けることなんて滅多になかったりするので、ほとんどレイドという言葉が用いられることはない。
だけど、エリスは『レイド』と言った。
再加入するつもりは無いってことか。
「それでいいぞ。どうだ?」
「……断る」
その答えを聞いた瞬間、僕とヴェラは肩をすくめた。
やっぱりな、という感想だ。
シャシーとウィンは、少し申し訳ないような表情を浮かべた。ふたりはふたりで、思うところがあるようだ。
あぁ。
あぁ、失敗したな。
今さらながらに僕は、自分が失敗していたことに気付いた。
もっともっと単純な話だったんだ。
こんなことなら、もっと前にみんなで食事会とかをするべきだったんだ。
僕もエリスも、初めから間違っていたってことを。
今さらながらに理解してしまった。
「別におまえらが嫌いだからとかじゃないからな」
エリスはわざわざ分かってることをシャシーとウィンに言った。
「そ、そうなの?」
おずおずとシャシーが返す。
それに対してエリスは苦笑しつつも肩をすくめた。
「あぁ。残念ながらパルがまだ未熟なんだ。俺でさえ足手まといになる魔王領での戦いだろ。せめて一人前にしてやるまで合流できないだけだ」
「あたしのせい!?」
「いやいや、それが普通だ。合流できなくて当たり前なんだよ。というかパルはいいのか? おまえ、魔王相手にビビらず立ち向かえるか?」
「うっ……」
パルヴァスは言葉に詰まる。
この子は、一度魔王相手にとんでもないことをやらかしたらしい。人間種としては初めての偉業を達成したと言えるが、その反動は大きいようだな。
「そうだな。せめて魔王に対して堂々と立ち振る舞えるようになってもらわないと、ホントの意味で誘えない」
それこそ、本当に足手まといになってしまうから。
「安心してくれアウダ。必ず追いつく。パルを一人前の盗賊にして、勇者パーティの立派なメンバーに加わってやるよ」
「が、頑張りますっ」
やる気はあるようで、パルヴァスもうなづいている。
そうか。
それならもう、エリスに任せるしかないか。
「分かった。でも今度は10年も待てないぞ、エリス」
「こいつ俺より遥かに才能があるからな。早けりゃ来年の春には合流できるんじゃないか?」
「マジか。すげぇな、パルヴァス」
「え~、えへへ」
ヴェラに褒められて嬉しそうパルヴァス……と思ったらエリスも嬉しそうだ。
ちゃんと師匠になってるんだなぁ。
そんな感じで、僕たちはいろいろと会話を楽しんだ。
ルビーが冗談を言って、シャシーが文句を言って、ウィンがたしなめて、パルヴァスが笑う。
女性陣たちが仲良くなってくれて良かった。
もう、あんな空気はごめんだ。
不謹慎だけど。
魔王を倒す旅路は、楽しくありたい。
そう思った。
「じゃぁな、エリス」
そして僕たちは旅立つことになった。
「ありがとうルビー。君のおかげで僕たちは希望が持てた。魔王を裏切ってくれて、ありがとう」
「いいえ勇者サマ。わたしは好きなように生きているだけです。誰かのため、というのでしたら師匠さんのために魔王を裏切ったのであって、決して世界の平和のためではありませんわ」
「それでも感謝するよ、ルゥブルム・イノセンティア」
僕が手を差し出すと、彼女は小さな手で握り返してくれる。とても四天王のひとりだとは思えない女の子みたいな手だけど、それが妙に頼もしく思えた。
「ひとつ助言を」
ルビーが耳を貸せ、というので僕は屈むようにして彼女に耳を近づけた。
「どちらも選ばないから揉めるのです。ふたりとも食べてしまいなさい。もちろん性的な意味で」
「い、いや、しかし――」
「勇者の妻がひとりで良いはずがありません。盗賊ですら愛人のわたしがいるのですから、勇者のそばに妻がふたりいても何ら不思議ではありませんわ。むしろ後世にふたつの血筋を残すことになります。どこぞの姫をあてがわれ、単なる領主にされてしまうよりよっぽどマシですわよ」
「……だが、順番は?」
「同時になさい。どちらも一番です。サンドイッチして、間にあなたが入れれば完璧ですわ。ほら見てみなさいな、あのふたりを」
僕とルビーはちらりとシャシーとウィンを見た。
なんだろう、という感じでふたりは少し首を傾げる。
「美人でしょう、可愛いでしょう、どう考えても普通の人間種、いいえ、魔物種でも放っておかない美貌です。それをあなたがひとりで独占できるんですのよ? やりなさい」
「そ、それは命令なのかい?」
「命令です。戦士サマに遠慮することはありません。やりなさい。次に会った時、あたながまだ童貞でしたらわたしが奪いますからね!」
「君は経験豊富そうだね……」
「失礼な。わたしは処女です!」
「マジで!?」
「マジですわ」
僕はルビーから耳を離すと、どう考えても聞こえていたというか、聞き取っていたエリスに近づき、肩をバンバンと叩いた。
「僕も頑張るが、おまえも頑張れよ!」
「いや、俺は頑張っちゃダメじゃないか……?」
エリスといっしょにパルヴァスを見た。
「いや、この際だ。僕も頑張るからおまえも頑張ってくれ」
「ノー」
「なんでだよ!」
「うるせぇよ! 意気地なし! それでも勇気ある者か!」
「勇者はそういう意味じゃねー!」
というわけで、はぁ~、と僕たちは息を吐いた。
「ま、とにかく僕たちはサピエンチェ領をまわるよ。この若返った体を慣らす意味でもあるし、人間の肉を食べなくて済むように、街や村をまわって旅をしてみる」
「あぁ。俺たちはその間に、実力を付けておく。有用な技術があれば学園都市で研究してもらうし、武器や防具があれば探しておく。なにかあれば、すぐに連絡もできるしな」
学園都市で、なにやらメッセージの巻物を応用した技術が開発されたらしい。
それらを使えばいつでもエリスと話ができるそうだ。
「分かった。じゃぁな、エリス。パルヴァスを大切にしろよ。ルビーにも愛情を注いでやれよ」
「分かってる。おまえこそ、シャシールとウィンレィを愛してやれよ」
「あ、あなたに言われなくても!」
「そ、そうです!」
「うるせー、恋愛脳ども。さっさとしないとルビーが勇者のこと狙ってるからな」
「おーっほっほっほ! さぁ勇者サマ、わたしの私室にある大きなベッドで朝までガタガタと揺らしてアンドロちゃんに怒られましょう!」
誘い文句が最低だな、この吸血鬼!
「失礼な盗賊よね! ほら行きましょう勇者さま。あんな友達、さっさと無視するべきよ。やはり卑怯で卑劣な盗賊など不要です」
「本当です。品性の欠片もない盗賊と吸血鬼を視界に入れるのも不快ですわ」
ふたりが僕の腕を組んで、なにやら胸を押し当ててくる。
うわぁ!?
なんだこの感触!?
すげぇ!
「オレだけひとりぼっちなんだが? 助けてくれエリス」
「ヴェラは王さまになるのが目標なんだろう? こんなところで女性に手を出したら王になった時に遺恨が発生するぞ」
「確かに! あとあと後継者争いが起こっちまうな……」
「それでしたら戦士サマ、これを」
ルビーが影から何かを取り出してヴェラに渡した。
真っ赤な宝石のような物に見える。
「こっちにも娼館があります。これを見せれば、格安で……いえ、場合によっては無料で楽しめるかもしれません」
「マジか!?」
うひょー、とヴェラは喜んで宝石を掲げた。
血のように真っ赤な宝石。
なるほど、吸血鬼からもらった物と言えば納得できそうな物だった。
「戦士サマには魔物と人間の橋渡しになってもらえそうです。同じ生き物だということを証明できるのではないでしょうか。えっちな感じで」
それもどうなんだろうな……とは、思うが。
生物としての根源的なアレでいいのかもしれない。
いや、両腕をおっぱいで挟まれているので、思考がアレになってる。
アレ。
アレってなんだ。
もう分からん。
「じゃぁな、エリス。頑張れよ」
「お、おう。なんか別の意味に聞こえるな……」
「うるせーよ」
あはは、と笑い合って。
僕たちは、もう一度別れた。
今回は前とは違って。
笑って別れることができた。
しかも、ちょっとマヌケな感じで。
それがなにより嬉しくて。
前は泣けなかったのに。
ちょっと涙が出てしまったことは……エリスには秘密にしておいて欲しいな。
おまえも泣いてたら。
僕は笑ってやるよ。
そうだろ。
我が生涯の親友プラクエリス。