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~復讐! とある冒険者の復讐計画~

 学園都市の冒険者ギルドで。

 オレのプライドはズタズタになった。

 女ばかりを連れたおっさんが、どうにも気に喰わなかったのでケンカを売った。旅人の格好をしていて、みすぼらしいおっさんだ。覇気も強さも感じなかったが、綺麗どころを連れて調子に乗っているのが気に喰わなかった。

 結果は、こっちがボコボコにされる始末。

 実力は天と地ほど離されていることを思い知らされ、ブザマに転がるオレだけが残された。

 結局。

 それは冒険者ギルドでは笑い草にされて、しばらくはコソコソと遠巻きに笑われることになり、憂さ晴らしのように暴れたおかげで学園都市のギルドを立ち入り禁止となった。

 あのおっさんの情報は買っていたので、オレたちは素直に本拠地であるデザェルトゥム国に帰ることにした。

 おっさんの名前はエラント。

 彼らはさまよう、なんていうふざけな名前でさらにムカついた。

 盗賊ギルドに所属しており、本来の所属先はパーロナ国のジックス街。仕事で学園都市に来ていたようで、しばらくは滞在していたらしい。

 実力は不明、と情報には含まれていなかったが、かなりの強さがあるのは分かっている。正面からケンカを売って勝てなかったのだから、理解した。

 金髪と黒髪の乳臭いガキを連れていて、ふたりからは『師匠』と呼ばれている。

 黒髪のほうは学園都市で弟子になったらしく、あの時は指導の最中だった。


「くっそムカツク!」


 そう。

 あのおっさん。

 よりによって、オレを講義に使いやがった!

 このオレを出汁にしやがったんだ!

 思い出しただけでもぐずぐずとした胸の中から真っ黒い物を吐き出したくなる。

 本来の所属であるデザェルトゥムに帰ってさえも、オレがいいように転がされた話は伝わっており、風評被害もはなはだしい状態になっていた。


「よう『カデーレ』。しっかり歩けよ。じゃないとまた転んじまうぜ」


 カデーレ。

 旧き言葉で『ころぶ』を意味する言葉であり、今ではすっかりとオレの二つ名になってしまった。


「なんだとごるぁ!」

「おぉ、こわいこわい。転ぶ前に仕事に行ってくらぁ」


 ケンカを売ってきた冒険者共はニヤニヤと笑いながらギルドを出ていく。


「クソがぁ!」


 テーブルの椅子を蹴り飛ばすと、びくりとギルドに併設されている食事処の給仕女が反応した。

 その態度すらもムカついてオレはずかずかと女に近づく。

 獣耳種のウサギタイプの女で、頭の上に長い耳がある。オレはふたつの耳を束ねるように握りしめて、顔を近づけた。


「あぁ? なんか文句あんのか?」

「い、いたい……な、なにも、あり、ません……は、はなして、ください……い、いたい……!」


 ふん、と鼻を鳴らして耳を離してやる。

 ホっと息をついた女がムカついてので足を払うように蹴ると、ブザマに顔から床へと倒れていた。


「誰だって転ぶよなぁ?」

「い、いたっ……ぎゃ!?」


 床に這いつくばる女の耳をもう一度にぎりしめた。


「聞こえてるか、おい! 誰だって転んじまうよなぁ! あんたも今、現にこうやって、転んじまってるよなぁ!」

「あ、あい!」


 耳元で怒鳴ってやったせいか、まともな返事ができなくなって笑った。


「おーい、カデーレ」

「あ!?」


 クソみたいに機嫌が悪い時にノンキに呼ばれて、ハラワタが煮えくりかえる気がしたが、それが連れだと分かって、多少の怒りはおさまった。


「なんだティウネ」


 パーティを組んでいる仲間のひとり、ティウネだった。

 いつもニヤニヤと何が面白いのか笑っていて、女にばかり手を出しているクズだ。泣かした女の数は両手両足じゃ足りないくらいだが、文句を言ってくるヤツはしっかり黙らせているので、上手いとは思う。

 頭じゃなくて下半身で物事を考えてるんじゃないかと周囲に言われているが、本人もそのとおりだと思っているので問題は無かった。

 そんなティウネに抱かれる女もアホじゃねーか、とも思うが。口がいいのか、それとも女は顔しか見ていないのか。三度の食事以上に女を欠かしていないヤツだ。


「君にぴったりの仕事ができたよ」

「あ? できた?」


 有ったのではなく、できたっていうのはどういうことだ?


「アルゲー・ギギの護衛依頼だ」

「断っとけ、そんなもん。またクソみたいな相手にクソみたいなもん売りつけんだろ」


 煙を吸えば一発で気分がハイに高まっていくヤバイ植物。

 どうやら依存度が高いらしく、どんなに高い値段を提示しても金を払ってしまうほどの凶悪さ。

 アルゲーはこれを『魔薬』と呼んでいる。

 つまり、分かりやすくヤベェ物ってことだ。どう考えても、近寄りたくないし煙を吸えば一発でアウトになっちまう。

 そんな取引に付き合いたくもない。


「おっと、その話は外ではしないことだね。君もあぶぅ~、だの、だぁだぁーだの、赤ちゃんみたいによだれを垂らすことになる」

「けっ」


 ぶっ壊れた人間のフリをするティウネに唾を吐きかけたい気分だった。

 誰が喜び勇んで赤ん坊みたいになった大人を見たがるんだ。冗談じゃないが、あの仲間入りはしたくない。


「遠征任務だよ、遠征。なんとパーロナ国の貴族会議に参加できるんだ。君も望んでいるんじゃないかな~。あのジックス街があるパーロナ国は」

「マジか!」


 大マジさ、と答えるティウネ。

 その願ってもないチャンスにオレは飛びつき、見事にアルゲーの金でパーロナ国まで遠征することができた。しかも護衛の依頼料までもらえるオマケ付き。

 道中、多少の魔物と遭遇するが大したことはない。エラントへ復讐できるかと思えば、拳と蹴りのノリも申し分なく、いつもより体が軽く感じたくらいだ。

 いったいアルゲー・ギギにどういう伝手があるのかまったく知らなかったが……パーロナ国に到着すると、なんと城の中に滞在することになった。

 地下の奥の、かなり広い部屋をあてがわれた。

 どうやら外国からの客人が『もてなし』を受ける場所、らしい。砂漠国の人間は地下に住む、という話なので、この場所が宛がわれたような話もしていた。

 そんなものはオレには関係ないので、さっそくジックス街へと向かう。

 この際だから、復讐する相手はエラント本人でなくてもいい。あの金髪のガキでも黒髪のガキでもどっちでも良かった。

 あのふたりのガキをいたぶってやり、おっさんが泣きわめく姿を見るだけでも充分だ。

 ジックス街の冒険者ギルドで盗賊ギルドの場所を聞き出したオレは、その足でギルドへと向かう。簡単な符丁を合わせてテーブルの下の隠し階段にもぐりこんだ。

 地下へと降りると、なにやら怪しい雰囲気。

 目の前に受付のカウンターらしき物があり男がひとり座っている。

 だが。

 不自然な灯りと、出どころが不明なタバコのにおい。アルゲーのせいで、そのあたりのにおいに敏感になってしまったのが不幸中の幸いか。

 オレはニセモノの受付ではなく、本物があるほうへ足を向けた。

 幻の壁。

 そこを越えれば全身にイレズミを入れた、かなり痩せ細ったエルフがキセルから煙を吸っていた。


「新顔だね。こちらに気づいたってことはそれなりの依頼かな? 暗殺はおススメしないよ」

「情報が知りたい」


 ふ~ん、とやさぐれたような態度でエルフはオレを見た。

 椅子の上に片足を乗せていて、内ももにも紋様のようなイレズミが入っているのが見て取れた。

 かなりの痩せ細ったエルフだが、怪しい魅力はある。種族が種族だけに美人なのは確実だ。

 ティウネがいたのなら、喜んで口説いてかもしれない。


「情報は下からC、B、Aランク。Cは銅貨、Bは銀貨、Aは金貨で取引するよ。さ、どんな情報が欲しいんだい?」

「この街にエラントっていう盗賊がいるだろ。そいつのことが知りたい」

「Bランクだ」


 ふん、とオレは鼻を鳴らす。

 おっさんの情報なんてCランクで充分だろうが。


「何を知りたいんだ? 本名かな? 出生の秘密? それとも生活態度? ギルドへの貢献度も教えなくもないが、おススメはあいつの面白さかな。なかなか稀有でステキな面白い人生を送っているよ。聞いていくかい?」

「興味ない」


 なんだ、とやさぐれエルフはキセルをくわえなおし、重たい紫煙を吐き出した。


「エラントはどこにいる?」


 初級アルジェンティコインをカウンターの上に置いた。

 銀貨一枚で充分だろう。


「ふむ。エラントなら王都にいるぞ。護衛の依頼中だ」

「クソが。行き違いかよ」


 無駄足を踏んだ。

 こんなことなら王都の盗賊ギルドにも立ち寄っておくんだった。


「ほう。君は貴族関係者か。エラントに何の用事だ?」

「さぁね。あんたには関係ない」

「そりゃそうだ。まぁ、復讐が成功したら教えてくれたまえ。笑い話のひとつにはなる」

「あ? てめぇに話す義理はねぇぞ、やさぐれエルフが」

「――そうだね。じゃぁアドバイスを送っておくよ」

「あ?」

「せいぜい『転ばないように』頑張ってくれたまえ」


 ギャハハハハハハハハハ!

 と、大げさなぐらいにやさぐれエルフは笑いだした。


「クソが!」


 どこでどうやってオレの情報が伝わったのか知らないが、こいつは知っている。オレのことを知っている。

 胸糞悪い気分のままパーロナ国の王都に戻ったオレは、適当にあてがわれた女にそれをぶつけた。黙ってそれに耐える女に余計に腹が立ったが、それ以上はティウネが止める。

 チッ。

 どこかに殺してもいい奴隷みたいな女はいないのかよ。


「荒れてますね。では、こちらで実験はどうでしょうか」


 新作です、とアルゲーが持ち込んできた薬を女の口に突っ込み、無理やり嚥下させた。


「あ、あわわ、ああ、あああああああああがががががっがあ」


 なにか、口を震わせるようにして女は叫んだかと思うと、ぐるん、と目玉が上を向き、動かなくなった。

 意識を失ったのかとも思ったが、違う。


「うげ」


 まるで連続で絶頂を迎え続けているように、びくびくと小刻みに女は震えていて、ぱくぱくと魚のように口を開けたり閉じたりしていた。


「おや。成分の調整を失敗したようですね。死なないように置いておいてください。もう少し減らさないとダメか」


 アルゲーは興味を失ったように、また机に向かう。そこには植物を乾燥させたような物が大量に並べられていて、その組み合わせで新しい『魔薬』を作っているようだ。


「これをエラントのガキに食わせたら面白いことになりそうだな」


 まだ性的な興奮も分からないガキが、よがり狂うっていうところは正直見てみたい気がする。

 いったいどうなっちまうのか、そんでもってこの先どんな女に成り下がってしまうのか。

 それを見届けたい気分だ。


「いいね、それ。なにをしても喜ぶ娼婦が作れそうだ」


 ティウネの言葉に、なるほど、とオレはうなづいた。


「自分が教育したガキが娼婦になるっていうのは、どんな気分だろうな。それも、心底イカれた娼婦だ」


 大切な物を失うどころじゃないな。

 殺されたほうがまだしあわせだったと思うだろう。


「へへ。金髪かそれとも黒髪か。両方でもいいな」


 なんならおっさんの目の前でふたりともブチ犯してやるのも面白いかもしれない。正直、乳臭いガキに勃つ気はしないが、アルゲーの薬がありゃ何とかなるだろ。

 貴族には、そういった『薬』が高く売れるからな。

 アルゲーが城の地下で実験を続けられるのが、なにより分かりやすい証拠だろう。


「へへ、へへっへへ。おいティウネ。おまえは金髪と黒髪、どっちがいいよ?」

「そうだな。金髪ちゃんがいいかな。優しくしてあげると喜びそうだ。おっと、君も充分に愛してあげるからね」


 器用に腰を振りながら答えるティウネに肩をすくめる。

 まぁ、なんだ。

 パーティが始まるのが楽しみになってきた。

 せいぜいおっさんの慌てふためく姿を楽しみにするか。

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