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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~流麗! いざ戦場にぶちかましにいきますわよ~

 あの神々たちの威光を知らしめるようなにっくき太陽が沈み。

 わたしの時間となりました。

 そう。

 夜が来たのです。


「プルクラ。準備はできてる?」

「はい、ルーシュカさま。戦闘準備は整っておりますわ」


 未婚の女性は、こういう時に派手なほど着飾り、飢えたオオカミのごとく男たちをむさぼろうと牙を剥き出しにするものですが……ルーシュカはそれほど目立とうとはしていないようですわね。

 落ち着いた感じの白いドレス。ですが、それなりにこだわった物ではありそうです。これはこれでモテそうではあるので、もしかしたらルーシュカは狡猾な女かもしれません。

 派手に着飾るということは、それだけ浪費することを表しています。

 綺麗になって目立つのは良いですが、そんな相手と結婚となるとまた別の話。そう考えるのが賢い男の視線というもの。

 それでは馬鹿な男しか寄ってこないのは明白です。

 もちろん、火遊びは一夜限りのラブロマンスというのなら問題ありませんが。


「お綺麗ですわ、ルーシュカさま」

「そう? プルクラが褒めてくれるのだったら、大丈夫かしらね」


 質素倹約とまでは申しませんが。

 質実剛健を目指す貴族にとっては、ルーシュカは良い物件とも言えますね。

 なにせ、わたしを信用してくださっているので。

 もっとも。

 年齢が少し高いですが。

 いえ。

 わたしは永遠の少女なので問題ないです。人のことを言えた義理ではない、なんていう言葉は聞き入れませんとも。

 だってわたしには師匠さんがいるんですから~。

 売約済みです。

 人妻です。

 誰が何と言おうと!


「プルクラ、後ろ向いて」

「あら。何か問題でも?」

「最終チェックです」


 メイドたちにもチェックしてもらったんですけどねぇ。ここは大人しく言う事を聞いておきましょう。

 わたしはルーシュカに対して後ろを向いた。

 用意してもらった黒のドレスは、なかなかのお気に入りです。この仕事が終わったらもらってもいいでしょうか? ダメなら買い取りたいくらいです。お金が足りるか、ちょっと心配ですので、頑張って働きましょう。


「問題ないわ。で、プルクラ」

「なんでしょうか」

「あなた、武器とか持っていないの?」


 あぁ、それを心配していたのですね。

 護衛として雇ったくせに、武器のひとつも持たないで仕事になるのか?

 守られる側からすればもっともな疑問です。


「強さを証明できるところを見せておけば良かったですね。ですが、武器の心配なら無用です。このように――」


 わたしは背中にまわした手から、影を通じてこっそりと黒い刃を顕現してルーシュカへと見せた。


「――暗器を持っています」

「えっ、どこから出したのそれ」

「秘密ですわ。他にも武器は仕込んでおりますし、いざとなったら武器がなくとも戦えます。爪もそのひとつですわ。尖ってますし。田舎小娘なサティスと違って、わたしはそこそこ強いのでご安心ください」

「ふーん。分かったわ。信頼します」

「ありがとうございます。ルーシュカさまは気兼ねなく自由に過ごしてもらってかまいませんので、わたしのことは気にしないでください」

「そう言ってもらえるのはありがたいけど。でもきっと、すみっこで料理を食べてる程度よ。私なんかより弟が心配ね」

「お城で働いているのでしたね。領主さまに取り入るのは、そっちが狙い目とも考えられますが」


 年を取ってしまった長女と婚姻を結んでしまうより。

 新進気鋭の若者に、自分の娘を売り込むほうが都合が良い。と、考えるのが普通ですからね。


「そうよね。でも……あまり会わないほうがいいかしら」

「ん? 仲がよろしくありませんの?」

「いえ、そういうわけではないのだけれど」


 ルーシュカさまはそれっきり黙ってしまった。

 血を分けた姉弟にも、それなりに思うところもあるのでしょうか。片や王都に住むだけの者で、片やお城で働くエリート。

 男女の差はあるのでしょうけど、そこに優劣を感じてしまうのは仕方がないのかもしれませんね。

 まぁ、わたしには兄弟どころか親もいませんので、理解しようにも完全には無理です。想像するのが精一杯なので、余計な口出しはやめておきましょう。


「お待たせしたわね。準備ができましたわ」


 領主さまの奥様も準備が終わったので、メイドと使用人の何人かもいっしょに馬車に乗り込み、城へと出発した。

 すでにメイド長は領主といっしょに城にいるので、どちらかというと同行する馬車では使用人のほうが多い。中にはメイドではなく使用人の格好をした女性もいるので、別の護衛という意味も兼ねているのかもしれない。


「あ、あ、わ、う」


 そんな馬車の中でルーシュカの隣に座るネコ耳娘は挙動不審にキョロキョロとしていて、窓から城が見えるたびに奇妙な声をあげていた。


「落ち着きなさいルーシャ。いつもどおりでいいのです」

「は、はい」


 聞けばこのネコ耳娘。師匠さんに助けられてルーシュカに仕えるようになったメイドというではありませんか。

 物乞いをしていたそうなので、城になど縁があるはずもなく。あたふたとパルのようにうろたえてしまうのも仕方がないこと。

 おびえる子猫のような印象ですが、見た目は男の子なので、なんだかこう、胸の奥底あたりがもにゅもにゅとしてしまいますわね。いえ、もしかしたら下腹部かもしれません。これを性欲と呼ぶか支配欲と呼ぶのかによって性癖が分かれそうです。

 もちろん、わたしは征服欲と呼びますが。

 あぁ、ラークスくんは元気でしょうか。

 今も健気にわたしを想ってアンブレランスを改良しているのかと思うと……ゾクゾクしますわね。今度会った時はいっぱい抱きしめてあげましょう。

 そんなことを考えている内に、馬車はお城の前へと到着しました。そこには数多くの馬車が停車しており、まるで馬車の展示会みたいな様子。

 豪華絢爛な馬車もあれば、馬を立派に飾り立てた物もあり、太陽が沈んだというのに煌びやかなことになっています。中にはランタンをぶら下げた馬車もあり、なかなかに目立っていた。

 もちろん、そこから降りて来る人間も一級品のドレスを身に纏った女性たちばかり。ドレスの色も白から黒から、青、赤、緑と千差万別。

 中にはとんでもなく巨大に広がるツバの帽子をかぶった人もいるのですが……あれ、迷惑ではないのかしら?

 そんな奥様やお嬢様を一目見ようと王都の民たちがお城に前に集まって、どよどよと口々に噂話を展開しているようです。


「はぁ~……」


 そんな人間たちを見てか、ルーシュカはため息を吐いた。


「平民はお嫌いですか?」


 わたしの質問にルーシュカは果たして首を横に振る。


「嫌いじゃないわ。ただ見られるのがイヤなだけ」

「それでジックス街ではなく王都で暮らしているのでしょうか?」


 領地では『姫扱い』されるのは明白です。

 遠くの王都に住む本物のお姫様ではなくとも、地元領主の娘ともなると平民にとってはお姫様と同じなわけで。

 そういったチヤホヤされる視線がイヤだから王都に住んでいるのか、とも思いましたが。

 どうやら違うようですわね。

 ルーシュカはごまかすように肩をすくめました。

 語りたがらないのであれば、聞く必要もありません。奥様もちょっとだけ微妙な顔をされていますし、聞かないほうがいいのでしょう。

 馬車は渋滞しているので、しばらくは降りられませんし。あわあわと慌てふためくルーシャを見つめて悦に浸っておくとしましょうか。

 どうしてこの娘にメイド服を着せているんでしょうね。女性の使用人もいるのですから、男装させてもいいでしょうに。


「ルーシャ」

「は、はは、はい。なんでしょうか、プルクラさま」

「今度執事服を着てみませんか?」


 ガタッ、と音がしたと思ったらルーシュカさまが立ち上がっていた。もちろん馬車の中はそこまで天井が高くありませんので、頭を打たれましたけど。


「あいたたたた……」

「だ、だいじょうぶですかルーシュカさま!?」

「問題ないわ……だ、大丈夫……」


 どこからか精神干渉的な魔法や攻撃でもあったのか、と馬車の窓から周囲を探ってみましたが、それらしい動きはありません。

 王都民たちが楽しそうにこちらを見ているだけですので、窓から手を振っておきました。


「攻撃ではない様子です。安心してください。で、執事服はダメなのでしょうか?」

「ダメよ!」


 なぜか力強くルーシュカさまに拒絶されてしまいました。

 でも、そりゃそうか、という内容ですものね。

 ルーシュカはメイド教育というものに力を入れている。路地裏で生きる少女や物乞いをしている貧しい少女を拾って、住み込みのメイドとして教育しているそうですから。

 そんな教育の途中に遊びであっても執事の格好をさせるなんてブレブレもいいところですからね。余計なことは教育の邪魔。一歩後退どころか三歩下がることにも繋がりかねません。


「失礼しました。戯れが過ぎますわね」

「いえ。声を荒げてごめんなさい」


 ルーシュカはシブい顔をしつつも謝った。

 しっかり謝れる良い娘ではありませんか、イヒト領主。

 どうして嫁ぎ先の話題が出ていないんでしょう?

 世の中、不思議ですわね。

 と、そうこうしている間にも馬車の流れは進み、わたし達の番になりました。お城の正門前に当たる場所に馬車が止まると御者席の男性ではなく、お城の前に控えていた男性が馬車の扉を開ける。


「ようこそいらっしゃいました」


 優雅に頭を下げて、わたし達だけでなく使用人やメイドたちも丁寧に出迎えている。わたしが降りる時も手を支えてくださいました。

 見た目はカッコいいのですが、残念ながら血は美味しそうに見えなかったので、手は出しません。

 まったくまったくぅ。これも全部師匠さんの責任です。

 前はどんな人間であろうとも、その血は美味しそうに見えたものですが。今となっては平凡で凡百な味、という印象。なにか突出していないと美味しそうに見えません。

 グルメになってしまいました。

 はぁ。

 自分の味覚が恐ろしい。


「――と、ルーシュカ・イヒトさまですね。そちらのお嬢様は?」


 おっと。

 味わい深い人間がいないか探っておりましたら、いつの間にか出席確認をされていたようですわね。


「失礼いたしました。プルクラ・フィクトス・ジックスと申します」


 カーテシーでちょこんと挨拶をする。


「……はい、プルクラさまですね。確認いたしました」


 名簿には載っていないはずですが、名前で護衛と判断したのでしょう。案内役も優秀なようですわね、王都の城というものは。

 アンドロちゃんが泣いて欲しがりそうな人材ですが、わたしの実家はここまで大きくありませんからね。なんなら使用人もメイドも三人くらいで充分な気がしないでもないです。

 まぁ、料理人やら何やらで結局増えてしまうので雇ってますけど。

 そういえばお給料はちゃんと出ているのでしょうか?

 なんか心配になってきました。

 今度、確認しておきましょう。なんならお給料アップをしてあげませんと。


「それではご案内いたします」


 男性は頭を下げると、くるりと優雅に反転。そのままゆっくりとしたペースで前を歩き始めた。

 奥様を先頭にして男性に続いて移動を始める。

 その際に一応は護衛ですので、周囲を確認しながら歩いていきますが……まぁ、この時点で怪しい視線や動きをする者などいませんので、無事に正門をくぐり、城の中まで入ることができました。

 お城の中は、すでにパーティの気配とでもいいましょうか。すっかりと歓談の雰囲気が漂っていて、そこかしこに貴族と思われる連中が立ち話をしていました。

 さすがに酔っ払っている者はいませんが、それでも一仕事を終えた雰囲気があり、すっかりと空気が弛緩している。

 暗殺するにはもってこいの雰囲気ですわね、これ。

 そのせいもあってか、貴族意外の人間は逆に緊張感がある視線です。新しく入場してきたわたし達にも、しっかりと護衛と思われる人間の視線が向かってきました。


「……」


 それらの視線はすぐに外される。

 チェックは素早く的確に、というやつでしょうか。

 もっとも。

 ジロジロと新参者に視線を送るのは、貴族のお嬢様も同じでしょうか。

 後から入ってきたわたし達に鋭い視線を投げつけるお嬢様たち。きっと恋のライバルになりえるのかどうか、それを見極めているのでしょう。

 そういう意味ではルーシュカさまは敵ではないと判断されているらしく、あまり視線は厳しくない。

 どちらかというと……


「わたしですわね」


 どこの馬の骨だ、みたいな視線がザクザクと刺さるのですが?

 なにこれ。


「もしや、わたし。ただのオトリとして雇われたのでは?」

「いい護衛だわ。ありがとう」


 満足そうにうなづくルーシュカ。


「そういうつもりは一切なかったのですけど。でもまぁ、仕事ができて良かったです。なんならケンカを売りましょうか。ここで一番の有力人物の貴族は誰かしら? ちょっと粉をかけてきます。愛人が無理ならその息子を狙いますわ」

「やめなさいったら」


 ぺちん、と軽く背中を叩かれてしまった。

 むむ。

 この吸血鬼たる知恵のサピエンチェの背後に一撃入れるとは大したものだな、人間よ。褒美に、地獄すら生ぬるいと思える痛みを貴様にくれてやろう!

 っていう冗談はパルにだけしておきますか。


「あ、プルクラだ。おーい」


 噂をすればなんとやら。

 すっかりとお城に慣れた馬鹿がいました。

 ――失礼。

 妹みたいな可愛らしいサティスがいました。

 ついでに、その後ろには超カッコいい執事さまがいらっしゃいますので、わたし、とびっきりの笑顔を浮かべたいと思います。


「うわ、きもちわるっ」

「失礼な小娘ね。血祭にしてあげましょうか」

「こほん。お嬢様方。声はひかえめに」


 そうでした。

 というわけで、いよいよパーティが始まります。

 気合いを入れて護衛をしましょう!

 なにやら、不穏な視線を感じることですしね。

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