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~可憐! 魔導書『マニピュレータ・アクアム』~

 それから二日後。

 遺跡はすっかり探索し尽くされ、宝物は全部持ちだされちゃった。

 それどころか――


「うわぁ……」


 第二エリアの貴族邸が解体されて、そこに使われていた木材まで運び出されてしまう始末。

 なんてことをするんだ、って思ったんだけど……

 これには別の狙いがあって。


「調査拠点を遺跡の外に新しく作るらしい」


 解体された貴族邸の木材を使って、湖の近くにいそいそと新しく家の建築が始まっていた。そっくりそのまま建て直されていくのは、ちょっと面白い。ドワーフの人たちが、えっさほいさと木材を運び出していた。

 拠点を作る情報は師匠がゲットしてきたもので、テイスタ国が主導となって調査するんだろう、という話。

 建て直している場所には、ちらほらと騎士の人たちの姿も見える。巨大レクタ退治が早く終わっちゃったから、ついでにこっちの仕事になったのかも?

 ドワーフたちが家を建てていく様子を眺めながら、あたしはノーマくんといっしょに修行をしてた。


「ぐぬぬぬぬうぬぬうぬぬうぅ!」

「く、ぐ、う、くくくくく、うぅぅぅくっ!」


 今は魔力糸を任意に動かす修行中。

 魔力糸に自分の魔力を通して、まるで指が延長しちゃったかのように動かせる技術があるんだけど……これがめちゃくちゃ難しい。

 だってあたしの指は爪までしかないのに、その先にも指があるっていう感覚がぜんぜんまったくこれっぽっちも分からなくて。

 ノーマくんといっしょに、あたしは魔力を振り絞って頑張ってた。

 これが自由に出来るようになると、投げナイフを取り出すと同時に魔力糸を顕現させつつナイフの輪っかに魔力糸を通す、なんていう早業が可能になる。

 針を使った盗賊スキルには必須になってくるので、ぜったいに習得したいワザだ。だって『影縫い』ってカッコいいし。あたしも使えるようになりたい!


「くおおおおおおお!」

「ふぬうううううう!」


 あたしは魔力糸をピコピコと先端を動かせた。

 ノーマくんのはゆっくりと動くだけ。


「だっはぁ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


 集中し過ぎたのかバッタリと倒れたノーマくんはぜぇぜぇと息を切らせていた。


「情けないなぁ、ノーマくん」


 そんなノーマくんに見せびらかすようにレーちゃんは魔力糸を顕現して見せて、自由にウネウネと動かしてみせる。

 しかも魔力糸がめっちゃ綺麗でツルツルな感じ。


「こ、これだから魔法使いは……!」

「そうだそうだ!」


 そんなウネウネ動かせる才能があったら魔法使いになってるよ!

 マジック・シーフ!

 なんかカッコいい!


「サティスちゃんまで怒らなくても」


 レーちゃんは苦笑しながらノーマくんの隣に座る。ちょっぴり照れながらも、レーちゃんはノーマくんの頭を撫でた。


「頑張ってね、ノーマくん。ギルドに帰るまでが冒険です」

「分かってるよ、レーちゃん」


 夏の木陰の下。

 さわやかな風がふたりの髪を揺らしていく。

 う~。

 なんだかちょっと、うらやましい……


「あたし、師匠を探してくる」

「はーい」

「いってらっしゃい」


 ラブラブなふたりを見てたら、あたしもラブラブしたくなってきた。というわけで、あたりを適当に歩き回っていると師匠を発見。

 ルシェードさんと話をしてるみたいだけど、ちょうどそれが終わったところだった。


「師匠~」

「ん、どうした? 修行に飽きたか?」


 何も答えずに師匠に抱き着こうとしたら避けられた。


「なんで!?」

「理由もなく近づいてこられたら、そりゃ避けるだろ。刺されるかもしれん」

「刺しませんよぅ」

「俺が浮気してもか?」

「大丈夫です。五人くらいなら許します」

「おまえは心が広いなぁ~」


 師匠は苦笑しつつ、頭を撫でてくれた。

 えへへ~、これこれ~。

 そのついでに師匠に抱き着いた。ぎゅ~ってするとポンポンと背中を叩いてくれる。

 うへへ。

 師匠、好きぃ。


「ところで、ルシェードさんと何を話してたんですか?」

「アルマさまの事と、それからノーマたちのことだ」

「ノーマくん? レーちゃん達、何かあったんですか?」

「騎士団に混ざって王都まで送ってもらえないかと思ってな。騎士団を雇えるだけの金貨があるし、まぁほどほどのワイロでいけるだろ。あいつらがどこ出身かは分からないが、あれだけのお金を手に入れたんだ。王都に拠点を変更したほうが便利だろ」

「なるほどぉ」

「まぁ、ワイロが通用するかどうかは置いておいて。名目上は王への報告となる。なにせ目撃したのは俺たちとルシェード殿を除けば、ノーマ達だけだからな」

「あたし達は行かなくていいんですか?」

「行ってもいいが……まぁ、行かないほうが無難かな」


 師匠はそう言って、コツコツと黒仮面を人差し指で叩いた。


「噂話、みたいな感じ?」

「お。良く分かってるじゃないか」


 もう一度、師匠に頭を撫でてもらった。

 えへへ~。


「噂には悪い面もあるが、良い面もある。ひとり歩きさせておいた方が広まりやすいっていうのも事実だしな。あと、ピンポイントで王や貴族だけに話が伝わるのも良い」

「普通の、平民よりも?」

「そうそう。小さな事件を解決して徐々に名声をあげていく手もあったが、巨大レクタっていう良い広報が出来たんでな。一気に貴族・王族御用達の盗賊ギルドが出来上がったって訳だ」

「ほへ~」


 師匠ってばいろいろ考えてるんだなぁ~。

 でも、その先の目的はまだあたし達は教えてもらってない。師匠はワザと言ってない感じがしてるので、あんまり聞いちゃいけないことなんだと思ってる。


「……」

「どうした?」

「師匠は……師匠はイイ人ですよね?」

「いや」


 師匠は肩をすくめる。


「俺は卑怯で卑劣な盗賊だよ」

「あたしにとっては、イイ人ですよ?」

「そうか?」

「はい」

「そうか」

「そうですよ」

「ありがと」

「えへへ~」

「相変わらずイチャイチャしてますわね。わたしも仲間に入れてくださらないでしょうか?」


 うわぁ!?

 いつの間にか後ろにルビーがいて、あたしは驚いてしまった。思わず師匠から離れて身構えてしまう。

 師匠はびっくりしてないので、気付いてたっぽい。

 うぅ。

 師匠といい雰囲気だったので油断してしまった……

 反省……


「遺跡の入口の補強が完成したそうですわ。わたし、魔導書を取りに行こうと思いますが、よろしいでしょうか?」

「分かった。夜を待たなくてもいいか?」

「大丈夫ですわ。わたし、これでも冒険者ですので」


 ルビーは、ふふん、と自慢するように胸に手を当てながら語った。

 冒険者って言ってもレベル1なんだけどなぁ。

 どっちかっていうと、盗賊ギルド『ディスペクトゥス』のメンバーを強調したほうがカッコ良くてそれっぽいのに。

 やっぱりアホのサピエンチェだ。

 うんうん。

 というわけで、あたし達は湖の近くまで移動する。入口補強の話はみんなにも伝わっているらしく、まるで初日の状況みたいに、みんなで見守っている感じ。

 補強方法は単純で、入口の周囲に石を積んで泥? 粘土? なんかそういうので隙間を埋めていた。

 丸く周囲を取り囲んでいるので井戸に似てる。それが筒みたいに上に伸びていて、湖岸から補強した場所まで丸太の橋が渡してあった。

 この位置からは見えないけど、中に入るにはハシゴで降りる感じかな?


「それでは行って参ります」

「気を付けるんだぞ~」


 もちろんですわ、とルビーは意気揚々と丸太を渡っていき、遺跡の中に入って行った。一番奥まで移動する必要があるので、しばらくは待機。

 飽きたり作業に戻ったりする人を除いて、みんなでぼ~っと待ってると――


「あ」


 空に浮かんでる湖の水が、いっきにダッパーン! って落ちてきた。


「うわぁ!?」


 ものすごい衝撃だし、おもいっきり波打ったせいで、こっちに溢れてくる。大波が来たみたいに水が溢れて、周囲は水浸しになってしまった。

 みんな離れたところに野営したりキャンプしたりしてたのは、これを見越してたからなのかもしれない。

 それでも、魔導書の好奇心に負けたあたし達と冒険者の何人かはズブ濡れになっちゃって、テンションがしょんぼりになっちゃった。

 でも。

 補強した入口が崩れなかったのは、さすがドワーフの仕事って感じ。たったの二日で、相当丈夫に作ったんだな~ってことが証明された。


「あぁ~ぁ、ずぶ濡れになっちゃった」


 師匠もあたしも、レーちゃん達もべっちょべちょ。魔導書の力を失ったんだから、そりゃそうだって感じもするけど、できれば入口を発見した時みたいに雨となって戻ってくれたらよかったのに……


「上手いこといかないものだなぁ……」


 さすがの師匠も、大波は避けることができなかったみたい。

 がっくりと肩を落としてる。


「ただいま戻りましたわー! 無事に魔導書ゲットです……って、あれ?」


 歓声を期待して戻ってきたルビーだけど。

 みんなずぶ濡れになってしまっているので、とっくに入口から離れてる。残ってたのは、師匠とあたしだけ。


「なんでしょう……期待した光景ではありませんわ。テンション低いですわよ」

「ルビーが悪い」

「なぜ!?」


 まぁ、とりあえず。

 魔導書『マニピュレータ・アクアム』は無事に手に入れることができました。

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