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~可憐! ひみつのボックス~

 遺跡の中に建つ貴族邸。

 二階へと続く階段を登ると、ギシギシと音が鳴った。前のエリアは石造りの小屋だったけど、この貴族のお屋敷は石だけでなく木も使われてるっぽい。

 崩れはしないけど、結構な年月がたっているのがその音で分かった。保存の魔法とかが使われていても、やっぱり水が多い遺跡だから湿気で腐っちゃうのかも?

 そんな心配をしながらも階段を登り切ると窓があって、外の様子が分かる。

 でも、見えるのは空みたいな色をした壁と天井から流れてくる水だけ。どうやって天井から水が流れ続けているのかは、良く分かんないままだ。


「こっち行ってみましょ」

「う、うん。あ、待って待って。僕が先頭行くから!」


 盗賊くんと魔法使いさんは右側へ行ったので、あたしは左側の廊下を進む。

 見たところ、廊下に罠は無さそう。

 手すりがあって一階のエントランスを見下ろしながら進むと、左右にふたつ、合計四つの木のドアが並んでいた。


「四部屋もある」


 さすが貴族のお屋敷。

 ひとつひとつの部屋が広くて、しかもいっぱいある。誰も使わないのに、こんなお屋敷を作るなんて……とっても凄い人のお墓なんだなぁ~。

 なんて思いながらも、手前の右側の部屋から調べることにした。


「ん~と。鍵穴は無し……見た感じ、罠も無し……っと」


 罠探知をして、チェックのために扉の隙間にナイフの刃を通す。何の手応えも無いのを確かめてから、ちょんちょんとドアノブをナイフで叩いてみた。


「問題なし。さ、触っちゃうよ~」


 別に誰に言うわけでもないけど。

 言ったところで罠が返事してくれるわけもないけど。

 あたしは、ドアノブを手で掴んで……何にも起こらないのを確かめた後、ドアノブをまわしてみた。

 ガチャリ、と音がして無事に扉は開く。

 やっぱり罠は無いみたい。


「ここは……なに?」


 部屋の奥に机があって、壁際には棚が並んでいた。

 でも、それだけだった。

 棚には何も置かれていないし、机の上も綺麗なままで埃が積もっている。床に敷かれてる絨毯はちょっと高級そうだけど、宝物といった物は置いてなかった。


「なんだ、残念。――うわぁ!?」


 ハズレの部屋か~、なんて思いながら部屋の中に入って扉をしめた。

 すると、扉の影になっていて見えなかった場所に甲冑があった。まるで部屋の中を見守るように置いてあるので、魔物かと思ってビックリしちゃった。

 ちょっと恥ずかしい。


「これ、持って行ったら売れるかな? あ、でも錆び錆び……」


 誰も使ってない甲冑だろうけど、ところどころが茶色くなって錆びているのが分かった。

 新品でも使ってなかったら錆びちゃうものなのか~。

 これじゃ売れないかも。残念。


「とう!」


 甲冑の頭の部分をジャンプして取ってみる。

 兜? バイザーっていうんだっけ?

 いろいろイジってみるけど、なんかこの、目のところが檻みたいな格子になってる部分が錆びて開かなかった。やっぱり売れそうにない。残念。

 でも――


「んふ」


 実は一度かぶってみたかったので、装備してみる。


「おおう」


 うっ、重い……

 頭がぐらぐらしちゃうので、盗賊には装備できないのかもしれない。むしろこんなの被って良く戦えるよね、騎士職の人。

 視界が悪くてめちゃくちゃ怖い。しかも、これにまだ盾も持ってるんだから、世界の半分は見えていないのかも。


「そりゃイークエスも悪いことしちゃうよ」


 もっと広い視野を持たなきゃね。

 やっぱり騎士職の人って、ちょっとアレな気がする。


「むぅ」


 あと使えそうなのは……甲冑が持ってる槍かな。シンプルな槍で刃は錆びてるけど、打撃武器としては使えそう。

 とりあえず、ぶかぶか兜とサビサビの槍をゲットして、奥に置いてある机に向かった。


「ありゃ」


 でも、その机には引き出しも何にも無い。念のために這いつくばって、机の下と裏側を覗いてみたけど、なんにも無かった。

 結局、この部屋にあったのは甲冑だけのようだ。


「残念。次いこ~」


 次は向かいの部屋を探索することにした。罠を調べてから部屋へと入る。もちろん罠は無かった。


「からっぽ……」


 窓も無い薄暗い部屋で、棚のひとつも置いてない。扉を閉めれば真っ暗になるので、投げナイフをストッパーにして中に入ってみる。


「ん~」


 こういう時に便利なのがシャイン・ダガー。師匠にもらった大切なダガーナイフは刃がキラキラ光ってるので、光源になる。

 シャイン・ダガーの明かりで部屋の隅々を照らしてみたけど……


「やっぱり何にも無し」


 残念。

 やっぱり宝物とか宝箱って無いのかなぁ~。

 霊廟って、偉い人のお墓なんだからいっぱい宝物を置いてると思うんだけど。もっともっと奥にあるのかな?

 まだふたつ目のエリアだし、まだまだ先があるのかも。

 なんて思いつつ、次の部屋に向かった。

 廊下の奥にある左側の扉を罠探知する。ここにも罠は無く、気を付けながら入った。

 さっきの部屋と似たような大きさの部屋だ。


「子ども部屋?」


 この部屋には窓があり、外の明かりが差し込んでいた。そんな窓の近くには小さな柵付きのベッドがあり、木で作られた人形が座っている。

 あとは小さなタンスと床に転がっているボールだけ。

 罠に気を付けながらタンスを開けたけど、やっぱり何にも入ってなかった。

 ボールを拾い上げてみると――


「硬っ!?」


 木で作られてるみたいで、びっくりした。

 こんなので遊んだら赤ちゃん痛くて泣いちゃう。

 あくまで生活を模してるだけみたいだから、そのへんは何にも考えてないのかも?

 ベッドに座っていた木の人形ものっべらぼうで手足の作りも適当だった。

 あんまり価値は無さそう。


「よし」


 ボールと人形をゲットして、廊下に置いておく。あと兜と槍も邪魔だったのでいっしょに置いておこう。


「最後の部屋ね。なにかイイ物がありますように」


 光の精霊女王ラビアンさまに祈りを捧げて、あたしは罠探知をした。

 罠は無し!

 ドアノブをひねって中に入ると――


「おぉ」


 他の部屋よりもかなり明るい部屋だった。二階の角っこに当たる部屋だから、ドアの正面側の壁と左側の壁に窓があり、部屋の中にかなりの光が差し込んでいる。

 とっても明るくていい部屋なんだけど……やっぱり棚には何にも無くて空っぽだった。

 どういう意図の部屋かは分からないけど、明るくてぽかぽか陽気の部屋で、お昼寝にはぴったりの部屋だ。


「でも」


 気になる場所がひとつ。

 部屋のすみっこ。正面の左側の窓のある壁同士の壁際に、ひとつ。


「木箱?」


 これみよがしに木で作られた箱が置いてあった。


「ん~……」


 普通だったら中を確かめてみるんだけど……なんか怪しい。

 というのも、なんか木の種類が安っぽいっていうか、貴族のお屋敷の箱にしては陳腐な気がした。なんか後から付け足されたような雰囲気を感じる。


「なんだろう?」


 何が違う?

 何が違和感?

 う~ん……

 あぁ、そっか!

 この部屋に合ってないんだ!

 絨毯がこんなに立派なのに、それを台無しにしてる気がする。

 今までの部屋にあった家具っていうか、棚とか机って、それなりに立派な絨毯と違和感なくマッチしてたけど。

 でも、この木箱はぜんぜん合って無い。

 それが不自然な感じになってるんだ。


「ふ~む」


 あたしは腕を組んで、窓の近くに立って木箱を観察してみる。どうやら上部分はフタのようになっていて、開きそう。

 何枚かの板が張り合わされたような作りをしていて、隙間は無い。ちらりと後ろの棚を見てみると、ほこりが積もってる。

 でも、木箱には埃が付いてなかった。


「分かった」


 これは……たぶん罠じゃない。

 罠じゃなかったら、アレしかない。


「にひひ」


 そうと分かれば対策できる!

 あたしは早速、行動を開始する。

 まず窓を開けた。

 そこに巻き付けて通すように魔力糸を顕現する。できるだけ頑丈に、切れないように、という感じで顕現させたので、ちょっと太めの糸になっちゃったけど、まぁいいや。

 魔力糸を伸ばした反対側を、もうひとつの窓に固定していく。

 つまり、魔力糸を窓から窓へとぐるぐる通した。

 ちょうど木箱の前を糸の壁を作るように、部屋の中を対角線って言うんだっけ、そんな感じで横切るように糸を張り巡らせる。

 このままだと足元がスッカスカになるので、棚をちょっぴり動かして支えにしておいた。からっぽだったので、あたしでも動かせたよ。


「ふひひ」


 できた!

 名付けて『糸の壁』!


「あとは槍を持ってきて~、っと」


 廊下に置いていたサビサビの槍を持ってきて、絨毯の端っこで刃部分を拭いておく。錆びは全然取れなかったけど、まぁ先端は尖ってるし刺さるよね。


「準備完了っ!」


 あたしは糸の壁の隙間から槍を通す。

 そのまま木箱のフタの隙間に刃を通して――


「おりゃー!」


 一気に中へ突き入れた。

 次の瞬間――!

 バガッと木箱のフタが跳ねるように開いて、中から暗い色をした腕が二本飛び出した。そして木箱自体が跳ねるようにあたしに向かって飛びかかってくる!

 でも――!

 バイーン、って糸の壁に弾かれて、木箱は押し戻された。


「あはは、やっぱりミミックだ!」


 遺跡や洞窟といったダンジョンにいる卑怯で狡猾な魔物『ミミック』。

 冒険者が不用心に近づいたところに襲い掛かり、腕で拘束して箱の中に引きずり込んで食べてしまう恐ろしい魔物。

 今回みたいな箱に擬態していることが多いらしく、宝箱タイプはレアらしい。洞窟に宝箱なんか置いてあるわけないし、こんな部屋にポツンと宝箱が置いてあったら、それはそれで怪しさ大爆発だ。

 不意打ち専門の魔物だから、バレちゃったら対処はいくらでもしようがある。

 なにより、飛びかかってくるだけの魔物。足が無いんだから最初の攻撃さえ防げたら、後はあんまり強くない。離れて攻撃すれば、簡単に対処できる。

 って、魔物辞典に書いてあった!


「そのとおりみたいだね~」


 えっへっへ、とあたしは笑いながら慣れない槍でミミックを突っつく。ミミックは箱自体が体の一部なので、攻撃が通る通る。


「あっはっは、あっはっはっはっはー! 一方的なあたしの勝利だー!」


 というわけで、ミミックに勝利しました。


「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……お、重い……」


 完全勝利したけど。

 思った以上に槍が重くて疲れました。

 前衛職って大変なんだなぁ。

 あたし、盗賊で良かった。師匠が盗賊で良かった。

 もし師匠が騎士だったらきっと弟子にしてもらえなかったと思う。


「はふ~」


 魔力糸を霧散させ、その場に残された『ミミックの石』を回収する。


「こんな立派な屋敷に生まれたのが間違いだったね」


 そうミミックの石にあたしは言ってみたけど。

 なんだか貴族全体を敵に回すような言葉だったので、慌てて首を横に振った。


「ち、違います。今のは違います」


 調子に乗ってすいませんでした。

 別にあたし、貴族さま嫌いじゃないです。

 貴族さまバンザイ、王様バンザイ。

 うんうん。

 とりあえず探索を終えたので、ゲットした甲冑のぶかぶか兜とサビサビ槍とボールと人形を持って、一階のエントランスに向かうのだった。

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