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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! 作戦とは予定であり未定要素が含まれる~

 目の前に作為的な穴があろうとも。

 目の前に壁があろうとも。

 レクタ・トゥルトゥルは愚直にも、ただひたすらに真っ直ぐに進む。

 それは体が小さい個体も巨大な個体も変わらなかった。

 いったい何が彼らをそうさせるのかは分からないが、きっとマグマにも平気で突っ込んでいくのだろう。

 そうやって神話時代から生き残っているのだから仕方がない。

 数多くの仲間の遺体が世界各地に残されており、それらは取り除かれることなく永遠に残されている。

 やめておけ、自殺行為だ。

 そう止めてくれる神さまは、果たしていなかったらしい。

 もっとも――

 今さら天上より神さま達がレクタ・トゥルトゥル族を説得したところで聞き耳を持ってもらえないだろう。


「きっと、言葉も通じないしなぁ」


 真正面から巨大レクタを見て、俺はつぶやいた。

 亀を司る神さまがいたとしても、きっと聞いてもらえないと思う。

 なにせ小神だろうし。

 亀の神官なんて、いるとは思えないし。


「どっちにしろ手遅れか」


 いよいよ落とし穴にレクタが迫る。

 多少は広めに作ってたとは言え、足の幅はバッチリ合っていた。

 あと一歩動けば、巨大レクタの前足は落とし穴に落ちる。

 穴の底で作業していたドワーフを代表とする作業員たちは避難し、成り行きを見守っていた。

 人類を守るため、ではなく。

 作業の結果を見届けるため、のような感じだな。


「落ちますわ」

「お~、どうなるかな」


 人間たちが見守る中。

 それを意にも返さず巨大レクタは前足を一歩進めようとして――

 踏み外すように穴に足を落とした!


「いった! 落ちたぞ!」


 作業者たちが声をあげる中、前のめりになるように巨大レクタが倒れる。進むより、よっぽど大きな地響きが伝わり体が揺れた。

 顔をしこたま地面に打ち付ける巨大レクタだが、それでも尚、俺たちより遥かに高い場所に顔がある。

 お城の立派な門くらいはありそうだし、口を明ければそこが入口にも見えた。


「時間との勝負かもしれないな」


 前足は落ちた。

 それでも巨大レクタは後ろ足で体を無理やり前へと進める。甲羅が細くなった両足の間を削るようにして地面をえぐった。

 ぐわん、と前足が空を切る。

 それだけで風が起こり、世界が揺れているような気がした。

 目の前に壁があろうともおかまいなしに、まだ穴に到達していない足だけで、体を強引に持ち上げて、倒れるように前へと体を進める巨大レクタ。

 後ろ足が穴に落ち、持ち上げた体が地面へと落ちた。


「うわぁ!?」


 災害と呼ぶにふさわしい地震が起こる。

 落とし穴が崩れかけない衝撃に、ところどころで悲鳴があがった。

 それでも――


「落ちたぞ! 成功だぁ!」


 誰かが声をあげ、ワッと歓声があがる。

 巨大レクタの四本の足は空を切るようにバタバタと動くばかりで、地面のどこにも触れていない。

 甲羅だけが地面に付いている状態で、巨大レクタの『進行』は停止した。


「もって数時間ですわね」


 落とし穴や甲羅を支える部分を補強できれば良かったが、そんな時間は無かった。

 巨大レクタが足を動かすたびに落とし穴の壁面はボロボロと崩れるし、体はグラついている。

 いずれ落とし穴が崩れたり、巨大レクタの体がどちらかの穴にズレていけば足が地面に届く。

 そうなれば、強引にでも前へ進み、壁など関係なく突破されるだろう。


「今のうちに壁を高くするとか?」


 パルの意見に俺は首を横に振った。


「危険だ。いつ巨大レクタが突っ込んでくるのか分からないから、できるだけ離れている必要がある」

「そっか」

「というわけで、行くぞ。作戦は伝えた通り。問題ないな」


 こくん、とうなづくパル。

 いつもの返事じゃないのは、緊張している証だろうか。ポンポンとパルの頭を撫でてやってから、俺は聖骸布を口元まで引き上げた。

 赤い聖骸布は一瞬にして黒くなる。

 これで仮面と合わせて黒い仮面の男になってしまったな。


「本気ですのね。その技は、その忌々しい布でないと使えないんですの?」


 ルビーにしてみれば厄介な布だけど。

 俺にしてみれば命綱よりも頼りになる布なんだがなぁ。


「この場合、作戦位置に辿り着くまでが一番の問題だ」

「なるほど了解です。わたしの準備は問題ありません。いつでもどうぞ」


 よし、と俺はルビーの背中をトンと叩く。

 もちろん、彼女が装備しているアンブレランスではなく、ちゃんと背中を叩いた。


「今からヤツの顔に登る。転移は無しだ。油断すると噛みつかれるぞ」

「はい!」

「了解ですわ」


 落とし穴の前に作られた壁を登って、高い位置から巨大レクタを見る。ジタバタともがく巨大レクタがマヌケに見えるかと思ったが違った。

 ぞわり、とイヤな視線を感じる。

 ハッキリ、愚直に。

 レクタ・トゥルトゥルはこっちを見据えていた。

 人間たちを。

 敵だと認識している。


「ブルっちまったか?」


 クーゴお爺ちゃんが後ろから登ってきて、笑いながら俺たちに声をかけてきた。


「危ないですわよ、お爺ちゃま。転んでは怪我をしてしまいます」

「バカを言え。俺が登らんで誰が指揮するんだ」


 そんな老将軍の後ろには現役のルシェード騎士団長が控えていた。

 御守りみたいな役割だが、ここまでくると出来ることは何も無い。お爺ちゃんが怪我をしないように見守るのが、彼の最期の役割だろうか。


「行けんのか盗賊団」

「問題ありませんわ。盗賊ギルド『ディスペクトゥス』にお任せを。って、何度も言ってますのにいい加減におぼえてくださいまし」

「成功したら覚えてやるよ。失敗したら無名のほうが都合がいいだろ」


 カカカとお爺ちゃんは笑った。

 確かに汚名が広がるよりずっといいな。


「成功させるよ、お爺ちゃん。あたし頑張るもん」


 どこか期待をしていないような態度に怒ったのだろうか、パルがそう言った。


「ふはは、俺を前にして啖呵を切るたぁ見上げたお嬢ちゃんだ。カカカ! さぁ未来ある若者よ。口だけでは時代を切り拓けんぞ」

「むぅ」

「そういう時はこう言い返すのです」


 ルビーは、パルの耳元で何かを言ったようだ。

 うん、とうなづいてパルはビシィっとお爺ちゃんを指差した。


「え~っと。老い先短いお爺ちゃま! いつだって時代を切り拓いてきたのはワタシたち小娘よ! いいから安心して引退しておいてくださいまし! って、プルクラが言ってました」


 おいおい。

 堂々と責任のなすりつけ合いをするなぁ、まったくぅ。

 でもそういうことなら、俺もルビーに言ってもらいたいセリフがある。

 俺はこしょこしょとルビーに伝えた。


「こほん。わらわはやると言った。そう伝えたぞ。そこに過分も欠如も存在しない。わらわができると言ったことはできるのじゃ!」


 おぉ。

 やっぱり久しぶりにきくロリババァ語はいいものだなぁ。

 うんうん。


「かっかっか! だから口だけが達者と言われるんだよ盗賊ども。ほれ、言ってこい。誰も邪魔せん。むしろ手伝ってやるが、なにか必要か?」


 ま、余興にはなったらしい。

 お爺ちゃんがご機嫌になったようでなによりだ。


「では、攻撃できる準備をしておいてください」

「無意味にか?」

「いいえ」


 俺は首を横に振った。


「誉れある一番槍はもらいます。ですが倒しきれなかった時は、騎士団の仕事ですので」


 俺はそう言って、パルとルビーを小脇に抱える。

 そのまま壁から飛び降りる。中段で足を引っかけるように落下速度を落とすと、無事に地面へと着地した。


「うわわわ」


 パルが思わず声をあげる。

 目の前に巨大レクタの顔。

 まだまだ遠いはずなのに、まるで目の前に迫ってくるような錯覚を起こしてしまう。

 巨大な口が開き、ガチンと噛み鳴らされた。

 口の中に見えたのは、まるで鍾乳洞のような尖った歯がいくつも並び、それが口の奥まで続ている。分厚い舌がノドの奥を塞いでいるように思えた。

 真正面から観察しないと得られない情報だ。

 口の中に入り込んで攻撃する、なんて妄想を一撃で粉砕してくれる光景だった。


「行くぞ」


 ふたりを小脇に抱えたまま、俺は巨大レクタの顔に向かってダッシュした。自分が、ちょっとした自殺志願者にも思えてくる。

 自分から喰われにいくような行動だが、もちろん口の中に入り込むわけではない。


「よっ、と」


 ガチン、と噛み鳴らされた後、再び開いた口。

 そのタイミングに合わせ、下あごに足をかけ、真上にジャンプする。

 聖骸布で引き上げられた身体能力をフルに活かして、左腋に抱えていたルビーを放り投げ、俺は歯を蹴って口の端に移動した。


「あーれー」


 なんて冗談を言いながらルビーは口の上あたりを掴み、無事に登っていく。

 頭の上はツルツルだが、顔の前面あたりには深く刻まれたシワがある。巨大レクタに比べて、遥かに小さい俺たちが手をかけるには充分すぎる段差だ。


「大丈夫か、パル」

「あたしも放り投げてもいいのに」

「ルビーは落ちたり喰われたりしても死なないが、おまえは死んじゃうのでな」

「それってあたしのほうが大事ってこと?」

「決まってんだろ」


 ロリとロリババァ。

 残念ながら、俺はロリコンなんだ。

 だから、比べるまでもないだろ?


「にひひ」


 ご機嫌な様子のパルに背中にしがみついてもらうと、目の前で高速で閉じられる口。危うく手足をちぎられそうになるが、そんなマヌケな死に方はしたくない。


「ほっ、と」


 閉じられた口を逆に利用して、上顎側に飛びつく。再び、ぐわん、と口が開くが閉じられる前に頬あたりまで登った。


「行けるかパル?」

「はい!」


 背中から俺を伝ってトントントンと巨大レクタの顔を登っていくパル。盗賊スキル『蜘蛛足』の習得に近づいた、と言ってもいいかもしれない。

 なぜかムラがあるので、過信しないようには言っておかないとダメだけど。

 調子がいい時しか発動しないスキルって、危なくて使えないしね。


「よっ」


 パルが落ちずに登ったことを確認して、俺も飛ぶようにして登り切る。途中で巨大な目が俺を捉えた気がしたが……大丈夫だろう。

 降り落とされる前に、頭の上へと登頂できた。


「よし、問題は無いか?」


 パルとルビーも無事に頭の上に到着している。


「大丈夫です!」

「お任せくださいまし」


 よろしい、と俺はうなづいた。

 周囲の様子を確かめているヒマはない。

 さっさと終わらせてしまおう。

 そう思った瞬間――


「うっ!?」

「わわわわ!?」

「動きましたわ」


 巨大レクタが首を動かした。

 まるで俺たちを振り落とすように、首を左右に動かす。


「ちっ!」


 巨大なだけに振れ幅が半端じゃない。まるで街の上を端から端まで移動するような勢いで首が左右に振られる。

 落ちればそのまま落とし穴の底まで真っ逆さまだ。

 とてもじゃないが、無事で済む高さではない。


「うわぅ。ど、どどど、どうしましょう、師匠!?」


 ぺったりと大の字になって落ちないようにしがみつくパル。ルビーも似たような感じで落ちないように耐えていた。


「そのまま待ってろ! 終わらせる!」


 俺はそれだけを告げると、右手を開き――そして、右手を強く握りしめた。

 不安定な足場だが、手の届く範囲ならば充分に発動できる。

 そう。

 俺の手の届く範囲なら、どんなに厳重に守られている金庫だろうが、この世で一番硬い体を持つゴーレムの核だろうが。

 目の前にいるのなら、神さまのぱんつだろうが関係ない。

 この世に俺の盗めないものなど存在しない!


「ペルフェクトス・ラピーナ――うわぁっ!?」


 左右に動いていた首が動きを止めた。

 そして、一気に首を縮こませる!


「ひぃ!?」

「ど、どうしますの!?」


 俺は握りしめていた拳を開き、パルとルビーの襟首をつかみ持ち上げた。


「ちくしょうが!」


 このまま首といっしょに甲羅の中に引きずりこまれたら、皮膚のたるみに圧殺されてしまう。

 そんな悲惨な最期を迎えるわけにはいかない。


「おおおおおりゃあぁ!」


 パルとルビーを無理やり持ち上げ、無理やりジャンプした。

 このまま落ちるわけにはいかない。

 恐らく、巨大レクタは首ごと俺たちを飲み込むか、もしくは頭の上から落とすことを狙っている。

 加えて、地面に落ちたところを狙ってくるはずだ。

 喰われるか、それとも顔で体当たりのように俺たちを弾き飛ばすか、それとも上から押しつぶすかしてくるはずだ。

 俺は必死で足を振り上げ、伸ばし、甲羅に顔を引っ込める巨大レクタの皮膚の『たるみ』に引っかけた。

 目論見は成功!

 恐ろしく硬いはずの皮膚なのに、柔らかそうに皮膚がたわむ。顔の横部分の皮膚のたわみに足を引っかけることができた。

 なにせ巨大レクタのわたみだ。

 俺たちから見れば普通に段差とも言えた。


「うわぁ、し、師匠!?」

「落ちますわー!?」


 なんとかその段差に片足一本でぶら下がることができたが、体は振り子状態。足を軸にして、体は思いっきり外側へ向かって揺れる。

 パルが悲鳴をあげるし、ルビーも慌てている。

 ギリギリの状態なので、たぶん、あと一往復ちょっとで落ちる。と、思う。

 俺たち、こんなのばっかりだなぁ。

 高い所はしばらく行きたくない。


「パル、頼んだ!」


 揺れる体を利用して、パルを放り投げる。それと同時に魔力糸を顕現させた。


「ひぃ――!」


 サティス改めパルは俺が精製した魔力糸を持って、巨大レクタの甲羅と首の間にある皮膚の部分に飛び移った。


「プルクラ!」

「分かってます」


 次にプルクラを放り投げようとしたことろで――


「あっ」


 だが、その瞬間に俺の足がたわみから外れた。がくん、と視線がブレるように動き、手が空を切るようにプルクラを離してしまった。

 しまった――!?

 と、思ったのもほんのわずか。

 俺の体は少し落下しただけで止まってくれた。


「んぐぐぎ! これ、あの時を思い出すからあたしイヤぁ!」

「文句言わずに耐えてくださいましぃ!」


 しっかりと足をかけて状態で、パルが俺の魔力糸を引っ張ってくれた。それと同時に、ルビーがギリギリで皮膚のたわみに足をかけたらしく、アンブレランスの裾側をベルトに引っかけてくれていたようだ。

 アンブレランスの強度をあげてくれていたラークス少年に最大限の感謝を!

 おかげで死なずに済んだ!

 ルビーよりも下段で、なんとか皮膚のたわみに手足をかけることができた。


「いやぁ、しかし――」


 さんざんお爺ちゃんに口だけか、と言われたのに対して反論したけど。


「ホント、口だけだなぁ俺って」


 弟子と愛人たる少女ふたりに助けられながら。

 俺は大きくため息をついたのだった。

 しかし。

 そんな俺を敵と見定めたように。

 巨大レクタの視線が、俺たちを捉えるのだった。

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