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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! どこの国だろうが美少女は美少女~

 森に入る前に出会った学者の青年。

 大き目の丸い眼鏡をキラリと光らせながら、俺の持ってきた地図とにらめっこしつつ、状況を説明してくれた。


「巨大レクタはこのあたりにいました」


 彼らが目撃した場所は、地図の空白地帯だった。未開の地、というわけではなく開拓をしていないだけで特に何も無い土地と思われる。

 随分と進んでいるのは、そもそもジックス街の盗賊ギルドまで情報が伝わるまでに時差だ。メッセージのスクロールを使うにしても、そう多くを用意できない。転移のスクロールよりも安価とは言え、貴重なのは間違いないわけで。

 世界各地の都市に情報が伝わるには、やっぱり人が動くしかない。


「このあたりに地図に記されていない集落は?」

「いえ、ありません。このあたりは隣国と繋がる大きな街もありませんので、あまり人が立ち寄りません。不幸中の幸いでしょうか」


 未開拓の地ということか。

 そういった場所には、実は古代遺跡があったりするので、もしかしたら冒険者のほうが詳しいかもしれない。

 そう思って男戦士クンの顔を見たのだが……


「あぁ、間違いないぜ旅人さん。のどかな風景にでっかい亀がいるのは、なんとも奇妙だった」


 そう言って肩をすくめている。

 ちなみに女神官サンはルビーの火熾しを手伝っている。なぜか楽しそうなふたりだった。

 ちなみにパルは疲れているのか、ぺっとりと地面に横たわっている。魔力を酷使したせいで温まった体を冷やしているようだ。


「対象の大きさは、まぁ説明せずとも分かると思いますが、この道が削られている幅に足を二本分足した大きさです。高さは周囲に比較するものがありませんので、ちょっと難しいですが……イメージでは王都のお城の高さに似ているかと。つまり、お城がまるまるひとつ要塞と化して動いているような感じです。非常にゆっくりとしたペースで歩いており、馬よりも遅く、人が歩くよりは速い。馬車でゆっくりと移動するか、人が走る速さですね。昼夜を問わず常に動き続けており、恐らく今はこのあたりでしょう」


 学者さまは地図に石を置く。

 地図でみると、ちょうど山に差し掛かる頃だった。レクタ・トゥルトゥルは山だろうと湖だろうと崖であろうと迂回することはない。

 そう考えると、山を移動する際は速度が落ちると考えられる。さすがに山をまるごと削れはしないだろうし、トンネルを掘るわけでもない。

 不格好にも愚直に真っ直ぐに、木々を薙ぎ倒しながら進み続けるんだろう。


「巨大レクタの進む方角を詳しく記してもらえないか?」

「えぇ。そちらの世界地図のほうが正確ですね。照らし合わせても?」

「もちろん」


 学者さまは自分のカバンからメモ帳と思わしき紙束と折りたたまれた地図を取り出して、俺の持ってきた世界地図の上に広げた。

 それと合わせて、より正確な方角を紙の上に記してくれる。


「今のところ、レクタはこの方角に進んでいます。都度、修正が必要であると思われますが、第一報はこれで発布します」


 発布。

 もしかしたら、この学者さまは国の偉い人なのかもしれないな。

 なんにしても俺よりも正確な星読みの情報のはず。

 しかし――


「マズイな」


 第一報。

 今の段階での情報では、巨大レクタはパーロナ国を通過する。

 どこまでズレるか分からないが、多少ズレたとしてもパーロナ国は確実に通過することになりそうだ。

 運良く、何も無いところを通ってくれればいいが……主要な街などを通ってしまった場合の被害はとんでもない。

 たかが橋の一本で失敗しただけで街の活気はどん底まで低迷してしまったのだ。その街の領主の対応次第では、どん底の底が抜けてしまう可能性もある。

 それこそ街ならまだいい。

 村や集落の場合は平気で見捨てられ、無かったことにされてしまう。

 またそれとは別として。

 森がひとつ消滅してしまうだけで食料事情が変わってしまい、村や集落の営みが崩れてしまうことも考えられた。


「……」


 遠く離れた国のことならば、まだ平気でいられたが。

 故郷の有事となれば、どうしても助けなければ、という思いが生まれる。

 まったくもって。

 自分のことを、底の浅い人間だと笑いたくなってくる。

 なにより。

 元勇者パーティのメンバーとしては情けない話だ。

 地元しか救う気がない勇者の仲間なんて、きっと笑い者だ。

 目の前の困った人たちを救うだけ。

 手の届く範囲だけしか、人を助けないなんて。

 ――それこそ、勇者パーティ失格ではある。

 追放して正解だった、と賢者と神官は笑うだろうか。


「どうしました?」

「――いや、なんでもない。いや、なんでもなくは無いな。すまない……いま、この瞬間にもテイスタ国に住む人たちが困っているっていうのに、俺は自分の国の心配ばかりしてしまった。自分本位だと、ちょっと反省してるところです」


 俺は肩をすくめながら思いを吐露した。

 そんな俺に対して、男戦士クンはちょっと驚いた顔をしている。


「あんた優しい人だなぁ。オレなんて自分の故郷が離れていて良かった~、なんて思ってたぜ」

「僕も似たようなものですね。人間の心配より、レクタの通る道のほうが興味ありました」


 ふたりは苦笑しつつ、そう言った。


「……そういうもの、なんだろうか」

「あぁ。むしろ、あんたは正しいよ。誰だって他人より自分だ。つまり、よその国より自分の故郷が心配ってことだ。落ち込む理由なんてどこにも無いぜ、旅人さん。誰だって故郷は心配なもんさ。生まれ育ったんだから、当たり前だし。縁もゆかりも無い人間を心配するほうが、ちょっとおかしいってもんよ」


 男戦士はケラケラと笑って俺の肩をバンバンと叩く。


「そうですね。たとえ世界を救う勇者であっても、そんな考えだと思いますよ? 神さまではないのですから」


 学者さまの言葉に少しばかり動揺し、あいつは人間領全てを心配してるぞ、と否定しそうになるがグっとこらえる。

 でも、そんな程度のものなんだろうか。

 勇者ですら、そういうものだと思われているんだろうか。


「そんなもんかな」

「そういうもさ」


 男戦士クンの笑い声に――救われた気分だ。

 そういうものですよ、と学者さまも笑っている。

 本当にそういうもの、なんだろうか。

 学者さまが言うのだから、間違いはない。なんて、妄信的に納得するわけではないが。それでも、なんとなく納得できたような気がしないでもない。


「ところで優しい旅人さんよ」

「俺は優しくないが?」

「あんたが優しかろうが卑劣だろうが、どっちでもいいんだが」


 男戦士クンが俺の肩を組んで、こっそりと聞いてきた。

 馴れ馴れしいが、まぁこういうタイプは嫌いではない。


「あんたの雇ってる冒険者の女の子。めっちゃ可愛いんだけど、どこで雇ったんだ? やっぱ北国か?」

「あ、それ僕も気になります」


 下世話な話に学者さままで首を突っ込んできた。

 さすがパルとルビー。

 顔だけは一人前だなぁ。

 で、気になったのは――


「北国?」


 どういうことだ?


「聞いたことねーか? 北国には美人が多いって」

「あぁ、なんか聞いたことあるな。アレって、北国は寒いから日に焼けず白い肌の女性が多いっていう意味だと思ったんだが?」


 北方の国は冬を象徴する『静寂を司る神』や月の精霊女王の信仰があつい。そのせいで、冬は冷たく長く寒くなってしまうので、人々は家の中にこもりがちだ。

 そんなこともあってか、北国の女性は色白な者が多く、南方の人間からしてみれば、珍しくも美しく見えるのかもしれない。


「おぉ~、確かに」

「なるほど、それは興味深い」


 ふたりは勝手に納得してしまった。


「じゃぁ、あの美少女ちゃん達は北から来たってことか?」

「いや、黒髪のほうは確かに北国の娘だが、金髪のほうは俺と同じパーロナ国出身だぞ」


 ルビーの出身地を北国と言っていいのかどうか、ちょっと微妙だけど北と言えば北だった。

 ただし、魔王領である。

 まぁ、確かに肌の白い美少女だしなぁ。その正体は吸血鬼だし、血の気は多いのか少ないのか、ちょっと良く分からないが。

 北国出身といっても違和感は無いだろう。


「半分正解ってことだな。いや、でもよ学者さま。ここより北ってことで中央の国も充分に北国って考えられるよな?」

「素晴らしい理論ですね。確かにそう言えます。逆説的に南国には美人がいないことになってしまいますが、それには目をつぶりましょう」


 いやいやいや!

 目をちゃんと開きやがれ学者ァ!

 と、言いたかったが我慢した。

 俺は卑劣な男だからな。

 南国の美少女たちにボコボコにされても、俺は君たちを平気で見捨てる。そんな酷い男なのさ、俺は。


「あの神官さんも、それなりに美人なのでは?」


 俺は盗賊スキル『妖精の歌声』をわざわざ使って、ふたりの失礼な男に聞いてみた。もちろん、俺の今の言い分も充分に失礼なのは重々承知している。

 まかり間違ってもこの会話を女神官さんに聞かれるわけにはいかないので、スキルを駆使して聞いてみる。

 妖精の歌声のコツは、小さい声量でもハッキリと発音することだろうか。ごにょごにょ、と濁らせるのではなく、ちゃんと伝える意思と言葉の選び方だ。

 多少は聞こえなくても、聞き手が補完してくれる。だからこそ、スキルを使って突拍子もない話題を振るには向いていない。

 あと、人混みや騒音の中で使う場合はちょっと鼻声にするのがポイントだったりする。もちろん、戦闘中に使ってるヒマなんて無いので、冒険者には必要の無いスキルだ。


「いやいや旅人さんよ、見てみろよ」


 男戦士クンが親指でクイっと後ろを示す。

 そこには焚き火が完成し、干し肉をあぶって食べている女神官さんとパルがいた。


「色気よりも食い気が勝ってる女でよぉ。いやまぁ、嬉しそうにいっぱい食べる女ってのは悪くない。むしろ可愛い。が、たまにはお淑やかで小食なレディと食事をしたくなるぜ?」

「そういうものなのか?」


 さっきまでヘロヘロに寝ていたはずのパルが嬉しそうにいっしょに干し肉をあぶっている姿は可愛いので、俺的には問題ないのだが。


「そういうものさ。まぁ、次は北の国で冒険でもするかね」

「あんた達は夫婦なのか?」

「おう。定住の地を探して冒険者をやってる。なかなかイイ国が見つからんのでなぁ。旅人さんのおススメはあるか?」

「そうだな……花の国フロスは綺麗な国だったが、貴族たちが威張り散らしていたのが難点か。その隣にある『開かれたエルフの森』はどうだろう?」

「あ、オレたちはそこ出身だ」


 その言葉に、俺は肩をすくめるしかなかった。


「だったら一度故郷に戻ってみることをおススメするよ。世界各国を旅してきたんだが、やっぱりなんだかんだ言って故郷はいいもんだぞ」

「そういうものか? いや、そういうものだな」


 あぁ、と俺はうなづいた。


「そろそろ馬も休めたので行きましょう。話に乗ってくれてありがとう、旅人さん」

「いや、こちらこそ情報提供感謝する。少ないが、もらってくれ」


 俺は中級銀貨三枚を学者さまに手渡した。

 彼は素直に受け取り、そのうちの二枚を男戦士クンに手渡す。


「オレたちゃ何にもしてないのに、悪いな旅人さん」

「正当な評価だと思ってくれ」


 なにより詳細な情報を手に入れられたのは、彼らの護衛と馬車があったからこそ。だったら、男戦士クンと女神官サンにも多少は旨みがあってもいいはずだ。


「ばいばーい」


 出発していく冒険者の馬車を相手に、干し肉を手に持ちながら手を振るパルを見て思う。

 うん。

 干し肉代金としても有りだったんじゃないか、と。


「とりあえずの情報はそろったな」


 巨大レクタの実際の大きさはこの目で見ていないが、速度と進む方角はだいたい分かった。

 ひとまず、依頼はこれで完了となるはず。


「あとは、殺せるかどうか」


 巨大生物の殺し方。

 そんな手本などあるはずもなく。

 ましてや、レクタ・トゥルトゥルの詳しい生態すら分かっていない。

 仕方がない。

 勇者パーティだったころは、いつだって相手は初見だった。

 今ある手持ちのカードで勝負するしかない。


「まずは日が落ちるのを待とう」


 夜になれば、ルビーの眷属で移動ができる。

 かなりの距離が空いているが、三日くらいで追いつけるんじゃないだろうか。

 今こうしている間にも巨大レクタは移動し続けているはず。刻一刻と離れていっているので、馬車よりも速い速度で走り続けられるルビーの眷属に頼る他ない。


「頼むぞ、ルビー」

「任せてくださいまし、師匠さん」


 それまでは休憩だ。

 というわけで、パルといっしょに干し肉をあぶりながら水を飲んだりして、俺たちはゆっくりと休んだのだった。

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