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~卑劣! 橋は村になっていた~

 ジックス街に帰ってきた翌日。


「パル、ルビー。完成した橋を見に行こうと思うんだが、来るか?」


 朝食を終えた後、ふたりに聞いてみる。

 盗賊ギルドの仕事がホイホイと舞い込むわけもなく、しばらくはフリーな状態。だからといって『盗賊らしい』仕事をする気にもなれないし。

 あまり優遇してもらうとルクスにも迷惑が掛かる。

 ただでさえ『美味しい仕事』として、学園都市行きの仕事をもらったんだ。振り分けられる仕事を横取りするのは、しばらく控えないといけない。

 もっとも――

 お金には余裕があるので、セカセカと働く必要は無いわけで。

 この期間を利用して、しっかりとパルの修行をするのも悪くない。

 投擲技術は申し分ないが、魔力糸の顕現には少し苦手意識がある感じか。そろそろスキル用の『針』を持たせていい頃合いだが、あまり急ぐとその他がおろそかになってしまう。

 実戦経験も積ませたい。

 弟子を鍛えるっていうのもなかなかバランスが難しい。

 急いで勇者の元に送り込んだところで、役立たずでは意味がないからなぁ。賢者と神官に追い返されては、俺の二の舞だ。いや、二の舞どころか俺の精神的ダメージが計り知れない。

 二度と立ち上がれなくなってしまう。

 早いうちに、パルにも盗賊の基本スキルである『ぬすむ』や上位スキル『ぶんどる』を教えないといけないが……まだ難しそうだな。

 どちらかというと『ぬすむ』より『ぶんどる』が優先されるか。

 相手にダメージを与えつつ、相手の武器を奪う。

 これほど理想的な攻撃は無い。一撃で相手を無効化し、制圧できるわけだ。

 魔物相手でも、人間が相手でも。


「橋見に行くんですか! あたしも行きます!」

「では、わたしも」


 ルビーにはついでに街の案内も兼ねればいいか。


「いえいえ、それには及びませんわ」

「どうして?」


 俺より先にパルが疑問を告げた。

 案内してもらったほうがいいのに、と俺も思うが。

 果たしてルビーはにっこりと答える。


「自分で覚えますわ。そのほうが楽しいですから」

「なるほど」


 退屈に殺されかけていた吸血鬼ならではの発想かもしれない。


「近づいてはいけない場所などがあれば、参考までに教えて頂けると嬉しいですわ。トラブルは起こしたくありませんので。師匠さんの名に傷が付いてしまいます」

「それ、逆に行ってみる気だろ……」


 俺の言葉に、あら、とルビーは口元を手のひらで隠した。


「嬉しいですわ、師匠さん」

「別におまえの身を案じた訳では――」

「わたしの性格をすでに見抜いているなんて。もう、わたしの全てを理解されていると。これは、すでに熟年の夫婦と言っても過言ではないでしょう」


 過言ですけど?


「どこが熟年夫婦よ。ただの『みやぶる』だよね、師匠」

「野暮なことを言う小娘ですわね!」

「ふぎゃー!」


 ルビーはパルの口に指をつっこみ、左右に広げた。

 仲良しで結構けっこう。


「ほれ、行くぞ。あんまり騒ぐとリンリー嬢に怒られるからな」


 ジックス街一番の高級宿ということもあって、泊まる側である客の質も高い。そんな中でドタバタと騒いでいると、やっぱり品位というものが落ちてしまうので。

 他の客に迷惑が掛かってしまう上に、宿側にも迷惑になってしまう。

 追い出されることはないが、それにも限度があるはずだ。

 大人しくしておいて損は無い。

 はーい、と素直に返事をするパルとルビーの頭を撫でてから、俺たちは部屋を後にした。

 廊下を進みエントランスまで来ると、朝から窓掃除をしているリンリー嬢と出会う。


「おはよう、リンリーさん」


 率先した挨拶するパルに続いて、俺とルビーも挨拶した。


「おはようございます、皆さん。どこかお出かけですか? もしかして、また仕事でどっかへ行っちゃうとか?」


 ちょっと寂しそうなリンリー嬢。

 どこか裕福な商人ばかりを相手しているので、パルとルビーの存在はリンリー嬢にとっては、やっぱり貴重らしい。

 俺は、首を横に振ってから橋を見に行くことを告げた。


「完成した橋ですか。かなり立派でしたし、便利になってましたよ」

「見に行ったの?」


 パルの質問に、リンリー嬢はうなづく。


「完成式? お披露目祭り? みたいなのがありましたので、パパにお休みをもらって行ったの。お祭りみたいで楽しかったから、つい」


 えへへ~、とリンリー嬢は笑う。


「今、パパと言ったか?」

「え? あれ、前に言いませんでした? わたし、正真正銘の『看板娘』ですよ」

「いやそうじゃなくて。なんというか、あまり似合わないな、と」


 客商売で考えると、あまりパパという単語は使わないほうがいいな、と思ったのだが。というか、どうにもその一般的には誘惑武器である巨乳を持ったお年頃の娘さんが『パパ』というのは、なんとなく淫靡な物を感じる。

 俺にはまったくもって効かないが。

 うん。

 たとえリンリー嬢にお兄ちゃんと呼ばれてもノーダメージだ。

 ロリ巨乳は俺の守備範囲外。

 考えても見てほしい。

 幼く純粋な少女である『ロリ』という概念に対して、成熟した大人の証明でもある『巨乳』。それらふたつの属性を合わせるということは、『火』属性に『木』属性を合わせるようなものではない!

 むしろ火に土だ。

 お互いの良いところを消し合っている!

 上等な肉にハチミツをぶちまけるような冒涜に等しい!

 と、俺は思っている。

 うん。

 まぁ、あくまで俺の意見なので、別にロリ巨乳が好きな人を否定するわけではないよ。

 うん。

 友達にはなれそうにもないけど。

 うん。

 で、どうやら俺の意図を理解してくれたらしい。

 リンリー嬢は慌てて言い直した。


「ハッ! 父です、父。父にお願いしてお休みをもらいました」


 ちち、という言葉を連呼する巨乳。

 なるほど。

 そりゃ周囲の男の目を惹いてしまうので、パパというのもうなづけるというもの。

 しかし、やっぱり客商売をしているのであればパパよりも父のほうが良いよな。

 なんにしても。

 パルとルビーという新しい同性の友人ができたことにより、すっかりと油断していたようで。

 リンリー嬢は周囲からの視線に胸を隠すようにしながら、あはは、と誤魔化し笑いを浮かべた。


「ま、パルたちと仲良くしてくれ。しばらく仕事もないだろうし、お世話になるよ」

「はい。父に代わりまして、よろしくお願いします」

「パパでいいのに」

「パパと言ってるリンリーは可愛いですわよ」

「父です!」


 巨乳をバルンと揺らすようにリンリー嬢は叫んだ。

 周囲の視線が、なぜかリンリーを経由して俺へと突き刺さる。

 なんでだよ!

 俺は悪くねぇ!

 むしろ巨乳ってなんか気持ち悪くない!?

 っていう立場を表明したい気分だ。

 パルとルビーの薄い胸が好きです。

 素晴らしい。

 撫でまわし――いや、なんでもない。

 ノータッチ、ノゥ・タッチだ!

 というわけで、リンリー嬢狙いの青年商人たちに恨まれる前にさっさと宿から出る。

 中央広場から東に向かって歩いていけば、街の出入口である門がある。前までは東側に用事がある者など冒険者くらいだったので、こちら側は少々さびれていたのだが……


「印象が変わったな」

「はい。前はもっと人がいない感じだったのに」


 人通りが多くなっているというか、ひっきりなしに馬車が大通りを通っていた。見れば、東門に続く大通りも新しく舗装されている。

 それはそのまま街の外へと続いており、橋に向かって一直線に道が舗装されていた。


「おぉ~」


 いわゆる『街道』が新しく設置されていた。

 いや、この場合は施設されていた、と表現するんだったか。

 とにかく、新しい道が真っ直ぐと続いていた。

 前は地面が剥き出しになっていた道が、今では立派な街道となっている。ドワーフ国から来てもらった、あのドワーフたちの仕事に違いない。

 橋を作っても、まだまだ仕事は多そうだ。

 道が立派になれば、人通りも多くなる。馬車だけでなく商人の姿や冒険者パーティの歩く姿もあった。

 新しい街道をそれなりの距離を歩いていくと、やがて見えてきたのは――


「村?」


 橋が見えてくるかと思ったら、その前に村が見えてきた。


「あんな村ありました?」

「いや、無かったよな」


 俺とパルは目をぱちくりとしながらお互いに顔を見合わせ、首を傾げた。


「新しくできた村ではありませんか? ほら、建物が新しいですわ」

「あ、ホントだ」


 どの建物も木材が新しく見える。

 そういえば、川の手前に木々が生えた林があったはず。そこを切り拓いた時の木材で建てた建物だろうか。

 村に到着すると、そこそこ活気があるらしく賑わっていた。特に食事ができる店は人が多く集まっている印象だ。

 確かに街道が敷かれているとは言え、それなりの距離がある。ここで安全に休憩できるのはありがたい。

 舗装された道は村の中にも続いていた。

 その道を真っ直ぐに進むと、ようやく橋が見えてくる。


「これは……凄いな」


 想像していたよりも、遥かに立派な橋があった。

 大きく高い石柱が左右に二本立てられ、そこに金属を結い上げたようなロープで橋が吊られている。


「吊り橋か」


 なるほど。

 吊り橋ならば、どんなに川の流れが強くとも影響は無い。

 もっとも――

 馬車や大勢の人が通れるほど、丈夫な橋が作れるのなら、の話だ。

 そこらの職人では不可能な芸当だろう。

 さすがはドワーフ国の職人たち。

 立派な仕事だ。

 橋に繋がる道は徐々に坂道になっており、馬車もそのままスムーズに渡れるようになっていた。

 俺たちはそのまま橋に進み、欄干から川岸を覗く。


「師匠、凄いです。川まで舗装されてますよ」

「あぁ。川岸を舗装してやれば、これ以上は崩れることはない。川の形も変わらないってことだ」


 しかし、まぁ――あの暴れ川だった川岸を良く舗装できたものだ。それなりの危険があるだろうし、なにより技術力が凄い。

 加えて、途方もないお金が必要そうだが……どうやらイヒト領主は、俺が寄付した金塊の全てをここに注ぐ勢いで使ったんだろうな。

 川岸を見れば、川上のほうまでずっと舗装が続いている。試しに川下のほうも見てみるが、そっちへ向かっても舗装は続いていた。


「素晴らしいですわね、人間の技術というものは。これほどの水量の川を御するなんて、想像もできませんわ」

「確かにな。魔王領はどうしてるんだ?」

「わたしの領地ではドワーフに任せていました。でも、ここまでの技術はありませんでしたわ。どうしても治水できない川があったので、魔王さまに相談してみました」

「ほう。どうなったんだ?」

「魔王さまが新しく川の支流を作ってくださり、川の水が分散して大人しくなってから工事しました」

「……それ、どうやって支流を作ったんだ?」

「こう、ズバっと」


 ルビーは空中にチョップした。

 うわぁ……

 それで川に支流ができるんだ……


「師匠。あたし、なんで生きてるんでしょうね」

「俺も同意見だ」

「やめてくださいまし、ふたりとも。あれはわたしの失敗でもあるのですから」


 なんにしても。

 生きてるので良かった良かった。

 その後、橋を渡ってみると反対側にも村ができていた。こちらは木材だけでなく石を使った建物もあるので、雰囲気はちょっと違う。

 橋が完成したおかげで人通りも多くなり、ジックス街の東側にある村や街との交流が盛んになったんだろう。

 今まで南側からぐるっと回る必要もあったが、今では真っ直ぐに向かうことができる。

 更に言うなら、王都へも遥かに行きやすくなったわけだ。

 この『情報』が、かなり大きい。

 今までは王都から遠いと思われていた街が、近くなったわけだ。やはり王都はいろいろな物の中心であるから、近ければ近いほどその恩恵がもたらされる。

 お金をかけた分だけ、お金を生む。

 新しい村ができたので、それは尚更だ。

 人も物も動くので、より一層とお金も動くだろう。


「上手くいってなによりだ」


 まだまだ橋の村は大きくなるかもしれない。

 そんな雰囲気を感じる。

 なにより、この計画の一端を俺は担っていたわけなので。

 成功したことを、ちょっと嬉しく思うのだった。

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