~流麗! 美少女三人よれば姦しい~
わたしの影から顕現された巨大な腕。
これもまた眷属の部分召喚、部位召喚とでも言いましょうか。
乱暴のアスオエィローの腕を参考にして形を作ってみましたが、ちょっと不気味な腕だけの魔物な感じですね。
ガッチリと足を掴まれ、逆さ吊りになっているニンジャ娘はわたわたと巨大腕から逃れようとしているようですが無駄です。
「自分の足を切り落とすくらいではないと逃げられませんよ。もちろん、そんな足では満足に走ることもできないので、根本的には逃げるのは不可能です。あきらめてください」
「う、うぅ……シュ、シュユをどうするつもりでござるか?」
一通り、暴れたり体を起こして腕をポコポコと殴ったりしたニンジャ娘ですが、力ではどうしようもないと諦めたらしく、再びぶら~んと逆さ吊りに戻った。
一応、羞恥心はあるみたいですわね。
前掛けのような、スカートのような、ニンジャ服をお股のところで押さえて隠したようです。
「安心なさってください。殺しはしませんわ」
うふふ、とわたしはワザとらしく笑ってみせる。
もちろん、本当に殺したり眷属にしたりする意思はありません。
単純にパルがいろいろな意味でお世話になったので、お礼をするだけです。
師匠さんに言われましたからね。
敵対するな、と。
ですが、それを伝えては面白くありませんので、しばらくは反応を楽しみましょう。
「も、目的を言うでござる」
「あなた、吸血鬼という魔物を知っているかしら?」
ニンジャ娘は、知っているでござる、とうなづいた。
わたしから見れば、逆さまになっているので、視線が合った、という感じですが。
「吸血鬼の好きな物って、なーんだ?」
わたしは、スカートを折りたたむように膝を曲げて、ニンジャ娘と顔の高さを合わせた。そのままツンツンとほっぺたを突っつく。
パルもそうですが、むにむにのほっぺたですわね。
柔らかい。
むにっとつまんで、うにょーん、とどこまでも伸びそうな……いえ、伸ばしてみたい誘惑に駆られますが。
そんなことをしたら人間のほっぺたは大変なことになりますので、やめておきましょう。
「えっと、血、でござるか?」
「おしい」
ざんねーん、と言いながらわたしはニンジャ娘のほっぺたを両手でつまんだ。
「正解は、『処女の血』でした」
「ひぃ!?」
別に、おまえの血を飲むぞ、と言ってないのに。
ニンジャ娘は勘違いしたのか、やだやだやだ、と顔を横にふりました。
もちろん、わたしはほっぺたを持っているので、ぺっちんぺっちんと指がつまむように外れる。
「んぎゃぅ」
あら、痛そう。
でもわたし、何もしていませんので。
あくまでニンジャ娘が勝手に暴れて、勝手に痛がってるだけです。
「拒絶するということは、あなた処女なのね」
「あ、違うでござる。シュユはもう淫乱の淫売で、ところかまわず男を抱く変態でござる。処女なんて生まれた時に捨てたでござるよ!」
「もう遅い」
「あぅ~……」
自分で言っておいて真っ赤になるとはどういう了見でしょうか。
危ないあぶない。
こんな可愛らしい娘を師匠さんに見せたら、イチコロになってしまいます。仮面商人と敵対するなと言っておいて、師匠さんが敵対しそうですわ。
「ルビー、捕まえたの~?」
おっと。
さすがにここまで音を立ててしまってはパルも気付くでしょう。事務所の入口からひょっこりと顔を覗かせてきました。
「捕まえましたわ、どうぞ入ってきてください」
「はーい。あ、だいじょうぶシュユちゃん?」
逆さまに宙吊りになっているニンジャ娘に気付き、パルは嬉しそうに声をかけました。
心配はまったくしていないので、この小娘も大概な性格ですわね。
「うぅ、パルちゃん助けて」
「うへへへへ」
手を伸ばしてくるニンジャ娘に対して、パルは額をツンツンと突っつく。
完全に面白がってますね。
ホント、いい性格をしています。
魔王さまに、妙な儀式を仕掛けたのも分かるというもの。
もう絶対に眷属状態のパルに自由を与えてはいけない。
なにをするか分かったものではありませんわ。
「そろそろ頭に血が登って、危ないかもですわね」
顔が赤くなってる理由は羞恥からか、それとも逆さになっているからか。
あまり逆さまにし続けると危険そうなので、わたしはパチンと指を弾いて眷属の形を変える。
「うわぁ!?」
床から突き出していたかのような影は、そのままぐにゃりとスライムのように形を変え、ニンジャ娘の体を縛るように変化した後、両手両足を広げるように拘束させた。
ちょうど『大』の字と言うべきでしょうか。
部屋の天井と床の四隅から引っ張るようにニンジャ娘を拘束しました。
囚われのお姫様のポーズとしては、少々足を広げすぎ。どちらかというと、ぐへへと嫌らしい男たちに捕まった姫騎士の姿でしょうか。
お似合いですわね。
「くっ、殺せ」
「あ、冒険者の女の子が一度は言ってみたいセリフナンバー3くらいには入るやつだ」
「……えへへ。ちょっと言ってみたかったでござる」
余裕あるじゃないですか。
ていうか、なんですのその『女の子が一度は言ってみたいセリフ』って。
「ちなみにあたしが思ってる言われてみたいセリフナンバー3は、『おまえを一生許さない』」
「あ、いいですわねそれ」
「分かるでござる」
一生許してくれないってことは、一生わたしのことを思ってくださるってこと。
シチュエーション的には、アレでしょうか。ちょっとイタズラを仕掛けて、困らせた後。殿方が怒りながら言うのです。
やめろよ~、一生許さないからな。
と。
「笑顔で言われるとポイント高いですわよね」
「雨の日に、ちょっと困り顔で言われるといいかもしれないでござる」
「あたしはぎゅ~って抱きしめられながら言われたい」
それもいい! と、ニンジャ娘といっしょにうなづきました。
同じセリフでも状況によっていろんな解釈がありますね。ですが、想像する相手は全て師匠さんですので、ちょっと照れが混じりつつも言って欲しい気がしないでもないです。
うんうん。
「そういえばシュユちゃんってセツナさんのことが好きなの?」
「な、ななななな!? だだだ、誰がそんなことを!?」
「ナユタさんが言ってたよ」
「姐さん!?」
ひゃぁー、とニンジャ娘は真っ赤になりました。
顔を隠したいようですが、両腕は拘束されていますので隠せません。
残念ですが拘束を解くわけにもいきませんので、生き恥をさらしてもらいましょう。
「セツナさん、いい人そうだもんね」
「は、はい。ご主人様はとても尊敬できるお方でござる。シュユはご主人様にたくさん助けられてきました。ご主人様ほどステキな人はいません!」
「ござるを忘れてますよ、ニンジャ娘」
「ハッ!」
本音を隠す『仮面』のようなものでしょうか。
ござるを使うのは上辺だけ。
本音のところは、普通に話すのかもしれませんわね。
「うぅ、シュユは未熟でござる」
がっくりと――肩を落とせないので、顔を落とすニンジャ娘。精神的ダメージを受けているのがありありと見て取れます。
ふふ。
復讐としてはこれくらいでいいでしょう。
あまりやり過ぎるとうらまれますし、それこそ復讐の連鎖が始まってしまうかもしれませんからね。
少しだけニンジャ娘の仮面を剥がせた、というところで手打ちにしましょうか。
「シュユちゃんはセツナさんとキスした?」
「ほへぁ!?」
パルの追撃になんか妙な悲鳴をあげましたわね。
「ま、ままま、まだです……あ、まだでござる」
「マダってことは、いずれするつもりですのね。さすが『くのいち』。そういう術は得意なのかしら」
「れ、練習はしていたでござるが……くのいち同士でしたので、男の人とはまだ無くて。自信がないでござる」
なんでしょう……聞いてよかったんでしょうか……
えぇ~……
くのいちって、ちゃんと練習するんですね……
「女の子同士で練習するんだ。すごーい」
「はい。ウブな生娘から熟練の花魁に至るまで、あらゆる表現ができるように練習します。どんな娘が好きな殿方であっても対応できるように、と先生に教えられました。更に言うなら、処女は武器になるので取っとけ、と教えられました。あっ、で、ござる」
「ほへ~。セツナさんは、どんな女の子が好きそうなの?」
「え、えっと……そのままのシュユがいいよ、と言ってくださいまして」
「ひゅー」
「あらあら~」
わたしとパルはニンジャ娘を茶化すようにペシペシと叩いた。ニンジャ娘も満更ではなさそうに笑う。
「でもきっと、ご主人様はウブな感じが好きだと思います。シュユも、初めから大胆なご主人様よりも、ちょっぴりおっかなびっくりと手を出してくる感じが好きなので。そっちのほうがいいな~って思うでござるぅ」
「わっかる~ぅ」
「同意見ですわ。初めてだって言ってる殿方が、なぜか自信満々に慣れた手つきで触ってこられては興覚めですもの。ふたりでゆっくりと、どこがいいのか、どんなふうがいいのか、それを調べながら愛を育んでいくのが理想ですわよね!」
三人でうなづきあいました。
わっかるぅ~!
ふぅー!
た~のし~ぃ~!
「分かります分かります! いやぁ、楽しいでござるな。今までこんな話ができる友達がシュユにはいなかったでござるよ」
「あたしもあたしも! ルビーはなんて違うし、シュユちゃんだと分かりあえる感じ!」
「嬉しいでござるパルちゃん! もっといっぱいこんな話がしたいでござる」
「うんうん、もっといっぱいしよう~!」
小娘とニンジャ娘が盛り上がってますけど。
でも、これ……
「猥談ですわよ。殿方が聞いたらドン引きするやつです。まぁ楽しいことは楽しいですが……って、どうしましたパル?」
なぜかきょろきょろと周囲を見渡し始めたパル。
挙動不審といいますか、落ち着きがないといいますか。何者か近づいているのでしょうか?
わたしの探知には引っかかっていませんし、そのあたりの能力が高そうなニンジャ娘も何も気付いていないようですが。
「いや、おしっこ行きたい」
「はぁ……フルーツいっぱい食べてましたものね。トイレでしたら、ここにありますわ」
「どこ?」
「ここ」
わたしはニンジャ娘の口を指差す。
と、同時にぐるんとニンジャ娘を回転させて、再び逆さ吊りにした。
これで丁度良い高さになるでしょう。
「シュユちゃん、飲む?」
「あまりノドは乾いていないので、今は別に大丈夫でござる」
「……いやいや、あなた達。もっと嫌がりなさいよ」
普通は、えぇ~、とか、やめるでござるぅ、とか言うんじゃなくって?
「水たまりの泥水よりマシだった」
「訓練で飲んだでござる」
「わたしが悪かったわ」
自分がぬくぬくと好待遇で吸血鬼をやっていたのが、なんか申し訳なく感じました。
わたしも飲んだほうがいいのでしょうか?
血液から出来ていると聞いて母乳は飲んだことあるんですけどね。
う~ん?
とりあえず、向かいのドアがトイレであることをパルに教えて、その間にニンジャ娘の拘束を解きました。
ホッと胸を撫でおろすニンジャ娘に手を差し伸べて立たせてあげる。
「それで、探している資料は見つかりました?」
「うっ……バレているのでござるなぁ。ここでの調査はこれで最後です。え~っと、これです」
開けっ放しになっていた棚から、紙束を取り出すニンジャ娘。
「持ち帰ってご主人様が精査するでござる。それが終わるたび、元の位置に戻しつつ、次の資料を持ち出しているでござるよ」
「面倒なことしてるわね。一度に持っていったらいいのに」
「騒ぎを起こしたり迷惑をかけるのをご主人様は嫌っているでござるよ。だから、できるだけバレないようにしているでござるが……パルちゃん達に迷惑をかけてしまったようで」
ごめんなさい、とニンジャ娘はあやまった。
「師匠さんは、良い訓練になった、と喜んでいましけど。ケジメはケジメですので」
「は、はい。できれば左腕にしていただければ……」
「なにが?」
「ケジメですので、左腕一本で勘弁して欲しいでござる」
なにその文化。
これだから義の倭の国の人間は怖い。でも、面白い。いつか行ってみたい。
「そこまでは望んでないわ。さっきわたしがイジメたので充分です。あなたの『ござる』も壊せたようですし」
「あう」
「なんなら、あなたのご主人様の前で無理やりわたしの眷属に犯させる、というものでもいいですわよ」
せっかく処女を守っているのですから、それをぶち壊しにしてやるのも愉快そうです。
「や、やめてください。ご主人様が目覚めたら大変なことになっちゃう」
「自分の心配をしなさいよ、自分の。なに好きな男の性癖の心配してんのよ、このスケベくのいち」
わたしはニンジャ娘のほっぺたをつまむ。
「いひゃいでごひゃる」
「ただいま~。あ、もう帰るの?」
パルが戻ってきたので、ぱっちん、とほっぺたを弾く。
「えぇ、お礼もできましたし、そろそろ帰りましょう。あまり長く留守にしていると師匠さんがハイ・エルフに襲われているかもしれません」
師匠さんがハイ・エルフを襲う心配はありませんが、ハイ・エルフが師匠さんを襲う心配があります。
「確かに」
「そ、そちらのエラントさんはモテるんでござるなぁ」
「あら、あなたのご主人様もイイ男でしたわ。気を付けることねニンジャ娘。しっかり見張っていないと、別の女に捕られるかもしれませんわよ」
「いえ、ご主人様は大丈夫です! そんじょそこらの誘惑に負けるようなご主人様ではございません」
「パルが迫っても問題ない、と言い切れます?」
「――だ、大至急帰りたいと思います。で、ござる」
それでは御免、と言い残してニンジャ娘が慌てて駆けだしていった。忍術で消えなくて良かったのでしょうか?
窓から飛び出すと、あっという間に加速して屋根の上を走って行きました。
「わたし達も帰りましょうか」
「はーい」
というわけで、パルがドラゴン娘にお世話になったお礼をニンジャ娘で果たすことができました。
満足できましたので、今夜は師匠さんといっしょにベッドで眠りたいと思います。
あぁ~。
楽しかったです!