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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~流麗! 羽と耳としっぽ~

 夜。

 人間の時間は終わり、わたし達魔物の時間が始まりました。

 太陽の光が届かなくなると同時にわたしの能力が戻る。ベッドに隠していた少女画を取り出すと、影の中に沈めた。

 これで今晩も無事に守り切ることができるでしょう。

 わたしの奥底に手を伸ばすことができるのは、師匠さんだけなのですから。


「さて。それではおでかけしましょうか、パル」

「え~」


 パルはくちびるを尖らせる。

 この小娘、まだ納得していないようですわね。あなたがお世話になったのですから、その仕返しに行くっていうのに。

 おっと。

 仕返しとは言葉が悪いですわね。

 あくまで、挨拶。

 暴力は禁止ですから。


「わがまま言わないの。師匠さんに嫌われてしまいますわよ?」

「うっ。師匠ししょう」


 くちびるを尖らせながらも師匠さんに質問するパル。


「なんだ?」

「わがままを言わない素直な三十歳の女性と、わがままを言うあたし。どっちが好きですか?」

「パルだ」

「へへん!」


 なにを自慢気に胸をそらしているのでしょうか、このちんちくりんは!

 現実を思い知らせてやりましょう。


「では師匠さん」

「なんだ?」

「わがままを言う金髪美少女と、素直でなんでも言うことを聞いてくれるステキな黒髪美少女。どっちが好きですか?」

「どっちも好きだが、最終的には黒髪美少女を選ぶ……かもしれん……むぅ、難しい質問だ」


 あれ?

 予想と違った結果になりましたが……まぁ、勝利は勝利です。


「ふふん」


 わたしはこれみよがしに胸をはって、パルに押し付けてやりました。もちろん、わたし達は慎ましい者同士。ただの体当たりみたいになってしまいましたが。


「完全勝利みたいな顔してるけど、辛勝じゃん」

「難しい言葉を知っておりますわね、パル。ですが勝ちは勝ちです。ほら、行きますわよ」

「ぶぅ」

「それでは行ってまいります、師匠さん」


 不満がにじみ出ているほっぺたを突っつき、ふくらんだ頬をしぼませておく。

 そのまま鼻の穴に指を突っ込んで引っ張ろうとしましたが、さすがに阻止されてしまいました。


「分かった分かった、行く行く、行きます! 師匠、いってきまーす!」

「おう、気を付けるんだぞ。ルビー、パルを頼むな。ふむ――素直な娘がイイとは言ったもののわがまま娘もいいな……いやしかし、素直な娘がやはり……いや、待て待て。好いてくれている条件のもとであると、やはりわがまま娘が至高か。だが従順な娘は究極とも言える。いやいや、まてまて。イエス・ロリー、ノータッチの原則からして――」


 ブツブツと思考の迷宮に突入していく師匠さんを、なにやらキラキラした瞳で見つめるハイ・エルフに危ういものを感じましたが……たぶん大丈夫でしょう。

 あの古代種に貞操を奪われるほど、師匠さんはマヌケではありません。というか、ハイ・エルフは他人が悩んでいる姿にときめくような変態ですわね、あれ。

 伴侶がいない理由はそこなんじゃないでしょうか。

 ロリコンなど鼻で笑えるほどの捻じ曲がった性癖じゃないですか。

 おぉ、怖いこわい。


「それで、ルビー」

「なんですの?」


 パルの手を引いて廊下に出ると、燭台の蝋燭とランプの明かりが揺れていた。まだ完全な夜ではないけれど、どこかお城を思い出させる雰囲気。

 なかなかステキな空間のようですが……残念ながら、監視されているような視線が台無しになりますわね。

 今も窓の外から三人でしょうか。

 そこそこ離れた屋根の上から見張られているようです。


「この見てくる人たち、どうするの?」

「無視してもいいですが、余計な情報は与えないほうがいいでしょう。見つからないように宿を出ましょうか」

「どうやって?」

「まずは視線を切りましょう」


 窓から監視されているので、ちょうど階段の踊り場が良いでしょうか。踊り場では窓から視線が通らないはずです。

 さすがに宿の中には侵入できてない様子。

 階段を下りて踊り場まで来ると、下手過ぎる監視の視線がぷっつりと切れました。


「で、ここからどうするの?」

「変装です」

「おぉ!」


 なにやら興味津々のように瞳を輝かせるパル。

 さっきまでぶぅぶぅ言っていたのが嘘のようですわ。


「どうやるのどうやるの? お化粧とか? 服も変える?」

「簡単ですわ。こうやります」


 わたしはワザとらしく右手をあげてパチンと指を鳴らす。ランプに揺られた足元の影がズズズとせり上がってきたかと思うと、わたし達の身長より大きくなった。

 ちょっとした巨大スライムにも見えるかも?

 そんな影を、バケツの水を頭からかぶるように体を覆わせる。もちろん液体ではありませんので、ポタポタと雫になることなく影は全て足元に戻った。


「おぉ、すごい! ルビーが有翼種になっちゃった」


 わたしの背中にコウモリの羽を付けました。眷属召喚を利用した特殊召喚とでも名付けましょうか。

 眷属の羽だけを背中に呼び出した形です。

 もちろん自動的に動いてくれますので作り物には見えない。有翼種の中ではコウモリタイプの人間は少ないですが、まぁ大丈夫でしょう。

 同時に服も変えておく。以前にわたしが着ていたドレスタイプの物にしておきました。

 有翼種の令嬢に見えなくもないはずです。


「このように変装します。服と種族が違えば簡単にはバレませんわ」

「なるほど。あたしも羽?」

「いえ、パルはこちらで」


 パチンと指を鳴らし、影をパルの足元へ競り上げる。全身を包んだかと思うと、パンと弾けて狼の耳としっぽを付けたパルが現れた。


「おぉ~、耳だ。あたしの頭に耳がある! うわ、スカートになってるし、しっぽもある! ほへ~、ちゃんと動くんだ、すご~い!」


 服装は適当な従者風にしておきました。

 メイド服ではないですが、動きやすさも加味してミニスカート風のメイドに見えなくもないでしょう。


「ん? ねぇねぇルビー。あたしの本物の耳が見えちゃってるけど、どうしよう」

「あ、ホントですわね。髪をおろしてくださいます? わたし、そのリボンには触りたくありませんので」

「あはは、前に燃えてたもんね」

「笑いごとではありませんわ、まったく」


 光の精霊女王の力が宿っているらしいパルのリボン。触ったり持つぐらいは大丈夫でしたが、装備したら燃えて死にそうになったのを覚えています。

 なので、触りたくありません。

 パルはポニーテールを解いて、普通のリボンのように額の上で結びなおしました。白から赤、そして黒へと変わるリボン。

 精霊女王ラビアンも大変ですわね。

 こんな小娘に加護を与えないといけないのですから。


「これでいい? あたし、かわいい?」

「えぇ可愛いですわ」


 うへへ、と笑うパル。

 さっきまでしぶっていたのが嘘のようですわね、まったく。


「では、参りましょう」

「はーい」


 お嬢様らしく、ゆっくりと歩きながら宿を出る。後ろには従者としてパルが付き従っているけど、ちょっと足取りが軽すぎません? だいじょうぶ? バレませんか?


「いってらっしゃいませ」


 従業員に声をかけられても無視しつつ、外まで出てきましたが――


「ふむ」


 監視されている視線や尾行されている気配はありません。


「どうやら変装は成功したみたいですわね」

「うんうん。ルビーの羽いいなぁ。次は、あたしにも羽を付けてよ」

「自分で動かせるわけではありませんのよ?」


 それでもなぜか、パルのしっぽはブンブンと楽しそうに揺れていた。

 あくまで眷属の部位召喚みたいな使い方なので、肉体に繋がっているわけではいのですが……え、ホントに感情に連動してる? 偶然?

 ちょっと良く分からないです。


「これからどうするの?」

「ニンジャ娘がどの事務所を狙うのか分かりません。なので、索敵に引っかかるまで夜のお散歩でも楽しみましょう」

「はーい」

「パルは昼間に街を出歩いていたのでしょう? 案内してくれる?」

「いいよ、分かった」


 日が落ちた夜の街を歩く。

 パルに案内されて八番通りマーケットという場所に来ました。

 さすがに夜という時間帯なので、すでに屋台や露店は撤収されていた。でも、そこにはお祭りの後のような雰囲気がある。

 これはこれで情緒があって、わたしの好きな雰囲気でした。


「あら。あっちは賑やかっぽいですわね。夜店とかあるのでしょうか?」


 八番通りマーケットの端まで来ると、別の区画がにぎわっているのが遠目で分かりました。大きな通りではないものの、住宅地や路地といった感じでは無さそう。

 夜という時間。

 周囲は薄暗いのですが、その通りには煌々と照らしている明かりが多いのか、そこだけ街がオレンジ色に染まっているように見えた。

 冒険者の姿がちらほらと見えますので、酒屋などがあるのかもしれません。


「ホントだ、行ってみよ~」


 パルといっしょにそちらに行ってみましたが……


「あ、ここって――」

「色街ですわね」


 いわゆる娼館が並ぶ通りだったようで、男性たちの姿が多い。

 冒険者らしい屈強な男性の姿が目立ちますが、さすがは商人の街。豪商らしき裕福そうな人物から駆け出しの純朴そうな少年商人の姿までありました。

 もちろん、そんな殿方たちと一晩の夢を見ようと、娼婦たちも店の前で誘惑している。

 ほとんど下着姿と変わらないような大胆な姿の娼婦もいますし、メイド姿で看板を持った娼婦もいました。

 男性も多種多様なら、女性も多種多様。

 夜の街の雰囲気はいいですわね。

 見てるだけで楽しくなってきますわ。


「ルビー、ルビー」


 呼ばれたので振り返ると、パルが羽を引っ張っていました。感覚はつながっていませんので、引っ張られても分かりませんのに。


「あたし達、目立ってるよ」


 通り過ぎる殿方たちが、ジロジロと見ていく。


「美少女がふたりいるのですもの。見ていかないほうが失礼というものです。花は愛でられるために咲くのですから」

「子孫繁栄のために咲くんじゃないの?」

「同じですわ。愛でるイコールえっち、ですもの」

「ん?」


 良く分からなかったらしく、パルは首をかしげている。

 察しの悪い小娘ですわね。


「見た目通りのお子様ね。いい? おしべが男の人のあれで花粉がアレで、めしべが女の人のあれで、受粉とはつまりそういうことなのです」

「分かった。とにかくルビーがエロ吸血鬼ってことが分かった」

「うるせーですわ、この貧相路地裏小娘」

「なんだと、このアホのサピエンチェ」


 ふたりして、ぐぬぬ、と顔を突き合わせたところで声をかけられた。


「お、お嬢ちゃんたち可愛いね。ど、どこかの有名なお嬢さんなのかな? ぬ、ぬふふ、よ、良かったらいっしょにお食事とか、ど、どうかな?」


 あらあら。

 どうやら師匠さんと同じ性癖の持ち主でしょうか。

 少し禿げ上がった頭と、でっぷりとしたお腹に脂ぎった顔で近づいてきたようですわね。ちょっぴりお酒も入っているでしょうか。

 後ろには、先を越されたか、という表情をした人がチラホラいます。

 ふふ。

 人間たちにモテるのは悪い気分ではないですわ。

 本来ならいっしょにお食事をして、いざベッドインというところで血を吸いつくしてあげるのですが……残念ながら、この身はすでに師匠さんの物。

 たとえわたしに好意を抱いてくださっているとしても、受け入れるわけにはいきません。


「申し訳ありません。わたし、心に誓っている人がいますの。わたしの体はすでにその人の物。いつでも愛してもらえるように清らかな体でいたいのです。申し出はありがたいですが、ご一緒に食事をするのは遠慮させて頂きますわ」


 わたしは丁寧に頭を下げる。


「そ、そうかい? ざ、残念だね」

「もしも出会うのがもう少し早ければ、あなたの魅力にクラクラしていたかもしれませんわ。ステキな殿方さま」


 わたしはにっこりと笑いながら男性のだらしないお腹をツンツンしました。

 嬉しそうですわね。

 でも、もう少し痩せたほうが健康的でいいと思うのですが、それは言わぬが花でしょう。


「うは。そ、そうかい? 嬉しいなぁ。よ、良かったらこれで好きな物でも食べて楽しんで。ふひ、ふひひひひ」


 男はわたしの両手を取ると、すこしばかりねっとりと触ってきながらも銀貨を一枚、握らせてくださいました。


「あら、よろしいのですか?」

「も、問題ないよ。お金には余裕があるからね。うひ、ふひひひ」


 男は笑って手を振りながら離れていきましたが……未練があるのでしょうか。まだ遠くからこちらをうかがっているようです。


「凄いね、ルビー。ただでお金もらっちゃった」


 後ろからわたしの手を覗き込んでくるパル。

 手のひらを開ければ、中級銀貨が一枚。

 10アルジェンティ。

 文字通り、太っ腹、ですわね。


「せっかくですので何か食べていきます?」

「あたし、おやつが食べたい。甘いもの甘いもの~」

「こんな場所に売ってるかしら?」


 基本的に色街ではお酒ばっかりじゃないかしら。

 と、思っていたのですが……

 驚いたことに、何件かスイーツショップがありました。

 なんでも娼婦といっしょに外でデートするプランもあるそうで。そういった娼婦といっしょに食事を楽しむ際、女の子の大好きな甘い物をプレゼントする必要もある。

 そういう理由で酒屋に混じってフルーツやクリームたっぷりのパフェを売るお店もあるみたいです。

 道すがら、イヤらしい目で見てくる冒険者さんに教えてもらいました。


「あれ、ぜったいに騎士職だ」

「どうして分かりましたの? 装備も外してましたのに」

「えっちな冒険者はみんな騎士だもん。サチもそういうはず」

「はぁ……恐ろしい偏見ですわね」


 それはともかく。


「んふふ~」

「美味しいですわね」


 ひとまず、スイーツショップでフルーツの盛り合わせを注文しました。パルはパフェというクリームたっぷりのスイーツを注文したようです。

 ニンジャ娘の反応があるまで、しばらく楽しめそうな色街ですわ。

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