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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~可憐! 空飛ぶモグラを撃墜せよ!~

 夜が終わって、朝が始まった。

 ジッと静かに屋根の上に待機したまま、太陽の光が届いてくる。


「……」


 失敗したかもしれない。

 よく考えたら、屋根の上って暑くない? なんか鉄板の上でじゅ~って焼かれるお肉を思い出したんだけど……

 ジリジリと背中と首の裏を焼かれてる気分。

 太陽の下でジ~っとしてるのって、こんなにも熱くなるんだ。まだ夏じゃないけど、もうそろそろ夏って感じもしてるし。本格的な夏だったら無理だったかも。

 あと、まだ大丈夫なんだけど、おトイレとか行きたくなったらどうしよう。

 屋根の上でしちゃっていい?

 でも、怒られそうだし、その間にモグラが来ちゃったら、ぱんつ脱いだ状態で戦わないといけなくなる。

 危ない。

 失敗どころの話じゃなくなってる。

 朝ごはん食べなくて良かった~。おトイレ我慢するより、お腹空いたのを我慢するほうがマシだよね。


「……」


 ひとりで監視とか張り込みって、かなり無茶な行為だっていうのが分かる。

 そういえば、師匠とルビーが捕まえた泥棒が廊下に転がってたけど、ふたり組だった。

 もしかしたら、三人組とか五人組かもしれないけど……ひとりで張り込みとか監視して、実行するのは、そもそも不可能なのかも?


「――……」


 いけない。

 余計なことを考えちゃって、集中力がどっかにいっちゃう。

 せめて午前中ぐらいは我慢しないと。

 まだ夏じゃないから、暑いのくらい我慢しないと。

 集中しゅうちゅう!

 余計なこと考えちゃうのは、集中できてない証拠だ。


「すぅ――はぁ」


 あたしは小さく息を吐いて、盗賊スキル『隠者』を継続させる。

 空飛ぶモグラ、ヴォランス・モーレに見つからないようにするのはもちろんだけど、この家の人とか通りがかる人とかに見つかると場所を変えないといけない。

 騒ぎになっちゃったら、モグラは絶対に逃げるだろうし、作戦失敗になっちゃうので注意が必要だ。

 あと、絵を狙ってる人たちがあたしを監視してるっていうこともある。

 今は遠くから……ちょうど、あたしの背中側から誰か見てるっていうのが、なんとなく分かった。

 同じ屋根の上かな。

 チリチリと見られてる感覚がある。


「……」


 でも、あたしに視線が分かるってことは、ワザとなんじゃないかって思う。おまえを見てるぞ、という警告みたいな感じ?

 その意味かどうかは分からないけど、なにかしら意図があると思う。

 そうじゃない限り、屋根の上に潜んでいる人間に視線を通すなんて――

 盗賊とはおもえないアンポンタンな感じだもん。


「あ」


 もしかして、廊下に転がってたふたり組の泥棒の仲間とか?

 師匠がいるっていうのに、絵を強奪しようだなんて本当にアンポンタンだし。


「……」


 いや、待てよ。

 あのふたりを助けるには、相当な準備と実力がいる。なにせ貴族とかお金持ちが泊まってる宿だから、警備とかバッチリだし。

 人質みたいになってるから、それを助けるには……


「あたしだ」


 たぶんだけど、あたしを人質にして泥棒ふたりと交換を狙ってるとか!?

 う~ん。

 それは考えすぎ?

 まぁ、今のところ視線を通してくる人たちは、ぜんぜん手を出してこないし、考えなくていいや。

 今はモグラに集中しよう。

 朝が来てから、徐々に八番通りマーケットが騒がしくなってきた。それと共にあちこちで朝ごはんを作る煙があがって、ちょっといいにおいもしてくる。

 おなかが鳴っちゃいそうになるけど、がまんがまん。

 そんな朝食タイムが終わると、いよいよ本格的に八番通りマーケットにお客さんがやってきて、商人たちの声が大きくなってきた。

 その声を聞きながら、ジ~っとあたしは待つ。

 気配はまだ無い。

 路地に誰も来る気配は無い。

 待つ。

 待つ。


「……」


 待つ。

 待つ。

 待つ。


「…………」


 待つ。

 待つ。

 待つ。

 待つ。


「……!」


 来た。

 太陽がほとんど真上に登ってきた頃、足早に向かってくる気配があった。

 走るようなドタドタではなく、だからといって、ゆっくりと歩いてくる動きでもない。

 こんな行き止まりに住民の誰かが用事があるはずもない。ましてや迷い込んできた旅人でもないはず。

 確実に――モグラだ!

 あたしは息を吐き、大きく吸い込んだ。

 まだだ。

 まだあせっちゃいけない。

 ここであたしの存在に気付かれちゃったらおしまいだ。

 路地を曲がり、その先にナユタさんがいる。それを見てモグラは逃げるように飛び上がるはず。

 それを待つんだ。


「……」


 足早にやってくる人の気配。

 頭を引っ込めてる状態だから、うまく視認できてないけど、その人物は立ち止まった。それと共にナユタさんの立ち上がる気配がする。

 それを追うように路地に入ってくる気配もした。

 追い詰められたモグラ。


「――」


 今だ!

 あたしが立ち上がると同時に、それは目の前にあらわれた。

 まるで空を飛ぶように。

 体の重みなんか感じさせないように。

 優雅に跳ね上がる男。

 空飛ぶモグラ!

 ヴォランス・モーレ!

 あたしは、宙に浮かぶようにしてジャンプしたモグラを指差した。左手の人差し指と薬指を立て、あたしは発動キーを叫ぶ。


「アクティヴァーテ!」


 その瞬間――

 もうすっかり慣れっこになってしまっている体の重さが消失した。まるで全身が羽になったような気分をそのままに、あたしは屋根の上からジャンプする。


「!?」


 対して、モグラは驚いた顔をした。

 あたしにビックリしたんじゃなくて、自分の体が重くなったことに驚いてる。空中でバランスを崩し、飛んでくるあたしの攻撃を避けられなかった。


「落ちろ!」


 空でモグラを踏んづける。

 空飛ぶモグラを撃墜する!


「クソが!」


 落ちていくモグラが、あたしを見て悪態をついた。

 あたしは空中で、それを見下ろす。

 醜悪な表情を浮かべながら墜落するモグラに、赤い槍が軌跡を残すように弧を描いた。

 地上で迎え撃つナユタさんの槍だ!

 ナユタさんは、バランスを崩しながら落ちていくモグラを、上から叩き落すように槍を棒のように振り下ろした。

 すごい!

 初めて会った時、ルビーが負けちゃったのも分かる。

 落ちてくる人間を、それ以上の速度で上から叩くなんて、タイミングとかそういうのが分かってるってことだ。

 ズダン、と衝撃が伝わる音が響き、埃と土煙が舞い上がる。

 地面に穴を空けそうな一撃。


「やった!」


 あたしはブーツちゃんのおかげで無事に着地する。これでモグラを捕まえたぞ、って思ったけど――


「くっ!」


 ナユタさんが吹っ飛ばされた。ちゃんと防御したみたいだけど、後方へ転がり、素早く槍をかまえた。

 ってことは――!


「ちくしょうが」


 お腹を押さえながらモグラは立ち上がった。

 びっくりだったのが、片足で反動もつけずにヌルって起き上がったこと。

 左足は地面に付いてるけど、右足は真っ直ぐナユタさんに向けていた。寝ころぶような、地面と水平になったまま、モグラは体を起こす。

 まるでブーツが地面に吸い付いてるみたいだった。

 加えて、足とか腹筋の力もアップしてるはず。

 ジャンプ力とキック力が高いだけじゃない。

 この人、普通に――


「強い」


 ニヤリと笑ってナユタさんが槍をかまえる。

 途端に空気がツンと冷たくなって、ビリビリとしたものを感じる。


「……っ」


 あたしはシャイン・ダガーを引き抜こうとして……やめた。

 どう見ても、あたしのレベルじゃ戦えない。

 ここはダガーじゃなくて――


「こっちだ」


 投げナイフの柄に魔力糸を通す。できるだけ長く丈夫に顕現させて、左手にロープを持つように丸くたわませた。

 右手に投げナイフを持ち、いつでも投擲できるようにしておく。

 何に使えるか分からないけど。

 でも、一応は準備しておく。

 キャルマさんも追いつき、状況を確認して同じように魔力糸を顕現させた。他にも周囲に気配が増えていく。

 屋根の上、塀の上。

 近くに潜んでいたのは、あたしだけじゃなかったらしい。

 ぜんぜん分からなかった!

 やっぱり盗賊って凄い。

 空飛ぶモグラは、地に落ちて取り囲まれていった。

 たぶん、ここまではできるんだ。

 今までも、ここまではできたんだと思う。


「こりないやつらだ」


 モグラはどこか余裕そうに、そうつぶやいた。

 どこにでもいる、ただの男に見えた。

 でも。

 マジックアイテムに頼るだけじゃない、確かな強さを感じる。

 これだけ取り囲んでいたとしても、余裕で逃げられる強さを持っているんだ。

 でも――


「逃がさない」


 マグ『ポンデラーティ』。

 加重の魔法を行使できる、人類最先端のアイテム。

 空飛ぶモグラの天敵のはずだ。

 だからあたしは、魔力糸を持ちながら左手で指をさす。


「アクティヴァーテ」


 加重の効果が切れるタイミングは分かってる。

 間髪入れず、モグラを重くし続けるために。

 あたしは再び、発動キーを唱えた。

 効果の切れ目と間髪入れず再び重くなった自分の体に、モグラの困惑が見える。


「おおおおお!」


 それを合図にして、ナユタさんがモグラへ向かって加速するのだった。

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