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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~流麗! 魔王~

 つまるところ、会議の内容はたったのひとつ。

 乱暴のアスオエィローは言いました。

 勇者は俺が倒すので、おまえらは手を出すなよ。

 という宣言だけ。


「伝言で済む話ですのに。わざわざ会議なんてする必要ありまして?」

「こういうのは、ちゃんと顔を合わせて話をしないとダメになっちまうことが多い。裏切りではなく、なぁなぁで済まされてしまうもんだぜ?」


 用意された夕食を四天王のみなさんといっしょに食べながら、わたしはアスオエィローと話す。


「それにしても、アスオエィロー。思ったのですが……小さくなりました?」

「あ、それあたしも思った」


 ですわよね、とアビィといっしょにうなづき合う。

 ちなみにアビィの前にも食事は用意されているのですが、残念ながら手を付けることは不可能。冷めてしまうのはもったいないですけど、あくまで平等に扱わないといけませんので。

 パルだったら冷めても美味しく食べてくれるでしょうけど……まぁ、あとで温め直してもらいましょう。

 美味しく食べないと、もったいないですから。

 食材にも作った方にも悪いですものね。


「力を使い果たした、という意味でもあるが。ちょっと思うところがあってな」


 以前なら肉にかぶりついていたアスオエィローですが、今は震える手でスプーンを持ってスープを飲んでいる。

 内臓にもダメージが残ってそうですものね。

 肉とか、消化できなくなったのでしょうか。


「体がデカけりゃ攻撃を受ける場所もデカくなる。どうしても速度が落ちる。力だけじゃ勇者に勝てねぇ。スピードも必要だ」

「アスオエィローくんの力で押しきれなかった……相当な練度がありますね、勇者くんは」


 ストルがパンを小さくちぎって食べながらうなづいている。

 アスオエィローは、力だけで比べると四天王で確実な一番と言えますので。

 今回の勇者は、相当な実力を持っているのは確かなようですわね。


「なんていうかよ、上手いっていう感じだったな。真正面から戦ってるはずなのに、どこか引き気味な感じがしたし、熱くなってる表情をしておいて冷静だったり。長期戦になるって分かってからはキツかったぜ? 殺しにくるんじゃなくて体力を削りに来る。先に心が折れたほうの負けって感じだった。まぁ、最後は俺も勇者も立ってるのがやっとの力比べみたいになったけどよ。そういう意味では俺が完全に負けていたのかもしれねぇな」

「それで鍛錬のやり直しってことね。アスオくんは速度特化に変わっちゃう?」

「いや、極論には走らねーよ陰気。いいとこ取りだ。力も強いし、速度もはえーし、ワザもカッコいい。これが最強だ」

「最後の入ります?」


 技のカッコ良さってどういうこと?

 後ろで師匠さんが、分かるぅ~、という感じでうなづいてますけど。


「いやぁ、勇者がいちいちワザ名を言いながら戦っているのが、めちゃくちゃやりにくくてよ。最初はマヌケって思ったが、違ったんだ。あいつ、ときどきブラフかましてきやがる。なんとかスラッシュって言いながら突いてきたり、一度見せたワザ名を言いながら普通に攻撃してきたり。おまえホントに勇者かよって感じで卑怯っぽいんだよな。でもカッコ良かった、技がカッコいいってのは重要かもしれん」

「あっはっは、盗賊みたいな勇者ですね。どんな技があったんです?」


 アスオエィローとストルは楽しそうに勇者の技について語り始めた。なんか後ろで師匠さんがウズウズしていますけど、やっぱりアレなんでしょうか。

 バカなんでしょうか?


「まったく。男の子って、そういうの好きですわね」

「あはは。でもぉ、あたしも可愛い魔法とか欲しいなぁ。サピエンチェお姉ちゃんは、あんまり動かない戦い方だよね」


 アビィはテーブルに頬杖を付くようにして言った。

 食事中にお行儀が悪いと言えますが、そもそもポーズだけで椅子にすら座れていませんので行儀もなにもあったもんじゃないですよね。


「避ける必要ありませんので、近づいてきたのを攻撃するだけですね……どちらかというと、カッコ良さよりエレガントらしさ、という感じでしょうか」

「エレガント。サピエンチェお姉ちゃんはエレガントだ。でもそうなると、ストルお兄ちゃんの戦い方ってなんて言えばいいのかな」

「豪快、鮮烈、撃滅。派手さしかないと思いますわよ」

「あはは、さすが魔王さまに愚劣って名付けられただけあるよね!」


 戦い方から名付けられたんでしょうか?

 そうなると、陰気のアビエクトゥスという名前よりも、卑怯や卑劣という名前のほうが似合うと思いますけどねぇ、アビィには。

 さて、そろそろ義理は果たせましたでしょう。

 歓談を続けても良いですが、わたしには四天王の関係性よりも重要視する師匠さんのお仕事がありますので。


「少し失礼しますわね。あ、みなさん適当に帰ってくださってもいいですわよ」

「ちゃんと挨拶してから帰るよぅ。サピエンチェお姉ちゃんは、いい加減すぎる」

「気にしなくてもいいですのに。挨拶はアンドロちゃんでもいいですし、入口のガーゴイルでもかまいませんわよ?」


 適当過ぎる、というみなさまの意見に耳をふさぎつつ、師匠さんといっしょに部屋を出ようとしたところ。

 アスオエィローがわたしではなく師匠さんに声をかけた。


「人間」

「――なんでしょうか」


 師匠さんが足を止めたので、わたしも止まって振り返った。


「おまえにとって勇者とはどんな存在だ?」

「希望」


 師匠さんは躊躇なく言った。

 いえ、あくまで師匠さんの体が、ですけど。

 眷属化していますので魔物的な、わたしに有利な言葉を選ぶはずなのですが……どういう意味なんでしょうか。

 そのままな訳がありませんし……?


「人類種の希望ってわけか。吸血鬼の眷属ってのは、まだ人間のつもりでいるみたいだな」


 あら、珍しい。

 アスオエィローが皮肉を言うなんて。


「申し訳ありません。多少の自由を効かせる状態でないと、命令しなければ永遠とその場に立ってるだけの肉人形になってしまいます。加減が難しいですが、もう少し強めておきますわ。ご忠告、感謝しますアスオエィロー」

「あぁ。これ喰ったら俺は帰るよ。いいか、勇者には手を出すんじゃねーぞ」

「出しませんってば」


 ひらひらと手を振って、今度こそ大部屋を後にする。

 パタンと扉を閉じてから、ふぅ、と息を吐いて師匠さんの顔を見た。

 真顔でわたしを見下ろしてくださいますが……感情は読み取れない。師匠さんが心の奥でなにを考えているのか、なにを感じているのか。

 それは分かりませんでした。

 わたしはもう一度だけ息を吐いてから、師匠さんにお願いしました。


「血を。少しだけ血を飲ませてください」


 なぜか無性に師匠さんの血を飲みたくなった。

 美味しい食事の後だからでしょうか。

 デザート感覚?

 それとも、なにか不安があるのかもしれません。


「どうぞ」


 ためらうことなく師匠さんは指先をナイフで切り、わたしの前に差し出した。

 むぅ。

 できれば師匠さんに抱き着きながら首筋の血を舐めたかったのですが……仕方がありません。


「あーむ」


 師匠さんの指をくわえて、指先にたまった血液を舐めとる。

 あぁ、やっぱり美味しい。

 とても甘美で、どこか綺麗でスッキリとするような、そんな味がする。


「んふふ~。ちゅぷ、ちゅぱ」


 どうして師匠さんの血を舐めたくなったのでしょうか?

 やっぱり不安を感じているのでしょうか。

 何に対しての不安?

 勇者?

 それとも師匠さんが希望と答えたこと?

 う~ん、自分のことながら判別できませんわね。

 勇者をそこまで恐れる必要はありませんし、アスオエィローが倒してくれるはず。いえ、逆にアスオエィローが負けたとしても問題はないでしょう。

 なにせ、わたし。

 魔王さまを裏切って人間側についてますので。

 というか、師匠さんに味方している状態ですので。

 勇者が勝とうが魔王さまが勝とうが、どちらにしろわたしの勝利です。

 むふん。

 どこかの絵本で見ましたね。

 これが、どっち付かずのコウモリっていうことでしょうか。

 そういう意味では、人間にも魔物にも嫌われてしまいそうなのを不安に思っている可能性もありますわね。

 まったく。

 心というのは理解しがたいモノです。


「ぷはっ」


 なんてことを師匠さんの指をなめなめしながら考えましたが、結論は出ませんでした。考えても分からないことは、考えないに限りますよね。

 というわけで、不安感のようなものを師匠さんの血と共に飲み込みまして。


「パルを手伝いましょうか」

「はい」


 師匠さんににっこりと笑いかけてから、わたしはエントランスに続く階段を降りる。

 気付けばすっかりと夜が深くなっていて、お城で働く者の姿も少ない。みなさん、自分の部屋で眠っているのでしょう。

 アンドロちゃんは――眠らずに仕事をしているのかもしれませんね。


「……?」


 なにか、不気味に感じるほど静かだった。

 いえ、静かなのはいつも通りですけど……静寂が重い、と言えるでしょうか。

 これこそ、不安であり。

 不穏でもあるような。

 そんな空気が漂っていた。

 階段を降り、エントランスの窓から外を見る。

 珍しくも雲が晴れて星が見えていた。

 夜なのに明るさを感じる。

 吸血鬼として、そんな夜とは相性が悪いのかもしれない。


「なんでしょうね」

「……」


 師匠さんは答えない。

 わたしの不安感が伝わっていないのかも、と思ったけれど……師匠さんはなにか警戒しているようでした。

 やっぱり、なにか妙な空気ですわよね。

 嫌な予感というよりも、『嫌な予定』と言い切ってしまっていいような。


「さっさとパルと合流して帰りましょう」


 わたしはそう言って、地下室へ向かうために廊下を歩いていく。

 階段横の廊下を通っていき、厨房を越えて、角を曲がり――


「っ!?」


 そこで、ひざまづいているパルを見つけた。

 地下室の入口の前。

 螺旋階段のそばで、パルはひざまづいていた。

 そして高らかに声をあげる。

 謎の言葉を。

 よりにもよって、あの方に。

 どうして、なぜ、よりにもよってこのタイミングで、なんでわたしの城にいるのか。

 皆目皆式見当もつかず。

 まったくもって予見すらできない。

 できるはずもない。

 そんな。

 そんな。

 そんなあの方を前にして。

 魔王領の王。

 魔王。

 魔物たちの王であり、わたしに名を与えてくれた存在であり、世界に呪いを蔓延させた超常たるモノ。

 魔王。

 魔王さま。

 そんな魔王さまを前にして。


「おひかえなすって!」


 矮小なる人間の小娘。

 パルヴァスは、堂々と。

 よりにもよって堂々と。

 魔王さまに訳の分からない言葉を言い放つのだった。

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