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~流麗! いよいよ始まる四天王会議~

 お城の中に入るとストルが師匠さんとパルヴァスをジロジロと見ていた。

 一瞬、血の気が引きましたが……吸血鬼ですので、もともと血の気が少ない白い肌だったのが幸いでした。

 動揺がバレる前に平静を取り戻し、ストルにふたりを紹介する。


「こちら新しく眷属にしたエラントとパルヴァスです」

「ほう、パルヴァスくんというのか。サピエンチェくんに負けず劣らずの可愛さがある。是非とも私の王宮に加えたいのだが?」

「それは宣戦布告と捉えてよろしいでしょうか?」

「冗談だよ。パルヴァスくんだけ欲しいと言ってしまうと、僕が差別主義者みたいになってしまうのでね。もちろんエラントくんも欲しい。年齢が少々高いが……なに、誤差の範囲さ。僕は平等主義だからね。エラントくんも差別することなく愛することを誓うとも」

「分かりました、戦争をしましょう。わたしはアビィとアスオエィローと組みますので、魔王さまにストルが裏切ったと報告しますね」

「冗談だよ。ほら、エラントくんもそんな怖い顔をしないでくれ」


 ストルはにっこりと笑って友好をアピールしましたが、師匠さんの顔は不機嫌そうなまま。

 なんでしょう?

 パルが欲しい、と言われたことを怒っているのでしょうか?

 それとも殿方に愛されるのは趣味ではないのかも?

 あとは単純にイケメンが嫌いな可能性もあります。

 なんにしても、師匠さんとストルの相性は悪そうですわね。パルも狙われてますし、ふたりに近寄らせないように注意しましょう。


「おっと、自己紹介がまだだったね。僕は愚劣のストルティーチァ。気軽にストルと呼んでくれてかまわないよ。サピエンチェくんと同じく人間は大好きなんだ。僕も仲良くしてくれると嬉しい。特にパルヴァスくんとは仲良くしたいね」


 ストルが差し出した手をパルは平気で握って握手する。表情は代わりませんが心の中ではどう思っているのでしょうね。

 パルは師匠さんのことが好きなのですから、この程度のイケメンには心を動かされないで欲しいものです。

 つづけてストルは師匠さんにも握手を求めますが……師匠さんは握手するつもりはまったく無いみたいで、ピクリとも動きません。

 相当ですわね、師匠さん。


「本当に嫌われてしまったらしいね」


 困ったものだ、とストルが肩をすくめた。


「エラント、礼儀は大事ですわ。ストルと握手くらいはしてくださいませ。わたしの品位も問われてしまいます」


 そう告げると渋々ながらも師匠さんはストルと握手した。

 表情は不快感たっぷりですけど、まぁ言葉で発した命令を聞いてくれる程度には嫌悪していないようです。

 でも、師匠さんの体がここまで拒絶するなんて。

 慎重に慎重を重ねたような師匠さんですのに。

 やっぱりパルが欲しいと言われたことに敵対心みたいなものが生まれたのでしょうか。


「あとはアスオエィローだけですわね。アビィとストルは先にいつもの大部屋に入っていてくださいませ。わたしはもう少し用事がありますので」

「はーい」

「わかったよ」


 ふたりが仲良くエントランスにある階段を登っていくのを見送ってから、わたしは師匠さんとパルを見た。

 用事のひとつであるラピスラズリはすでに確保済みですので、あとは呪いの武器だけ。それさえ手に入れば会議が終わり次第、すぐに人間領の学園都市まで転移の巻物で帰れる。

 となれば……


「呪いの武器の確保が必要ですわ。でも会議にも出ないといけません。予想外で予定外ですが、逃げると都合が悪くなります。ここは効率的にいきましょう」


 わたしはワザとらしく、そう声に出して言った。

 本来、眷属化した人間には説明などいらないし命令する必要も無い。完全に心を縛ってしまえば、意のままに操ることができる。

 でも。

 そこまでしたくなかった。

 一瞬でも、師匠さんとパルの心を縛ってしまえば……その前例を作ってしまったら、信用を失ってしまうような気がしました。

 ですので、眷属化は弱めに。

 ふたりには自由な心を残したままでいて欲しい。


「いいですか。エラント、パル」


 自分の考えを口に出す必要などありませんが、師匠さんとパルに納得してもらうために、ワザと声にして伝えた。


「会議に三人で出る必要はありませんから、宝物庫の捜索はパルヴァスにお任せしたいと思います。エラントはいっしょに会議に出てください。パルヴァス、それに不満はありませんか?」


 眷属化をギリギリまで弱めてふたりの反応を見る。

 パルは問題ないとうなづいた。


「四天王の皆さまが一同に存在する場所は確かに危険です。パルヴァスを避難させるという意味でも同意します」


 エラントは少しだけ声を落として言った。

 う~ん……わたしの意思を汲み取って頂けたのは嬉しいのですが、それを声に出してしまってはパルに聞こえてしまうではないですか。

 眷属化の加減って難しいですわね、ホント。

 まぁ、本来はガチガチに心まで染めてしまいますので、使い方を間違っているんですけど。

 昔は反抗的な人間を従順にしたり、元に戻した際の自分の服従っぷりを後悔する様子を見て楽しんだこともありましたが。

 今となってはパルに靴を舐めさせたところで面白くもないですし、きっと師匠さんに嫌われてしまいますもの。

 しっかりと眷属化を使いこなしてみせないといけませんわね。


「エラントが言ったとおりですので……パルヴァスは納得してくれます?」

「はい、問題ありません」

「よろしい。イイ子ですわね」


 ひとりにするのは危ないのですが、四天王会議に参加するほうが危険な場合もあります。

 師匠さんひとりでしたら守り切る自信はあるので、パルには安全な宝物庫にいてもらったほうが有利になるはず。

 さっきのストルのお誘いは冗談でしたが、わたしと人間好きの意味が違いますからね。心変わりで本当に欲しがる可能性もありますので、やはりパルヴァスは隠しておいたほうが良いでしょう。

 好戦的なアスオエィローの反応も分かりませんし、パルは会議に参加しないほうが無難で安全なのは間違いないはず。


「では、こちらが地下への鍵と宝物庫の鍵です。あぁ、でも明かりがありませんわね。ランタンなんてお城にあったかしら?」

「大丈夫です、サピエンチェさま」


 パルはそう言って腰のシャイン・ダガーを抜いてみせた。

 キラキラと輝く刀身は、暗がりを照らすには充分な光量がある。


「便利ですわね、それ」


 こくん、とパルはうなづいた。

 きっと心の中では、にへへ~、と笑っていることでしょう。

 大丈夫と判断しましたので、パルと別れました。

 ひとりで歩いていくパルの背中を少しだけ見送ってからエントランス正面にある階段を登り、踊り場から左の階段をあがっていく。

 階段の先を右手へ、つまりお城の入口から見て奥へと廊下を進むと大きな扉があった。


「いいですか?」


 後ろに付いてきているエラントが、こくん、とうなづくのを確認して中へと入る。

 そこは大部屋で、いつも会議する部屋として使っていた。パーティなんかでも使ったりしていたので、五人だけで使うには逆に広すぎる気がしますが。

 大部屋の真ん中に用意された正方形の机。そこにアビィとストルが隣合って座っていたので、わたしはアビィの隣に座る。対面がストルになり、師匠さんはわたしの後ろに控えるように立った。


「申し訳ありませんわね、アビィ。ウチにはゴーストが座れる椅子が無くて」

「気にしないでいいよサピエンチェお姉ちゃん。座るのも浮いているのも、そんなに変わらないもの」


 便利なのか不便なのか、霊体は常に浮いていますのでアビィは座っているフリをしていた。良く見れば微妙にお尻が浮いていたり沈んでいたりするのが分かってしまう。

 アビィの住むお屋敷には幽霊でも触れる家具やベッドがあるのですが、わざわざそれを持ってきてもらうわけにもいかないので、仕方がない。


「パルヴァスくんは別の仕事かな?」

「えぇ、ストルが気に入ったみたいなので避難させておきました。わたしの大切な眷属ですから、ぜったいに渡しません」


 後ろで、うんうん、と師匠さんもうなづいてる。

 おっと。

 眷属化を弱めたままでしたわね。パルにはある程度の自由があったほうがいいでしょうが、師匠さんの眷属化は元に戻しておきましょう。

 イレギュラーが発生する要素は消しておくに限ります。

 しばらく三人で雑談などをしていると飲み物が運ばれてきた。アンドロちゃんが気を利かせて持ってきてくれたらしい。


「まだ乱暴のアスオエィローさまがみえませんので、先にお飲み物でも」

「ありがとう、アンドロくん。おや、ステキなマントだね」

「はい、ストルティーチァさま。サピエンチェさまにいろいろと融通を利かせてもらえるようになりました」

「おぉ、ついにサピエンチェお姉ちゃんから権利を奪ったんだねアンドロお姉ちゃん! これでいよいよサピエンチェお姉ちゃんが愚かにならずに済むね」

「はい、アビエクトゥスさま! サピエンチェさまに恥をかかせないように頑張りますね!」


 楽しそうで嬉しそうですわね、アンドロちゃん。

 今も仕事に戻りたくてウズウズしているじゃないですか、もう。


「はしたないですわよ、アンドロちゃん。ハサミが落ち着きありません。ほら、会議はいいですから仕事に戻ってくださいまし。適材適所。みなさまにジュースを出すくらい、わたしでもできますわ」

「では、お言葉に甘えまして。食事の準備も整いつつありますので、会議が終わればそのまま食事を楽しんでいってくださいね、四天王さま」


 アンドロちゃんは丁寧に頭を下げて大部屋から出て行った。

 ひとまずみんなでアンドロちゃんが持ってきた果実ジュースを飲む。素晴らしいことに師匠さんの分まで用意してくれたので、師匠さんも飲んでいた。

 と、そんなところでどうやらアスオエィローが到着したらしい。

 いつものように大きな声で話しているので間違いはないでしょう。部下といっしょに来たのでしょうか、それともアンドロちゃんがまだエントランスにいたのかしら。

 ともかく何やら話しながらアスオエィローが大部屋に入ってきたのですが――


「あら」

「おや」

「えぇ~、どうしたのアスオくん!?」


 大部屋に入ってきた乱暴のアスオエィロー。

 その体は、ボロボロの傷だらけ。

 まさに満身創痍という姿で。

 いつもどおり、ニヤリと不敵に笑うのでした。

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