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~可憐! VSサーベルボア~

 反りかえったサーベルボアの鼻。

 豚の親戚というか、遠縁というか、人間とドワーフとか獣耳種みたいな関係なのかな。

 今にも突撃してきそうなサーベルボアの鼻息が、近くに生えていた草を勢い良く揺らした。


「ブア!」


 まるで沈み込むように頭を下げたかと思うと、サーベルボアはそのまま突撃してくる。


「うゎっ」


 ハッキリ言って、めちゃくちゃ怖い!

 だってあたしなんかより遥かに大きくて重い物がこっちに向かって全力疾走してきてるのだから。

 馬が引いていない馬車が向かってくるような感じ。

 どう考えても受け止められるわけなんかなくて、真正面から当たれば身体がバラバラになっちゃいそうな恐怖。


「いきますわよ!」

「え、ちょ!?」


 そんなサーベルボアに向かってルビーは真正面から迎え撃つつもりだ。

 大丈夫!?

 いくら四天王でめちゃくちゃ強い吸血鬼でも、こんな大きなサーベルボアの体当たりを受け止められるの!?


「えええええいっ!」


 突撃してくるサーベルボアの頭を目掛けて、ルビーはハンマーを振り下ろした。あたしは、なんか嫌な予感がしたので突撃進路から外れておく。


「ボァ!」


 と言ったのは、果たしてサーベルボア。

 喋ったわけじゃなくて、噴出した鼻息がそう聞こえただけ。

 まるで頭を――鼻を天に突き上げるようにして、サーベルのような牙で突き上げる。それは見事にルビーのお腹を捉えた。


「ぐえ」


 と、ルビーからは聞きたくもないカエルが潰れたような声。たぶん、牙がお腹を押して、さっき食べたのが出そうになったのだと思う。

 牙の先端は丸く削れていたので刺さることはなかったんだけど、押し上げられた勢いで胸の中の空気が強制的に吐き出させられたルビーは、そのまま上空にかち上げられた。


「あ~ぁれ~ぇ~?」


 なんかマヌケな声を上空であげて吹っ飛ぶルビー。

 余裕があるっぽいので、大丈夫そう?


「ぎゃっ」


 って思ってたら頭から地面に落ちた。

 そのままお尻を突き出したポーズでルビーは動かなくなる。


「……えー!?」


 魔王直属の部下であり、四天王である吸血鬼が!

 ただの野生動物に負けた!?


「ルビー、大丈夫!?」


 とりあえずサーベルボアを警戒しつつ声をかけてみたけど……


「きゅ~……」


 という、なんか珍妙な声しか聞こえてこなかった。


「あ、ダメだこれ」


 サーベルボアも、とりあえず標的の一匹は倒したぞ、という感じで今度はあたしをターゲッティングした。

 またしても鼻息を荒くして、地面を蹴っている。

 突撃準備というか、威嚇というか、なんていうか、めちゃくちゃ恐怖心を煽ってくる。


「とりあえず、サチとか狙われないで良かった」


 神さまの天罰って凄い。

 もしかしたら、神さまのプレゼントなのかもしれないけど。

 でも――


「どうしよう!?」


 こういう時は、えっと、え~っと――


「師匠が言ってた。相手が大きい時は真正面から戦っちゃダメ」


 ジックス街のデブ――クラッスウスと戦った時。

 師匠はまず悪い例として、クラッスウスの体当たりを真正面で受け止めた。スキル『影縫い』で自分の体を固定しておいて、受け止めていた。

 うん。

 今の状況、そのままルビーが悪い結果として示してくれてる。あたしに影縫いが出来たとしても、ぜったいに無理だし、魔力糸ごと跳ね上げられるのは間違いない。

 だから師匠の教えてくれた通り――


「正々堂々、真正面から不意を打つ!」

「ぶあああああ!」


 突撃してくるサーベルボアに――ではなく。あたしは左右の木々に投げナイフを投擲した。

 地面より少し高い程度の位置に刺さったそれには魔力糸を繋いである。

 即席の『足が引っかかるトラップ』だ!

 転んだところを追撃するぞ!


「あれ?」


 でもサーベルボアは、魔力糸なんか物ともせず突っ込んできた。木に刺さった投げナイフが簡単に引き抜かれちゃった。

 凄いね、突進力!


「ひええええ!?」


 あたしは慌てて横っ飛びでサーベルボアを避けた。マグの効果で体が重いので、上方向にジャンプする自信はまだまだぜんぜん一欠片も無い。


「あわわわ、と、とりあえず、アクティヴァーテ!」


 地面に倒れながらもサーベルボアに向かってマグ『ポンデラーティ』を発動させる。

 体が軽くなった瞬間、あたしは大慌てで起き上がり、ルビーの元へ移動しつつポンデラーティを装備から外す。

 修行してる場合じゃない。

 これ、いわゆる『本番』だ!


「ルビー!」


 お尻を引っ張ってルビーを仰向けにする。なんか顔がぐちゃぐちゃになってそうな気がしたけど、大丈夫っぽい。美人のままだ。ざんねん! でも意識ない!

 ひとまず顔にポーションの半分をかけて、口の中に瓶をねじ込んでおいた。

 そして、その場から離れてサーベルボアを確認する。

 加重状態で戸惑っていたらしいが、効果がゼロになったらしく再びあたしをターゲッティングしてきた。

 できれば連続でマグを使用したいところだけど……装備外しちゃったし、そもそも連続使用ってできるの?

 なんか無理っぽい気がするので、ポンデラーティは保留!


「えっと、えっと、師匠は関節を狙えばいいって言ってたけど……足を狙っても突進の勢いは止められなかったから、ひぃ、来たー!?」


 どうやって戦うか考えてる暇がない。

 あたしは突撃してきたサーベルボアの牙をなんとか避けた。あたしの代わりに、牙は後ろの木に引っかかったんだけど……


「うわ、すご!?」


 細い木だったので、サーベルボアは物ともせずに薙ぎ倒しちゃった。

 で、でも分かった!


「大きな木か、岩を背にして戦えばいいんだ」


 ここは森の中。

 真正面から戦うのではなく、正々堂々と不意打ちをする方法は他にもある。

 あたしは跳ねるように走りながら牽制の意味でサーベルボアに投げナイフを投擲した。普通に命中するけど、まったく効いてる様子はない。

 むしろ怒りを余計にあおった気がして、突進力が加速する。

 あたしは慌てて太い木を蹴るように駆けあがり、枝にぶら下がった。

 そのすぐ下を、ブーツをかすめるようにしてサーベルボアが跳ね、牙を振った。

 サーベルの名前の通り、まるで鋭利な刃物。牙に触れた木の幹はザックリと切り裂かれる。


「今だ!」


 あたしは素早く着地すると、急ブレーキをかけるサーベルボアにお尻に追いつく。


「おおおりゃあああ!」


 盗賊の代名詞、バックスタブ!

 シャイン・ダガーを引き抜き、そのままサーベルボアの背中に乗るようにして思いっきり突き立てた。

 さすが師匠がくれた光属性の付与されたダガー。

 サーベルボアの牙なんか目じゃないくらいに、ずっぷりと根本まで刺さる。


「どんなもん――あれぇ!? うわわわわわ!」


 手応え有り。

 なんて思ったけど、ぜんぜんそんなこと無くって。

 サーベルボアは背中に乗るあたしを落とそうと、まるで暴れ馬みたいに後ろ足を跳ね上げさせた。こういうの、ロデオっていうんだっけ!?


「う~ん……はっ! ど、どうなりましたの!?」


 と、そこでようやくルビーが目覚めたみたい。

 慌てて起き上がって周囲を見渡してる。


「る、るる、ルビー、こっちこっち!」

「パル! 分かりました、いま助けますわね!」


 と、ハンマーを振り上げながらこっちに向かって走ってきたけど――

 なんだろう。

 とっても、嫌な予感がする……


「えええええい!」


 と、ハンマーを振り下ろすルビーに対して、サーベルボアはあたしを落とそうと後ろ足をでたらめに振り上げるのが重なって――


「げがふっ」


 と、ルビーのあごを直撃したのでした。

 乙女が出したいけない声が聞こえた気がする……というか、ルビーの攻撃に対する無防備さってどうなってるの?

 吸血鬼って、もしかして攻撃を避けたことないの!?

 弱いのか強いのか、もう分かんない!


「――まだまだですわ!」


 あたしが吸血鬼の評価をゴブリン以下に改めようかと思った時、ルビーはまだ意識をハッキリ持っていた。

 すごい。

 蹴られた勢いで空中で縦に後方一回転したルビーは、綺麗に着地して再びハンマーを振り上げた。


「乙女の、渾身の一撃ですわ!」


 と、サーベルボアにハンマーを振り下ろすのだった。

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