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~可憐! 溶岩の中で窒息死するようなもの~

 裸になっちゃったルビーに、あたしはジャケットを貸した。

 ちょっとでも隠れたらいいと思ったんだけど……


「逆にエロい」


 と、師匠は語って、またそっぽを向いてしまった。


「いわゆる見えていない部分を、人間は自然と補完してしまうものだ。チラリズムと男子諸君は語ることもあるが……知っているかい、パルヴァスくん。盲点という言葉を。そう人間の瞳には本来、盲点と呼ばれている見えていない部分があるんだ。しかし、それを私たちは自然と補完している。見えていないはずの部分を、見えている風に装っているんだよ。それと同じように、今のルゥブルムくんは胸が見えていない。でも、他の部分が露出していて白い肌が見えている。だからこそ、人間は――特に健全な男の子はどうしても想像してしまうんだ。あぁ、こんなにも綺麗な肌をしているんだから、きっと見えてないあの部分も、きっと美しいに違いない。どんな形だろう、どんな色だろう、どんな大きさなんだろう? と、夢が広がるように想像の翼が大空へとはばたくのさ。ステキだろう?」

「ただのスケベではありませんの?」

「ごもっともだ。あっはっは!」


 ルビーのツッコミに学園長は高笑いで答えた。

 ごもっともな話なんだ。

 やっぱり学園長、テンションが高いなぁ。たぶんマグがある程度の成功をしたので、ご機嫌なんだと思う。

 ルビーはよろよろと日陰に入った。

 燃えてはいないけど、やっぱりそれなりにダメージがあるのかな。ダメージっていうか、なんていうか、弱っているような感じ?

 なんとなく冬の凍えそうな夜のことを思い出した。

 路地裏で、ちょっとでも油断すると、そのまま目を閉じて死んじゃいそうな……そんな状態と似てるのかもしれない。

 ルビーは日陰に入って、安心するように大きく息を吐いた。

 でも――


「あら?」

「どうしたの?」

「服が生成できないようです。あらら……それどころではありませんわね」


 ルビーはなにかをやろうとしているみたいだけど、全て何も起こらなかった。

 ただただ、ルビーがワタワタと身体を動かしたり手を動かしたりしているだけで、ちょっと面白い。


「何もできなくなってしまいましたわ……」

「どういうことだ?」


 ルビーの言葉を聞いて、ようやく師匠がルビーのほうを向いた。

 でも、ちょっと視線が泳いでる。

 やっぱり師匠はイイ人なんだけど、それでもやっぱり男の子なんだなぁ~って思えた。

 あはは。


「吸血鬼の能力と言いましょうか。いえ、それ以上ですわね。魔力の制御も上手くできなくなっているようです」

「マグの効果が不完全だった、ということか?」


 師匠は学園長に聞くけど、学園長は口元に握った指を押し当てるようにして考えていた。視線は右に左に揺れている。

 でも、それは景色を見ているわけじゃなくて、思考する様子に合わせて揺れているだけ。

 真っ白な瞳が、二度、三度、と往復したところで学園長が口を開いた。


「恐らく相性の問題と推測する。吸血鬼はどうあがいたところで太陽の光を浴びれば消滅するのが本来の特性だ。これは我々が水の中で呼吸できなくて窒息するように、溶岩の中に落ちて溶けるように燃え尽きるようなものだ。では、水の精霊女王の加護を有した『優水のヴェール』という魔具を作ったとしよう。水の加護を得て、耐熱と水呼吸を得たとしよう。では盗賊クン。それを装備して君は噴火する火山の中を泳げると思うかい?」


 学園長の質問に、師匠は首を横にふった。


「無理だと思う。それこそ数秒が限界じゃないか?」

「そう。魔法は万能じゃない。加えて、神さまだって万能じゃない。何事にも限度がある。もっと強力な……それこそ盗賊クンが作ってもらった銀の腕輪レベルで作り上げた魔具ならば、問題なく溶岩の中を泳げた可能性もある。しかし、試作品とは言え、ルゥブルムくんは燃えることなく日光の下に出れた。効果は充分に発揮されている。言ってしまえば、溶岩の中に入ることはできたけど、ただでは済まなかった。最初の実験にしては、いささかハード過ぎた、というのが今さらながらの私の感想にして結論だ」


 そう言って、学園長は頭を下げた。


「申し訳ないルゥブルム・イノセンティア。君を実験台にすることを決めたし、実験台にすることを了承してもらったが、成功したならば君の身体は無事であることが前程だった。これは明確に私の判断ミスだと言えるだろう。申し訳ない。もっと強力な効果を発揮する『常闇のヴェール』を作って、君に贈呈すると約束しよう」


 頭を下げる学園長に対して――


「いいえ」


 ルビーは首を横にふった。

 なんでだろう?

 って思ったら、ルビーは怪しく笑った。


「今のこのわたしは、それこそパルより弱く、ハイ・エルフよりは強い状態でしょう。言ってしまえば吸血鬼ではなく、ただの人間。つまり、見た目通りの貧弱な少女です。ですので、師匠さん?」

「な、なんだ?」

「今のわたしなら、簡単に殺せるでしょう?」


 えー!?

 なんか、物凄いこと言ってる……


「あ、あぁ。やってみないことには分からんが。だが、ルビーの視線や雰囲気に、いわゆる『怖さ』のようなものは感じなくなった。今なら、普通に殺せる気がする」

「えぇ。それはつまり、ようやく師匠さんの隣に立てるようになった。ということですわ」


 そ、それって、え~っと、ということは今まで師匠はずっとルビーを警戒してたってこと?

 ぜんぜん油断してなくって、ずっと心を許してなかったってことなのかな。

 じゃ、じゃぁ!


「――師匠は、あたしのことがめっちゃ好き!?」

「なにを言い出すんだ、おまえは……」


 師匠は苦笑しつつ、あたしの頭をぽんぽんと撫でた。


「心配するな。ルビーがどうなろうとも、パルを見捨てないって言っただろう。ルビーが弱くなったとしても、それは変わらないよ」

「あ、いえ違います」

「ん? そうなのか?」

「はい! だって師匠、あたしのことは弟子にしてからぜんぜん無警戒でしたよね。それってつまり、最初からあたしのことは好きだったってことですよね! ね!」

「……え? そうなるのか?」


 師匠はあたしじゃなくて学園長を見て、ルビーも見た。


「残念ながら私は他人の恋愛感情には疎くてね。でも、君は可愛い少女が好きなんだろう? ロリコンという人間は、間違いなくパルヴァスくんが好きなのではないのかい?」

「師匠さんはパルのことを好きでも構いませんわ。別にわたし、一夫多妻制でも問題ありませんもの。もちろん第一夫人はパルに譲ります。わたしは第二夫人でもしあわせですもの。もし、それが嫌なのであれば……愛人や遊び相手でもまったく問題ありませんわ。むしろウェルカムです」

「「え~……」」


 あたしと師匠の言葉が重なった。

 それってどうなの?

 あたしは師匠のお嫁さんになれるのは嬉しいけど、それって浮気? あ、でもイップタサイセイっていうのは、聞いたことがある。

 だから、別にいいのかな?

 う~ん。

 分かんない。


「あっはっは。まぁ、将来の話はそこまでにしておいて。ルゥブルムくんの常闇のヴェールはそれで問題なしとしておくよ。実験は成功だ。そして私たちの理論は間違っていなかった。値段は少々張るが、人類はマジックアイテムを作り出すことに成功したのだ! 魔具。マグ! まぐ! ふふふ、ははは、はっはっは、あっはっはっはっは! というわけでパルヴァスくん!」

「ふえぇ、なに!? なになに!?」


 ご機嫌に笑う学園長にいきなり呼ばれてあたしはびっくりした。


「次は君の番だ」


 そう言って学園長はポケットからもうひとつ腕輪を取り出した。


「魔具『ポンデラーティ』だ。一般的な攻撃魔法である『ポンデラーティ』が付与されている。パルヴァスくんの望み通り『自らを加重する』という効果があるはずだ。本来は対象に向かって効果を発揮するタイプのデバフ魔法なのだが、今回は自分を対象に指定してある。ふふふ。実はこれが開発を容易にするキッカケでもあったのだ。対象を選定するギミックは、本来は視線や杖で行うもの。それを如何に回路化するのかはまったくもって不明であり不明瞭かつ不安であったのだが、自分を対象にする分には容易だった。そこから導き出されたのは、自分と他者という境界。またそれを認識するのは意識であり、肉体とは別であることが言える。だからこそ回路化におけるプロットを――どうしたパルヴァスくん? 目がぐるぐると回っているぞ」

「ご、ごめんなさい。なんにも意味が分かんないです」

「ふむ。師匠くん……も、ダメか。ルゥブルムくんは?」

「サッパリ分かりませんわ」


 良かった。

 あたしだけがバカじゃなくて良かった。

 あ、でも師匠はバカじゃないと思うので、学園長が頭良すぎるのが問題なんだ。

 うんうん。


「まぁ理論はいいか。是非とも開発秘話を聞いてもらいたいのだが、これは買い付けにきた商人に話すとしよう。理解できる者だけが扱って良い商品となる。うむ」


 そう言いながら学園長は腕輪をあたしに手渡してきた。

 重さはほとんど感じない、なんだか不思議な感じがする腕輪だった。


「さぁ、パルヴァスくん。装備したまえ!」

「はい!」


 というわけで、あたしは早速マグ『ポンデラーティ』を装備するのだった。

 ポンデラーティ。

 なんか名前が可愛い~。

 ポンデ・らーてぃ。

 うんうん。

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