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~可憐! 経験値が欲しいか、ならばくれてやる~

 遅くなっちゃった。

 と、あたしはちょっぴり反省した。

 師匠とルビーと別れて、あたしはサチがいる神秘学研究会に戻った。

 サチとミーニャ先生は、まだまだ研究中というか授業中? みたいな感じで講義というか話し合いをしていて、あたしもその話を聞かせてもらった。

 ぜんっぜん! 分かんなかったけど。

 とりあえず、神さまの住んでる天界でいろいろな大騒ぎが治まって、ナーさまが解放されたらしい。

 で、そのナーさまからの報告を受けたりして、今後の対策を練ったりしてたみたい。


「……降りてこられなくなった」


 ナーさまは大神になっちゃった代わりに、地上に来られなくなったみたい。今までは神格っていうのが小さいので、地上に降りても見つからなかったそうなんだけど。

 神格が上がり過ぎて目立ち過ぎちゃうみたい。

 簡単な人形にも入れないみたいだし。


「……だから、次は大神を降ろせる研究をする」


 サチの次の目標が決まったみたいなので、それをお祝いしてミーニャ先生といっしょに夜ごはんを食べた。

 で、ミーニャ先生がおごってくれたので食べ過ぎました。


「遠慮の無い子ねぇ。食べるの好き?」

「好き!」

「それはそれは素晴らしい。いっぱい食べなさい」

「はい!」


 ミーニャ先生が言ってくれた言葉と、お腹の重さが、合わせて幸せな思い出となって、あたしの血肉となるのだ。

 あっはっは。


「けぷ」


 いや、ほんと食べ過ぎました。

 ごめんなさい、師匠。テーブルの上にいっぱいごはんが並ぶと、あたし、我慢できません。

 うぅ。

 生ごみを見つけた時の喜びに似ている。

 あの頃、生ごみのかたまりが宝箱にも思えて……あの中から食べられる野菜のクズとか、魚の頭とか骨を見つけた時は嬉しかったなぁ。

 でも、今はテーブルの上に並ぶ全てが食べられる物。

 だから、ついつい全部に手を出しちゃう。

 もしもこんな罠が仕掛けられていたら、ぜったいに引っかかってしまう。毒とか入ってそうでも、なんか食べちゃいそうで……自分が怖い。

 おっきくなっちゃったお腹がなによりその証拠。


「はぁ……」


 サチはミーニャ先生の家にいっしょに住むことになったみたいで、宿代とか食事代とかも全部お世話になるみたい。


「……いっしょにお風呂も入ってくれるし、ミーニャ先生はいい人よ」


 サチの基準はいっしょにお風呂に入ってくれるかどうか、なのかな。

 そういえば、あたしもサチといっしょにお風呂に入って仲良くなった気がする。やっぱり裸で話し合うのは大事なことなのかもしれない。

 ほら、武器も隠し事も全部無いですよ。

 みたいな感じで。

 あと、師匠もいっしょに入ってくれたし。


「むふっ」


 おっと。

 思い出してニヤけちゃった。


「おかえりなさい。おや、大きなお腹ですね」


 宿に戻ってくると、受付のカウンターに居たおじさんに声をかけられた。たぶんこの人が宿の主人のルールさんかな?


「ただいまです。えへへ」

「食べ過ぎにはこちらの薬草が良いそうですよ。おひとつどうぞ」

「わ、ありがとうございます」


 葉っぱを一枚もらったので、あたしはぱくりと噛んでみる。


「にがい!?」

「はっはっは。でも口の中がスッキリするでしょう」

「あ、ホントだ。もうちょっと食べられそう」

「え?」

「え?」


 口の中がリセットされた感じなので、しょっぱい物でも甘い物でも食べられそうって思ったんだけどなぁ。


「薬草、ありがとうございます」

「いえいえ。良いお休みを」


 丁寧に頭をさげるルールさんにお礼を言って、あたしは部屋に向かって廊下を移動する。


「――ん」


 と、そこで気付いた。

 不気味なくらいに部屋から何か漏れ出している。別に液体とか、そういうのが漏れてるんじゃなくって、なんだろう、こう、黒くにじむ何か……


「ぜったいルビーだ」


 まるで近寄ってくるな、とアピールしてるみたいに感じる。

 これはあたしにじゃなくて、その他の知らない人向けって感じかな。なんか扉に近づくのも本能でやめておこう、って感じるくらい。


「なにやってるんだろう?」


 部屋の中に気配はある。

 でも、不気味なほどに音は聞こえてこなかった。


「よし」


 盗賊スキル『ウサギの耳』! の、練習!

 あたしは出来るだけ気配を消して、ドアにそっと身体を寄せた。そのままドアに耳をくっ付ける。何か漏れ出してる扉なので、拒絶感が凄いけど。

 でも汚いのとか、慣れっこだ。

 路地裏では泥水とかに顔を突っ込んでたし、生ごみを漁るのは日常茶飯事。これくらいの得体の知れない何か、に触れるのは問題ない。


「……」


 聞き耳をしてみても、やっぱり何も聞こえなかった。

 これは、あたしの聞き耳が下手だから、なのかなぁ。スキルまで昇華するのって大変だ。

 仕方がないので、もう素直にドアを開けてみる。


「ただい――ま!?」


 部屋の中は、すごいことになっていた。

 なんていうか、真っ黒。

 あらゆる物が黒い絵の具に塗りつぶされたようになってしまっている。光を全て吸収しそうなほど真っ黒で、壁とかベッドの境目が分からなくなるくらい。

 どこから床で、どこが天井で、どこが壁なのかも判断できなかった。

 これが部屋から漏れだしてる不気味な何か、なのかな。

 黒い物は部屋から一切出てなかったけど、なんか漏れだしている感覚みたいなのは、このせいで間違いないと思う。

 そんな部屋の真ん中でルビーが立っていて、その周囲には黒い球が浮かんでいた。

 あたしにも分かるくらいに濃い魔力の塊だ。でも、殺意みたいな物は感じられない。単純に魔力が外に出ただけの形かな。

 魔力糸の凄いバージョンみたいな感じかも。

 と思ってたら、黒い球が物凄い速度で射出された。その方角にいたのは師匠。なぜか、身体のところどころが真っ黒に染まっている。

 そんな師匠が全力で部屋の中を飛び回りながら回避行動を続けていた。


「――ッ!?」


 無言で、無音で。

 そして撃墜されて、また師匠の一部が黒く染まった。


「くそ、ダメだったか」


 師匠は悪態をつくと、その場で大の字に倒れた。どうやらベッドの上だったみたいで、バスンと師匠の身体を受け止める音がする。

 それを合図に、まるで世界が音を取り戻したみたいになった。それと同時に、部屋の中を真っ黒に染めていたものが、ずずずずってルビーの足元……影の中に吸い込まれていく。

 吸血鬼っていろいろなことができるんだなぁ。

 凄い。


「おかえり、パル。楽しかったか?」

「ただいま師匠。ミーニャ先生におごってもらいました」

「ん? おまえまた喰い過ぎただろ」

「えへへ」


 どう見てもお腹がポンポンになっているので隠しようがない。あたしは笑ってごまかしておいた。


「あら、立派なお腹ですねパル。誰との子どもでしょうか?」

「師匠とあたしの子どもだよ」

「ふ~ん、おかしいですわ。師匠さんならずっとわたしと激しくも楽しい運動をしていたっていうのに。あぁ、気持ちよかったですわぁ。師匠さんったらとっても激しいんですもの」

「なにやってたの?」

「……あ、はい」


 なぜかルビーががっくりと肩を落として、師匠が吹きだした。

 あれ? なにか間違った?


「俺も強くならないと、と思ってな。ルビーに頼んで修行してたんだ。音を出さずに、ルビーの攻撃から逃げる。パルもやってみるか?」

「あ、やりたいやりたい!」

「よし、音を立てたら罰ゲームだ。腕立て伏せ三回な」

「む、よぅし頑張るぞー!」

「……激甘ですわね」


 なぜかルビーが、えぇ~、って顔をしてる。

 よし。

 お腹は重いけど、がんばるぞー!

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