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~卑劣! それは祝福か呪いか~

 パルが望んだもの。

 それは――


「あたしが欲しいのは、身体を重くする効果です!」


 その答えに、学園長のみならず、俺もルビーも首を傾げた。

 身体を軽くするのではなく、重くする?

 スピードアップではなく、スピードダウンってこと?


「なるほど! 君は素晴らしい向上心を持っているだな。是非とも、その向上心が肉体ではなく知性に向いていれば、今ごろ私は君を勧誘していたところだよ。喜べ、盗賊クン。君の愛弟子は舗装された真っ直ぐで楽な近道ではなく、遠回りしたトゲだらけの茨の道を選んだ。誇るべき選択だよ」


 そう言って、学園長はパルを褒めたたえるように拍手を送った。

 学園長にはパルの意図が理解できたらしいが……


「すまないが……ちゃんと説明してくれるか、パル。身体を重くしたい、とはどういうことだ? パワーをあげたいってことか?」


 子どもと大人。

 同じ速度と同じ力で体当たりした場合、威力が高いのはもちろん大人だ。その決定的な差異は大きさではなく体重と言える。

 もっと分かりやすく言うと、同じ力で押し合った場合、体重の重いほうが相手を退かせられるということだ。

 つまり、重ければ重いほど単純な攻撃力が上がる。

 ただし速度は下がってしまうが。

 パルに関しては、今のところ速度特化がスタイル的に良いと思っているのだが……これは身体が小さいからという意味ではなく、あくまでパルの性格に合っている。

 もちろん、パルの体型的という意味も充分に含まれている。

 それを拒絶して――

 速度を殺し、威力を上げるのは……ちょっともったいなくないか?


「いいえ、師匠。あたしはもう、師匠からすごいアイテムをいっぱいもらってます。成長するブーツとか――」


 パルはそう言って右手で黒いリボンを触る。

 とか、の部分に当てはまるのが聖骸布だろう。常に発動させておけ、と言っているとおりリボンは黒い。

 一見して、ただの装飾品にしか見えないが、パルが装備している中では最上級品。宝石を山ほど使った成長するブーツよりも、遥かに価値のある古代遺物。

 いや。

 この世界におけるモアベターではなく、ベストと言える装飾品。

 言ってしまえば古代遺物中の古代遺物。

 アーティファクトを超えるアーティファクト。

 神さまの忘れ物。

 神の遺物。

 光の精霊女王ラビアンの遺体をくるんだ聖骸布。

 身につけることによって、レベルをマックスまで引き上げてくれる……言ってしまえば、ズルいアイテムだ。

 それを考えるに、確かに能力向上系の魔法は効果が薄い気がする。もちろん、パルが聖骸布を装備しないと考えた場合には、能力アップも充分に意味はあるだろう。

 しかし聖骸布があるのが当たり前の状態となれば、能力アップ効果は確かにいらないのかもしれない。

 なるほど確かに――と、思う。

 それは分かった。

 理解できた。

 では――?

 じゃぁ、重くするとはどういう意味だ?

 そこが俺の中でサッパリと繋がらなかった。


「普段から身体が重くなっていると、修行になります。こう、全身に重りを装備する感じ。師匠はあたしより、ずっとずっと速いので。それに追いつくには修行しかありません。だから、修行道具が欲しいのです。そう思ったので、重くなる効果が欲しいのです」

「なるほど」


 レベルがマックスになっている――といっても、現状の限界値だ。数字に置き換えてみると分かりやすいだろうか。

 今の俺のレベルを100と仮定すると、パルのレベルは30か40ほど。実際に手合わせしてみないことにはハッキリとした数字は言えないが、少なくとも50には届いていない。

 上限を引き上げるのは、それこそ身体の成長が一番わかりやすいが。訓練や修行、練習をちゃんとやれば限界値は伸びる。

 それこそ、適切に訓練すれば俺より遥かに早くレベル100に到達できるだろう。

 なにせ俺は、誰にも教えを受けることができなくて、手探り状態だったので。


「能力を上げるのではなく、枷を欲しがるとは」


 学園長が言ったとおり、向上心に溢れているじゃないか。

 俺はなんて良い弟子を持ったんだろうか――と、パルの頭を撫でてあげようと思ったら。


「パルはマゾなんですわね」


 ルビーが余計なことを言った。


「あぁ、そうかも」


 あっさりと認めた!?


「師匠にいっぱい愛してもらうんだぁ~。だから、マゾ」

「……なんか間違ってません、それ?」

「え、そう? でもルビーは、さでぃすてぃっく? サド? だよね」

「そうですわね。わたしは愛されるより愛すほうが合っているかと。師匠さんに抱かれることを期待していますが、こちらから攻めたい欲が強いのは確かですわ。パルも師匠さんを喜ばせてあげたいと思ってこそ、真のレディですよ」

「自分本位じゃダメってことだよね」

「さすがです。理解が早くてよい子ですわ」


 と、ルビーがパルの頭を撫でた。

 同じくらいの身長同士の美少女が頭を撫でる姿っていうのは、物凄く素晴らしい光景なのだが……俺が撫でようと思ってたので、なんかちょっと悔しい……

 しかし――

 今後、俺が知らないところでとんでもない教育が始まる気がする。

 正直言って、こわい。

 吸血鬼というよりも、いざ本番で攻められるのが怖い!

 助けて学園長!

 男として自信を失いそうです!


「おいおい盗賊クン。普通の男ならば、それを喜ぶものだぞ盗賊クン。そんな視線を送ってくるから童貞だと笑われるのだ盗賊クン。覚悟を決めて捨ててしまったほうがいいんじゃないか童貞クン? 文字通り一皮むける、というやつだ。ん? なにが文字通りなんだ? ちょっと説明してくれたまえ、盗賊童貞クン」

「童貞どうてい言うな! 嫌がらせか!?」

「うん」


 うなづきやがった!?


「まぁ、冗談はさておき。私は学園長という立場だが、総合すると教師という立ち位置でもある。誰かに知識を与えるためにここに居て、また別の誰かに知恵を授けるためにここに居る。その対価は食べ物でもいいし、お金でもかまわない。本でもいいし、新しい知識でもいい。なんなら子どもの描いたラクガキだって喜んで受け取る。だからね、盗賊クン」

「嫌な予感がする」


 嫌な予感がするんだ。

 うん。

 でも学園長は俺の言葉を聞かずに続けた。


「君の童貞を私がもらってもいいぞ? 盗賊クンの童貞をもらったら、私からもなにか与えないといけない。というわけで、君が父親になる権利を与えよう。ハイ・エルフから生まれる、今では一般的になってしまったエルフの父親が君だ。人類史に残る栄誉ではないだろうか。まぁ一撃で赤ちゃんが出来るとは思えないので、何度か繰り返してやるのが一番だと思うのだが、どうだろう?」

「却下だ」

「えー」

「えー、じゃない、えーじゃ。俺を笑いものにして、からかったりして、そんなに面白いか、学園長?」

「うん」


 即答してんじゃねーよ!

 まったく。


「ま、冗談はさておき」

「冗談が悪質過ぎる」

「好意のある悪意だ。愛情として受け取ってくれたまえ」


 それ、結局は悪意じゃないか。

 どこが愛情なんだ?


「さて、試作品の話は承った。闇と重力の魔法を封入したマジックアイテムを作ってみようではないか。上手くいけば人類は神に追いつけるかもしれない。アーティファクトを我々が作り出せる日が来るのかもしれない。ルゥブルムくん、テストは任せたよ」

「えぇ、お任せください」


 よろしい、と学園長はうなづき、俺を見た。


「で、ここからは盗賊クンの話だ」

「俺?」


 うむ、と学園長はうなづく。


「君から預かった銀の腕輪。これもまた一級品であるのは間違いないが、実験の結果というか、いろいろと試した結果、これもまた特別な魔法を封入することができる――かもしれない」

「随分と弱気だな」

「明確な理由があってね。ルビーくん、ちょっとこの銀の腕輪に攻撃してみてくれ」


 なんだろう、と思いつつもルビーは人差し指を立てて腕輪にちょんと攻撃をする。爪でひっかくような感じだろうか。それでも、腕輪にはえぐれるような一筋の傷が残った。

 が、しかし――


「すごい、一瞬で直った!」


 パルの言葉通り、腕輪に付いた傷が一瞬で修復されてしまった。


「この特性は、既知のものだ。そう、成長する武器、防具の類でも見られる現象ではあるのだが……いかんせんリソースをどこにも使ってないものだから修復が規格外に早い。まぁ、これは逆に防具に応用するといいかもしれないが、防具にしては柔らかいので要研究だ。ドワーフが喜んでたぞ」


 研究者たちは、問題があればあるほどに嬉しいものらしい。なんとも厄介な性格だ。


「簡潔に言ってしまえば、この銀の腕輪は恐ろしく可能性を秘めている物になったのだが……逆に恐ろしく加工しにくい物、というわけだ。なので盗賊クン。君が希望する魔法や、なんらかの効果を前程とした研究を進めたい。いわゆる方針を決めよう、という話だ。今は前にも後ろにも左右どちらにでも歩くことができる。だからせめて方角だけでも決めてしまおう、という結論が出た。そのほうが何かと結果はでやすいだろう。そういう訳なんだが――盗賊クンはなにを希望する? どんなことができたらいいかな?」


 なるほど。

 何もかも出来そうな状況、ということか。

 ならばやはり――


「ふむ……では無理を承知でやってもらいたい」

「構わないとも。どんな無理難題でも言ってみてくれ。言うだけなら無料だ」

「では――」


 俺は告げる。

 是非とも自由に使ってみたい物があった。

 その名を告げた時、学園長は驚き、そして笑った。


「あははは! あはははははは! そうか、なるほど! そりゃ欲しいに決まっている。というか、作らないほうがもったいない! あぁ、やる、やってみせるよ盗賊クン。期待はしないでくれよ。だが期待はして欲しい。ああぁ、矛盾する。矛盾してしまう。待ってくれ。待っててくれ。あぁ君は天才だな。なんだその発想は。うらやましい。やはり私の処女は君に捧げたいと思うし、私の子ども達をどうか君のもとで自由に育てたい! くそ! いいな! 私もパルヴァスくんやルゥブルムくんといっしょに盗賊クンといっしょに過ごしたい! だが! そんな暇はなくなった。子どもを作ってる時間があるのなら、今すぐにでも研究を開始すべきだ。時間が、時間がもったいない! すまぬ、盗賊クン! 処女をあげる話はまた今度だ! では、ちょっと、行ってくる! また呼ぶからね! 待っててね!」


 そう一方的に学園長はまくし立てると走り去ってしまった。


「師匠」

「なんだ……」

「学園長は、師匠的に有りなんですか?」

「無しだ。俺はあくまでロリコンであり、ロリババァは論外だ」


 ロリコンと一言でいっても、その中身は千差万別。

 上限年齢すら十人十色だ。

 そもそもロリババァをロリコンの対象に含めていいのかどうか、これは有識者でも判断が別れるのではないだろうか。

 いや有識者なんていないと思うけど。

 さすがにこの学園都市でも、ロリコンを研究するヤツなんていないだろうし。

 ……いないよな?

 なんかちょっと、いそうで怖い……


「まぁ、酷いですわ。わたしもロリババァなのに。でも、わたしが師匠さんの無しを有りに変えてもいいってことですわよね?」

「そんなことさせないもん。師匠はロリコンなので、あたしが守ります!」

「お子様は引っ込んでいなさい。大人の魅力も出せないくせに」

「なんだと貧乳!」

「黙りなさい無乳」

「むにゅ!? ちょっとくらいあるもん!」

「へ~、ホントかしら? わたしにはどう見てもぺったんこにしか見えませんが?」

「ルビーとそう変わらないよ! ねぇ、師匠!」

「どっちの胸が師匠さん好みです?」


 えぇ~……

 なんでだろう。

 ほんと、分からない。

 どうして今ごろ、俺にモテ期が来たんだろう……

 もっと早く、それこそ賢者や神官が仲間になる前に来ていたら。もしも勇者パーティに、神官や賢者に追い出される前にパルやルビーに出会っていたら……

 いや、考えるのはやめておこう。

 無い物ねだりは良くない。


「はいはい、とりあえず帰るぞ」


 にらみあう弟子と吸血鬼の頭を撫でつつ。

 俺は自分の運命というか、なんかそういうものを神さまではない、なにか別の存在に訴えかけてみることにした。

 これってどうなの?

 というか、俺ってホントにモテてるの!?

 良く分かんない!

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