~可憐! しあわせなら手を繋ごう~
師匠からのクエスト――
内容はとっても簡単。
子ども達のいる場所を探そう!
ただそれだけ。
そんなに難しくないクエストだけど、師匠に信頼してもらって任されたのだから頑張らないとだね!
「行くよサチ」
「……うん」
あたしとサチはいっしょにミーニャ神秘学研究会の部屋を出た。
師匠とルビーは別のクエストがあるので、別行動を開始してる。
得にルビーは、
「それでは、また後ほど」
と、師匠の影じゃなくて部屋の影の中に沈んでいった。師匠の影に入ると、師匠の影から動けないけど、建物の影だったら建物の中を自由に動けるみたい。
それって、洞窟とかだと無敵じゃない?
なんて師匠と呆れつつ、あたしとサチは師匠と別れた。というか、師匠は素早く走って行っちゃったので、これっぽっちも追いつけない。
「……ありがとうパルヴァス」
校舎の外に向かって歩いていると、サチが言ってきた。
「ん? いいよいいよ、問題なし。あたし達、同じパーティで冒険した仲間じゃない。友達以上恋人未満の関係だから遠慮なんてしないで。にひひ」
「……そこまで進んでいるとは思わなかったわ」
「あれ?」
命を預ける関係だったので、ぜったいに友達以上だと思ったんだけどなぁ。
サチはやっぱり、ナーさまのほうが大事なのかも?
無垢と無邪気を司ってる神さまだし、恋人みたいな関係はダメなのかなぁ、やっぱり。
「仲良しでもいいんでしょ? ナーさまは怒らない?」
「……怒ってないと思う」
「だったら、仲良しなかよし」
あたしは手を差し出す。その手をサチはおずおずと取って、にぎってくれた。
手を繋いで、あたし達は学園校舎を歩いていく。
「そういえばミーニャ神秘学研究会のミーニャって人……ヒト? エルフ? 獣耳種? いなかったけど、どうしたの?」
「……学園長がたいへんな発表がある、みんなの知識と知恵が必要だ。って言ってたみたいで。……ミーニャ先生もそれに参加するために行っちゃった」
「あぁ~」
それってきっと師匠の腕輪の話に違いない。学園長、すごく興味深そうにしてたし。きっと今ごろ、頭の良い人たちで新しい物を作ってると思う。
神さまを研究する神秘学なんて関係無いような気もするけど、そういう専門外の知識とかも役に立つのかもしれない。
それだけスゴイ話っぽかったので。
「ねぇねぇ、サチ。ミーニャ先生ってどんな人? なんか名前的に獣耳種っぽいけど」
「……ハーフリングと人間のハーフだった。ハーフ・ハーフリング」
「えぇ!?」
あたしは思わず声をあげてしまった。
ハーフリングって、いたずら好きの小人族で、ぜんぜんまったく子どもとかを育ててるイメージなんて無い。
「ハーフリングって子ども作るんだ」
「……当たり前だけど、気持ちは分かる」
分かってもらえた。
さすがサチ。
「は~、やっぱり学園って凄いね。ハーフリングと人間のハーフがいるなんて。あ、待って。どっちがハーフリング?」
「……母親だそうよ」
あたしは二度目の声をあげてしまった。
「それは、つまり、ミーニャ先生のお父様って、つまり、そういうことだよね……」
師匠と同じ、ロリコン……。しかも、なんか師匠以上って気がする。なんとなく。
サチも神妙にうなづいてくれた。
「でも、どうしてそんな話をしてくれたの?」
「……ミーニャ先生が神秘学の研究を始めた理由だったから。母親がハーフリングで、先生を産んですぐにどこかへ行っちゃって、父親は、その、ロリコンだって迫害されて、先生自身も迫害されたそう。……で、この世すべてを恨んでいたし、なんなら神さますら呪い殺したいと願っていたそうだけど、そんな時に神さまから声が掛かったそうよ」
「ほへ~。神さまは何って?」
「……申し訳ない。……神さまがミーニャ先生に謝ったそうよ。それから、ミーニャ先生は神秘学に興味を持つようになって、学園都市に来たんだって」
「すごい話だ」
サチの抱えていた話も凄かったけど、ミーニャ先生の話も凄い。
やっぱり学園都市に来る人たちってみんな、なにか物凄いものを背負ってるんだなぁ。
なんて思った。
「……ところで、パルヴァス」
「なぁに?」
「……誰に子ども達の居場所を聞くつもり?」
あたしは廊下にまで伸びてきてる枝をぴょんと飛び越えつつサチの質問に答える。
「学園の生徒って、みんな自分の研究に一直線でしょ。きっと子ども達なんてぜんぜん見てないと思うんだよね~。だから、外に出て屋台とかお店の人に聞くのが一番早いと思う」
「……そうね。賛同するわ」
「では、満場一致で作戦開始だね」
あたしとサチは手をつないだまま階段を駆け下りていき、そのままの勢いで学園の外まで走って移動した。
「あはは!」
「……もう、パルヴァス。はしゃぎ過ぎ」
「サチも楽しそうだったじゃん」
「……だって、楽しいもん」
「えへへ~」
神さまの問題は、解決してないのかもしれない。それでも、サチの中ではだいぶ楽になったんだろうな~っていうのが分かる。
いつもどこか思考を巡らせていたようなサチだけど、ちょっとだけ視線が上を向いたっていうのかな。天界じゃなくて、現実の前を向いて歩けるようになった。
そんな感じがする。
まだまだ大変だけど、それでも前に進めた。神さまを、ちょっとだけでも助けることができた……あ、いや、ものすごく助けられたってこともあって、これからはサチも明るく元気になっていけるんじゃないかなぁ。
「さて、どの人に聞いてみようかな~」
あたしはおでこに手をかざして、周囲を確認した。別に太陽がまぶしいわけじゃないけど、なんかそういう、人を探してますよポーズ、を取ってみたくなった。
まず一番に探したのは――
「新料理研究会は~っと」
仲良くなったので、情報は必ずもらえるはず!
……違うよ?
なにか食べたかったんじゃないよ?
「う~ん、いないっぽい」
残念ながら新料理研究会の姿は見えなかった。
休憩中かな。
「……とりあえず、校舎の近くに子どもはいないと思う。もっと離れたところじゃないかしら」
「そうなの?」
「……見た感じ、子どもがいない」
「あっ、言われてみれば確かに」
情報をくれる人ばっかりを探しちゃったので、肝心の子どもに意識が向いてなかった。
危ない危ない。
師匠がサチといっしょに、って言ったのはこういう理由かなぁ。もっとしっかりしなくっちゃ。
あたしは改めて周囲を見渡した。
学園校舎の前にも、たくさんの人々がいる。
そんな中で、子どもかな~って思っても低身長のドワーフだったりするし、生徒である白いローブを着てる人ばっかり。
あとは学園に用事がある商人さんとかが出入りしているので、子どもは学園校舎の近くにいないっていうのは確かっぽい。
「じゃぁ、どっちに行く?」
「……あっち?」
サチが選んだのは、あたしもまだ行ってない方向だ。
方角的には南になるのかな?
確か、学園都市があるのは大陸の南端。もっと南に移動すれば海が見えるかもしれない。
「行ってみよう」
「……うん」
サチとは手をつないだまま、あたし達は学園校舎の中を再び突っ切って南側へと出た。反対側とそう変わらない街並みで、そこにいる人たちの様子は特に変化はなく、お祭り状態なのは確かだけど。
「おぉ~」
南側には青空しか見えなかった。つまり、この先に山とか何も無いってことだ。それってやっぱり海が近いってことなのかな~。
どうせなら学園校舎の上から見渡せば良かった。
「とりあえず、行ってみよう」
あたし達はそのまま大通りを歩いていく。
学園都市は広くて大きいので、歩いて端っこまで行くのはめちゃくちゃ時間が掛かるかも?
街中を走る乗り合い馬車を利用した方がいいのかなぁ。
なんて思いつつ、情報を聞き出せる人がいないかな~っと見渡しながら歩いていく。あたし達に向いてる視線は――無い。安全なのは確かだけど、逆に情報収集には問題かも。誰か興味持ってくれてるほうが話しかけやすいし。
お祭り騒ぎなのはいつもの風景なんだろうけど、屋台のお兄さんやおばちゃん達も楽しそうだ。
魔物が少ないっていうのは、こういう感じなのかなぁ、なんて思う。もしかしたら、この学園都市には孤児なんていないんじゃないか、とも思った。
だって、みんな平和そうなんだもん。
子どもを捨てる必要なんて、無いはずだから。
「物乞いもいないよね」
「……仕事がたくさんあるんじゃないかな」
「そっか」
いろいろ研究してると、やっぱり人手がいるってことかな。それを考えると、仕事はたくさんあるから、物乞いになっちゃう人もいないんだ。
もしも――
もしも、あたしが学園都市で生まれていれば……
それを考えたところで、あたしは顔をぶんぶんと振った。
「……パルヴァス?」
「なんでもない。どうする、校舎の近くだと子どももいなさそうだし、手っ取り早く馬車で南の端っこまで行ってみる?」
「……それがいいかも」
決定ね、と。
あたしとサチはにっこり笑って、乗り合い馬車の停留所を見つけてお客さんといっしょに乗り込むのだった。