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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! 寝る子は育つが触りたい~

 宿の共同風呂から戻ってくると、パルがベッドの上で眠っていた。


「……まったく」


 お腹いっぱいになって気持ちよく眠っている。

 これ以上ないってほどしあわせな表情で寝ていた。


「ふむ」


 さて、どうしてくれようか。

 以前のパルならば、部屋の中に俺が入ってきた時点で目覚めていただろう。俺は気配も足音も消していないので尚更起きても不思議ではない。

 どうやら……すっかりと油断できるようになっているみたいだ。

 それは、盗賊としては弱くなったと言える。

 人の視線と気配に敏感で、たとえ眠っている時でさえ油断しない。

 完全で完璧な盗賊の在り方とは、そういうものだ。

 でも――


「人間としては、こっちが正解だな」


 訓練を積んだ盗賊なら理解できる。

 練習と修行による結果、視線と気配察知ができるようになるのが普通だ。

 しかし、パルは最初からできていた。

 出会った当初から、油断もなく、気配に敏感で、たとえ眠っていたとしても油断していない。

 俺の弟子になった段階で、盗賊に必要とされる技術があった。

 言ってしまえば、それは不幸だ。

 普通の子どもが――普通の少女が、持っていて良い能力なわけがない。有していて良いスキルではない。

 自然に取得できるはずのない技術を不自然に取得していた。

 それが、路地裏で生きていく為に必要なものだったのだろう。


「触っても起きないなんて、いいことじゃないか」


 パルのほっぺたをツンツンと触る。

 しあわせそうに眠っている女の子のほっぺたを突っついてみるのは、ちょっと楽しい。


「んにゅ」


 むにむにとほっぺたは柔らかく沈んだ。以前のパルならば、皮ばかりに皮膚の下には骨しかなかった。

 でも、今はやわらかい。

 充分な栄養が取れている証拠か、はたまた過剰摂取が現れているのか。

 もっとも――

 このやわらかさを悪だと断じるならば、そんなヤツにはバックスタブを喰らわせてやりたい。


「ふむ」


 むに、とつまんで見てもパルは妙な声をあげるだけで、跳び起きたりしなかった。


「ほぅ」


 ならば、と俺は人差し指をパルのおへそに入れてみる。

 いやぁ……一度入れてみたかったんだよね。

 指を。

 このおへそに。

 いつも見えてるパルのお腹なので、触ってみたい欲求が凄かった。

 起きてる状態だと、ほら、アレじゃない?

 いや、寝てる状態だと逆にソレかもしれないので、なんとも言えないけど。

 まぁとにかく。

 俺がやってもいい限界はここじゃないだろうか。

 イエス・ロリ、ノータッチ。

 大原則を破ってごめんなさい。


「ぐふふ」


 ちなみにパルは不気味に笑っただけだった。くすぐったいのかもしれない。


「起きる様子は無し、と」


 残念だ。

 非常に残念だ。

 俺の言いつけであるお風呂に入れを守れなかった上に、ここまで触られても目覚めない。

 まったくもって、盗賊失格である。

 仕方がないが……お仕置きが必要だな。

 師匠であり俺の命令を破ったからには罰を受けてもらわないと困る。


「よし」


 というわけで、メモを一枚書き残して俺は宿を出た。

 本当ならパルといっしょに行く予定だったんだけど、これもまた良い訓練になるだろう。

 ひとつは情報収集。

 俺という人物を探し当てる訓練。

 もうひとつは単独行動、かな。

 やはり盗賊はひとりで動くことが多い。

 俺の相棒としてパルを育て上げるのはいいが、それだと最終目標である勇者パーティに加入させるってところは無理だ。

 理想は、パルがメインとなり、俺はサブとして補佐にまわる。

 それが一番良いはずだ。

 加えて――


「盗賊ギルドも総動員させたいが……果たして上手くいくかどうか」


 情報収集や斥候という点においては、個人よりも集団の方が良いに決まっている。

 できれば魔王領の探索や街の様子などは盗賊ギルドのメンバーに任せて、勇者にこっそり情報を流したい。

 その情報提供役、末端位置にパルがいて、俺はパイプ役にでもなればいい。

 情報さえあれば勇者たちの進む速度も上がるはずだし、安全なルートを開拓しておける。斥候の役目を複数人で担当できるのならば、それこそ勇者パーティを無傷で敵地に送り出すことも可能となるはず。

 なんなら、世界中からかき集めたマジックアイテムやアーティファクトを提供することもできるし、ポーションを送り続けることさえ不可能ではない。


「……組織内での成り上がりか。いや、ゆくゆくは複数の組織をまとめあげる必要があるな。まぁ、それも悪くない」


 とりあえず、そこまで行くにはまだまだ時間が必要だ。

 大前提としてパルを一人前にしなければならない。パルは盗賊スキルはおろか、戦闘技術も経験も足りていないのだ。

 せめてナイフの他にもうひとつくらい、パルに合う武器が欲しいところだが……


「ふむ。それも含めての相談かな」


 俺は再び学園校舎に入りながらつぶやく。なんか入口近くで美味しそうなからあげの屋台があるのにギョっとしてしまうが、まぁ、学園都市らしいと言えば、らしい、ので苦笑しておく。

 朝だろうが昼がろうが、もちろん夜だろうが関係なく。

 生徒たちが勉学と実験と実証にいそしんでいる学園なのだから。

 校舎内は真夜中であろうと賑やかだ。

 もちろん、そこら中で眠っている生徒を見かけるが、あれは夜だから眠っているのだからではなく、たまたま力尽きたのが夜だった、に過ぎない。

 ちゃんとした睡眠を取るのなら、宿舎に戻るはずだしな。

 そんないつも通りな校舎の吹き抜けになっている表層を越えて、中枢へと侵入する。

 段々と生徒たちの声が遠ざかっていき、段々と寝ている生徒が増えていき……それもまた減っていくと、いよいよ大樹の根が張り巡らされている空間にやってきた。

 昼でも夜でも関係なく薄暗い空間を通り――

 目的の大樹に到着する。


「よぉ、起きてるか?」


 俺はいつもの根に座っている学園長に挨拶するように手をあげた。

 ハイ・エルフたる彼女も、一応は睡眠を取るらしいが。

 残念ながら彼女が眠っている姿を俺は見たこともない。

 今回も、学園長はいつものように本を読んでいた。

 そんな彼女に声をかけると――

 パっと表情を明るくして、学園長が話し出す。


「ん? あぁ~、盗賊クンじゃないか。昼にあったばかりだっていうのに――いや、待てよ。同じ失敗はしないぞ、盗賊クン。はっはっは、ハイ・エルフも成長できるっていうところをお見せしようではないか。そうだな、この感覚から言って……三日は経っているだろう! つまり、君と私は三日ぶりということで間違いないね!」

「ぜんぜん違う」

「えー!?」


 ドヤ顔で間違えたぞ、この賢者……

 本当におとぎ話に出てくる、みんなに知識と知恵を与えたあの賢者なのか、話していると疑わしくなってくるので怖い。

 でも本当に賢者なので、それもそれで怖い。

 まぁ、話しやすくていいんだけどね。

 偉そうな貴族とか王様とか皇族とか苦手だから。

 あと可愛いし。

 ロリババァも、まぁ嫌いじゃないし……どちからといえば好物だ。

 うん。

 浮気者でごめんね、パル。


「そうか……三日ではなかったか。やはり一週間?」

「今日の昼で合ってるよ」

「えー!?」


 やっぱり愚者でいいんじゃないか、この賢者?


「そうか。うーん、時間関連は私にとって最難関の問題らしい。しかも訓練しようにも時が経てば経つほどに衰えていくのだから始末が悪い。うーん、気が付いたら盗賊クンがおじいちゃんになっていて、孫を紹介されるのが明日っていう感覚になってしまうのだろうか。そうなったらごめんよ、盗賊クン。でも孫は任せたまえ。立派な学者にしてあげるからな」

「勝手に俺の孫を学者にしないでくれ。そもそも孫どころか結婚もしてない」

「冗談さ。ハイ・エルフジョーク。なんなら、私と結婚するかい?」


 今度は俺が、えー!? と叫ぶことになってしまった。


「なに、君と私の仲じゃないか。生まれてくる子どもはただのエルフになってしまうけど、そこは大切に育ててみせるよ」

「あ、そうなるんだ、へぇ~……じゃなくて、学園長と結婚する気はさらさら無いです」

「私が盗賊クンのことを好きでもか? 今ここで愛していると告白してもダメか?」

「悪い冗談はやめてくれ」

「ちぇ」


 イジけた。

 ちょっと可愛いな、学園長。

 好きになりそう。

 困る。


「まぁ、再会の冗談はこれくらいにして。何か用事でもあるのかい? それともお願いかな?」

「用事でもあるし、お願いでもある。ちょっとこれを――」


 と、俺が腕に装備していた腕輪に視線を落とした時。

 それは動いた。

 影だった。

 動くはずのない位置関係にいた影が――動くはずのない方角に、揺れた。


「ッ!」


 俺は一気に後方へ下がると聖骸布を口元まで引き上げて起動させる。

 やばい。

 ヤバイ!

 こいつは、ヤバイ!

 この学園都市の、この中枢まで忍び込んでくる存在。

 加えて、恐ろしいほどの気配の断ち方。

 どう考えても。

 どう想像しても。

 どう推理したとしても。

 ただの魔物のはずが、ない!


「逃げろ学園長! 俺が生きてる内に!」


 死ぬつもりはない。

 でも、死ぬかもしれない。

 それだけ言うのが精一杯で、俺は手持ちの少ない武器でどう切り抜けるか。頭の中をフル稼働させながら。

 姿の無い、気配だけの魔物へと先攻するのだった。

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