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~可憐! 王都のお風呂は最新鋭!~

 脱衣所に入ると、そこにはいっぱい棚が並んでいた。四角い箱が積み上がって並んでいるような感じかな。そんな棚には、それぞれフタができるような扉みたいなのが付いてた。

 更に、その扉には鍵みたいなのが付いてる。

 ゴムの輪っかが付いていて、それが扉の穴に刺さっていた。

 つまり、棚のひとつひとつに鍵が付いてる。


「ほへ~。小さな部屋がいっぱいある感じだね」


 冒険者ギルドのお風呂なんかは、棚にそのまま服を脱ぐカゴが置いてあっただけ。まぁ、みんな一緒に住んでたみたいな感じなので、わざわざ盗まれるかもって考えは思い浮かばなかった。

 装備品とか盗んだところで使ってたらバレバレだし、服なんかサイズが合わないと使えないから意味がない。

 でも、他人ばかりが利用する公衆浴場だと盗まれる心配はやっぱりあるみたい。

 それで小さな鍵が作られたのかなぁ。


「……さっきスリが多いって言ってたから、そのせいかも?」


 サチは鍵を引き抜いてみて、そう言った

 でも、見た感じ最近付けられたものじゃなくて、前から使われていた感じがある。

 えっと、こういう場合は……スキル『構造解析』だったかな?

 見た目や材質の劣化具合とかを見て、どれくらい前に作られた物かを判断するスキル。

 普通は遺跡とか、遺跡で拾ったアイテムに使うスキルだけど――


「うーん、それなりに使われてるっぽいよ。ほら、ここ」


 あたしは鍵を引き抜いて金属部分を観た。


「いっぱい傷が付いてる。あと、錆びてる部分もあるし。ってことは、そんなに新しくないよ」

「……ホントだ。さすが盗賊ね」


 えへへ~、とあたしは笑った。

 ついでにもうちょっとサチにアピールしておく。

 あたしが優秀ってことは、師匠はもっと優秀ってことだから!


「あとね、鍵の構造がすっごく単純でしょ」


 引き抜いた鍵には、デコボコがふたつしかない。

 この数が多ければ多いほど、複雑な鍵っていうことになる。

 あたしの持ってる鍵もサチの鍵も形は違うけどデコボコはふたつだけ。これだったら、あたしでも開けられそうな気がする。

 今は道具を持ってないから、無理だけど。


「……つまり、鍵を開けるスリがいるってことね?」

「そうそう」


 あたし達は一応、周囲を観察した。

 でも、見た感じには盗賊風の女の人はいない。

 もちろん、盗賊じゃなくて普通の人だって開ける技術があれば開けられるんだけど。それを狙っているような人もいそうになかった。


「……大丈夫そう?」

「うん。大丈夫っぽい」


 そもそも、スリが多いって言われてて警戒されてる状態だったら、ちょっとでも怪しい動きをしていたら不可能なのかもしれない。

 他人が使ってる棚の前でごそごそとしてたら、それこそ一発でスリとか泥棒って分かっちゃう。

 どんなに凄い盗賊でも、例え師匠でも、鍵開けには十秒は必要なんじゃないかなぁ。そんな短い間でも、やっぱり怪しいと思う。

 それを考えると、鍵を開けて盗むっていうのは違う気がする。

 むしろ、鍵を盗んで中の物を取るって考えるのが普通かな……


「でも、警戒されてるのにわざわざ盗みに入るっていうのも変だよね。もうスリはいないって考えるのが普通かな」

「……そうよね。普通に考えれば、別の公衆浴場に行ったりするかしら」


 警戒はしつつも、そこまで気を張る必要は無いんじゃないかな。

 という感じの結論を出しつつ、あたし達は服を脱いで棚にしまって、しっかりと鍵をかけた。


「この輪っかを手首に通しておくっぽいね」

「……これなら盗まれる心配も無さそう」


 しっかりと手首に装備したのを確認して、あたしとサチは脱衣所の奥にある扉を開けて、お風呂場へと移動した。

 と、思ったら違った。


「あれ?」


 脱衣所の先は、左右に広がる廊下だった。

 まず目の前に普通のお風呂があるみたいで、湯気がもくもくとガラス扉の間から出ている。

そのせいでガラスが曇っちゃって、奥が見通せない。

 左右に伸びる廊下の先にも扉があって、左側からはきゃっきゃと騒ぐ声が聞こえてきた。


「……案内板があるわ。真ん中が普通のお風呂で、右側がサウナだって。……で、左側が泡風呂っていうものらしいわ」

「サウナ? 泡風呂?」


 サウナってなんだろう? 聞いたことがないや。

 泡風呂っていうのは、お湯の代わりに泡ってこと?

 う~ん、分かんないなぁ。


「サチは知ってる?」

「……知らない。……せっかくだし、入ってみる?」

「うんうん! じゃぁ、どっちから行く?」

「……泡風呂は人が多そうだし、サウナにしない?」

「分かった!」


 と、あたし達は右側へ向かった。

 廊下をふたりで裸で歩いていくっていうのは、なんていうか、ちょっと新鮮な体験な気がする。

 でも、すぐに木の扉があって、『サウナ』って共通語で書かれた看板があった。その下にも文字があって、エルフ語とか書いてあるのかな。読めないけど、きっとたぶんサウナって書いてあると思う。

 木の扉は閉じているけど……扉の隙間から、凄い熱気が出てくるのを感じた。


「ほえ~、なんか凄そ――あっつ!?」

「……うわ、すごい」


 木の扉を開けると、それこそ炎の魔法を間近で受けたような熱がジリジリと肌を焼いてくるような感じがした。

 熱風を受けただけで汗がじんわりと滲んできちゃう。


「はっはっは! ほら、お嬢ちゃん達、入った入った! 熱が逃げちまうよ!」


 そんなあたし達を見て、中にいたサラシ姿のお姉さんが笑いながら手招きした。

 こんな熱さは間違いじゃないの!?

 って思ったけど、どうやら間違ってないみたい。中には先客がいて、こっちを見て笑っている女の人が何人かいた。


「よ、よぉし!」


 あたしは意を決して中に入った。


「ひぃ~、あつい!? す、すごい熱!」


 息を吸うたびに肺の中が真っ赤に燃えそうな気分。肌がジリジリとして、焚き火に当たっているよりも、もっともっと焼かれてる感じ。

 これがサウナっていうのか、すごい!


「……あづい」


 サチなんか一瞬で汗だくになった。


「ほら、嬢ちゃん達。座った座った。サウナはじっくり汗をかくところだよ。あぁ、でも我慢比べはご法度だ。勝負に熱くなるあまり、倒れる人間種が多くて困る。ドワーフにゃ勝てないんでねぇ~」


 そういうお姉さんは、汗をかいてるけど、それなりに平気っぽい。


「くぅ~」

「……あぁ~ぅ~」


 と、あたし達はこじんまりとしたサウナの中で座った。

 どうしてこんなに熱いのか見てみると、部屋の中でガンガンに熱した石に水をかけて、その湯気でドンドン温度をあげてるみたい。

 サウナの中にはあたし達以外にも何人かいたけど……みんなドワーフだった。

 あたし達と同じような子どもっぽい姿だけど、ドワーフ特有の雰囲気がある。なんていうのかな、妖精っぽいっていうのかな。耳を隠してもエルフはエルフって分かるみたいに、裸になってもドワーフはドワーフ、みたいな?

 年齢は分かんないけど、気持ちよさそうに汗をかいてる。

 対して、あたし達はそれを遥かに越える汗を流していた。


「ひぃひぃ」

「……ふぅふぅ」


 なんだろう。

 熱いけど、なんだかそれが気持ちいい。

 あぁ……

 でも……

 うーん……

 あぁ。

 でも、やっぱり熱い!


「あはは! 無理はしないでよ、お嬢ちゃん。限界がきたら、このまま真ん中の風呂場にある水風呂につかってきな」

「み、水風呂?」


 そうそう、とお姉さんはにっかりと笑う。


「気持ちいいよ」

「そ、そうなんだ……ね、ねぇサチ」

「……分かった」


 まだ何にも言ってないけど、サチは分かってくれたようだ。

 うん。


「限界です!」

「……わたしも!」


 というわけで、あたしとサチは立ち上がって、そのままサウナから出て行った。後ろでお姉さんとドワーフさん達が笑ってたけど、いいもんいいもん。

 身体から湯気が出てそうな感じのまま、あたし達は廊下を進み、真ん中のお風呂場に入った。


「あった、水風呂だ」


 広い広いお風呂場でたくさんの人たちがいたけれど、すみっこにあった水風呂には誰もいない。

 あたしはそのまま水風呂に入って、頭までつかる。


「……お行儀が悪いわよ、パルヴァス」


 と、サチが言ってた気がするけれど聞こえない。

 だって、サチも同じように頭までもぐったし。


「ぷはぁ!」

「……はふぅ」


 燃えるような熱さの後に、スッキリとした水風呂の冷たさ!


「めちゃくちゃ気持ちいい……」

「……えぇ。これはクセになりそうね」


 サウナ。

 こんなお風呂の入り方は始めてだった。

 さすが王都のお風呂!

 最新鋭で、すごい!

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