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~可憐! 今日のお宿は女の子ふたり部屋~

 師匠が連れて行ってくれたのは――

 この前、あたしを放っておいてひとりで王都に来た時に師匠が泊まった宿。


「問題もなかったし、そこそこ良かった宿なんだ」

「ふーん。なんで門の近くの宿じゃなくて、こっちなんですか?」

「領主さまに馬を借りていたからなぁ。小さい宿じゃ、馬を預かってくれないんだよ」

「ふーん」

「なんだ?」

「なんでもないですぅ」


 あたしも一緒に行きたかった、っていうのもあるけど。

 なんか隠してる気がした!

 気のせいかもしれないけど。


「サチはどう思う?」


 こそこそとあたしは隣を歩くサチに聞いてみた。


「……なにが?」

「師匠、なにか隠してない?」

「……浮気相手でもいるんじゃないかしら」

「師匠、浮気してるんですか!?」


 思わずあたしは大声で聞いてしまって、周囲の人がこっちを見た。あ、やっちゃった……と、思ったけど、みんなはあたしを見て師匠を見ていない。

 ズルイ!

 なんかスキル使ってる!


「ふぅ……おまえは何を言い出すんだ、パル」

「だってぇ~」

「だっても何も無いよ。だいたい俺が浮気なんて出来ると思うか?」

「うぅ。師匠カッコいいもん。路地裏の小さい女の子は、みんな師匠にメロメロだもん」

「うそつけ。俺がモテモテなら今頃……いや、なんでもない」

「なんですか! 言ってください! 今頃なんなんですぅ!?」


 サチこれ持ってて、とイークエスの箱を渡して――

 あたしは師匠の背中に飛びついた。


「えぇい、しがみつくな、くっつくな! サチ、なんとかしてくれ」

「……ふふ」


 サチは笑うだけで何もしなかったので、あたしは師匠の背中にしがみついたまま。勝手におんぶしてもらってる状態で、移動していく。


「もう、師匠の浮気者ぉ」

「浮気してないって。浮気した時はちゃんと言うから安心しろ」

「ほんとですか?」

「あぁ、光の精霊女王ラビアンさまに誓って」

「……そんな誓いをされる神さまも大変ね」


 と、神官のサチが言うので確かかも。

 ひとまず師匠を信じて、背中から降りるとサチからイークエスの箱を受け取る。再び、あたしは揺らさないようにしっかりと歩く訓練を開始した。


「到着したぞ。ここが宿だ」

「ふぅ~、疲れたぁ」


 あたしは持っていたイークエスの箱をゆっくりと地面に降ろした。できるだけ揺らさないように歩いているんだけど、やっぱり難しい。

 なにより箱に集中するあまり、周囲への警戒がまったく出来ていなかった。もしもスリに出会ったりしたら、防げなかったと思う。


「とりあえず部屋があるかどうか聞いてくる。ふたりとも、ここで待っててくれ」

「はーい」

「……分かりました」


 と、サチが答えるのを待って師匠は宿に入っていった。

 それを見届けた後、サチが聞いてくる。


「……わたしも訓練していい?」

「サチもやってみるの?」

「えぇ。鍛えておいて損はしないわ」


 珍しくサチが間を置かずに答えた。

 そのまま箱を持ち上げると、サチはそろそろと歩く。でもやっぱり、師匠ともあたしとも違って箱がそれなりに揺れてた。

 他人の動きは良く分かるんだけど、やっぱり見るのと実際に自分でやってみるのは違うんだなぁ~っていうのが良く分かる。

 サチは慎重に歩いているんだけど、頭の位置がブレてるっていうか、肩も動いてた。歩くたびに箱が上下に動いてしまっている状態だ。

 中のイークエスは永遠に地震を味わってるだろうなぁ。


「あっ」


 もしかして、サチ。

 イークエスを少しでも長く苦しめようとしているのかもしれない……


「サチアルドーティス、おそろしい娘!」

「……? なにか言った、パルヴァス?」

「なんでもないなんでもない! ところでサチ、めっちゃ揺れてるよ」


 意識があたしに向いたせいでサチは普通に歩いてた。きっと今頃、箱の中でイークエスは転がりまくってるだろう。


「……あぁ、ごめんなさい。やっぱりわたしには無理みたいね。……すごいわね、パルヴァス」

「でもサチには神官魔法があるじゃない? あたしには神さまが声をかけてくれても魔法の奇跡はくれなかったし。サチも普通に凄いよ」

「……普通に凄い、か」


 あれ、なんか変な言い方だったかな?


「……ありがとう、パルヴァス」


 と言ってサチが箱を渡してきたので受け取る。

 思いっきりブン投げるんじゃないか、と思ったりしたけど、さすがにそこまで過激じゃなくて良かった。


「おーい。パル、サチ。部屋が取れたぞ」

「あ、はーい」


 師匠に呼ばれてあたし達は宿に入った。

 宿屋の名前は『風の道標』っていうらしく、薄い青と緑の間ぐらいの何て言うのか分かんない色合いで壁が塗られていた。たぶん、風をイメージしてると思う。なんかこう、爽やかな感じ!

 黄金の鐘亭に比べたら少しだけ小さい感じだけど、あたしにとっては充分に凄い宿だ。

 村の宿は小さいところばっかりだったし。部屋が狭くて、師匠は床で寝ちゃってたし。ベッドはあたしとサチで使ったので、仕方がなかったんだけどね。


「サチと同室は申し訳ないから俺は屋根の上で寝てるよ」


 っていう師匠をサチといっしょに引き留めたので、サチもそこそこ師匠のことを信頼してると思う。

 さすが師匠。

 やっぱりモテモテじゃん!


「ふたりはそっちだ。俺は隣のこっち」

「えー、師匠といっしょじゃないんですか!?」

「サチと同じ部屋でいいだろ。イークエスはこっちで預かる。女同士、男同士が正解だと思うのだが?」


 ぶぅ、とあたしはくちびるを尖らせた。

 三人部屋とか無かったのかなぁ。


「……わたしはパルヴァスとふたりがいいわ。……いっしょにお風呂に行きましょ」

「あ、お風呂行きたい。師匠、行ってきていいですか?」


 王都に着くまでは水浴びとかタオルで拭くだけだったので、ちゃんとしたお風呂には入りたい。


「あぁ。今日は自由行動でいいぞ。遊んできてもいいし、そのままごはんを食べてもいい。俺も適当に出歩くだろうしな。王都だし、そんな危険は無いだろうが……あくまで油断はするなよ。あ、そうだパル」

「なんですか?」

「食べ過ぎるなよ」

「う……気を付けます」


 なんでだろうね、あたし。

 なんで食べ過ぎちゃうんだろうね、あたし。

 まだいける、まだ食べられるって思っちゃうんだよね、あたし。

 王都に着くまでも、村の美味しい料理とか特産物とか、お菓子とか。なんかいっぱい食べちゃって、師匠におんぶしてもらって宿まで戻ったことが何度かあった。

 お店の人とか、とっても嬉しそうにあたしのことを見てくれるんだけどなぁ。

 でも、師匠もサチも半眼であたしのこと見てくるので相殺されちゃう。

 むしろ、ごめんなさい、と謝りたくなっちゃう。


「うぅ~。サチ、あたしが食べ過ぎてたら言ってね」

「……自分で気付けないんだ」

「うっ……が、がんばります……」

「あはは」


 と、サチが笑った。

 師匠はちょっと呆れ顔だったけど、まぁ怒ってるわけじゃないからいいか。


「じゃ、気を付けていってこいよ」

「はーい」

「……行ってきます」


 師匠にイークエスの箱を預けて。

 あたしとサチは王都の街に出掛けたのだった。

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