~可憐! 高揚と観察と考察と~
「あったあった」
ゴブリンとボガートを誘導するのに使った魔力糸付き投げナイフを回収できた。
逃げるゴブリンに使い捨てにしたのも発見したけど、やっぱり魔法の影響でこげてしまっていた。最後に使った衝撃で刃が欠けたりしてる。
「再利用できるからといって、あんまり使い過ぎるのはダメだ。ここぞって時に不具合が出て、酷い目に合う。人生っていうのは、最悪のタイミングで最悪なことが起こるものだ」
って、師匠が言ってたし。
魔法の炎でこんがりと焼かれてしまった投げナイフは処分しよう。
もったいないって思うより、命の方が大事だもんね。
「費用は投げナイフ一本。ポーションも使わなかったし、大成功よね」
あたしは森の中に散らばるゴブリンの石を拾っていく。あんまりお金にならないけど、それでも投げナイフ一本分くらいの費用になるかもしれない。
あ、もちろん依頼に参加したみんなで分配するけどね。
五つのパーティだから、五等分。余った分は、盗賊がいるあたしのパーティと盗賊クンのパーティにもらえることになった。
まぁ、そこまで価値のある魔物の石じゃないからこそ、盗賊が優遇されたのかもしれない。もし、これが一個でもそれなりの値段になるんだったら……めちゃくちゃ揉めてるかも?
「ふぅ」
ひといき。
森の中を見渡して、あたしは息を吐いた。
体力的には大丈夫だけど、精神的には疲れた。
ボガートってやっぱり怖い。
人間の大人よりも大きいってだけで、これほど脅威に思えるなんて。振り下ろしてくる剣の大きさとか威力とか。盾にぶつかる衝撃音とか、凄かった。
やっぱり魔物って怖い。
そんな魔物に一番前で攻撃を防いでくれる騎士職って凄いし、攻撃をする戦士職も凄い。
「あたしには、とても出来ないや」
森の中でゴブリンの石を拾い終わったので、池の方角を見た。
そこには疲弊している騎士と戦士たちが座ったり寝ころんだりして、喜びを噛みしめている。
イークエスもガイスもその中にいて、同じ職業のみんなと話してる様子が見えた。
疲労困憊だけど、心地良い疲れ。
そんな感じの表情だ。
「うーん……でも、事件には繋がらないか」
これだけルーキーの人たちがいるってことは、やっぱり行方不明事件っていうのはそう簡単に、単純な話で起こってるわけじゃないんだよね。
でも、確実にルーキーが行方不明になってて、娼婦をやらされてる。男の子は発見されてないから殺されてる可能性が高い。
でも。
死体とか出てきてるわけじゃないし。
何か、やらされてるのか、それとも見つかってないだけで殺されてるのか。
「……」
なにがキッカケなのかな?
なにか、理由があるのかな?
条件?
どんな仕事を受けてるときに行方不明になったんだろう?
「あ、そうか」
ルーキーがみんな同じ仕事をしてる今の状況だから、罠とかそういう悪いことが出来ないって考えられるよね。
じゃぁ、河川工事が終わるまでは行方不明事件が起こらないってことかな。
でも。
なにもルーキーみんながみんな、河川工事の仕事を受けれるわけじゃない。定員が決められてて、運が悪かったら受けられない。
そういうパーティはお休みをしてるみたいだけど、何も河川工事だけがルーキーの仕事じゃない。
下水での魔物退治とか、近くの村を襲ってくるゴブリンとか野生動物の退治なんかも、ルーキーの仕事だ。
でも、今は圧倒的に河川工事の見回りがルーキーの役目になっている。
「依頼料がいいもんね」
わざわざ汚くて臭い下水の魔物退治を受ける必要なんてない。
「ん? 下水の仕事で行方不明になるのはおかしいか」
だって街の地下だし。帰ってこないのならば、ぜったいに捜索されるはずだ。もしも死んじゃったりしても、ぜったいに発見されないとおかしい。
毎日ある仕事だし、毎日誰かが地下にもぐってる。
だから、下水の仕事で行方不明になるのは、有り得ないのか。
「うーん……じゃぁ、なんだろう。やっぱり村とかに行く遠征かな……」
たぶん帰りに行方不明になる……はず?
じゃないと、冒険者が来ないぞ~って依頼者が言ってくるはずだもんね。依頼を達成して、問題がなくなったよ~って送りだしたら、誰も困ってない状況だから気にしなくなる。
だから、遠征して冒険が成功した帰りが危ない?
「どうなんだろう……」
分かんない。
師匠の言う通り、あたしが捕まっちゃった方が早いのかもしれない。
考えても答えなんて分からないし、あたしが考えられる程度のことなんて、とっくにギルドの人たちが思いつくはずだから。
潜入捜査なんだから、オトリなんだから。
素直に捕まるのが一番かぁ。
「でも、処女は師匠にささげたい……」
「……なに落ち込んでるの、パルヴァス」
「んお?」
はぁ~、とため息をついたところで後ろから声が掛かった。
振り返ればサチがいた。
「サチ」
「……おつかれさま。大活躍なのに、どうして落ち込んでるの?」
サチはあたしの腕に手を触れた。
ぎゅっと、腕を絡ませてくる。
心配してくれているのかな?
「大丈夫。池の中に沈んだゴブリンの石がもったいなかったなぁ~って。もっと上手く倒す方法があったんじゃないかって、反省してた」
嘘だけど。
そう言っておいた。
「……そう。怪我はしていない?」
「うん。あたしよりイークエスとかガイスの心配してあげてよ」
「……わたしはパルヴァスが心配なの」
そう言って、サチはあたしの顔を両手で挟んだ。むにゅ、とほっぺたを押される感じなので、くちびるが尖っちゃう。
「はひふふほー」
「……動いちゃダメ」
「ふぁい」
そのまま顔、腕、胸、おなか、背中、おしり、太もも、とサチにぺたぺた触られる。
ちょっとくすぐったい。
「大丈夫でしょ?」
「……えぇ。一安心」
「サチは怪我してない? あたしがチェックしてあげる」
お返しだ、とあたしもサチのほっぺたをむにゅって挟んだ。それから、腕とか胸とか背中とか足とかを神官服の上からぺたぺた触ってみる。
うん、さすが後衛。
怪我どころか汚れひとつ無い。まぁ、地面に座った時におしりが汚れる程度かな。
まぁ、神官の仕事は防御魔法だけだったし、回復魔法はパーティのメンバーが使うだろうから、サチに出番は無かったのかも。
「ん、どうしたの? なんか嬉しそうだけど」
「……なんでもないわ」
珍しく、サチがにっこりと笑ってた。
あんまり感情が見えない彼女だけど、やっぱり戦闘後の高揚みたいなのはあったのかもしれない。
そんなサチと手をつないで、あたしはイークエスとガイスに合流する。
チューズもやってきて、みんなでバンザイをして。
無事に、魔物の砦を攻略できたことをお祝いするのだった。