~可憐! 激突・魔物の砦で大戦闘~ 3
斬る、っていうよりも剣を叩きつけるように。
「ガアアアアアアアアアッ!」
ボガートは盾を構えている騎士たちに大型の剣を振り下ろした。
カツンとかコツンとか、ガン、とか、ゴン、とかじゃなくって――
バガーン!
って感じの鈍くて重そうな音が森に響き渡る。
最前列でその攻撃を受けた騎士クンが大きくのけぞって後ろへと転がった。攻撃の威力を想定してなくって、足を踏ん張ってなかったのかもしれない。
でも。
それを見て、いっきにゴブリンたちが増長の笑い声をあげる。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!」
と、まるで勝利したようにあたし達を笑いものにした。
もちろんボガートも笑ってた。
たった一撃で吹き飛んでしまった騎士クンを見て、あたしたち全員が大したことない集団だと判断したみたいに。
ゲラゲラと笑ってた。
頭ひとつ大きな身長で、その嘲笑する顔があたしからも見える。余裕ぶって、もう戦闘は終わったかのように振る舞うその姿が、あたしからも見えた。
ということは――
「えいっ!」
射線が通っているってことだ!
あたしは投げナイフをスローイングした。回収できるように魔力糸をちゃんと通してある。距離も近いから絶対に外さない。
盗賊スキル『鷹の目』も必要ないくらいの、当てて当然の距離。騎士のみんなより頭ひとつ大きな魔物に向かって、あたしは投げつける。
でも――
ボガートは投げナイフを剣の腹で防御した。
「えぇ、すごい!?」
笑ってたから油断してるはず。
なんて思ったのは、あたしの間違いだった。
まったく油断なんてしていない。
レベル3っていうのは、もうそういうレベルなんだ。知能が高いとか低いとかじゃなくて、こと戦闘に関してはあたし達より確実に上ってことなんだ。
「おおおりゃぁ!」
だけど、あたしの攻撃は無駄じゃなかった。
剣で防御したってことは、片側が空いてるってこと。隙は無かったけど、隙を作り出すことができたってこと。
戦士の誰かがその脇腹を剣で薙いだ。詳しくは分からない。騎士の盾が邪魔でその先が見えない。
でも、攻撃は成功したっぽい。悲鳴にも似たボガートの声と共にボガートの顔が見えなくなった。
下がったってことだ!
「つづけぇ!」
誰かの鼓舞する声が聞こえる。
騎士たちが、また盾を構えながら前へと踏み込んだ。それは盾で攻撃するスキル『シールドバッシュ』にも似てる行動だ。イークエスが使っていたのを何度か見た。
剣で攻撃するんじゃなくて、盾で攻撃する。
敵を押すように殴りつけるっていうのかな。独特の攻撃だった。
防御する道具で攻撃するっていうのは変だなぁ、って思ったけど、剣で防御することもあるんだから当たり前か、なんて思った。
場合によってはランタンを投げつけるのも有効だって師匠も言ってたし。戦闘では、使える物はなんだって使った方がいい。
だって死ぬよりかは、遥かにマシなんだから。
「ふぅ」
あたしは息を吐きつつ、魔力糸をたぐりよせて投げナイフを回収した。踏まれちゃって泥が付いてるけど、気にしてる場合じゃない。
いよいよ押せ押せムードが最高点になってる感じなので、騎士職の壁からはみ出してくるゴブリンや池に逃げるゴブリンが出始めた。
「逃がさない、よ!」
あたしは池に逃げたゴブリンに泥まみれのナイフを投擲。滑らないように気を付けて、狙い通りに首元に刺さったのを確認。
やったね!
ぐいっと魔力糸を引っ張ると、ナイフが首から抜けた。ついでに池の水で泥が落とせるし、ゴブリンはそのまま痛みに苦しみながら池に沈んでいったので一石二鳥ならぬ一ナイフ二ゴブリンだ。
「ん? ちょっと違うか。やっぱり一石二鳥でいい?」
なんて考えてる内にゴブリンが沈んじゃった。溺死したゴブリンの石は回収できないよね。残念。
そんな感じで池のゴブリンはあたしのナイフで何匹かやっつけた。
池の反対側に逃げ出したゴブリンには、すかさず魔法使いから炎弾や風の刃が飛んでいく
あれって真っ直ぐに飛んでるだけなのかな?
もし人質に取られたりして盾にされても、魔法はちゃんと狙った人物にだけ当たるのかな?
んー。
たぶん狙った方向に真っ直ぐ飛ぶのが魔法っぽい気がする。そうじゃないと、どこからでも暗殺できることになっちゃうし。
盗賊意味ないじゃんってなっちゃう。
「おっ」
そんなことを考えてると、ボガートを騎士のみんなが砦の壁まで押し込んでた。壁っていっても、ただの丸太が積みあがってるだけのようなものだけど。
それでも、崩れる様子はないので壁といえば壁。
ボガートは苦し紛れに両腕の剣を振り回すが、前と横と上側と、三人ずつの騎士たちが防御を固めて凶悪な一撃をガードしてた。
ガツーン!
ガイン! ゴイン!
って、感じで物凄い音が盾と剣から聞こえてくる。下手をすれば剣が折れそうなほどの勢いだけど、さすが騎士。
もうボガートの攻撃に吹き飛ばされたりしていない。
これも経験を積んだってことなのかな。
そんな中で――
「イークエス?」
あたし達のリーダー、イークエスはみんなから一歩下がっていた。
なにか狙いがあるのかもしれない。キョロキョロと周囲をうかがうように、盾を構えている。
なにかあるのかな?
なにが心配?
横から狙ってくるゴブリン?
それは後ろから魔法使いが対応してる。だから気兼ねなくボガートを押し込んでいい場面だと思うけど……
「あっ」
どしゃり、と騎士の一角が崩れた。最前線で防御してた騎士クンが力が緩んだのかもしれない。
もしかして、ここが限界?
それを見てイークエスが入れ替わるように前に立った。
すごい!
状況判断っていうか、それを見越してたんだ!
「今だ!」
イークエスが声をあげる。入れ替わると同時に盾でボガートを押し込んだ。そこへ戦士のみんなが突撃する。
騎士のみんなが下がり、戦士たちが武器を振り下ろした。
必中の攻撃!
それも、みんなが一斉にボガートに浴びせかけた。
断末魔なんて無い。
身体中に武器を振り下ろされ、一瞬のうちにボガートは絶命した。
「油断するな! まだゴブリンがいるぞ!」
「おー!」
イークエスが鼓舞するように声をあげ、周囲のみんなも声をあげた。
でも。
ボスを失ったゴブリンは、みんなバラバラに逃げようとしてる。武器も捨てて、一目散に逃げていく背中に、あたしはナイフをスローイングした。
「げぎゃ」
と、悲鳴をあげるゴブリン。それを追撃する形で魔法が飛来して燃え上がった。
「あぁ! あたしのナイフ!?」
うぅ。
タイミングが悪かったかなぁ。
ゴブリンといっしょに燃えちゃった……
慌てて回収にいくと、ちょっと焦げてた。でも、あと一回くらいは使えそう。
「必要経費!」
というわけで、別のゴブリンにスローイングして投げナイフの寿命を迎えさせてあげた。
そして別のゴブリンを狙うべく、あたしは森の中を移動していく。騎士のみんなも盾から武器に持ち替えて、もちろん戦士たちといっしょに散っていくゴブリンを手早く倒していく。
そんな感じで。
あたしはそんなに活躍できなかったけど……
ボガート軍団にあたし達、ルーキーパーティは勝利したのだった!
やったね!