私、諦めが悪い
この事態を誰かに報告するかとも思ったが、生憎と売られた喧嘩は買ってみたくなる私なのです。
人に関わらないをモットーにしている私ですが、怒りを感じないかと言われればそんなことはない。
私には理由がわからない理不尽な扱いを甘んじて呑み込む様な広い心は持ち合わせておりませんからね。
さて、どうしたものか。
「夜行性の生き物に昼間会うにはどうしたらいいのかな?」
「ガウ?」
聞かれても困ると返された。ごめんそうだよね。
これはどんなに頑張ってもクリア出来ない様に選んだのだろう。でもあの新ギルマスは私を無能と言ってくれたのだ。・・・ちょっと私を怒らせましたよ新ギルマスさんよ。
図鑑をもう少し読むと「Cランク推奨」と書いてあった。これってギルド本部にバレたらあの新ギルマス大変なんじゃない?どうでもいいから何もしないけど。
読んでいた図鑑を閉じてリュックにしまう。
勢いよく立ち上がるとクーちゃんが隣に近付いてきた。モフモフの毛並みは昔と同じでとっても落ち着く・・が、その誘惑に打ち克って森へと向かう。
確かに無謀だろう。夜行鹿は名前の通り夜行性だ。それを今日の夕方までに見つけてくるなんて。それに凶暴な性格の個体からしか取れない尖った角を指定してくる辺り陰湿だと思うのは間違っているだろうか。
そしてたどり着いた森入口付近。
森の浅い場所にも生息しているという。けれど私は1度も遭遇したことがないモンスターである。昼間だったからか?でもそれにしては何だか引っ掛かるような。
「ねぇクーちゃん。もしかして」
「クウ?」
「もしかして何だけどね、隠れるのが凄く巧いのかな夜行鹿」
「(こくり)」
マジか~。いや、でも。これはもしかすると見つけられるかも。
さあ皆さん、私の成長したスキルの見せどころですよ!
作戦はこうだ!
私の成長したマップ(厳密には持っているスキルという訳じゃないけどね)スキルでマップの表示範囲を広げる。
昔よりも広く出来る様になりましたよ。何かね、日頃から使い続けているとスキルも成長するんだね。
そして表示設定に「夜行鹿」を追加してから索敵レベルを最大にして・・・え?
表示設定とか索敵レベルとか何ぞや?
うん、成長したお陰で細かく設定出来る様になってます。槍とか全く成長しないのにこれだけは成長したのよ。まさかこんなことに使うとは思わなかったけど。結構万能でうれしい。
さて、夜行鹿はどのくらい居るかな?
マップを最大にしているせいで少し頭が重い気がする。
暫くするとそこらかしこから反応が。夜行鹿と付いた▼表示がざっと見ても100以上は有るんじゃないかと思えるほどだった。
やっぱり、夜行性とはいえ全く姿を見ないなんておかしいと思った。昼間はこうやって隠れていたのか。
一番近くの反応がある場所に近付くと不意に茂みが揺れた。もしかして・・と思いマップと照らし合わせるとその茂みには夜行鹿の表示が。
ここで槍を片手に角を奪うのかと言えばそんなことはしない。
こっちにはクーちゃんという通訳がいるのだ。凶暴な性格ではない夜行鹿を襲う何て事はしない。
「クーちゃん、ちょっとこの茂みに隠れている夜行鹿に交渉を頼める?」
「ガウ?・・・クウ・・」
するとクーちゃんが「え? でもコイツの持ってる角は丸いけど?」と言われ漸く気が付く。
「(凶暴な性格の個体が持っている角が必要だったんだ)」
ライト痛恨のミス! 今欲しいのは先の丸い角ではなく、尖った角だ。ど、どうしょう。
「クーちゃんどうしょう」
「クウ・・ウォン」
冷や汗を流しながら聞いてみる。するとクーちゃんは呆れながら「仕方ないなぁ。何とかしてみる」と答えてくれた。頼りになる、流石クーちゃん。
私って他力本願だよね。
クーちゃんは茂みに「ガウガウ」と話しかけて何か聞いている様子。すると茂みから緑の小鹿がひょっこり顔を出した。角もない子だったのね。
目がくりくりで可愛い小鹿が「フエフエ」と鳴いて会話している。
「ガウガウ」と「フエフエ」がしばらく続いているのを静かに待っていると、バサッと茂みから小鹿ちゃんは出てきた。
ちょ、危ないから隠れていたんじゃないの?出てきて大丈夫?
「フエ~」
「アォン」
「えーっと、着いてこいって?」
小鹿ちゃんはついて来てと誘導するように森の奥へと進んでは此方を向いて鳴く。クーちゃんも小鹿ちゃんとと同じように「早くおいでよ」と私を呼んだ。
クーちゃんが呼んだということは安全なんだろうと警戒心もなくついていく。気分は夢の国のプリンセスだな。でも私にプリンセス何て似合わない。趣味じゃないと頭の隅で考えていると、
「フエ~フエ~」
立ち止まった小鹿ちゃんは大きな茂みに向かって何かを呼んでいるように鳴いた。
この場所はマップで確認すると森の入口からそう遠くはない場所だった。
暫くするとガサッと音がしてから
「ブモォォ~~っ!」
小鹿ちゃんの鳴き声を大音量にして低くビブラートを追加した様な、例えるなら法螺貝の様な鳴き声がした。
また暫く「フエフエ」「ガウガウ」「ブォォ」が続く。それを近くにあった切り株に座ってナッツをポリポリ食べながら待っていた。
今日のおやつはカシューナッツだ。本当にカシューナッツ好きだな私。ただ炒っただけの無塩のカシューナッツは甘く優しい味がした。
そんな風にポリポリ食べていると茂みから巨大な鹿が頭だけ出してこちらを見ている。
暫く見つめあっているとクーちゃんに呆れられて現実に引き戻された。
「えーっと、進捗はどうですか?」
「ガウ」
「フエ~」
「ブォォ~」
クーちゃんが言ったことは分かる。「折角交渉してるのに何してる。暢気に食べてるなんてな」って感じ。小鹿ちゃんたちは言っていることは分からないが呆れられているのは分かった。
「ガウン!」
「ブォォ?」
「フエフエ」
何かをクーちゃんに聞いてる大きな鹿とクーちゃんを擁護するかのような小鹿ちゃん。もう暫く話し合っていた3頭は一斉にもう一度こちらを向いた。
それにしてもその大きな頭だけでも体の大きさを想像できるのだが、その茂みに納まる何てどうなってるの? 物質保存の法則どこ行ったの?
具体的に言うと私の全身よりも頭だけでも大きいのだ。いや、茂みも結構大きいよ。私が隠れてもすっぽり入るくらいには大きいよ。
私の疑問などそっちのけでクーちゃんは「そのナッツをくれるなら角を分けてくれるとさ」と言ってきた。
え?っと思って大きな鹿の頭を見ると確かに綺麗な深緑の立派な尖った角が。角も緑なのかと考えているとクーちゃんに鼻先で急かされる。
でも今抜けてない角を貰うわけにはいかないと思っていると大きな鹿さんは少し頭を振ると
ゴトリ
重そうな音をたてて立派な角が二本とも落ちた。私は唖然としてナッツが入っている袋を落としそうになるも留まった。
え?そんなに簡単に落ちるものなの?
クーちゃんの説明では生え替わる時期というものは決まっていないらしく、いつでも任意で抜けて次の日には新しい角が生えてくるらしい。すごいなこれも魔力が関係しているのかな?
それなら良いのかとお礼のナッツを袋ごと渡すとクーちゃんに「それじゃぁ食べれないだろう」と言われたので袋を広げると小鹿ちゃんが横から袋に頭を突っ込んだ。
え、君が食べるのか?と思っていると、大きな鹿さんは小鹿ちゃんの耳の後ろ辺りを優しく舐めている。もしかして親子なのかな?
満足した小鹿ちゃんの後に大きな鹿さんは同じように袋に頭を突っ込んだ。少し窮屈そう。
その時見えた角が生えていた場所は綺麗に切ったような断面が。触ったらきっとすべすべしているだろう。さながら磨いた宝石のようだ。
少しこの大きな鹿さんには少ないかと思ったが、全て食べて満足したらしくお礼を言った。
でも鹿にナッツって大丈夫なのかとクーちゃんに聞いてみると・・・
「ガウガウ!」
何とモンスターは基本雑食で人が食べても平気なものは基本的には平気らしい。特に草食よりの夜行鹿は植物性の物なら毒でも平気らしい。すごいな。
なら玉ねぎとかでも食べられるのかと言うと「玉ねぎは辛いから嫌だってさ」と返された。そっかぁ、辛いから嫌か。辛いよね生の玉ねぎ。
大きな鹿さんは満足したとひと鳴きしてから茂みに戻った。最後まで頭だけを出した姿だったけど、全長が気になる。
そして小鹿ちゃんも同じ茂みに入ってしまった。だからどうなってるのその茂み。四次元か?どこにかに繋がっているのか!?
・・・まあ疑問は尽きないが、魔法だからの一言で納得しておこう。
落ちている角を拾うととても重い。滑らかな手触りだ。昔鹿の角を見たことがあるが、加工前の表面はゴツゴツしていて滑らかとは言えない感触だった覚えがある。
だが、この角はまるでガラス細工の様に透き通っていて・・・
うん。これだけでも玄関に置いておいたら絵になるね。
きっとご婦人たちには大人気な素材なんでしょうね。
あの大きな鹿さんの角だ。それはそれは大きい。どのくらいかと言うと私が腕を広げた大きさを想像してね。よくガラス細工みたいな枝振りなのに壊れないよね。
少し気になったので少し爪弾いてみると金属音の様な音が。見た目がガラスや宝石なのに硬さは金属なのか。やっぱり不思議がいっぱいな世界だ。
リュックに入るか疑問だったが1本は難なく入った。問題はもう1本だ。
「あれ?入んない」
「クゥ?」
え、まさかこの角はかなりかさ張るの? それとも元々入れていたあれこれのせいで容量オーバーしたのかな?
うーん。今さら要りませんとも言えないし。貰ったからには持って帰りたい。
どうしようかと悩んでいると
「ガウ(角の根元をくわえて)」
何とクーちゃんがくわえたまま持ち帰ってくれるそうです。でもなぁ、目立つよねそれ。
「ガフゥ」
「うん、背に腹は代えられないよね」
折角角を快くくれたのだから持ち帰らないとね。うん。仕方ないな。これをギルドに提出しよう、そうしよう。
こうして私はクーちゃんに運んでもらって街に帰還するのでした。
制限時間は夕方の鐘が鳴るまでなのでまだ余裕で提供出来る。
案の定門番の人達には驚かれて訳を話すと少し苦笑いをされた。もしかして私が夜行鹿を仕留めたと思われてる?違うんだけどなぁ。
こうして私は無事にギルドに角を持ち帰ったのでした。
しかし話はここで終わらないんだよねぇ。




