私はまた考えた
季節は春。
新緑が美しい季節だが、雪が滅多に降らないこの地方では冬と春との違いはそれほど顕著ではない。
もう少しすれば花が咲き乱れて見物だとジンさんは言っていた。
ベルさんはもう少しすれば素材になる花が咲くと楽しそうに話していた。
リンクさんはいつも以上に眠そうだった。春眠暁を覚えずだったかな? まさにそんな状態なのだろう。暖かいと眠くなるのは人の性だと私は主張したい。
勿論それはクーちゃん含む生き物全てに当てはまるかも知れないが。クーちゃん寝てます。やっぱり可愛さが底無しだ。
森の異変は結局分からなかった。 国から派遣された調査隊は何か原因を掴んだ様な様子であったとベルさんは言っていたが、ギルド側にも領主側にも告げずにさっさと帰ってしまったらしい。
これには双方激怒したと言う。まぁ、そうだよね。
原因は解らず終いだが、調査隊が帰ってからピタリとモンスターの目撃が減って今漸く森の閉鎖が解かれた。
これでも結構様子を見るために待った方だそうだ。
まだ不安があるが、ギルド側としても領主側としても街の皆にしても、これ以上の森の閉鎖を続けると色々と不味いそうだ。
不安は拭えないがそこは皆割りきっている。私よりも。まぁ、絶対に安全な場所などこの世界にはないのだろう。そう思うことにした。
所変わり、ただ今ギルドの訓練所で鈍った体を鍛え直している。筋肉痛から解放されて一番に始めたことは鍛練である。我ながら脳筋街道まっしぐらであるが、生き抜くためなら仕方無いかなとと思うのだ。
この世界では脳筋がデフォルトなところがあるので私はまだ、まだ、マシだろう・・・と思う。
お守りは少し離れた場所にある弓の訓練所にて鍛練中だ。
最近は弓に力を入れているらしく、槍を振り回している私とは訓練場所が同じにならないのだ。教官方の話では剣も弓も才能が有るらしく、将来有望だそうです。うん、あの二人の子供ですからね。そりゃあ才能豊かでも不思議ではないよね。
それに比べて私は可もなく不可もなくなレベルになれました。うん、この位になるのに手の豆が何回潰れたことか・・
この世界にポーションがあって本当に良かったよ。でなかったなら今頃は両掌が包帯でぐるぐる巻きだったところだ。
さて、私はもうこのくらいで鍛練は良いかな。やり過ぎても体を壊すし、成長途中だから筋肉を付けすぎてもダメなんだって。
なので私は一足先に家に帰ろうと思う。リンクさんを待たなくても良いのか?
大丈夫。クーちゃんが居るからね。この見た目に騙されるなかれ。幻獣は生き物の頂点。こんな見た目でも一般人なんて敵うわけもない。そして器用なのか手加減もできるお利口さんである。
ホントにクーちゃんえらい!
「む? もう良いのか?」
「はい、教官。今日はもう止めようと思います」
「うむ、休息も必要だからな!」
気を付けて帰るのだぞ! 元気な声で教官は私たちを見送った。それにしても声が大きい人だ。
大通り沿いにギルドは在るので賑やかな通りを通って帰るのだが・・・
ちらほらと閉まった店を見ると少し複雑な気分になる。
もしも私が断ることなく全面協力していれば、この閉まった店を見ることはなかったのかもしれない。
「私は間違ってたのかな、クーちゃん」
「キュー・・」
この時のクーちゃんは「大丈夫だよ」とは言ってはくれたが、そんなことないとは否定しなかった。
つまり、私の気持ちを汲んでくれたということで━━━
「(やっぱり、協力した方が良かったのかな)」
「・・・・」
いつもの定位置の頭から肩に移動したクーちゃんは私の頬に頬擦りをして慰めてくれた。
ふわふわした毛並みはとっても心地好かったが、気分は少しも晴れはしなかった。
あの店の多くは森の恵みで成り立っていた店なのだ。ああ、あのお店はクーちゃんのナッツを買った店だ。あのおじさんにどんな顔で買いに行けば良いのだろう。
落ち込んだまま歩く私の肩でクーちゃんがどんな表情をしていたのか私には位置的に見えなかったのだった。
そして家に着いても私の気が晴れることはなく、折角のご飯も味が分からなかった。
その時の皆の顔もよく見ていなかった。
そして私はその態度が皆を心配させていたことに、今は全く気が付かなかったのだった。
これは自分の行動がこれ程影響を与えるなど思いもしなかった私の話。
そして翌日、クーちゃんが家出するなどこの時の私は予想もしなかった。




