私は知らずにいた
ぎこちない動きでベッドから出て服を着替える。睡眠は十分に取ったはずだが未だに眠気があった。それだけ体が無理をしていたのだということなのだろう。
足元で寝ていたクーちゃんがベッドから降りて私の横でお座りしている。クーちゃんは今日も可愛い。
足や腕がまだ上がり辛いので少々着替えに手間取るが時間は掛かったが何とか出来た。
寝込んでから2日もベッドから出られなかった。あ、トイレにはちゃんと行ってましたよ。でもそれ以外はベッドで過ごしたって意味で。
リビングに降りるとベルさんがもう降りてきても大丈夫なのかと聞いてくるので大丈夫だと答えると笑顔で焼きたてのパンを差し出してきた。今日のパンはクルミが入っていて美味しい。いつもベルさんの料理は美味しいが。
私のすぐ後にリンクさんとジンさんが来た。手渡されてのでついつい食べてしまったが二人とももう大丈夫なのかと聞いてくるだけで咎めたりはしなかった。本当に私は食い意地がはっていると反省する。
2日ぶりのみんなとの食事はやっぱり美味しかった。1人で部屋で寂しく食べるのは味気ないものだった。クーちゃんは隣に居てくれたけどね。ベッドに臥せると1人で食べることになるのはちょっと寂しいんだよね。
今日の朝御飯はカボチャのポタージュとクルミのパン、ココアとデザートにはリンゴ。とっても美味しかったです。
味の感想を説明したらきっと長くなるので省きます。
あ、今日はクーちゃんも食べてました。昨日は食べなかったんだけどね。幻獣ってやっぱり不思議な生き物です。2日も何も食べないなんて私には出来ない。
さて、やっぱり私のお守り役としてリンクさんが一緒にお留守番でした。ベルさんとジンさんはギルドに用があるそうで出掛けています。森の件かな? それにしてもカタログさえ読むのを禁止されるとは思わなかった。クーちゃんの件もあるからか私も否定出来ないのだけどね。不用意に取り出して何かあっても困るもの。でもクーちゃんの件は後悔はしていない。
今日は定位置の暖炉前ではなく少し離れているソファーに座っている。床に座ってしまうと立つときに辛いという罠があってですね・・・やむ無く断念するしか無かったのです。無念。
リンクさんはいつものように本を読んでいます。時たまこちらを確認するように見たりしますが、基本的にはソファーから動いてません。
私の方が動いている気がする。ほら、テーブルにビスケットが山盛りになった器が置いてあるので・・・え?普通は置いてない? 何故か私に「食べてね♪」と言って置いていってくれたんですよ。
・・食べ過ぎて太りそうだよね。もう今日は食べるのやめよう。
クーちゃんは私の定位置でより丸くなっております。寒さは平気だけど暖かい場所が好きらしい。あの暖かそうな毛並みで暑くないのだろうかと思うが、そこは幻獣。他の生き物とは違い環境に左右されない生態をしているので多分暑さにも寒さにも強いらしい。
らしいが、クーちゃんは少し寒さは嫌い見たい。いつも一番暖かい場所に居るもの。私の部屋では陽当たりの良い場所がお気に入りですし。
そうそう。クーちゃんってばね、私が自分用に買ったナッツが気になるのか自分のナッツを数個差し出して交換して欲しいと交渉してきたんだよ。勿論同じ個数交換したけど。その後も何種類か交換したんだよね。結局食べないで大事そうにとってあるけど、食べないのかな?
そんな風にまったり養生している私をよそに、保護者二人が領主様に対してやらかしていた事は大人になるまで気づかなかったのでした。
あ、私のおやつのナッツ買いに行かないと。
速攻でリンクさんとクーちゃんに止められましたとも。
所変わってギルドの会議室
その場に領主代理の次期領主とギルドマスター、そしてライトの保護者二人が神妙な顔で静かに座っていたのだった。
「えー、本日は話し合いの仲介をギルド側がさせていただく。双方この場で決まったことを守ることをここで誓っていただく。宜しいかな?」
「同意します」
「私たちも同意します」
重々しい雰囲気に領主代理の護衛と側近は呑まれすっかり保護者二人に及び腰になっている。領主代理も多少青い顔をしてはいたが何とか平静を装っている。そこは次期当主といったところだろうが、二人には手を抜くつもりは更々なかった。
「では議題を・・・冒険者ライト氏に関する誓約を領主側が破棄しようとしている問題に関してですな」
「その通りです」
「お待ちを、我々は何も破棄など」
「あら、私の留守を狙って家に押し掛けてきたでしょ」
私の息子に追い払われたみたいだけどね。そうベルは話を続ける。
「ウチにも関わらない誓約だったのにね。早速破るなんて・・・・余程私たちを舐めてるの?」
「・・・・いえ、決してそのような」
「では、何故ウチに来たの。ライトちゃんは危なくて外に出られないじゃない。貴方の親族が何かしてくるのではないかと気が気ではないわ」
「我が家はその様な事など」
「前科がある者を無条件で信じられると? 無理でしょう。特に貴族はそういった事には厳しいのではないかしら?」
「・・・それは」
領主代理はしどろもどろで言葉か出ず、側近達も反論できずに沈黙している。表情は悔しそうにしている。だがこれも彼らの監督不届きの自業自得であった。
実はライトが筋肉痛で寝込んでいた初日、彼らの使者を名乗る者達が保護者の不在を狙い家を訪ねていたのだ。しかし、家族の中でも一番冷静かもしれないリンクに阻まれ結局玄関前で家に入ることなく追い返されたのである。
子供相手だと思い侮ったのが運の尽きである。
「お礼だかなんだか知らないけれど、そう言うのはギルドを通してするものと取り決めを定めていたにも関わらずこの醜態。
言っておきますけど、これは誓約を守らなかったのが家臣だった何て言い訳は結構よ。聞きたくない」
腕を組み冷めた目で見つめる。組んだ足を組み替えて尚も続ける。
「大体どうしてあの子に関わろうとするの。どこにでも居るちょっとシャイな子供じゃない」
本当はあの子が普通ではないことは知っているが何も知らないフリをした。もう1人の保護者であるジンは始終無言で睨んでいる。まるで親の仇でも見るかのような、そんな目をしていた。
「今回は警告で留めておくわ。でも・・」
次があるとは思わないことね。そういう言って一旦は口を閉じた。
さあ、そちらの言い分をどうぞ。そう言っているように身振りで話すよに促した。
「確かに今回の事はこちらの不手際です。しかし、あの子は━━」
「何か?」
「・・・あの子は何か不思議な力を持っているのではないでしょうか?」
「ふーん、それで?」
「それでって・・」
顎に指を当ててだからどうしたの?と首を傾げる。その態度は決して貴族にするような態度ではない。その事に怒りを露にしたのは領主代理ではなくその側近の1人であった。
「その態度はどうかと思いますな。仮にも領主代理の前ですぞ」
「あら、そんなに偉い方が約束も守れないなんて世も末ですわね~」
「なっ」
「誓約を守れないの貴族等、信用するに値しないでしょ? 違うかしら? それにウチに来た使者って貴方の部下でもあるのでしょ。何を他人事のようにそこに立っているの。この状況を分かっているの?」
その言葉にまた口を閉じた。図星だったようだ。
「さあて、あの子がどんな力を持つかは知りませんけど、あの子は私の庇護下にあるの。そしてこの国の定めた誓約を破ることはどんなことであろうと破棄など認めない。例え貴方達が強行手段に出るのならば私達も全力で阻止するわ」
「あの子のため、とは思わないのですか?」
「あら、どうして貴方達に関わることがあの子のためだと言えるのかしら」
青い顔で必至に領主代理は言葉を紡ぐ
「あの子が何か特別なスキルを持っていた場合、あの子を守れるのは貴族ではないかと」
「自分達の親族の手綱も握れない者がよく言ったわねぇ」
「・・・それは」
「貴方達に預ける位なら自分達で守るわ。だからこそ貴方達には手を出されたくない」
「あの子に選択権を与えても良いのでは━━」
「その本人が拒絶しているのよ「貴族とは関わりたくない」ってね。それでも無理に関わるの?」
「本当にそんなことを言っているのですか?」
その言葉にベルはため息を、それは大きなため息をつく。それを見ていた護衛達は殺気たつがジンの鋭い眼光に口を開くことなく固まったのだった。
「どうして貴方達は庶民が貴族と関わりを持ちたいと思っているのかしらね。そう思っている者なんて一握り。野心の無い者が貴族と関わりたくないって考えがどうして思い付かないのでしょうね」
その言葉で領主代理側はピシッと音をたてて固まった。そう、彼らはその事を度外視していたのである。貴族の持つ傲慢さである。全く考えてなかったのだ。
「ふむ、ではこうしては如何かな?」
話し合いを傍観していたギルドマスターがとある提案をする。
「あの子にスキルの検査を受けてもらうと言うのはどうかな? 勿論あの子には拒否権がある。それで何も珍しいスキルが無ければ領主様側はこの件から完全に手を引く。そして誓約を守ると誓う。
そしてもしも珍しいスキルがあった場合はまた話し合いの場を設けると言うのはどうかの?」
「・・・確かに。それでこちらは構いません」
「あの子が拒否しないのであれば」
「うむ、では今日のところはこれでお開きと致しましょう。では検査の日時と同意は此方で致します。検査の場にどちら側も参加なさいますな?」
「ええ。勿論」
「はい、参加します」
そしてギルドマスターの号令にて話し合いは一応終わったのだった。
これは私が知らない内にスキル検査をすることがほぼ確定した話。
貴族の関わりたくはないけど、検査をして諦めてくれるならと、私は了承するのでした。




