私は臥せった
スキルでドーピングをして筋力を上げて丸太を振り回すという暴挙をして絶賛全身筋肉痛で苦しんでおります。
うん、実力以上の事をするって良くない。ライト、学んだ。
痛みで涙目になる私にクーちゃんは枕元でスンスンと鼻を鳴らして頭を傾げる。「大丈夫?」と言っているクーちゃんは本当に最高に可愛い。モフモフを撫で回したいが生憎と腕が上がらない。ナンテコッタ、こんなに可愛いのに撫でられないだと!
・・・自業自得なのでどうにも出来ない。
それにしても私のスキルって使い方によっては諸刃の剣過ぎる。気を付けないと自滅する。きっと今回の使い方は体を鍛えていればある程度なら耐えられた気がする。でもこの程度で済んだのは幸いだったのかと知れない。もしあれ以上の筋力を上げていたら、私は無事ではすまなかったのだろう。
そう思うとゾッとした。やはりスキルを使うならばある程度の鍛練は必要かと結論を出してもう一度寝ようかと思った。
しかし、森の事が気掛かりで眠気は訪れなかった。
あの後、実は兵士達は調査を断念した。理由は森の管理人たる森エルフ達が協力を拒否したそうだ。頼みの綱のエルフの協力が無い状態では彼等もその主である領主様も断念するしかなかった。
何でも森エルフの加護が無いと森に入る事が出来ないらしい。勿論私たち冒険者はその加護を受けているので入れるのだが、いつもの間に受けたのだろうか。
その話を聞いた時に私は加護を失うと思った。だってね、森の木々をモンスターごと薙ぎ倒したからね。荒らしてしまったのだから怒られると思っている。何かお詫びをしないといけないと思っているとベルさんが
『大丈夫よ。私から事情を説明しておくわ。勿論貴女がやったことは伏せてね』
と言っていたので大丈夫なのだろう。なのだろうけど、やっぱり何かお詫びの品でも贈っておこうと思う。あ、菓子折りでも贈ろうかな。人数分は少々痛いが、遺恨は残しちゃいけないよね。
そう心に決めた。安いもので妥協しないとダメだろうけど、何か美味しいものを用意しよう。森エルフってお菓子が好きな人が多いんだって。ベルさん情報だから間違いないと思う。
調査が滞っているのであの森の異変の原因は分かっていない。しかし持ち帰ったモンスターやベルさんが採取していた植物等から異常な量の魔力が検知されたので多分魔力過多のせいではないかと仮説が立てられた。
しかし魔力過多でモンスターの知恵が発達するなど今までになかった事なので真意は未だ分からないままだ。
国も領主からの要請に漸く重い腰を上げて調査団を派遣することになったそうだ。しかし編成に時間が掛かるらしく、早急な調査は見込めないらしく、多くの冒険者は森に入ることができずに不満がっている。が、上位冒険者が危うく全滅するところだった事を公表するとその不満も収まった。
私やリンクさんは少し怒られる程度で済んだ。勿論ギルド側はそれだけでは済まないので謹慎を言い渡された。しかし私はこんな状態なのでそれもあまり意味の無い事で。
そうそう。あの時の事はは少し暈して報告した。
ベルさんが報告した顛末はこうだ。
ベルさん達が2日も帰ってこない事に焦れた私とリンクさんはクーちゃんに護られながら森に入り、入り口付近まで何とか撤退していたベルさん達に遭遇して持っていた毒消しポーションやポーションで回復させた。そして森から出たところで領主様の私兵部隊と遭遇した、と。こんな風になっている。
つまり私とリンクさんは森の奥に入っていない事になっている。ギルドにもそこは伏せているが良いのだろうか。いや、言ったら絶対に厄介な事になるのでこれで良いのだと結論付けた。
一応自分の中では解決の兆しが見えたので安心したのか、単に疲れてきたのか私は知らぬ間に眠りに落ちていた。
※※※※※※※※※
ここはとある一家のリビングである。
そのリビングには3人が静かに座っていた。
「第32 ライトちゃんの無茶を止める会の会合を開きます」
その声にあわせて二人はお辞儀をする。
「さて、議題は勿論ライトちゃんの無茶についてよ」
「今回は俺達の落ち度でもあるから強く言えない」
「・・俺も何も出来なかった」
いつもの温かい雰囲気は何処へやら、何となく空気もどんよりしている。そんな落ち込んだ夫と息子に妻は、
「私も人のことは言えないわね」
同じように落ち込むのだった。
「オッホン さて、本題ね」
「今のが本題じゃなかったのか?」
「・・それで本当の本題は?」
夫の突っ込みが入るが息子が先に進めようとしたので夫の発言は無視されるのだった。南無。
「実は領主がライトちゃんに会いたいって言ってきているのよ」
「「は?」」
「ホントあの誓約は無視する気なのかしら」
笑っているが妻の目は笑ってなどいなかった。むしろ目は怒っていることは如実に表れていた。この人もかなり怒っているのだ。
何もライトの事だけで怒っているわけではない。実は今回の調査を急かしたのは領主側であってギルドはむしろもう少し整ってから調査すべきだと止めた方なのだ。
しかし領主側も収入源が絶たれるのは避けたい。しかし領主も早々に兵を動かす事が出来ないでいた。
なのでギルドに全ての負担を背負わせるような事態になってしまったのだ。
・・・冒険者からしたら「なんだそれは」と怒ることは当たり前のことだ。援助も無しに死地に向かえと言われているようなものだ。実際に死にかけ全滅の憂いにあったのだが。
「お礼をしたいと。でも本音はそっちではないわね」
「クーちゃんが狙いか」
「・・貴族なら欲しがりそうだよね幻獣・・」
そう。貴族とは珍しい物や力を持つものに目がない。特に戦う術を持つ者を確保することは領地を持つ貴族にとっては死活問題なのだ。年々優秀な冒険者を減らしているこの地方では死に物狂いで集めているのだが・・
「土地柄強い者はこの地には集まらないからな」
「それだけではないわ。あの領主、ライトちゃんに何かあるのではないかと勘ぐっているのよ」
「「!?」」
あまりの衝撃で親子共々同じリアクションをする夫と息子を見つめながら真剣な顔で続ける。
「のんびりしているけれどあの領主は狸よ。抜けていて詰めも甘いけれど、警戒しておかないと横から拐われるわ」
その言葉に夫は怒りを露にしてテーブルを叩く。乗っていたクッキーの山が崩れるが息子が一瞬で受け止めた。夫はそれに気が付くと謝りテーブルに落ちた分のクッキーを自分で食べ始める。怒ったときには甘いものはこの家の常識だ。
「きちんとした誓約書があるから強引な事はしてこないと思うけど。でも接触はしてくるでしょうね。幸いとは言い難いけれど今ライトちゃんは寝込んでいるわ。その間に決着を付けようと思うのよ」
そう言うとある一枚の紙をテーブルに置いたのだった。
※※※※※※※※
唐突に目が覚めた。喉がカラカラになっていたのでサイドテーブルに置いてあった水差しから水をコップに注ぐ。この一連の動作でも動かすのが辛い。特に起きて直ぐは筋肉が強ばって痛むのだ。
そして学んだことは、筋肉痛の時は多少動かしている方が痛くないと言うことだ。勿論炎症を起こして熱を持っている時は別だ。そんな時は無理に動かしてはいけない。悪化する。
だがトイレに行くくらいの運動なら仕方ないとは思うが。
勿論炎症はポーションを飲んで粗方収まってはいる。しかし体に掛かった負担は消えないらしく暫くは安静にして自然治癒に任せるしかないそうだ。自業自得なのでそこは仕方ないと納得している。
しかし一階にあるトイレに向かうのには苦労するとだけは言いたい。メッチャ痛いのよ。
階段を上がるより下がる方が辛いってはじめて知った。はじめの内はあまりの痛がり様に心配したジンさんに抱えられて降りたが、もうあんな事態にはなるまいと誓う。
だって12歳にもなって抱えられてトイレに連れていってもらうってスゴく恥ずかしいでしょ!
うーーー、本当に恥ずかしかった!!
リンクさんもベルさんも抱えようとするし、ジンさんも遠慮するなってまた抱えようとするし。何がしたいのこの人たちと怒鳴りたくなったよ私。
と、そんな事があった。
さて、喉も潤った事だしもう一度寝ようと思うが、何やら下の階が少し騒がしい気がする。
でも今回は眠気がすぐに来てしまったのでそこで私の意識はまた夢へと落ちた。
これは臥せっている私と何かを画策する人たちの話。
私は蚊帳の外なのでした。
・・・クッキー私の分もあるよねクーちゃん?
知らないか・・・




