私はテイマーではありません 5
ベルさん達が消息を絶ってから2日、ギルドからの新しい情報もなく2日が過ぎてしまった。
リンクさんは何度も玄関の前に行っては戻るを繰返し、クーちゃんは落ち着きなく家の中をウロウロとしていた。私は黙々とポーションを作って気持ちを押し止めていた。
そして3日がたった朝、私は用意していた荷物を担いで家の玄関に居た。ただ今の時刻は早朝。夜が明けきらない薄暗く朝日がまだ弱い時間帯。傍らには静かにお座り状態で待つクーちゃんが私の顔を見つめている。
私は始終無言のせいかクーちゃんも空気を読んで無言である。出来た子だと思う。
何故こんな早朝に出掛けようとしているのか? 勿論助けに行くのだ。
確かに私程度が行ったところで何の役にたつのかと言われれば私は反論など出来ない。でも頭では分かっていても心では納得なんて出来ないのだ。折角大切な、家族と言える人達が出来たと思った。なのに諦めるの? たった数ヵ月しかいられない?
そんなの嫌!
納得なんて出来ない。諦めんなんて出来ない。こんなに良くしてもらって恩も返せていないのに。
違う。居心地が良いこの場所が、奪われるのか嫌なだけだ。これは私のただの我が儘でしかない。
だから一人で行くのだ。日が昇れば誰かに止められる。今街は上位冒険者が行方知れずになったので厳戒体制になっている。子供を外には出さない。そして大人でも出れない今の状況では門から出ることは叶わないだろう。
だから誰にも見咎められない時間に出ていくのだ。
何がなんでも見つける。そのためにスキルを使うことに何の躊躇ももうしない。それで人の枠から外れようともどうでもよかった。
クーちゃんが心配な顔で見ている。ゴメンねクーちゃん。でも私は諦めたくない。
決心してドアノブに手をかけると、
「やっぱり行くんだ」
急に後ろから声をかけられて少し驚く。
振り向けばリンクさんはいつもより確りと防具を着けてた姿で腕を組んで立っていた。
「俺が気が付かないと思ったの?」
「・・・・・」
「水臭いよ」
俺だって行きたいのに、一人で行くつもりなの?
そう言って私の腕を掴んだ。リンクさんのいつもの寝ぼけ眼は確りと開いており本来のつり目が私を見つめていた。その目は一見すると睨まれている様にも見えるが、その目は少し不安そうに私にはそう見えた。そうだ、リンクさんが今一番辛いのだ。私は今になって自分勝手な考えでなにも言わずに出ていこうとした自分を叱咤した。
「ごめんなさいリンクさん、私は━━」
「俺も行こうとしていた。お互い様」
すると手に持っている弓を見せてから背中に背負った。良く見ると背中にはいつもより大きめのリュックと見覚えのあるマントを弓とは反対の手に持っていた。そのマントをリンクさんは羽織った。成る程、見覚えがあるはずだ。
そのマントは私がお世話になっていたあのマントの本物だった。そうか、ベルさんは出発前にリンクさんに手渡していたのか。・・・それだけ覚悟していたのかと今さら分かった。
「これがあれば多少奥まではモンスターを相手せずに行けると思う」
「でも、私は何度もモンスターに見つかってますよ。大丈夫なんですか?」
「・・多分なんだけど━━」
なんとリンクさんの話では私のスキルレベルが低いせいで本来の能力が低くなっているのではないかというのだ。寝耳に水であった。
確かに装備の説明よりも能力が劣っている気がしていたのは事実。そう言われると納得してしまう。
「他の装備で補助すれば多分大丈夫だと思うけど」
「確かに装備制限はないので何個も重ねればなんとかなるかも?」
そもそも、そうやって無茶な使い方をして突破しようといていたのもあるが。
「俺は元々気配を消すのは得意だからこのマントがあれば何とかなると思う。最悪の場合俺は囮にして」
「ダメですからね」
「・・囮」
「却下です。私が言えた義理ではないですが、却下ですよ」
「・・・・・」
囮なんて絶対嫌です。そう言って徹底抗戦を表明するとリンクさんは折れた。それにはひと安心する。折角会えたとしてもリンクさんが無事でなかったなら私は二人になんて言えばいいの?顔も見せられないと思う。
リンクさんと話していて時間を少し取られたが、未だに薄暗い街は静かで誰も大通りを歩いていない。そんな道を私たちは静かに走り抜けて街の外周を囲む壁を勢い良く飛び上がったのだった。こんなことに疾風のブーツが役に立つとは。勢い良く走ってジャンプすると高く飛べるなんて思いもしなかった。
リンクさんは私が先に行ってロープを垂らすと器用に登ってきた。クーちゃんは自分で飛んでました。流石幻獣である。
素早く壁を越えて森に急ぐ。直ぐ近くなので森には直ぐに着いた。こんなに暗い森に来るのは初めてだった。いや、この街に来る前に違う場所とはいえ森で夜を明かした事もあるが、なんだかこの森は嫌な気配がするように感じた。
「森の奥までは立ち止まらず進もう」
「はい」
「多分モンスターはウヨウヨいると思うけど無視する」
「それが最適かと」
「・・そう言っても武器は持っておいた方が良いかも」
そう言われたのですかさず槍を手に持つ。この槍を背中に担ぐことはあったけれど、手に持って構えるのは久しぶりだ。これでも採取の時は装備はしていたんだけどね。自分で攻撃するって考えが抜けちゃうんだよね。
走りはしなかったが早足でいつもの採取場所を抜けるとそこは深い森が不気味に広がっていた。
来たことがない場所とは恐怖を感じるものだが、私たちは精神的に麻痺していたらしい。今思えばとっても危険で無謀だったと反省はしています。
クーちゃんが臭いでベルさん達を探す。私はマップの縮尺を最小にして森全体を表示して探した。こういうとき便利な機能だとつくづく思う。
するとマップにはモンスターの表示がそこらじゅうにあった。少し青ざめるとリンクさんが心配してきたのでそれを教えると冷静に、
「ならその表示に当たらないように進もう」
と、提案したのでそれに同意する。
それにしても二人はどれだけ奥に行ってしまったのだろうか?
暫くモンスターをやり過ごして進んだ。クーちゃんは勇猛果敢にモンスターを蹴散らしているが、こちらに被害がでないように配慮してくれているので全く問題はない。むしろモンスターがクーちゃんを避け始めたので安全だったりする。近寄ってきてもリンクさんが石を投げて気をそらしてくれるので助かっている。ホントにすみません。ご迷惑お掛けします。実は何度も転けたりして足を引っ張っていました。
一人で行こうとしたくせに何をしているのかと自分を叱りたい位だ。
そんなことをしながら一時間程歩き続けた丁度その時、
「?」
「クゥ?」
私とクーちゃんは足を止めた。とは言え私はマップにある表示を見つけたから立ち止まっただけで、クーちゃんは何を感じ取ったのか不明だ。
マップには▼表示の上に名前があった。そう、ベルさんとジンさんだ。確りと青い表示をしているので生きている事は分かった。少し安堵したが次に見えた表示に顔をしかめる。
「・・・(毒?)」
ベルさんの名前の横に(毒)とついていた。そして二人の近くに点滅した表示が3つあるので多分最初の調査に出掛けた冒険者達だろうと推測する。ベルさん達は彼らを無事見つけられたのだ。点滅しているということは無事とは言えないかも知れないが。
点滅している事が表すのは多分瀕死を表しているのだと思われる。まだ瀕死状態の人に出会ったことがないので確証はないが、点滅ということは危険な状態を意味していると直感的に察した。
「リンクさん、居ました。二人とも無事です。」
「~~~良かった」
リンクさんもずっと気を張っていたのだろう。長いため息をついてから一言いうと直ぐに向かおうとするリンクさんを慌てて止めた。
実は彼等の周りにはモンスターが無数囲っていてとてもではないが容易には近付けない状況なのだ。
いつになく焦るリンクさんを落ち着かせ二人の状況を伝えると一旦は慌てた様子を見せるも深呼吸をして冷静さを取り戻した。リンクさんってそういう所が凄いと思う。普通は冷静になんてなれない。私は今は精神が麻痺しているので論外だ。
作戦をたてる。いや、私たちに出来ることなど一つしかない。
まずクーちゃんが周りのモンスターを蹴散らした。そして私とリンクさんは静かにベルさん達の所まで一気に移動するのだ。作戦でも何でもない。ただの強行突破である。
「母さん、父さん!」
「リンク? どうしてここに!?」
「ごめんなさいまてませんでした」
怒られるだろうとは思ったが、今の状況では余裕がないのか怒られることはなかった。しかし目で直接見た現状は酷いものだった。
噛み付かれ抉れたのか包帯で簡単に処置された人に頭を怪我して意識がない人に顔色が悪くマップ表示では(毒)とあるので毒のせいで顔色が悪いのだろうも思われる。酷い状況だ。
「どうして来たんだ」
「帰ってこない二人が悪い」
「それは・・確かにな。でもこんな場所に来るのはどうかと思うぞ」
「そんなことより、治療ですよ」
ベルさんは毒のせいで意識がない状態だ。一刻も早く毒消しを飲ませないといけない。そしてベルさんを真っ先に回復させるのには訳がある。
私だけでは他の3人の治療は出来ないのだ。私にできることはポーションを使うことだけで、治癒術は使えない。装備に頼って使えるようになるかもしれないが、それは最終手段にしたい。
ベルさんは低級毒消しポーションを飲んで直ぐに意識を取り戻した。直ぐに低級ポーションを飲ませて回復を待つ。ジンさんとリンクさんには他の3人に低級ポーションと低級ポーションを飲ませてもらう。
私の作った低級ポーションでは重傷者は治せない。ベルさんの怪我は見たところあまり無いようなので体力を回復させるという意味で飲んでもらったのだ。意味があれば良いなという程度なので本来なら要らないかも。
ベルさんは直ぐに回復して自分に治癒術をかけて完全回復。そして負傷者3人も直ぐに回復させたのだった。スゴい早さで治っていく様子を見るのは少し気分が良くなかった(結構グロかった)が、みんな治っていく良かったと心から安堵する。
それにしても何故ベルさん達は解毒しなかったのだろうか。ベルさんは私よりも経験があるはずだ。そしてジンさんもそうだ。何故何も処置しなかった?
「ふぅ、終わったわ。もう大丈夫よ」
治療を終えて振り返りベルさんは笑った。少し疲れが見える。それもそうだろう、だってさっきまで毒で気を失っていたのだから。
「本当に助かったわ。毒消しを持って来てはいたんだけど、在庫が底をついてしまって」
「本来ならこの森に毒を持っているヤツはあんまり居ないからな。それがゴブリン共の武器に毒が塗られていたなんてな」
「油断したわ。先に行った3人も毒で参ってたし、在庫も底をつくし、最後の分を3人に使って何とか持たせていたのよ」
運の悪いことに毒消しを使った直後にゴブリンに攻撃されて毒になり意識を手放してしまったベルさんをジンさんほ手持ちのポーションで何とか現状保持をしていたらしい。3人にも定期的にポーションを飲ませていたので死を回避できたのだろう。確りと応急処置をしていたのも良かった。
まだ3人は目を覚まさないがそのままで良いと思う。
だって今から私は見られたくないことをするのだから。




