私はテイマーではありません 2
可愛いくも頼もしい雄叫びをあげるクーちゃん。相も変わらずわたあめの姿で可愛いです。
モンスター━━あ、ゴブリンと判明しました。それもゴブリンメイジだった━━はジンさんが回収して後でギルドに解体してもらう。ちょっと生き物の(しかも人の姿に似ている)の解体は遠慮したい。泣き言を言っていても仕方ないのは分かってはいるのだけど無理なものは無理。食べれないし、食べたいとも思わないが。勿論動物系は解体できるよ。そうやって生きてきたんだしね。
この事だけはあの環境も良かったとかと思ったが、そのせいで身分を捨てているのだと思うと複雑だな。あ、でもみんなに会えたのはとても良いことだ。うん。
駆けつけたジンさんはその後平謝りでリンクさんも同じく謝り続けている。
「無事だったので大丈夫ですよ?」
「それでも保護者として目を離した事は・・」
「いえ、元はと言えば私が別行動をしていたので」
そう。私は錬金術に使う素材を採るために二人から離れていたのだ。周りが見えていなかったのはむしろ私の方だった。
「そもそも私が二人から離れなければこんなことにはならなかったんですよ」
「いや、うん。でもな・・」
「・・・そもそもライトの気配が薄いのが原因だよ」
何か付けてるの?そう言ったリンクの言葉にあることに気がついた。
私のマント気配を消す効果があったんだった!忘れてた。
「気がついたら側にいなくて焦った」
「ライトその装備禁止にする?」
「え、禁止?」
「キュン?」
これがあるから安全に採取できるのに?
「そうだなこのままだと危ない」
気配を消すという技術を身につける事がこの採取の目的でもあるとベテランのジンさんは言った。そしてこのまま装備に頼って技術を身に付けなければ危険だとその危険性を指摘してくれた。
もしもスキルが使えない状態に陥ったらどうするのか。
そう聞かれて私は答えられなかった。スキルに依存し過ぎるのは危険で自身も成長できないと。確かに私はスキルに頼ってきた。スキルが無ければ死んでいた場面が数多くある。そして依存することがどれだけ危険かを考えてみると怖くなる。
もし、スキルが使えなくなったら何ができる?
錬金術を極める? 極めなくても食ってはいけるだろうが、素材は採取では入手出来なくなるだろう。そうなれば稼げない。原価がほぼタダの状況だから儲けが有るわけで。それがなければ食っていけなくなるのは目に見えている。
こうなると私はいつまでも独り立ちできない。そして死ぬまで保護者二人に迷惑をかけることになる。
助けてもらったのに、恩も返さずすがり付いていて良いのか?
良いわけがない。二人は笑って許してくれそうだがダメ人間みたいなことにはなりたくない。別に親と暮らしいてるのかダメと言うわけではない。でも私はお世話になっているだけの居候の身だ。家賃ぐらい払いたいと思うのは間違っているだろうか?
うん、私はきちんと装備に頼らずに色んな事を身に付けないといけないんだ。それに先生に恵まれているこの状況を最大限とは言わないけど利用しないと損だ。
そうだ。うん。
「・・何を考えてるのか知らないけど、遠慮は要らないと思う」
そうですね。私は久し振りに狩人のマントを脱ぐ。隠していたので見た目は変わらないが何かが変わった感覚がする。多分隠密スキルが取れた感覚だったのだろうと別に気にしなかった。
「お、やっぱりそのマントか。一気に気配が濃くなったな」
「父さんこのマント知ってるの?」
「おう、知ってるもなにもベルのヤツが持ってたぞ」
リンク見たことなかったか?と聞くジンさんにリンクさんは首を傾げて少し考えると、
「ない」
「いや、使って・・・なかったか?」
「うん、見てないよ」
とジンさんの記憶違いだった模様。確かに緑のマントは使ってなかった。黒とか紺色だった気がする。しかし、流石ベルさん。狩人のマントを持ってるなんて弓の腕と合わせたら最強ではないですか。
「そんなに珍しくないのかな?」
「いや、珍しい。あれば家宝だからな。いつかはリンクに譲るだろうな
「弓の練習しないと」
どうやらリンクさんは弓使いになるらしいですね。今は短めの細身の軽そうな剣を装備しているが、実は弓の方が得意なのか?
「・・・俺は弓主体だよ?」
「そ、そうですか」
また心を読まれた。でも弓の方が主なんですね。そういえば戦ってるところ見たことないかも。ベルさんは弓で倒したところは見たけれど。ジンさんも戦ってるところ見てないよね。
・・・強いんだろうけど、いつもの姿を見ていると、ね。
先ずは隠れて気配を消す方法を身につけるために森の中でかくれんぼすることになった。森でやるなんて危ないだろう? うん、危ないね。危ないだろうけどもっと危ない目に会うよりは隠れる術も気配を隠す術も少し危険な目にあってこそ身に付くとか。
その提案をされたときのリンクさんの顔は少々険しかったが、ジンさんの独断で決まったかくれんぼにはキチンと参加するのであった。とってもいい子である。
※※※※※※※※
私とクーちゃんは茂みに隠れていた。この茂みは面白いことに中は空洞になっていて隠れるのには最適だ。しかし中は空洞なのにたいして周りに張る枝はお互いに絡み合っているようで中に入る時は顔に切り傷ができてしまった。
別段この程度の顔の傷なんて気にしないが、血の臭いは微かでも肉食動物を呼ぶと聞いた。モンスターならもっと臭いに敏感かもしれない。だから小さな傷とてバカにできないのだ。
━━━クーちゃんはあのモコふわなボディでどうやって無傷で入ったの? やっぱり幻獣は不思議がいっぱいだ。
ジンさんは辺りを警戒して見張りに徹している。私を探す鬼はリンクさんだ。
足音が近づいてきた。ふと足音が私の隠れる茂の前で止まる。私の息も止まりかけるが何とか平常心を保って静かに少しずつ息を吐いては吸う。足音が遠ざかって安心してはいけない。モンスターは耳も良い。鬼=モンスター役のリンクさんも耳が良いので油断できない。あのとんがり耳は人間よりも数段良いそうだ。エルフって耳が良いから喧騒が煩わしく感じるんだって。ベルさんが言ってた。
だからリンクさんは皆とわいわいのが嫌なのかな? いつも私のお守りをするのもその喧騒から遠ざかりたいから?あり得るな。その方が納得する。私の受けるクエストは森の中での採取が主だからね。主っていうかそれしかしてない。どうもお使いクエストとかお手伝いクエストは気が引ける。ヘタレと言うのならば言えば良い。だってまだ知らない人が多すぎて怖いもん。
この街出身の人は大体知り合いか顔見知りだろうけど、私はまだ1%も覚えてないよ。無理、そんなに早く覚えるの無理。人の顔と名前が一致しないです。
っと、話がそれた戻そう。
リンクさんは耳が良いから遠くなっても油断できない。バクバクとなる鼓動がやけに耳に響く。ちょっと緊張しすぎて心臓が痛い気もするが我慢する。クーちゃんは微動だにせず私の横に座っている。頼もしい限りです。
遠ざかる足音が全くしなくなったころ、私は少し疲れていた。静かにしているのはこんなにも苦痛だとはしらなかった。私を探す人など一人しか居ない生活の中では自分の部屋にいても居なくても誰も気に止めないのだ。気配を消す何て難しいことが出来るだろうか? それにかくれんぼも今の人生では経験がない。
飢えを凌ぐために小動物を獲ったことはある。けどあれば簡単なトラップで捕まえたものであって、気配を消して捕まえたわけではない。そもそも気配を消すってどういうことだ?気配って分かるものなの?
ガサッ
「!!!」
私の後ろで何か音がした。葉と枝が擦れるような音だ。音はしたが何かが居るような気配はしないと、思うのだが・・どうなんだろう。ここは私より気配に敏感そうなクーちゃんに目配せして見ると・・
「(じー)」
「(じー・・!━━━スンスン)」
私の思いを汲んでくれたのか小さな鼻で周囲の臭いを嗅ぎだした。本来犬は空気中の臭いを嗅ぎとる事はそれほど得意ではないと聞いた。物に付いた臭いを嗅ぎ取る事の方が得意なのだそうだ。猫は確か得意だったはず。クーちゃんは厳密に言えば犬科に見えるが幻獣である。もしかしたら犬猫よりも嗅覚や聴覚が発達しているのかもしれない。
暫く嗅いでいたクーちゃんはいつもならふわモコの毛て見えない耳をピンと立てて私の後ろの方を睨む。
え、ちょっと待って。リンクさんが居るの?後ろに?
「(フイフイ)」
「(・・・違うの?)」
「(こくり)」
━━━どうやら私はつくづく運がないらしい。
幸運値高いはずなんだけどなぁ。もしかして-だったりします?
リンクさんのものではないと思われる足音がそこまで迫っていた。
普通ならここでヒーローが颯爽と登場することだろうが、生憎と私はヒロイン何て柄じゃない。村人くらいのモブだ。それもAとかではなく精々F辺りの背景に溶け込んでるタイプの。
だから自分でこの状況をどうにかやり過ごすのだ。戦う?無理。私は戦闘民族ではない。ハッキリ言ってしまえば度胸がない。追い詰められれば抵抗はするけど、自分からは無理なのだ。
だから今もこうして隠れている。
そう。私にできることは隠れてやり過ごすだけ。クーちゃんが戦えば良い? 確かに勝てるかもしれないけれどこの子はまだ生まれたばかりの子供だ。どんなモンスターかも分からない状況で突撃させるのは気が引ける。
何者かの足音がすぐ目の前まで来た。クーちゃんの反応からジンさんでもないことは予想できた。それにこの子は街の人たちにこんな反応はしないと思う。私と知り合いでなくてもとってもフレンドリーなのだ。私よりもコミュニケーション能力は高い。羨ましい限りである。
生い茂る茂みはお互いに見えにくい為、私も相手を認識できないのが難点だ。耳も鼻も人並みの私にはちょっと不利かもしれない。
ガサッ ガサガサッ
何かを探して居るの? もしかしてバレている?
何かを探す様な音は続いていたが、ふとその音が聞こえなくなった。もしかしたら私の居場所が分かって舌舐めずりでもしているのかも、そう思ったのも束の間。
「大丈夫か?」
いつもの優しく少し頼りないジンさんの声が聞こえてきた。
クーちゃんも唸るのを止めて甘えるような鳴き声で茂みから飛び出した。クーちゃんよ君ってコミュニケーション能力は高いけど媚びへつらわない性格だったよね?何でジンさんにはそんな甘える声を出すんだい?
そう、コミュニケーション能力が高いクーちゃんは犬の様に誰にでも尻尾を振るような性格ではないのです。でもフレンドリーだけどね。そういえば尻尾も埋もれて見えないね。ブラッシングしたときに尻尾の存在を知った。
「・・・最近の森はおかしいよな」
「何なんですかこのモンスター」
本来ならモンスターも滅多にでないこの森でこんなにも遭遇するなんておかしい。それは結構前から分かっていたことなんだけどね。以前の森はモンスターもたまには出てくる、特に奥の方は狂暴なやつらも居るそうだ。前にも説明したかな?
そんなやつらも縄張り争いで負けたりするとたまに入り口付近まで出てきてしまうのだ。モンスターも世知辛い。そんな事もあるのでモンスターが出たとしても一回程度ならこんなのともあるか、ですむのである。でも最近は頻繁にそれが起きている。ベテラン冒険者やギルドの人達は調査を行っているそうだが原因究明には至っていない。
このモンスターはどこから来たのだろう。
「この見た目はここらのじゃないな」
「そうなんですか?」
「ああ。この街の名前の由来は知ってるか?」
「緑と言う意味ですよね?森が近いから」
「それもある。だが一番の理由がこれだ」
そう言ってジンさんはリュックから一羽の鳥を取り出した。まだ解体していない仕留めたばかりと思われるアヒル位の鳥。その羽は美しい翡翠色と深い緑の羽と黒で彩られたものだった。
対して今しがた私が隠れてやり過ごそうとしてジンさんに仕留められたモンスターは赤い毛に覆われた猪の様なものだった。
「その周辺のモンスターや動物は緑の毛や羽を持っているんだ。他の色は模様とか少ししか持っていない。ここまで緑以外の色を持つのは居ないはず、なんだがなぁ」
取り出した美しい翡翠の鳥をまたリュックにしまいこの事に頭を傾げる。確かに前に少し見かけた兎も薄くはあったが緑だった気がする。苔でも生えているのかと思ったが地毛だったのか。
今更ながらその真実に気がつく。
「・・こっちになにか来てない?」
茂みの間からリンクさんが出てきて尋ねる。どうやらモンスターの気配に気がついてこっちに来たらしい。ジンさんの近くに居た私を見てからその横にあるモンスターの死骸に目を向けて目を細めた。
「これは・・」
「もう縄張り争いだなんて言えなくなってきているな」
「違う地域から来るなんてあるの?」
「ないとも限らないが、今回は無いだろうな」
「どうしてです?」
「赤い毛って事は火山か砂漠のどちらかから来たってことになるが、環境に合わないと死ぬだろう」
「・・?」
環境に合わないと死ぬって大げさだと思った。しかしどうやらそんなに大げさでもなかったようだ。
「その環境に適していないと魔力を補給出来ない」
「・・・その土地の生き物はその土地の魔力を補給しないと死ぬんだよ」
「まあ、その土地のって言うよりは属性ってのが関係してるんだが」
「赤は火、緑は風か樹かな」
「水は水色、氷は青、地は茶色や黄色だな」
見た目で属性がわかるのは分かりやすくて良い。
「その土地の環境はその土地に集まる魔力が関係しているらしい。」
だからその土地の魔力で生き物の必要な魔力も違うのね。属性ってなんだか面倒だ。




