私は目を覚ました
懐かしい。ただそう思った。そう思っただけだった。
優しいけれど怒ると怖い母親。頼りないこともあるけど優しい父親。ヤンチャで喧嘩もするけど基本優しい生意気な弟。
家は今では珍しいと友達に言われた朝御飯も晩御飯も家族一緒に食べるのが当たり前な家族だった。父親の仕事が長引いたときは流石に待たなかった(弟が待ちきれず食べてしまう。育ち盛りだからね。)が、基本茶の間で勉強していた私達姉弟は家族で過ごす時間は長かったと思う。
よく仕事帰りにたこ焼きを買ってきたりする父親に弟がもっと量が多い物が良いと言っては母親に頭を軽く叩かれる。でも弟もふざけているだけで本気ではないのはみんな分かっていた。
そんな家族を見ている私は・・・
私は・・・
あ、お母さんがお父さんにヘッドロックをかけられている。弟はそれを呆れて本を読み・・・・
お父さんにヘッドロック? お母さんが? あの外で遊ぶ方が楽しいと豪語する弟が本を読む?
あ、あり得ない。
父親はギブアップと母親の腕を叩くと母親は素直に放す。あれはじゃれているだけ、そう、じゃれているだけだ。いつものこと。
いや、ウチの両親はそんなコミュニケーションなどとらない。
とらない。はず?
目の前の光景が一瞬ぶれる。まるで電波障害で止まった動画が動き出したようなブツブツと粗く乱れたような。
そして目の前の人物達が一瞬変わった。明らかに両親と弟ではなかった。
耳が・・・・
あれ?この人たち
何かが頭の中で繋がった気がしたその時。
突如積み上げられたブロックがコマ切れにされ上からこぼれ落ちる様に目の前の光景が無くなる。残るは闇。やみ、ヤミ。
━━━━呼ばれた気がした。
━━━━目を開けてと誰かが叫んでいる。
━━━起きなければ
━━━起きないといけない
━━━私は誰かに強い力で、引き寄せられた気がした。
パチリ。
目を開けると白。いや、これは光か。眩しさに目を凝らすと知らない天井に疑問が浮かぶ。光のせいか頭が痛む。そして何故か胃が痛い。
お腹に何か変なものでも食べたかと手でお腹を擦ろうとすると腕が動かなかった。ついでに足も動けず寝返りがうてない。
もしかしてこれが噂に聞く金縛りと言うものかとちょっとワクワクして頭を動かそうとした。バカである。もう起きているのに金縛りになるなんてあり得るか? しかし金縛りなど前世を合わせても経験がなかった。霊感なんてものも皆無である。
前世で弟に「ねぇーちゃんは鈍感で楽だよな」と言われていた事からも全くこの手の異常事態には免疫が無かった。
無かったせいかこの手の話題が大好きだったのだ。もう一度言おう。
バカか。
痛む頭を動かすと難なく動かせた。それと同時にひどい痛みと体の怠さが襲ってくる。
だが動かした手前腕が動かせない原因を見なければ。指先は動くのに。もうこの辺りから金縛りだとは思ってはいなかった。腕だけが動かせないなら何かに押さえられているのだと思ったのだ。金縛り初体験かと思ったが・・・残念だと少し思っていた。
もしかしたらもがいたら動けるのではないかとも思ったが、痛む頭をこれ以上動かしたくなかったという事情もある。体もダルいし。
何かに押さえられていると思われた腕は━━━見えなかった。
イヤイヤ、訂正。暖かそうな毛布で見えないだけです。腕はありますって。紛らわしくてごめんなさい。
毛布がこれでもかって程に私の上に掛けられているのだ。体がダルいのはこの重さのせいか? 腕が動かなかったのもこれのせいだと当たりをつけた。それにしても息苦しい。寒気もしている。
「気が付いた?」
「Σ(O_O;)」
おっとぉー? ビックリして声を出そうとしたら出ないぞ!? そして追加で喉も痛みだしたぞ。踏んだり蹴ったりだな。
私に声をかけてきたのはリンクさんでした。
私が向いた方とは反対側のベットサイドに座っていたそうてす。リンクさんは驚いて頭を動かし頭痛に襲われる私に小瓶を渡しながら私の額に手を当てた。
「んー・・まだ冷たいね。これを飲んで・・飲める?」
「・・・━━━━・・(ふいふい)」
痛む喉は声が出ないので痛むのを我慢して首を振り否定する。今は何も胃に入れたくない。
「少しでも飲んで・・君は体温が下がりすぎて危険なんだよ」
「━━━━?」
「一口でも良いから」
そんな心配そうな顔で言われると断れない。それに体温が低すぎるのも危険だ。低体温症は死ぬ恐れもある。素直に小さく頷くとリンクさんは小瓶の中身を飲みやすいように私の体をベットから起こしてくれた。
うん、自分で動けないからねとってもありがたいよ。
本当に一口しか飲めなかったが、飲んですぐに体の真から温かくなっていく感じがした。これが五臓六腑に染み渡るって事か?
一口飲んだ私に納得したのか二口目を催促はしてこなかった。正直もう飲みたくはない。胃が焼けるような痛みも襲ってきたからだ。なんなんだこの状態は。私に何が起こっているというのだ。
「ライトは、助け出された時には意識がなかったんだ」
「━━━(無かっただろうなぁ。覚えがないもの)」
覚えているのは冷たいベットで毛布にくるまっていたことくらい。
「直ぐに医者に見せたんだけど、体温が下がっていて危険だから温めろって・・」
医者に温めろと言われた保護者二人が過剰に毛布を掛けたのか。この多すぎる毛布の疑問が解決した。それにしても多すぎる。
「本当はお湯に浸からせたら良いって思ったんだけどね。あまり急激な体温変化?で余計体力が持たないって言われて」
なるほど? それで私が起きるまで毛布で温めていたのね。あ、毛布を減らしたら足が動くぞ。ん、湯たんぽがあったのね。ありがたい。
「さっき飲ませたのは上級ポーション。母さんに必ず一口は飲ませてねって言われたんだ。もう少ししたらもう一口飲んでね」
「━━━━(こくり)」
フムフム。なるほど。上級ポーションを飲ませることによって私の体力を回復させて徐々に体温を上げると。ん?上級ポーションだと。
上級ポーション、それは人が作り出せるポーションの中では最上級の物だと言われている。売れば一年中遊んで暮らせるほどの大金になる。そんな物を使ってしまって良いのか?
「使ってこそ、ポーションは使う為に作られるんだよ」
だから遠慮なんて要らない。母さんも言ってた。
本当にもう━━━━何でこの親子は私に優しいの? 身元も何かあれば捲き込まれるような身分だったんだよ。今は違うとしても、面倒ごとに捲き込まれないなんて絶対の確信なんてないのに。
どうしてこの人たちはこんなにも私に優しいのだろうか。
「それは、理由がいること?」
「━━━━」
分からない。人に優しくすることは正しいけど、理由もなく他人に優しくすることは私には出来ないよ。だっていつかは裏切られるかも。
「俺たちは確かに君に優しいかも知れない。でもそれは気にすること?」
あんまり頼りすぎるのはダメだと思います。
「・・・難しい事は俺には分からない。でも、」
優しい笑みを浮かべてリンクさんは言葉を紡いだ。
「きっと理由なんて、要らない。そうしたいからそうする。これが誰かの思惑で操られての行動だとしても、俺は良いと思う。誰かに優しくすることに理由なんて要らない。それで良いと思うよ」
そう言いきったリンクさんは私にはもう休むように言うとまたベットに寝かせて自分もベット脇の椅子に座ると保護者二人について話始めた。
どうやら保護者二人━━ベルさんとジンさん━━は私を救出した後、ギルドに呼び出しを受けて渋々私の側を離れたそうです。
その直後に私が目覚めて、今ここ。
私もリンクさんもお喋りは方ではではないので基本会話が続かない。それでも声が出ない私を気遣う彼には頭が上がらない。
医者の診断では風邪も引いてあるかも知れないと言われていたので喉に良いものを用意していたとか。もうちょっとしてから薬も飲むように言われた。
それにしても今日はリンクさんがよく喋る。そう思いながらもう一度私は目を閉じたのだった。
これは風邪をひいて看病される私の話。
この時のギルドでは私の件で暴れる保護者二人が居たことをここに記しておこう。




