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私は錬金術に興味を持った

 錬金術で無双はしません。


 さて、冒険者として活動出来ないとなると何をしてお金を稼ごうか。


 一応槍は扱えるようにはなったのでギリギリDランクには上がれるだろうとは教官にお墨付き?を貰ったので危険ではない採取クエストはこなせるだろう。で、この採取クエストだけで生活できるか?


 出来ません。足りないです。


 このまま居候していれば暮らせないことはないだろう。何せ衣食住が揃っていて家賃も発生しない。なんて快適生活なんだろうとぬるま湯に浸かって暮らしていてもあの保護者二人は文句なんて言わないでしょう。優しいから。

 でもね、それではダメだと思うのだ。


 私だって楽をしたい。でもね、あの二人にいつまでも迷惑をかけたくないのです。


 ━━━もうこれ以上甘えるのはダメかなって、思ってね。




 この家には小さいながらに書庫がある。ベルさんの趣味が読書なのとジンさんの色々と集める趣味が影響しているそうで、本棚は小さいが部屋に所狭しと並んでいた。好きに見て良いと許可を貰っているので何か良さげな本はないかと書庫のドアを開けた。

 本棚から「世界の職業図鑑」という本を見つけたので開いてみる。農業に冒険者、武器防具を作る鍛冶屋。教会で神に仕える神官にヒーラー。どれも私には向かないな。農業は土地がない。鍛冶屋はそもそも才能がない。神に仕えるのも性格的に無理。ヒーラーは治癒の魔法が使えないので論外。


 うーん難しい。


 もうパン屋とか服屋とか接客業で雇ってもらうか?


 でもみんな何処も店員は足りているみたいだしなぁ。



 職業図鑑の一番後ろに少しだけしか取り上げられていない項目があった。人気がある職業や一般的に知られている職業は前の方の頁に載っているのにたいして不人気や認知度が低い職業は後ろに小さく載っているのだ。ここにも世知辛さが。


 そんな不人気項目に目を通すと・・・・



「 ? 錬金術?」



 錬金術。お伽噺やゲーム、ファンタジーにはお馴染みの名前が小さく載っていた。






 私は書庫を出て自分の部屋に戻った。あの後錬金術関係の本を探して部屋に持って来たのだ。

 錬金術に興味を持ったのは何となくだった。本当に何となく知りたくなったのだ。


 最初に手に取ったのは錬金術の基本の事が書かれた本だった。その本には低級ポーションの作り方から錬金術に必要な道具の紹介、使い方や注意点に手入れのし方までも丁寧に載っていた。しかも挿し絵があるので理解しやすいのもある。どれも分かりやすく解説付きで楽しくて晩御飯の時間になって呼ばれるまで読み続けていた。お昼を抜いてしまったことは留守だった三人には内緒だ。



 その後も持ち主の許可を得て何度も読み返した。初級編を読み終わると次は中級編、その次は上級編・・・は、まだ私には理解できないので中級編と初級編を何度も読み直していた。


 そんなことを続けつつも日課になった素振りは欠かさずにこなしながら一週間そんなことを続けていたある日。



「初級編と中級編を読破したの!?」


「あの小難しい本を読めたのか・・・よく眠くならないなぁ」


「それは貴方だけよ。・・うん、ならそんなライトちゃんにこれをあげるわね。きっと役に立つわよ」



 そう言ってくれたのは一冊の本。革張りのハードカバーの10㎝はある厚さの縦30㎝、横25㎝の重量級の本を片手で差し出しているベルさんに冷や汗が背中に流れる。そして受け取った時の重さで腕が肩から抜けるかと思ったほど重かった。


 彼女の腕力はどうなっているのだろう。細いよ、腕。



 受け取った本の重さはともかく、本には「錬金術━応用編━」と書かれていた。



「上級編を理解できるのはほんの一握り。中級編まで理解出来るならそれも理解出来るはずよ」


「知らずに実践は危険だからなぁ~。ポーションが作りたくなったらベルに言えば良いよ。結構腕の良い錬金術師でもあるから」


「・・・錬金術()?」



 錬金術だけでなく、魔術等の術を扱う者には階級というものがあって、魔術を使う者は下から魔術使い、術者、術士、術師、魔道士、魔導師とランクが上がっていく。

 錬金術は術師が最高ランクらしい。初級編に載っていた情報だ。


 つまりベルさんは最高ランクの術師と言うことになる。錬金術の本が多くあったのも合点がいった。



 別にそこまでの腕はないと謙遜を述べていたベルはポーチからまた色々な道具を取り出して私には渡してきた。初級編の挿し絵にあった道具だと思う。数点見たことない物も合ったので断言できないが。


 結局断る隙もなく私は渡された全ての道具を部屋に持ち帰ったのだった。

 その時のリンクさんは憐れなものを見る目でこちらを見ていた。助けてくれませんかねぇ? え? 無理。そうですか。





 見捨てられた私は両手に抱えた道具をベットに置いてからポーチにしまう。最初からポーチに入れてくればよかったと今更に気がついたが遅い。階段を上る前に思い出したかったよ。


 しまっている最中にリンクさんが作業机を持ってきてくれた。見捨てたことへのお詫びだそうだ。ああなったベルさんは息子のリンクさんでも手に負えないそうです。ジンさんは最初から無理ですねそうですよね。



 丁度良い大きさの作業机はこの家に何個も常備しているらしい。よくベルさんが壊してしまうそうだ。ベルさん程の錬金術師が扱う物はそれだけ危険なのだろう。私はそんな危険なものは取り扱わないようにしようと思った。目指せ安全な錬金術。



 何度も読んだ初級編の道具の項目を開く。貰ったものと照らし合わせて初心者でも作れる低級ポーションを作るためにの準備をした。



 必要な道具はすり鉢と乳棒、器、混ぜるための棒。

 材料は薬草、水、ビン。 後、耐熱容器、温度計


 先ずはこれだけ。火は使わない。使うのは中級ポーションからなので家の中でも安全に作れる。臭いは青臭そうだ。換気をしてやった方が良いかな? この耐熱容器と温度計は後で説明しよう。


 初級編は基本的に材料と材料を混ぜるだけの物が多い。錬金術というより調合に近いかもしれない。しかし基本をしっかり学ぶことはどんな事でも大切なこと。だからすっ飛ばさすにやろうと思う。



 薬草の重さを計る。本には葉っぱ5枚と書かれていたが手書きで「5枚は曖昧。葉っぱ1枚は1gとは限らない。5g計るべし」と書かれていた。きっとこの持ち主が経験から学んだ分量なのだろう。

 私がこの本が分かりやすいと言った理由がこの手書きの訂正があったお陰だ。きっと本の通りに作ってもキチンと完成するだろう。けれどこの訂正された方法の方がきっと良いのだろうと思う。

 だって薬って量を少しでも間違えば取り返しがつかなくなるよね? だから私はキチンと計れと注意しているこの手書きを信じてみる。



 ホウレン草を小さくした様な見た目の薬草は確かに大体1枚1gだった。だが、ばらつきがあったりと適当に5枚纏めて計ったら1gオーバーしていた。それはそうだ。自然界でピッタリ1gなんてあるはずかない。

 私は本の手書きの通りに1枚1枚計ってキチンと合計を5gに合わせた。


 本には薬草を細かく切ると書いてあったが手書きでは「清潔にした手で千切るべし。薬草の成分は細切れにすると劣化する」と書いてあった。何故本の通りだとダメなのかも書いてくれている辺り親切だなこの手書き。

 清潔なってポーションは飲み薬何だから清潔にしてから作るよね? 私もキチンと手を石鹸で洗って使う道具とビンも丁寧に水で洗い流したよ。


 もしかしてこれって「異世界だから衛生面に重きを置いてない」的な頻繁に手を洗うっておかしいの?


 気を取り直して、切った薬草を乳棒と乳鉢で潰すと書いている。手書きで「茎が潰れにくいが根気よく潰す。完全に潰すと粘りが出てくるのでそれまで跡形もなく潰すべし」と書いてあった。その通りにする。確かに茎は潰しづらいが根気よく潰すと跡形もなくドロドロの青臭い緑の濁った少し粘っている液体が出来上がった。でもこのくらいの青臭さは野草を食べたときよりはましだ。あれは何かやたら苦かった。


 次は水を入れるとだけ書かれている。これってアバウトすぎて出来にばらつきができそう。案の定手書きで「水は薬草の量に対して1:1の量を計ること。水は少しずつ3回程に分けて混ぜるべし。一気に混ぜようとすると混ざり難い」と書いている。

 確かに粘りがあると混ざり難いが3回に分けて混ぜていくとキチンと分離せずに混ざった。


 ・・・そして本ではこれで完成と書かれているが、この緑の液体を飲みたくはないと思えてしまう見た目だ。


 案の定手書きでも「この状態では飲めたものではない。とても苦く効果も薄い。飲むのは推奨しない」とまで書かれているが、この書き手は飲んだのか、この液体。


 手書きはこう続いていた。「このままでは飲めたものではないが、熱を通すことで飲んだ時の不快感は解消され効果も上がる。50℃前後を保ち火にかけるべし。透き通り、色が少し薄くなったら完成。量は減るが問題なし。熱した容器は鍋つかみを使うこと。冷めた後で清潔なビンに入れること。煮沸消毒をビンにするとなおよし。出来るならば全ての道具を消毒するべし(ただし、薬品による消毒は影響が出る場合があるので推奨しない)」と書いていたのでただの厚手の布に見える器具を用意する。

 この布は魔法陣が描かれていてこの魔法陣の上に物を乗せると加熱されるというコンロの様なもので、素手で触ってしまっても火傷などしない、火加減も操作できる優れものだ。しかも布の下にも熱が伝わらないから木製の机でも安心。しかも火事防止機能も付いているので加熱し過ぎて鍋とか炎上とかもない。


 ただし、平な場所の上に置かないとダメだけどね。便利だからそこは仕方ないと割りきることも必要だと思うよ。ちなみにこれは普通に売っている。錬金術の味方、どこでも使えるよ!が売り。商品棚に「だけど平な場所は別で用意してね!」って注意書があったのには笑ったよ。


 書かれてあった通りに温度を計測しながら加熱する。この温度計は触れずに計れるタイプなのでとても助かる。楽だね。この温度計はお店とかでは見たことがないのでベルさんの粋な計らいなのだろうと思う。感謝を込めて彼女が居るであろう方向に手を合わせて拝んでおいた。


 50℃前後を保って加熱していると何度か高くなりそうになりながらも液体は何とか透き通った。火傷が怖いので正直に鍋つかみを使う。耐熱容器には透き通った鮮やかな薄い緑の綺麗な液体が入っている。大分量が減ってしまったが、これで良いのだろうか? 問題なしと書かれているなら大丈夫なのだろうけど。


 しかし本当にここまで変わるものなのかと驚く。臭いも加熱前ほど酷くはない。多分だけど粘りも無くなっていると思う。持ったときに少し揺らしたら普通の水の様に揺れていた。


 加熱した液体が冷めたのでビンに入れる。ポーションのビンに規定は無く、本にはこの作り方で出来た量がポーション1本分となっている。水の入れ過ぎでどんな量になるのやら。

 道具一式と一緒にビンも数多く貰っているのでそのビンに入れると丁度全て入った。


 この程度の量なら一気に飲めるだろう。そんな量だ。例えるなら小さめの栄養ドリンクの量位。



 出来上がった低級ポーションを光にかざすと昔、子供の頃宝物にしていた淡い色のビー玉を思い出す。結局泣いていた子供にあげちゃったけど、あのビー玉は本当に綺麗な色だった。


 貰った道具一式が良かったのと手書きの通りに作った事が良かったので失敗もせずに完成した。効果は飲まないと分からないので本当に完成したのか確認できないが、多分飲んでもバッドなステータスにはならないだろう。後でベルさんに出来を見てもらおう!


 そしてもうひとつ。本の通りに作るとどうなるかを試したくなった。材料が勿体無い? でもやってみないといけない気がする。試してみたい。どんなに不味いのか、どれだけ効果の違いがあるのか。自分で飲むのは躊躇するが、それは後でどうするか考えるとして、試したい猛烈に。


 思い立ったら即行動とばかりに私は本の通りにポーションを作ってみるのだった。




 結果、物凄い不味そうな青汁が出来上がった。同じ材料で作っているとは信じがたい物体を生み出してしまった。これは失敗なのではと思い出来上がった見た目の全く違う2つの低級ポーションをベルさんに見せに行くのだった。




 これは錬金術という仕事というよりは趣味を見つけた私の話。



 この本の通りのポーションは飲みたくないなぁ。



 この言葉を覚えておこう。




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