街の人々は見た━幸運を呼ぶ緑の小人━
番外編です。
イーリスという世界のレーゲンボーゲンという国がある。その国は中央の平地にある王都を中心として広大な国土を持つ。西に灼熱の砂漠、北には年中氷に覆われた高い山や森、東の沿岸には観光明媚な港町と未だに冷えることのないマグマ流れる火山、南には鬱蒼と生い茂る大森林、それら諸々の環境に囲まれた様々な気候の土地を持つ大国である。
そんな国の南端の少し中央寄りの場所に中央の王都にも負けないほど栄えた街がある。それが大森林の街━グリューン━である。
豊富な資源と美味しい綺麗な水、そんな街に人が集まらないわけがない。国の南側は比較的モンスターも弱く、それでいて豊富にアイテムを産出するダンジョンが周囲に東西南北四方向に4つもある稀有な土地柄も人気の理由だ。
と、まあ説明はこのぐらいにして本題に入ろう。
とある屋台のオヤジの話
今から1ヶ月前、街に小さな子供がやって来た。大して珍しくもない事だった。隣の領地は貧しいところが多くて難民もたまに来る事も結構あったからだ。
その子供がどうしたかというと、別にあの子は何かしたわけではない。
だが、あの子はが来てからというもの街の運気が上がったように感じるのだ。
最近は戦争が起こるのではないかと噂があり、いつもより景気も落ち込みぎみだった。それがあの子が来てから景気が元に戻るどころか前より良くなってきた。
聞いた話によるとここ1ヶ月の間に街にいた子悪党から大物の親玉まで取っ捕まったらしい。何故か牢屋で震えて「鬼が、鬼神が・・・」とかぶつぶつ意味のわからん事を言ってガタガタと震えているらしい。何か恐ろしい目にでもあったのだろうか?
そして今日、俺が出している屋台にその噂の子供がやって来たのだ。保護者と歩いているのを見たことがあるが今日は一人で買い物だろうか?
緑のフードを深めに被った姿はまるでこの地方に伝わる伝承に出てくる小人の様だった。冒険者用のポーチをしているところから12歳には達している筈のその姿は少々小さく細い。きっとひもじい生活をしてきたのだろうと少しホロリとしてしまったが顔には出さずにすんだ。
そして俺の店の串肉をいい匂いだとキラキラした目で見ていたので嬉しくて年甲斐もなく照れてしまった。このタレの良さが分かってくれるなんて嬉しいねぇ。このタレは彼のエルフを救った英雄が残した秘伝の調味料を・・・いや、これは秘密だった。ついつい口が滑りそうになってしまった。
ま、あの子はその自慢のタレが掛かった串肉を店前で旨そうに食べていた。まるで仔猫が一生懸命餌を食べる姿と重なってほっこりしたのは内緒だ。今のご時世俺の様なオヤジが小さな子を見ながら笑うと誤解されるからな。
で、その光景を見ていた他の客がその美味しそうに食べる姿を見たお陰で殺到したんだな。あれだけ繁盛した事は王都でもなかったね!
いやぁ、「幸せを呼ぶ緑の小人」は本当に居たんだねぇ。
ん? 緑の幸せを呼ぶ小人って何だって?
まぁ話は長くなるんだが、昔のはなしで・・・━━━━━
とあるギルド員の話
この街にあるギルドはこの国ではそこまで大きくはない。南端に部類されるこの場所はモンスターも弱く、ギルドの旨味は少ない。だが大きい街に拠点が無いのはギルドとしても不本意なので形だけでも作ったのが始まり。
そのギルドも数百年前に出現した4つのダンジョンから産出されるアイテムの数々によって大きく他の大きな街のギルドにも負けない程大きくなったと自負している。
そんな私はここ80年は勤めているベテランのギルド員の一人だ。とは言え、私以外のベテランはそれこそ200年勤続等がゴロゴロいるようなギルド内では未々新米だと言われてしまうが、エルフ規準では100歳ほど等未々子供扱いなので仕方ないのだろう。
この街のギルドはエルフが多く勤めているので平均年齢が500歳と高い。見た目が若いので知らない人間が見れば若年層ご多いと思うことだろう。エルフの外見年齢ほどあてにならないものはないわ。
そんなギルドで今話題の新人冒険者がいる。
その子は深い緑のフードを被っていて目元が隠れていて、良く見ると少しく痛んでいるのかくすんだ金髪がチラチラと見える。
クエストを受注する時には目を合わせてくれるのでギルド内では私だけあの子の目が綺麗な青色をしているのを知っている。受付の特権だ。面倒だからと私に押し付けた人たちは悔しがればいい。
この1ヶ月で何気ない事を話す程度には打ち解けてきたと思う。まるであの子は野良の仔猫の様で構いたくても逃げられそうだから出来るだけ自然に接して少し距離を置いて見守っている状況だ。
この子と同じ新人の子供たちのほとんどが生意気に報酬額の交渉をしてこようとする生意気なガキ・・・子供たちで、受付としてかなりストレスの素になり、おとなしめのあの子はギルド内では将来有望と期待されるリンクくんと同じくらい話題になっている。
あの子たちは素直にお礼もいうし、何より生意気じゃないのが好感が持てるのよ。
将来Cランクを目指す子供たちは生意気すぎて疲れるのよ。何故か冒険者の子供って負けん気が強すぎる傾向があるのよねぇ。
そうそう、最近は良く笑う事も多くなってきたので嬉しい限りだ。しかも今度公園の広場に行くと嬉しそうに話していたので人混みや変質者には気を付けるように言い聞かせたが、どうもこの子は食べ物の事になると回りが見えなくなるらしく少し心配なので保護者に一応報告しておいた。
その判断が正しかったと知ったのは話をした二日後。保護者によってボッコボコにされた山賊の風貌の要注意対象のヤツらだった。コイツらはあの子にカツアゲしようとして保護者に返り討ちにされてギルドに連れてこられた。
・・・・もうコイツら再起不能にしていいんじゃない?
私が笑顔で先輩方にした提案は直ぐに却下されてしまった。
うふふふふ。嫌ですね、冗談ですよ。
━━半分は。
とあるエルフの男の子
うちの家は少し特殊だ。母親はエルフの中でも特殊な部類で父親はそもそもエルフではない。そんな俺はエルフの街で生まれてエルフにはありがちな名前をつけられた半分エルフの普通の子供だ。
紆余曲折あってエルフの街を離れることになっても俺は何も思わなかった。普通は寂しいとか思うのだろうけど、何とも思わなかった。友達なんて居なかったからかな?
どうでもいいか。
そんな薄情な俺はこの街で冒険者をしている。まだ最低ランクでそんなに誇れることではないけど父さんの「小さな仕事もしっかりこなして信用を得ておけ」という言葉に従ってきっちりと仕事をこなしている。せっかくやるのだけらちゃんとやらないと勿体ないのもある。
そんな俺に母さんは「ものぐさに見えて几帳面ねぇ。良いことだからそのままで良いのよ」と言っていた。そこまで几帳面じゃないし。
この街に越してきて一年が過ぎたある日。
母さんが大慌てで家に帰ってきた。子供が道端で倒れていたので連れて帰ってきたそうだ。俺は急いで医者を呼びに行った。爺さんの医者はその見た目に反して健脚で俺よりも元気に走って患者の元に行ってしまった。・・・スゲーな。
医者の診断では普通は食べない能力上昇の果実の皮を食べたときの中毒と全く同じ症状だと言っていた。ここ数百年この街では居なかった中毒患者だそうだ。それだけ食うに困って食ったのではないかと母さんと相談していた。
俺は診察中は席を外していたので直接は見ていないが医者と母さんの話では健康を保つギリギリまで痩せていて、見た目の年齢より上かも知れないと深刻な顔で打ち明けた。
実際、見た目の年齢は8歳位だと思っていたのに実際の年齢が12歳の俺の1つ下という驚愕の事実だった。ついでに女の子だったことも驚いたが、まじまじと見ると確かに男ではないと納得はした。
この女の子は色々と他とは違っていた。
エルフの街ではつま弾き気味にされていた俺にも保護欲を掻き立てる何かをこの女の子は持っている。
と、言えば聞こえがいいが、実際のところ目が離せない赤ん坊並みに何か危なっかしいのである。食べられない皮を食べる様な娘だから何をしでかすか気が気ではない。
色々と事情があるのか家で預かることになった。俺は自己紹介の時にじーっと見詰めてしまい、何時ものように睨まれていると誤解されるかと内心焦ったがそんなこともなくいつのまにか家に馴染んでいたと思う。
例えるなら腹を空かせた仔猫を餌付けしているような感じ。
こいつ食い意地が張りすぎだと思うが、どう思う?
初めは少し壁を感じたが、あの娘のスキルが普通ではない事を知って納得した。あれでも一応警戒していたのか。いつかこの娘は食べ物に釣られて事件に巻き込まれるのではないかと疑いたくなった。益々目が離せない。
ん? スキルについて? 別にあの娘は悪用しようとはしてないし、あれなら食べ物に活用出来ないか考える位で危険は無いかと思う。・・・バカなヤツに狙われるだろうが保護者が最強と最恐のタッグなので多分狙ったバカの方が怪我をする。
そういうことなので俺は両親の暴走を止めながら見守ろうと傍観を決め込むのだった。
え? あの娘を狙う輩が居たらどうするか?
俺が出なくても最恐が常に目を光らせているから大丈夫だと思うけど?
━━━━━そうだなぁ・・・
切り落とす?
かな。




