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私は決意した

書ける内に書こうと思います。頭痛が悪化しないことを祈って。



 私は決意した。唐突だけど私は家を出る決意をした。




 あの楽しげな家族団欒を遠目で見ていた朝食から少し経ち、何故か呼ばれた父の書斎。小難しい本が本棚にズラリと並んでいるが、微妙に埃が被り少なくとも数年は本を手に取ってはいないと推測される。何故私にそんなことわかるかって? お婆ちゃん侍女さんが昔私に言いました。「生きたければその活路は自分で見いださなけりゃ生きてけないよ。だから何でも良い。回りのモノを良く見な。そうすれば何か分かるかもしれないよ」と。

 その言葉を聞いてから私の癖が周りの観察になった。結構楽しいのだ。誰かのへそくりの隠し場所とか、誰かと誰かの密会とか諸々。



「聞いているのか」



 おっと、ここには呼ばれて来たのだった。


 それにしてもこの書斎、小難しいとは言ったが大した本ではなさそうだ。あの本なんてこの間古本屋で見つけたやつだ。確か鉄貨3枚程度の本だったよね。他の本も古本屋にあったものと一致する。ざっと見ても高くて銅貨1枚かな。あの古本屋基準だけど。



「おい!」


「聞こえています」


「・・・・っ」



 舌打ちが聞こえた。まぁ話半分で考え事をしていた私も悪いだろうが、今までネグレクトされてきて、相手が素直に話を聞くとこの男は思っているのか?


 因みにお金の単位はギルで、平民なら10ギルで1日分の生活費と思って良いと思う。多分、貴族なら1ギル1円と言った感覚なのだろうか。平民と貴族の生活費の差なんて良く分からないよ。勿論、貴族の方に馴染みがないって意味で。

 1ギルは鉄貨1枚、10ギルは銅貨1枚。100ギルは銀貨1枚、1000ギルは金貨1枚。その上も有るみたいだが私には縁遠いので割愛する。噂では宝石類を使った硬貨が存在するとか。まぁ、私には関係無いだろう。



「お前には無用の長物だろうから━━━」



 金貨以上なんて私には縁遠い物だろうし。何せ男爵なんて平民に毛が生えた程度の資産しかない。え?辛辣すぎ?本当の事です。しかもこの家の当主は絶望的に無能ではないらしいが才能もないとかなんとか。使用人達が影でディスっていた。それと最近頭の方が・・・



「お前は学園に行かなくても良いだろうと判断した。何よりスキル━━━」



 血縁上の父親の話を要約すると「お前スキルも才能も可愛げも下の子達より無いから、学校行かなくて良いよな。お前に使うお金を、弟妹達に使うから文句ないよな」である。しかも疑問系ではない。もう決まっているからという報告だ。てか、今更報告もなにも最初から期待していない。すべて今更だ。何故今になってそんな報告するのか。



「弟や妹達はすばらしいスキルを持っていたというのに、お前ときたら」



 報告()は最早私に対する愚痴になっていた。それを右から左に受け流していると、ノックがして直ぐにドアがあいた。礼儀作法もろくに教わってないので詳しくはないが平民的な礼儀は知っているが、貴族的にはノック後直ぐにドアを開けるのは良いのだろうか?



「なんだ。ノックの後直ぐにドアを開けるんじゃない」


「あら、そうね」



 ごめんなさいねぇ?そんな感じで全然悪びれない女性は一応の部屋の主に詫びもなく入ってきた。なんだ、礼儀的にはアウトなのかやっぱり。


 こんな風に入ってきたのは、一応血縁上母親にあたる人だ。この人は、私の中では会いたくない人堂々の1位である。何かにつけ「お姉ちゃんだから」で弟妹達を優先する。例に挙げるなら「貴女はスキルが有るのだから服は要らないわよね」と決め付けて、衣類を一切用意してくれないのだ。

 衣類が必要ない。そんな訳がない。


 スキルには、随時発動しているパッシブスキルと、任意で発動するスキルがある。私の『ドレスコレクション』は任意で発動するもスキルで、中々にコスパが悪い。とは言え、一つしかスキルを持たないので、他にMPマジックポイントを消費しない私には然したる不便は無いのだが。それでも親として子供の衣類は用意しようよと、思うわけだ。


 そして衣類だけではない。都合の良い言葉「お姉ちゃんだから」で、私の身の回りのものは全て弟妹たちに奪われるのだ。奪うと言っても元々無いので微々たるものだが、気分としてはとても頭にくる。そんなに私という役立たずを産んだことが憎いか。


 この人は私を産んで色々と辛い思いをしたらしい。が、子供の私にあたるのは筋違いと言うもの。どうしろと言うのか。



「この子の学園の事で話をしているのでしょ?」


「そうだ」


「ならもう終わったのよね。」



 まあ、一方的な報告なら終わったかな。本心はどうでも良いと諦めているし。



「まだだったの?もしかしてごねているの?もぉ、貴女は「お姉ちゃんだから」我慢しなさい。下の子たちは皆学園に行けないなんて可哀想でしょ?」



 貴女にとって「可哀想」なのは弟妹達だけなのね。



「ほら、貴女ってスキルもパッとしないから。あ、そうだわ。ねえ、貴方」



 とっても良いことを思い付いた。そんな調子で父親()に話しかける母親()は晩御飯のメニューを決めるように軽く爆弾発言をするのだった。



「見た目も華やかさもないこの子を、何処かの後妻に出しましょう。そうすれば下の子たちに家庭教師をつけられ━━」



 今この人はなんと言ったか



「だって「お姉ちゃんだから」下の子たちの為にお嫁に行くのは当たり前でしょ?」


「いや、それはあまりにも」



 父親()は少し引いている。それもそうだ。いくら貴族と言っても十二歳の子供に後妻になれなんてあまりにもあんまりな・・



「あら、だって「お姉ちゃんだから」。それくらい当たり前よねえ?」



 何が「ねえ?」なの?何故私に同意を求めるの?



 私は今まで、貴女の言葉に同意したことなんてなかったよ。頷きもしないで黙っていると、直ぐに貴女が同意したと認識していただけでしょ。



 私はいつだってアンタ等の言葉に同意したことなんてなかった!!



「ほら、この子も同意しているわ」


「してない」


「ほら、ね?━━え?」


「同意していてもな━━え?」



 この人たちの前で声を出したのは十年ぶりだろうか?


 約十年ぶりの私の声は、そんなにも驚く事だったらしい。二人とも目を見開いてこちらを凝視している。



「「・・・・・」」



 二人とも幽霊でも見たような顔で黙り込んでいるので、もう一度「後妻なんて嫌だ」と言ってから一礼して部屋から出た。



 何かが、私の中で何かが、とても小さいけれど確かにあった何かが焼き切れた。そんな気がしたが、いつもよりも何かスッキリた様な、喉の奥の凝りが取れた様な気もした。



 そして私は決意したのだ。



「こんな家捨ててやる」


 と。




 これは、スキルで自分の幸せを模索する私の、物語の幕が開く前の話。









お姉ちゃんだからとか結構酷い言葉ですよね。年がい離れていればまだ良いですけど、年子とかでその言葉は「親なんだから」と言われるよりも辛いと思う今日この頃。

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