私は着飾る事を思い出した?
思い出すもなにもこの主人公着飾ることには無関心ですよ
服、それは素肌を保護するために身に付けるもの。あるいは着飾るもの。
同じ物でも組み合わせは無限大。それこそ人の数だけ存在する組み合わせはどんなおしゃれの最先端の人物でも全ては知り得ないのではないのだろうか。国が違えばおしゃれも違う。種族が違えばそれこそ星の数より多く存在するだろう。
黒のズボンだけでも色の濃淡、縫い目や作りの違い。着る人によって変わる布地の広がり具合。何れも同じではない。
さて、何が言いたいかと言えば、
「こっちが似合う」
「いえ、こっちのズボンが良いよ」
「本人そっちのけ」
「ですね」
どうも皆様こんにちは。ただ今私たちは服屋に来ております。そしてヒートアップしているのはベルさんとジンさんです。もう昨日の夜からこの二人はテンションがおかしいですが気にしないことが大事です。疲れますからね。
私の服が全てスキルによる物だと知った二人は
「「普通の服も必要!!」だ!!」
の息のあった提案で服を買いに来ました。ついでに成長期に入ったリンクさんの服も新調するために彼もついてきてくれました。正直この二人の熱気に一人では耐えられそうになかったので嬉しい限りです。二人なら分散されるとおもったんです。思っていたんです。
「女の子はスカートも良いって!」
「確かにライトちゃんのスカート姿も見たいけど、あの子は冒険者として活動するのだからズボンの方がいいわ。もしスカートが何かの拍子に捲れたらどうするの?」
「それは、阻止しなければっ!」
「そうね。ラッキースケベは貴方だけで充分ね。忘れもしないあの時の屈辱・・・」
「あれはタイミングが悪かったんだ」
「子供の時に母さんのスカートの中を見てハイキック喰らったんだってさ父さん」
「それは、蹴られても仕方ない?」
おっちょこちょいな私でもまずしない様なドジでベルさんのスカートの中に頭を・・・うん、蹴られても仕方ないね。
昔からの付き合いだとこんなことで知りたくなかったなぁ。二人の馴れ初め的なもう少しロマンチックな話が聞きたかった。
二人の討論は私に穿かせるならズボンかスカートかである。
私的にはベルさんの意見に賛成である。何よりガリガリの足を出したくはないからだ。それにスカートはこの人生では穿いたことがないのでちょっと踏ん切りがつかない。年齢=ズボン歴の年季の入った私をナメるな。恥ずかしくて人前では穿けない。同じ理由で可愛い系の服や腕を極端に出す物は駄目だ。
ちなみにジンさんは今言わなくてもいいことを口に出してしまいコブラツイストをベルさんに掛けられている。とても苦しそうだがいつもの事だそうなので傍観しておく。
「こっちのズボンは伸びが悪い、探索には適さない。こっちは伸びるが布が弱いから直ぐに破ける。こっちのは柔らかいから寝間着に最適だよ」
「ためになる」
リンクさんは的確に今私が欲しい服を教えてくれた。生地や縫い目で用途が違うという説明に納得しつつ良さそうな服を漁る。
リンクさんと店員さん曰く既製品は有料で袖や裾の手直しをしてくれる。裁縫の腕に自信がある人は自分で直す。
冒険者が着る服は探索に耐えられる丈夫な布と糸で作るオーダーメイドが主流で、私も何着か作って貰う事になった。今選んでいるのはその服が出来るまでの代わりの物を見繕っているのだ。流石に一から作るので2日は掛かるらしい。ミシンがないこの世界では2日で数着は早い方だと店員さんは自慢していた。手縫いってすごい。
結局私は黒と紺色の厚手でも伸びる布の裾長めのズボンと若草色の長袖の物を二着買う事になった。
いつのまにか仲直りしていた二人は、私がリンクさんと店員さんと相談して選んだもの以外にも何着か追加でお買い上げしていた。そしてお次は体の採寸をすることになった。
採寸するために薄着になったときに店員さんが驚いた気がしたが気のせいだったようでなんともない様子で腕や足、ウエスト等諸々を早々に採寸して終わる。流石プロ。
私が終ると次はリンクさんの番だ。あまり伸びていないと呟いていたが、実際何㎝か伸びていたそうだ。採寸をしている内にベルさん達が今度は服に使う布で争い始めた。
ベルさんは落ち着いた青い布、ジンさんは派手すぎない程度の赤。それに便乗してリンクさんも持ってきた。ラベンダー色? 薄いからまぁ派手ではないけど。
リンクさんは未だしも、ベルさんとジンさんはお互い譲らず、リンクさんに「両方で良いんじゃない?」と言われて納得した。
私は何色を選んだか? 紺色です。
こうして初めての服屋でのお買い物は大量の服を買う事になった。このお代はいつか返そうと心に刻んでおく。結構な額に白目になりかけたのは仕方ないと思う。
服代に庶民の1ヶ月のおよその生活費分がぶっ飛んだのだ。もう頭痛くなってきた。
この街はやはり私の出身地よりも裕福な土地な様です。
物価は高くないのに不思議だねぇ。
採寸も生地選びも終えたのに今度は下着を選ぼうとベルさんが提案して嬉々として選ぼうとしたジンさんを肘鉄で沈ませるというアクシデントがあったり、馴れない布で作られた下着に肌が拒否反応を起こして結局買えなかった事は涙なしには語れない出来事でした。結局は下着はこのままスキルで出した物を使うことになった。ま、今までもそうだったから別に苦ではない。
でも、下着まで網羅しているカタログってすごくね? 後日お店で見たきわどい下着とかも追加されてるし。私が見たものも追加される仕組みなのかな? いまいち条件が不明なスキルである。
下着以外にも何か買おうとする二人をリンクさんが引きずり店から漸く出た頃にはお昼を過ぎていた。お店の店員さんごめんね、お昼過ぎまで居座っちゃって。
それと見た目に反して力あるねリンクさん。その内自分よりも大きな樽とか岩とか持ち上げちゃったりして・・・んなわけないか。
家に帰る間にもいろんな店に立ち寄っては私に色んな物を買い与えようとする二人を何とか引き剥がして漸く家につく頃には夕方であった。カラスが鳴いている。荷物も重いのに良く歩き回れると私は失礼にも感心していた。
お昼はお店で肉の煮込みを食べた。とても柔らかくて口の中でホロホロと崩れて味も充分に染みていてとても美味しく一心不乱に食べてしまった。お店の人がサービスにと柑橘系のジュースもくれたのでとても満足。ちなみにあのお肉は森の熊さんでした。中々に美味しかったので今度は自分のお金で食べに来ようと思う。
そしてジュースは何とオレンというオレンジに似た果汁が滴のように木に生る不思議な果実で、穴を開けるだけでジュースになるという。この様な不思議な果実は多くあって卵に似た実や板チョコがなる木に疑似肉がなる木まであるらしい。
今度この店に来るときにでも食べてみたい。もちろん自分のお金でね。
お店の料理をテイクアウトしてきたので今晩の料理を温める。その時の方法が私の心をときめかせた。
そう。“魔法である”
ベルさんが少し冷めてしまった料理に手をかざしすと徐々に温かくなりいい香りと湯気が立ち上る。魔法って何も唱えずに使えるものなのかと感心しながらも意識は完全に料理の方に夢中だ。
テイクアウトした料理は鶏肉の香草焼きとカボチャのシチューと黒パンだ。しかもパンは焼きたてのように芳ばしく食欲を掻き立てる。ぐ~うっと私のお腹が鳴り、静かなリビングに響いたのは流石に私でも恥ずかしくて顔を覆いたくなった。
あまりにも美味しそうな匂いだったために勢い良く口に含んだシチューが思いの外熱かったので私とジンさんは舌を火傷した。ベルさんとリンクさんは平然と食べていたのに理不尽だとおもう。そっと軟膏を渡されたので食後に付けておこう。
こうして美味しい時間が過ぎていき、色々と濃い一日が過ぎていったのだった。
食後にこっそり二人が買っていた普段着やちょっとおめかしするような服で着せ替え人形になったのは今ではいい思い出。
次の日の朝は三人で寝不足になってリンクさんに呆れられたのは苦い思い出だ。
貴方だって眠そうな目をしてるではないか・・・え? いつもの事だって? ・・・ウンソウダネ、ハンメダネイツモ
これは保護者二人が暴走して私が着せ替え人形になりとても疲れた時の話。
所で総額は━━━いや、もう少し経ってから聞きます。心の準備が必要な気がする。
私の予想は想像を越える数字であったことをここに記録しよう。いつ返せるのか全く検討もつかないよ。
黒とか紺とか、そんな色が無難かなと思っているのでした。