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私は考える事をやめた


 某日某所、ここはとある民家のリビング。そこには家主の夫婦とその息子が真剣な表情で卓を囲んで座っている。


 妻は両肘をテーブルに肘をつき顔の前で手のひらを組んで沈黙している。所謂ゲ○ドーポーズである。

 夫は顔を両掌で覆って天を仰いでいる。

 息子は腕を組んで・・寝ていた。



「いや、起きろ」


「今日は色々とあったから疲れたのよ」



 緊張感が一気に抜けた。リンクという少年はいまいち緊張感がない子供である。父親に似たとは母親の証言である。


 眠そうな半目を母親に向け何かを言いかけたが諦め口を閉じて父親に目を向けるも、何も言わずにまた目を閉じようとした。



「また寝るなよ~・・」


「眠いなら部屋で寝なさい」


「そう言う話ではないだろ・・」



 両親のコントに付き合う気はない。言葉以上に目はそう語っていた。この少年、寝汚いのである。



「議題はライトちゃんのスキルの危険性についてよ」



 母親が議題を述べながら宙に指を小さく振ると僅かな音と共に魔法が展開された。周囲に音が漏れない消音魔法である。

 父親が挙手をしてから発言する。真剣な顔だが目の前に置かれたマグカップの中に入っているのはココア(マシュマロ入り甘さ増々)である。締まらない男である。



「そのスキルとはどの程度の能力なのだろうか」



 本人から聞いていない父親は議題のスキルの内容について質問した。真面目な顔だが質問の後にクッキーを口に入れたので全く真面目には見えない。



「ぼろぼろ溢さないでよ・・「ごめん」・・・はぁ、ライトちゃんのスキルは具現化させた本の項目に載っているものならどんな装備品も取り出せる。そして今のところ制限なく装備出来る能力よ」


「父さん、口にクッキーのカスついてる」


「あ、ごめんごめん。で、本人はそれを自覚しているのか?」


「危険性について?━━そうねぇ、本人は危ない事は理解している様だけど」



 母親は顎に手を添えて考えるそぶりをしてから自分から見た少女の行動を予想してみた。



「装備によっては危険があるのは理解しているのよね。でもいまいち抜けているのよねぇあの子」


「自分のスキルの価値を分かっていない。分からないようにしているような・・」


「あの子は境遇が境遇だからな」



 あまり幸せとは言い難い環境で育った境遇を思い出す三人は各々お菓子を食べるのだった。この親子、とても締まらないのであった。


 それにしてもただいまの時間、夜8時頃。そろそろ食べると肥える時間帯であるがこの親子には関係無いのである。全く羨ましい限りだ。



「それにしてもあの子には危機感を持ってもらわないと」


 甘々なココアを啜りながら話す父親は舌を少し火傷していだが父親の威厳のために涼しい顔をして誤魔化していた。しかしバレバレであった。



「そうね。きちんとあの子には言い聞かせないと」



 口内炎用の塗り薬を夫の前に置きながら妻は同意する。彼女も熱々のココアを飲むが全く火傷などしていなかった。



「・・・・ズズズッ」



 猫舌だと自覚する息子は静かにココアを飲むことに専念している。そしてクッキーも忘れずに食べている。この子も甘党だ。



 そして母親と父親は同時にテーブルを叩いて



「「恐怖に慣れて無茶しないか心配!!」」


「(過保護)」



 どこかの悪党に利用されないか、貴族に強引に囲われないか、そんな事などうにでも守れると豪語する二人に息子は冷めた目で一言、



「悪党はともかく、貴族からも守れるの?」


「「もちろん!」」



 二人は自信満々に答える。こういう時はとても息の合う二人なのだ。件の少女が何れだけ危ない目に首を突っ込むか心配だ。終いには可愛いからどこぞの変態に誘拐されないか心配だと騒ぎだした。普段常識人の母親まで壊れて、もとい化けの皮が剥がれてきている。父親はいつものことだ。



「たたえ王族からでも守ってみせる!」


「女の子も欲しかったのよ~。もちろんリンクも大切な我が子だけどね」



「(王族からでもって、本気じゃないよな?)」



 言っていることをいまいち理解していない息子をそっちのけで、如何にして彼女を守り通すかについてヒートアップしていて。今日もベルさんジンさんは賑やかです。



 そんな私はお風呂上がりでリビング次のお風呂が空いたと呼びに来たが、二人の熱気に怖じ気づいてドアを開けられずにいた。


 貴族も王族からでも守るってマジで言ってますか?


 きっとこの人たちに突っ込みを入れても無駄だろう。そう思った私は考える事を放棄してしまった。うん。やぶ蛇だね。私を守ってくれるのはありがたいけどそこまでしてくれなくても・・・


 そしてベルさんどうしちゃったの?いつもの冷静さは何処に?



 その後、ドアを開ける討論中で気がつかない二人に代わりココアのおかわりをキッチンに取りに来たリンクさんに発見され漸くリビングに入ることができた。



 これは過保護な保護者二人の熱気に呑まれかけた私と気の抜けた少年が一番冷静だった話。



 あ、リンクさん私にもココア貰えます? マシュマロ?欲しいですください。




 今日の出来事も忘れ、ライトはのんきであった。





 このお話の人物は程度は違えどみんなどこかおかしい人たちです。

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