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私は説明した

 森の中で自主的に正座をしています。眼前には笑顔に無言の圧力がある腕を組んで仁王立ちのベルさん、斜め後ろに同じ格好をしたリンクさん。まさに前門の虎、後門の狼ですな。



「何故私達が怒っているか分かってる?」


「・・・?」



 さて、何について怒っているのかな? 能力を隠していたことか? でもスキルって基本的に公に開示したりはしないよね。


 それとも咄嗟に行動出来なかったこと?


 うーん、どれだ?



「私達が怒っているのはねライトちゃん、私は怪我はないかと聞いたでしょ? その時の無いって言ったけど貴女殴られていたのに何もないなんて言ったでしょ。それよ」


「?(本当に怪我はないけど?)」


「母さんはっきり言わないとダメっぽい」


「・・・そうね。あのね、これを見てみなさい」



 そう言って手のひらサイズの何か平たい物を取り出して私に差し出した。素直に受け取り見てみると真っ青な無表情の痩せ細った子供━━私が写っていた。


 確かに私は痩せ細った子供だったがここまで顔色が悪いのは多分腹痛で倒れたとき以来かもしれない。あのときは自分の顔など見れなかったが多分今以上にひどい顔だったろう。


 それにしても本当に気味の悪い子供だ。我ながらそう思った。表情が壊滅的に抜けてしまっている。ここまで酷くなかったはずなのに。



「無傷でも貴女は殴られたの、攻撃されたの。怪我が無くても恐怖は残る。全く何でもない様に振る舞わなくて良いのよ。何でもないと思っているのは貴女だけよ。そんな顔で大丈夫な訳ないでしょ!」



 そう言って私を優しく抱き締めてくれたベルさんは懐かしい香りがした。香料が入った洗濯用洗剤が嫌いなお母さん。だからいつも植物由来の石鹸で洗濯していたからお母さんはいつも石鹸の匂いがしていた。その匂いと同じだと思うと自然と涙が溢れた。


 この異世界で生まれてから物心ついた時から泣いた記憶がない私は漸く泣くことができたのだった。



 私が声を出して泣くのが恥ずかしかったので━━他人の前で泣くことが恥ずかしかった━━声を堪えて泣いたので少し頭に力が入ってしまい少し頭が痛い。

 泣いている間ずっとベルさんは私の背中をぽんぽんと優しく叩いていて、リンクさんは黙って後ろを向いていた。





 私が泣いていた時間は約1分ほどの短い間だ。私だってこんないつもたまモンスターが来るか分からない森の中で泣き続けたら危ない事は理解している。それに初めて生理的ではない涙は長くは出てこなかったのか直ぐに止まっていた。



 安全だと思っていた場所にモンスターが現れたのでもう採取は終わりにしてこの事態をギルドに報告するために今日はもう帰ることにした。


 途中で何故かジンさんと遭遇してベルさんに叩かれストーカー疑惑をかけられたが依頼の内容が最近の森の調査だったために誤解が解かれるという珍事があったが割愛する。この人初日からベルさんに呆れられるか怒られる姿しか見ていない気がする。いい人なんどけどね。



 ベルさんに事情を聞いたジンさんの反応はベルさんと全く同じで怪我の有無を確認された後私の頭を撫でながら



「怖かっただろ? こんな事がないように森の異変は調査するから落ち着くまでクエストは休んでていいんだぞ」


「そうだね。まだモンスターに対抗できるほどの力もないから森が落ち着くまでは街の中で出来るクエストをこなそうね」


「俺もそれには賛成」



 と気遣ってくれた。でも私にはスキルで防御力を爆上げ出来るので最悪死なないと思ったのだがとても言い出せる雰囲気ではなかった。


 それにしても3人ともギルドに報告して家に付くまで一言も私が無傷でいられた理由を聞いては来なかった。





 家に付くとベルさんはキッチンに行って何か準備し始めた。ジンさんはギルドに残り森での調査で分かった事と私達がモンスターと遭遇した場所の再調査に他の冒険者と向かった。リンクさんは一端自分の部屋に行くのか2階に上がっていき直ぐに毛布を持って戻ってきた。


 あれよあれよと私は椅子に座らされ毛布で包まれ、キッチンから戻ってきたベルさんにホットココアの入ったマグカップを持たされ暖炉の前━━この家暖炉あるんだよ。しかも石造りの壁に一体化してるやつ。すごく羨ましい━━で暖を取っとります。至れり尽くせりとはこの事か。自分では意識していなかったが大分体が冷えていた様で熱いマグカップが手のひらを暖めてくれる。


 人は恐怖すると血の気が引くとは案外本当なのかと今はどうでもいいことを考えていた。現実逃避ともいう。


 そして二人の目を直視できない。年甲斐もなく泣いたのがことのほか恥ずかしくなってきたためである。


 そのため体に巻かれた毛布は頭もすっぽり隠してしまうためにありがたい。とてもありがたい、リンクさんありがとう。



「・・・聞かないんですか?」



 私より暖炉から離れた場所のソファ━━ちょっと見た目より硬めだけど使われている毛皮が高級感を出していて座り心地もいい━━に座る二人の何も聞かない態度に少し聞いてみたくなった。やぶ蛇な質問だった。けれど二人は



「スキルでしょ?」


「防御系のスキルで強化してたんだろ?」


「「・・・違うの?」」



 二人の言葉で防御力を上げるスキルが存在することが判明した。そうか、何か聞かれたりしたらそう答えればいいのかな?



「聞かれたらそう答えれば~とか考えてるなら止めとけ」


「防御系のスキル持ちは多く居るけれど、傷一つつかないほどのスキルは珍しいから・・デコイにされて酷使されるのが落ちだよ」



 なにそれ怖い。デコイって囮でしょ? あの怖い思いを何度もしないといけないの?嫌だ、絶対嫌だ。あの緑のモンスターは小さめだったから耐えられたけど、あの豚頭並の巨大なモンスターと対峙なんてしたら腰を抜かしてしまう。精神的に死ぬ。



「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんだけど。でも気をつけてね。他人のスキルを利用して伸し上がろうと考える馬鹿はいつの時代もいるからね。」


「この前も鑑定のスキルを持つ自分より立場の低いヤツを利用して荒稼ぎしよとしたヤツが父さんに暴かれて自警団に連行されてたな」



 やはりこの世界にも他人を利用するヤツはいるのだな。特に悪びれず酷使するヤツが多い印象が私の中で固まった。でもベルさんたちなら・・・






━━━━根拠はない。ないが、信用は出来そうだとおもった。



 だから私は正直にスキルの事をベルさんとリンクさんに話すことにした。ジンさんにはベルさんが後で話をすることになった。




「それにしても世界のバランスが崩れるスキルだねぇ」


「使い方によっては世界を壊しかねないなぁ」




 私が想像した二人の反応はもう少し驚くか警戒するかと思ったが、二人は気の抜けた反応てこちらが拍子抜けした。



 これは自分のスキルを打ち明けたら拍子抜けな薄い反応をされた私の話。




 使い方によっては世界を壊しかねないってなによ。


 




 

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