表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/63

私は自分の堅さを知る

 主人公は麻痺している


 きっと今冒険心を擽るような曲が似合うだろう草原に来ている。街と森に挟まれた少し小さめな草原を歩いて森に向かう私たちは見通しの良いこの草原についてベルさんから説明を受けていた。


 そんな私は普段着+深緑のフード付きマントをかぶり、採取用のナイフとリュックだけの軽装。リンクさんも普段着とナイフ1本と腰に小さなポーチという軽装だ。ベルさんは背中に弓と矢筒を背負っていて、腰にナイフとポーチ、そして革の防具を身に付けていた。心臓しか守れなさそうだが動きやすそうではある。



「昔この辺一帯は戦火に呑まれてね。大きな森が無くなったんだよ。木々は跡形もなく灰になり、土は血に穢れてなにも育たない死の土地になってしまった。」


「いつもの思うけど昔ってどのくらい昔なの?」


「長寿のエルフからしたらそこまで昔じゃないから━━200年前くらいかな」


「まだ13の俺からしたら十分大昔だけど?」


「いつかは数百年位ならちょっと前程度に思えるようになるよ」


「そんなこと言っても母さんもエルフにしては若すぎる方だろう」


「そうだねー」


「(私に一生分からない感覚だろうなぁ)」



 二人が話をしている傍らで種族の違いを再認識する。



「これでも反対されてこの街に━━って、話がそれたね。もどすよ。そんな不毛な土地に村を作ったのがこの街の人々の先祖。戦争で住みかを失った色んな種族が力を合わせて発展させて今では大きな街になった。それがこの街の歴史。」


 だから住民の殆どが混血で種族での差別も少ない。そう続けながらそれでも例外はあるけどねと少し悲しげな顔で話を続ける。


「だから多くの種族が集まって発展もしたのだけど。今ではこの国の重要拠点になってるしね。元々は人間と他種族との戦争だったのに、今では人間主体の国は少なくなっている。あれだけ栄華を誇っていた人間達の国々が有象無象と罵った獣人とエルフを主体とする連合国に負けるだなんて当時は考えもしなかったんだろうね」



 まるで当時の事を見てきたかのような、そしてやっぱり悲しげな顔をしていた。まだ話は続くかと思ったが森が目の前に近づいてきたのでここで一旦は話を切った。

 この間私はずっと聴き手に回っていたので始終無言でいた。親子の話に割って入る社交性は生憎と持ってなかったのだ。




 森は少しうす暗いかと思っていたが、この森は暖かな陽射しが繁った木の葉から漏れていて自分が今まで見てきた森とは少し違って見えた。


 ベルさんの説明ではこの森は街に暮らす森エルフやその血を引く人々が手入れをして管理しているので明るいのだそうだ。因みに森エルフとは森に住むエルフたちで「小さなエルフ」とも呼ばれる。小さなと付くとおり少し身長が低いらしく、森で生活するのに特化しているらしい。身長が低いのも素早く動くのに邪魔にならないための変化だという。




「薬草なら浅い場所でも見つかるからあまり奥には行かないでね。奥にはゴブリンの住みかもあるからEランクの二人は危険だから行っちゃダメだよ」


「危険だって知ってるから行くわけないだろ」


「うん(自分から危険に飛び込まないよ)」


「普通ならね。でも毎年一人はいるんだよ、迷子になってゴブリンをトレインしたまま街に帰ってくる新人が」


「迷子って・・・(奥に行かなければいいのでは?)」


「(トレインって良くあるオンラインゲームでの迷惑行為だよね)」



 たとえランクが上がっても森の奥には入らないようにしようと誓った瞬間である。目標「命大事に」を掲げて生きていこう。



「さあ、先ずはライトちゃんは薬草が生える条件は知っている?」


「・・・(条件って、見付けた時の場所は・・・)・・陽当たりが良い場所?」


「だな」


「まぁ、植物の大半はそうだよね。リンク、なら鎮痛剤や鎮静剤の材料になる安らぎ草の生える条件は?」


「・・・・日陰?」


「日陰でも見つかるけど一番見つけやすいのは洞窟かな。特に光りキノコが生えている場所に良く見られるね。完全な暗闇には適してない」


「難儀なヤツ」


「(真っ暗すぎるとダメだけど薄暗いところを好む。そういえば見付けたときも日陰で見つけた?)」




 他にも条件を知って効率的に探す方法を教えてもらった。毒消しの材料に使う毒消し草は毒沼に多く自生するとか。でも結構その辺でも見つかるので採取クエストで要求された時に安心だ。洞窟はまだいいが、毒沼には行きたくない。



 ベルさんはナイフを鞘から抜き丁寧に薬草の茎を切って採取していた。薬草がまた直ぐに生えてくるのでオススメと言われた。前に私が採った時はブチブチと草むしりの様に採っていたので葉が傷付き価値も効果も下がるらしく、丁寧に採るように気をつける。


 ただ採れば良いと傷付いた薬草を持って帰ってギルドに受け取り拒否をされる新人が多く、必ず1回は注意されると聞いた。


 私も倒れている傍らに落ちていた薬草をベルさんは見つけたので一応注意したそうだ。あぁ、あの時の腹痛で食べたときのやつか。




「何株か持ち帰るからちょっと待っててね」


「ん。俺はライトとここで待ってる」


「はい、ここて待ってます」




 そう言ってベルさんは薬草と毒消し草とその他未だ分からない植物をポーチから取り出した小さなスコップで根の周りの土ごと採取していた。同じ場所の薬草を取りすぎないように違う場所で採るために少し私達から離れる。


 手持ち無沙汰になった私たちは無言のまま時間が過ぎるのを待つ。


 するとリンクさんが頭上の枝を凝視していたので何かあるのかと私も見てみたが、視線の先には何もなかった。しかしリンクさんほそのまま見続けている。


 カレニハナニガミエテイルノダロウカ?



 この時のほんの少しの間、それは現れた。




「ギギャギャギャッ!!」



 緑の肌に鉤鼻、目はギョロリと不気味で血走っている。耳はエルフと同じ様に尖っているが異様に長い。裂けたような口からは歯並びの悪い不揃いの歯が見えている。黄色い。

 身丈は子供の私と同じくらいに見える。130㎝くらいか? 手に持つ棍棒には茶色く変色している赤い汚れが付いて反対の手にはウサギの様なモノを持っている。


 鳴き声は不愉快なほど高く耳に突き刺さる。



「危ない!!」



 少し離れていたリンクさんが初めて目の前で対峙したモンスターに固まっている私に声をかけるも、固まった私は咄嗟に動けるはずもなく赤黒い汚れの付いた棍棒が私に降り下ろされる。


 それにしてもリンクさん、虚無を見ていたにしては反応が早いですね。私なんてマップで見えていたはずなのに反応できなかったよ。等と現実逃避をしている。死ぬ直前は時間がやけにゆっくり見えるものだと聞いたのは何処でだったか、私は何の防御も出来ずにモンスターの棍棒に成す術もなく打ち捨てられるのだった。




 と、思うでしょ?




「グギッ!?」



 私を殴った棍棒は根本から折れて、モンスターは驚いて自分の折れてしまった武器を見てから私を見るのを何度も繰り返している。

 私のように弱そうな子供が棍棒が折れるほどの一撃で無傷で立っていればそりゃ驚きますね。


 リンクさんもいつもの半開きの目を見開いていると思う。何せ立ち位置が



  モンスター→  ←私     ←リンクさん



 だから私からは見えないのです。きっと驚いてるだろうなぁと棍棒が当たった頭を撫でながら考えていると後ろに力一杯引っ張られ誰かの腕に抱き締められた。


 すると混乱している私の後ろから何かが飛んできて横を通りすぎ未だに唖然としているモンスターに当たった。吸い込まれるように眉間に当たったものは矢だった。



「ごめん、油断した。怪我はない?」


「俺はないよ、・・・ライトは?」



 私を引っ張って抱き締めたのがリンクさんだと今更ながら気が付いた。リンクさんの胸までしかない私を見下ろしながら抱き締めながら聞いてきた。眠そうな目はいつものリンクさんに戻っていた。驚いた顔を見てみたかった。


 遠くの方から走ってきたベルさんは私たちに怪我が無いか入念に確認してから私たちをきつく抱き締めた。



「ほんっとうに!無事で良かったっ・・・・」


「母さん苦しい」


「(くっ、苦しい・・)」



 きつく抱き締められているが不思議と嫌ではなかった。





 ベルさんが落ち着いてから何があったか説明をした。




 リンクさんはボーッとしていると藪から何かが出てくる音に気が付いて振り返ると私がモンスターを前に立ち竦んでいたので声をかけるもモンスターに攻撃されるも何事もなかったかのようにしている私に自分も唖然としていたが、誰よりも正気に戻って私をモンスターから引き離した。


 そしてベルさんはモンスターの気配が近づいてきたので急いでここに戻ってきて見えた立ち止まった私と私をモンスターから引き離したリンクさんを見つけて急いで矢を放った。


 そして見事にモンスターに命中して私たちは事なきを得ました。



 それでめでたしめでたしで終われれば良かったんだけど。



 笑顔の二人の圧に森のなかで正座をすることになった私であった。




 これは自分の防御力が思いの外高いお陰で九死に一生をえた私の話。



 このあとの言い訳をどうやってしようかとこの時の私は冷や汗が止まりませんでした。









 主人公は麻痺している。痛みに鈍感です。腹痛も失神レベルでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ