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恋をしたのは、年下の男の子でした。  作者: 藤乃宮 雅之
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~ハニートーク~


「か、香里ぃ。どうしよう。」

 綾香は午後7時ちょうどに電話を入れた。

『綾香やるぅ~。♪恋も二度目なら少しは上手に~ってヤツ地で行ったわね。』

 香里は口笛混じりで感嘆した。

「懐メロやってる場合じゃないわよ。実習中とは言え、構図は『教師と生徒』なのよ?」

『そうか、「森田童子」の方か。』

「そうじゃ無くってっ。これヤバイでしょ、めっちゃ不祥事じゃん?」

『そうね。』

「そ、そそっそうねって。」

 ものすごく軽く返されて、綾香は立ち上がる。

『それで、電話番号とか交換した?』

「・・・うん。した。」

『連絡あった?』

「それは、まだなんだけど・・・」

『あったらどうするつもり?』

「どどどど、どうって?」

『あれはマチガイだったの、忘れて。って言うの?』

「そ・・・それは・・・」

 鏡に映る自分の顔が情けなく沈んだ。

『ん、じゃあ、質問変える。連絡が一切来なかったら?』

「そ、それは・・・・嫌。」

『ほれ、もう答え出てんじゃん。好きなんでしょ? だったら実らせなきゃ。』

「でも、私なんかが・・・周りにはピチピチのJKたちが居るのよ。仲の良いクラスメイトの女の子も居るし・・・」

 章浩と六華が愛称で呼び合っていた場面を思い出した。

『そこを尻込みしてどうなるの。そこを選ぶのは、その「章浩くん」なのよ?』

「そ、それはそうなんだけど・・・」

 そこで綾香のスマートフォンにキャッチ音が入った。

「う、うわっ。キャッチ入った。ど、どどどうしよう?」

『カレだったらちゃんとお話しするのよ。どっちに転ぼうが、先ずはそこからよ。じゃあね。』

 気風(きっぷ)の良い言葉を残して香里の通話は切られた。

 綾香は数度咳払いして通話にする。

「もっもしもしっ?」

 自分でも妙に声が上ずっているのが判った。

『もしもし。村崎先生の携帯でよろしいですか? 美雄高校の一色と言います。』

 耳元で章浩の声が響く。

「は、はい。村崎です。・・・え、と。一色くんは今帰ったの?」

 何を言って良いか分からなくなっている綾香は、とにかく言葉をつないだ。

『いえ、今日は僕が夕飯当番なんで、さっき料理が終わったところなんです。先生は、夕飯は終わったんですか?』

「あ、用意は出来てるんだけどね。まだこれから。」

 気になって食事どころではなかった綾香は、傍らに置いてあるお惣菜入りの買い物袋をチラリと見た。

『ああ。それじゃお邪魔でしたね。すみません。』

「あ、ああ、いいのよっ。まだそんなにお腹減って無いから。ちなみに一色くん()の夕食は何作ったの?」

 電話を切られてはたまらないと綾香は話を続ける。

『合い挽き肉のハンバーグと、レタスと晒し玉ねぎとパプリカのサラダ。』

「うわ、おいしそう。それって一色くんが全部作ったの?」

『うん。そんなに難しくないですよ。ハンバーグは玉ねぎ、玉子、お醤油に鶏ガラスープ粉末といった材料こねて焼くだけだし、サラダはちぎったレタスに切った野菜、レモン汁・オリーブオイル・塩コショウを合わせたレモンドレッシングをかけて終わりだし。』

 すらすらと簡単そうにレシピを述べる章浩に感心した。

「手馴れてるぅ。すごいわね。」

『先生のは?』

「わ、私? サバの味噌煮と、ほうれん草とこんにゃくの白和え・・・」

 綾香は袋の中を覗き込んで何だか恥ずかしくなった。

『へぇ。和食ってデリケートだから難しいんでしょ? すごいなぁ。』

「え、いや、まぁそれほどでも・・・」

『先生って料理、上手なんですね。』

 いたたまれなくなった綾香は話題を変えた。

「一色くんは弓道部よね?」

『はい。水泳部に見えましたか?』

 ちょっとおどけた感じで章浩の声が響く。

「いやいや、そうじゃなくて。あの、入部の動機は?」

『何か武術を身に付けたくて。でも剣道は幼稚園からやってるヤツには絶対敵わないし、柔道するには体格が不利だし。ウチには空手部が無いし。』

「それで弓?」

『うん。それに身に付ければ実際に役に立つスキルだし。』

「え? 役に立てちゃダメでしょ?」

『ふふふ。』

 意味深な笑いが聞こえた。

『じゃあ、今度はこっちから質問。先生はどうして教師になろうと思ったの?』

「あ、深い質問ね。」

『ただなんとなく。じゃ、センセは務まらないでしょ? 何か理由があるのかなって。』

「うん。私ね、美雄高校落ちてるんだ。」

『え? そうなんですか?』

「それで修実高校に行ったんだけど、そこでの国語の先生の授業が面白くってね。あんまり得意科目じゃなかったんだけど、その先生のおかげでどんどん理解が深まってね。ヒマつぶしのアイテムとしか思ってなかった本が面白いって感じられるようになったの。で、『先生』の力ってすごいなぁって。そんな人間になれたらなぁって思ったのがキッカケ。」

 綾香は懐かしい思い出に目を細めた。

『へぇ、村崎先生って』

「変わってる?」

『かわいい。』

「ふぉっ。」

 耳元で響く、破壊力のある言葉に固まる。

「こら、またそうやって年上をからかう。」

『本心ですよ。キスしてくれた後に真っ赤になってる顔もかわいかったです。』

「~~~っ!」

 思い出して真っ赤になっている顔が鏡に映った。

「きっ、君は、からかいに電話してきたのかなっ。」

『そんなんじゃないですよ。先生の声が聞きたくなったんです。』

 破壊力のある言葉にくらくらした。

「うあ・・・え、と?」

『先生、この土曜日、時間あります?』

「え? ええ、まあ、休み・・・だけど?」

『土曜日の夕方、ウチの者がライブハウスでギグするんですよ。一緒に観ませんか? 『高島商店街』の中の『PEPPER=LAND』っていうライブハウスなんですが。』

「え、それって・・・」

 綾香が言いかけた時、受話器の向こうから誰かの声が響いて、章浩がそれに答えている声が聞こえた。

『・・・あ、すみません。ウチのがご飯にするって呼びに来たから。それじゃ、切りますね。また明日です。土曜の件考えておいてください。』

「あ、うん。はい。」

 いきなりの幕引きに、綾香が戸惑いながら返事をする。

『それと、唇、ごちそうさまでした。』

「も、もうっ!」

 笑い声と共に通話が切れた。

「・・・わるい子・・・」

 嬉しそうに笑っている顔が鏡に映った。

(こんな顔で笑ったの、久しぶり・・・)

 綾香はスマートフォンを充電スタンドに置いた。

「なんだかお腹がすいて来ちゃった。インスタント味噌汁の買い置き、有ったわよね。」

 綾香はお総菜をテーブルに並べると、キッチンの方へ向かった。



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