プロローグ 不届きもの
第一章『金属の狩り痕と寂びた田畑』スタートです。
「親父!
もうこれしか手は残ってないんだ。
さっさと決断してくれ」
東京都多摩地区にあるとある村の最も立派な一軒家。
その一軒家の中で男たちが3人ばかり集まり話をしている。
一人は60ほどに見える老いた男。
他の2人は30歳前後であろうか若干白髪の混じったそれでもガタイのいい男と、眼鏡をかけた痩せているという印象を与えそうな男だ。
ガタイのいい男が老いた男に詰め寄り声をあげている。
「だがな、金一。
今回の件はそもそもの話で言えば我らの……」
「何を言ってんだよ、親父!
そもそも、あの女が大人しく俺らの言うことを聞いて、成功してりゃこんなことにはならなかったんだ。
せっかく銀二がうまくいきそうな策を立ててこれで丸く収まるってところだったのによ!」
「心配いらないよ、父さん。
あの女が使えなかったのは予想外だったけど、別の方法で役立てる方法を僕が思いついたから。
まったく、なんでこの僕が他の奴のしりぬぐいをしなけりゃなんないのかって話さ。」
「だよなぁ。
まったく、誰がこの村を管理してやってると思ってんだか。
俺らの頼みに対して多少便宜を払うぐらい当然のことだろうに」
「う~む。
し、しかしだな……そのような不確定なものに頼るのか?
失敗したらどうなる?」
「あ?
そんなん知らねぇよ。
なんせやるのは俺らが記録に残る限りは初だからな」
「大丈夫だよ。
僕が立案した計画なんだから、失敗なんてするはずもないよ」
「う、う~む」
老いた男は渋っていたようだが、恐らく置かれている状況がとてもではないが好ましいといえるようなものではないのだろう。
徐々に若い男二人の意見に押され始める。
「どちらにしろ、実際にやるのは親父じゃなくて俺と銀二だから心配すんなって。
親父は俺たちに許可を出して、黙ってそこで座ってりゃいいんだから」
「僕と金一兄さんに任せておけば黙っていても問題が解決するんだよ?
こんなにおいしい話はないでしょ、どこに断る理由があるっていうのさ」
「う、うむ。
分かった。では、今回のことはお前たち二人にすべて任せよう」
その言葉を金一はグッとガッツポーズをとり、銀二は得意げな顔で眼鏡をクイッと持ち上げる。
「よし、これで万事解決だな、銀二」
「そうだね、兄さん。
実行は明日、9月の14日土曜日の夜。
季節も秋だし時勢も問題ない。
唯一僕が保証できないのは兄さんがあの女をさらってくるのを失敗することぐらいさ」
「なら、成功したも同然ってことだな。
ガハハハ、よし、前祝だ。
飲もうぜ」
結局この日は朝の陽ざしが顔を出す直前までこの一軒家の明かりが消えることはなかった。
『かの獣は長に仁徳あるとき現れ、村を守護する。
なれば、仁徳なき長のもとに現れるかの獣は……』
◇◆◇
9月15日日曜日午前11時。
東京都多摩地区にある大真村にて、3人の死体が発見された。
身元は大真村の村長を務めていた大真博三(64)とその息子の大真金一(32)大真銀二(29)と判明。
第一発見者は借金の取り立てにやってきた鳥田定殷(36)と現職の警察官である三田一(30)の二名。
村長宅より、異臭がすることに気が付いた鳥田が偶然近くにいた三田を連れて村長宅の庭へと向かったところ遺体を発見したと主張している。
遺体にはどれも深い切り傷がいくつも付けられており、警察では怨恨の線を主軸に捜査を進めようとしている。
尚、現場に向かった警察官は皆ひどい異臭がすると訴えているものの、三田をはじめとした現地の住民は皆、異臭などしないと供述している。