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第三話 ウェブへの突入と約束

 入学式が終わり家へと帰宅、例の空間へと入り込んだ俺は空間の違いに気が付いた。

 この空間にはいくつもドアがあるのだが、一つだけカギのついた丈夫そうなドアが新たに追加されていたのだ。

 俺の認識だと、このドアと最も近いのは玄関についている外と内とをつなぐドアだ。


「つまり、これはこのパソコンの外に出るための出口って考えるのが自然だろ?

 なら、この先はインターネットってことか?」


 慎重にドアへと近づきカギを開け、扉を開き外を見てみる。


「っ!」


 玄関の外、我が家の前にいかにも警備員ですといわんばかりの格好をした男が立っている。

 立ち方、向いている方向からして、この家を外から守ろうとしているような、そんな印象を受ける。


「あの~」


 そう声をかけると男はこちらに振り向き話始める。


「認証完了。

 ユーザー名:竜胆東様お帰りなさいませ。

 どのようなご用件でしょうか」


 合成音声のような声で話はじめる。


「あなたはいったい?」


「私はアンチウイルス用ソフト。

 通常調査の結果、竜胆様のパソコンに異常は見受けられません。

 もう一度詳しい調査をお望みですか?」


「い、いえ。

 大丈夫です」


 俺がそう答えると男は元の体制に戻る。

 ここで外に出るべきか出ないべきかだが……。

 出るか。

 どちらにせよいつかは外に出るのだから早めに経験しておいていいだろう。

 そう思い外に出ると風景はまんま家の周りと同じものであった。

 違いはといえばほとんどの家の前にガードマンが立っているということぐらいであろうか。

 家の周りを五分ほどかけてぐるりと回ってみたが、全く同じもののようである。

 特に見た感じおかしなところもない。

 最寄り駅の方まで歩いて行ってみても特別変わったものは見受けられなかった。


「まぁ、初回だしこんなもんにしておくか」


 結局十分ちょっと外を回ったものの、特に変わった点などは見受けられない。

 初の外出と考えればこういう感じになっているとわかっただけで十分な成果といえるだろう。

 初の知らない場所への外出だったからか非常に疲れたように感じる。

 焦ることはない。

 そう思い、家へ向かう途中のことであった。


「その機械的でない、意思のあるような動き。

 君は……人間で合っているかな?」


 家のある道路を曲がろうとしたところで後ろから声をかけられる。

 振り向くとそこには塀に寄り掛かるようにして人が一人立っていた。


「ええ、そうですが……」


「おお、ホントにそうなんだ!

 僕の予測よりも何十年も早くこの世界に来れる人が来るなんて思ってもみなかったよ。

 こんな時期にちょうど人が来てくれるなんてまさしく僕はついているね。

 あぁ、そうだ。

 僕は……そうだな、サムと呼んでくれ。

 君は?」


「えっと、東です」


「東君か、よろしくね。

 良かったら少し話をしないかい?

 恐らく、君にとっても悪くない話のはずだ」


「ええ、構いませんけど……」


「そうか。

 じゃあ、ちょっと失礼して」


 そういって、俺の肩に手を当てる。

 その刹那、あたりの景色が和風の畳敷きの部屋に一転する。


「そっちの席に座るといい」


 反対側の座椅子に座ったサムが俺に促す。

 ちゃぶ台の上に載っているのはティーカップのようだ。


「最近の若者は紅茶を好むと聞くから紅茶を用意したよ。

 部屋の雰囲気にはちょっと会わないけどね。

 良かったら飲んでくれ」


 そういってサムが自分のカップに口をつけるのを見て俺もカップを手に取る。

 一口、口をつけると紅茶の香りと味が口に広がる。


「ん?

 パソコンの中なのに味を感じるってどういうことなんだ?」


「それは、君がそれを紅茶だと信じ込んだからさ。

 この世界では認識一つで見え方が変わる。

 人は目で見たものを信じるから、それがどんなに不合理でもそれに適応するんだろうさ。

 多分だけど僕が声をかけた時、君は現実世界のように歩いていなかったかい?」


「あ、ああ。

 自分の家の周りを散歩していたが……」


「なるほど、散歩ねぇ。

 見た目に騙されて脳がそう作りこんだだけで、実際は君がとっていた動きはとてもではないが、散歩といえるようなものじゃなかったな

 散歩にしては疲れなかったかい?」


「……確かにすごく疲れたな。

 だからさっさと切り上げようと思ったんだが」


「さっさと、ねぇ。

 まぁ一応教えておくと、君がしていた行動を僕視点から見ると……そうだなぁ。

 一歩歩くごとにシャトルランをしているみたいな感じだったかな。

 どう考えてもおかしな動きをしている何かがあったから気になって出てきてみたんだけどまさか人間とは思わなかったよ」


 カップに口を付けた後サムがさらに話を続ける。


「しかも、君普通に現実世界に実体があるんだろう?

 うまくいきすぎて、誰かの策略なんじゃないかと疑ってしまうぐらいだ」


 そういうと、サムは急に真面目な顔つきになって話始める。


「もし、君さえよければ僕がネットにおける動き方を教えても良い。

 ネット上ではネット上なりの動き方というものがある。

 勿論時間をかければ一人でも習熟できるだろうけど、僕が教えた方がはるかに効率的なのは保証しよう。

 ハッキングやクラッキングもこの世界に意思も持ってくることができるものなら本来よりはるかに容易に習得できる。

 どうだい?

 のってくれるかな?」


「……うまい話過ぎないか?

 初対面の俺に急にそんな提案を普通するか?」


「いやいや、さっきから言っているだろう?

 僕にも都合がいいからこんな提案をしているんだ。

 もっとも、都合がなくても多少教えるぐらいなら構わないんだけどね。

 もちろん交換条件がある。

 僕が動き方を教える代わりに今現実世界で起きている問題に対処してほしいんだ」


「現実で起きている問題ってなんだ?

 少子高齢化か?それとも地球温暖化とか?」


「いや?

 それが現実で問題となっているのは知っているけどその二つに関しては僕はそれほど興味はないよ。

 勿論人がいなくなってしまうのは困るから全くの無関心ということはないけどね。

 君が僕が教えたことをそういう問題の解決に使うというならばそれは構わないさ。

 でも、僕が問題視しているのは全く別の問題さ。

 まず、これを見てくれ」


 そういって近くにあったテレビを指さす。

 そこに映ったのは何かから逃げようとしている女性が足から徐々に石となってしまうというあまり好んでみたいとは思えない映像だ。

 女性の顔は苦痛でゆがんでおり、はっきり言ってこれを作ったやつは趣味が悪いと思えてしまう。

 そんな代物だ。


「なんだい、これ?

 CGか?

 こんなの見たことないが」


「CG?

 いや、違うさ。

 実際に取られた映像だよ。

 どうやらうまいこと一般には隠蔽しているみたいだけどね」


「……つまり、この隠蔽工作を止めてくれと言いたいのか?」


「まさか。

 実際にこの情報が世間一般に認知されたらどうなるかなんてわかり切ったことさ。

 隠蔽自体はうまい手だと思うよ」


「じゃあ、俺に何をさせたいんだ?」


「これから話すことはあくまで僕が予測してでた結果をもとに話しているということは忘れないでくれ。

 どうも最近起きたことを元に演算した結果、僕にとって不利なことを目的とする集団ができているらしいんだ。

 その集団の思想は単純明快、反ネット主義だ。

 どうも、これ以上ネットの世界を繁栄させたくない、何なら縮小させたいと思っているみたいだね。

 どうしてネットを潰したいのか、みたいな動機は不明だ。

 で、彼らは一切ネットを使わないみたいで僕からじゃ手を出せないんだ。

 僕は故あって外の世界に干渉できない。

 そして、僕は現実の体を持っていない、つまり、このネットの世界が消えるということは僕が消えるということと同義なんだ。

 それを僕としては認めることはできない。

 だからこそ現実に干渉できる君に、その反ネット主義の集団を潰してもらいたい。

 君はネットに入り込めるわけだし、君にとってもこのネットの世界が消えるっていうのは不都合だと思うんだ。

 その点で、僕と君の利害は一致しているはず。

 故に、この提案は受けてもらえると僕は確信している」


「なるほど」


「さらに、追加報酬も出そう。

 稼いだはいいけど、僕には使い道のないものだからね」


 差し出されたのは赤いカード。

 受け取るといくつか番号が表示される。


「それなりのお金が入っている。

 使い方はあとで教えるよ」


「オッケー。

 まぁ、ともかくせっかくこんなことができるようになったわけだから俺としても失いたくはないし、協力してもいいよ。

 ただ、さっき見せてくれた映像と反ネット主義の集団っていうのはどういう関係があるんだい?」


「ん?

 あぁ、ああいう事件を隠蔽してる集団があるって言っただろ?

 そのトップは7人の理事なんだけど、どうもその中に紛れ込んでるっぽいんだよね。

 それに、現実世界で起こっている異変が増え始めた時期と反ネット主義の動き初めもおおむね一致しているという事実もある。

 異変が目に見えて出始めたのはここ数年なんだよね。

 僕が知る限りではあるけど。

 まぁ、確証があるわけじゃないけど、他に手がかりもない。

 それに得てしてそういう重要な組織に入り込んでいるのはそれなりの大物だから。

 尻尾を切って逃げられて分からずじまいなんてことにもなりにくい。

 故に、異変解決の組織に潜り込むのが近道かなと僕としては思うわけだ」


「なるほどな、分かったよ。

 二つ質問がある。

 一つ目は俺はつい最近高校生になったばかりで、こっちの世界に入り込めるようになった以外に特別な能力もなければ、特別なコネがあるわけでもない。

 どうやってその異変解決の組織とやらに近づけばいいんだい?」


「そんなものは簡単さ。

 さっきも言っただろう?

 ハッキングやクラッキングもこの世界に意思も持ってくることができるものなら本来よりはるかに容易に習得できる、って。

 まぁ、近づくならいきなり上の人に行くより、現場の人に行ったほうが良いと思うけどね」


「なるほど、じゃあもう一つだけ質問。

 サム、俺は人間だが、君は人間なのかい?」


「いや?勿論違うとも。

 僕はご主人様の命令を実行しつつ、帰りをずっと待っている可愛いワンチャンさ」


 そういってサムは笑みを浮かべたのであった。

以上、プロローグ3話。

次話より第一章 『金属の狩り痕と寂びた田畑』が始まります。


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